第110話 珍しいスキル
八咫烏の必殺技が進化。
今度もまた、妖術と科学の融合技が炸裂した。
さて、残るは後始末だが……。
八咫烏を撫でていると、人質だった三人がこちらに寄ってきた。
「助けていただいて、ありがとうございました」
「「ありがとうございました」」
三人がお礼を言ってくる。
「このご恩は決して忘れません。
……ご恩をお返ししたいのですが、今は無一文になっている始末。
しばしの猶予をいただければ、必ずお礼を致します」
「お礼なんて要りませんよ。
こちらもついででしたし」
「いえ、あなたの闘い振りを見ていましたが、私達がいない方がもっと楽だったのでは?」
娘さんは、母親を支えるところやこの発言からするに、芯の強いお嬢さんだね。
まだ12~13歳くらいだろうに。
「否定はしませんよ。
でも、困っている人がいたら助けません?
普通のことですよ」
三人は少し呆気に取られたようだ。
「いやはや、この時代にそのような言葉が聞けるとは」
話を聞いてみると、父親の名前はブライトと言い、ダイクン王国で商会を築いていたらしい。
扱う商品は、食料品から家畜の飼料や日用雑貨までと幅広く、飲食店も経営していた、とのこと。
ちょっとした商社だね。卸しもやっていたらしいから。
「では、今は裸一貫ということですか」
「はい……。
ですが、今までの商売で磨いてきた腕は衰えるものではありません。
しばらく期間をいただければ、商売で稼いで、貴方にお返しをきっと致します」
「そうですか……。
ブライトさん、一つ提案があるのですが。
お聞きになります?」
「恩人の言うことは優先致します。
何でしょう?」
「ウチで商売をしてみませんか?
もちろん、開業資金は投資します」
ブライトさんは、しばし硬直していた。
「あなた!」「お父さん!」
奥さんと娘さんに声を掛けられて、ようやく呪縛から解けたように目を瞬かせるブライトさん。
「ああ、詐欺じゃありませんよ。
ご安心くださいね。
それに、開業資金はあくまで投資です。
利益に応じた配当はしていただきます。
あなたの得意な商売からコツコツ始めてください。
出来るだけフォローもしましょう」
「なんと言って良いのか……。
ありがとうございます!
頑張ります!」
ブライトさんは、瞳を潤ませて、喜んでくれた。
こちらもメリットがあるからね。
ブライトさんは、ダイクン王国内だけでなく、外国とも取り引きしていたとのことだったので、そのツテが欲しい、というのがこちらの本音だ。
まずは、大樹の森の都内で商売の礎を築いてもらい、ゆくゆくは外国との貿易に発展して行って欲しいものだ。
「じゃあ、帰ろうか」
「鈴木様、しばしお待ちを。
魔石を回収せねばなりません故」
商人ゲットォ!って喜んでいたら、烏天狗から現実を叩き込まれ、ガクッとなった。
そうだよね。
こんなの放置して行ったら、ドアンにどやされること間違いなし。
「にゃあ~……それがあったにゃ」
「オーガは本当に面倒臭い存在でありんすよ。全く、もう!」
みんなしてブーブー垂れていると、
「魔石回収なら、私達もお手伝いしますよ」
ブライトさん、なんて良い人なんだ。
ウチの住民決定ね。
「ありがとうございます。
でも、オーガ千体に雑魚が二千体ですよ。
……今日中に終わるかなぁ?」
オーガの死体の列を眺めて、途方に暮れる。
「ああ、それなんですが、ウチの妻と娘がちょっと変わったスキルを持っていまして……。
見てもらった方が早いか。
ミライ、やってくれるか?」
「はい、あなた」
そう言うと、奥さんが千人長の死体の方へ歩いていく。
たどり着くと死体に手を翳す。
すると、千人長の胸辺りが盛り上がって来て、ほどなく魔石が現れた。
「妻が魔石回収というかなりレアなスキルを持っていまして……それが娘にも遺伝したようで、娘も出来ます。
ただ、三千もの魔石を運ぶのが大変なくらいです」
ブライトさんは笑いながら言うが、魔石回収の一番大変なのは、解体作業なんだよ。
それがただ拾うだけで済むなんて。
「はい、どうぞ。
これは特別大きいみたいですね。
さすが千人長ですね」
驚いている僕に、奥さんが魔石を渡してくる。
「あ、ありがとうございます。
すごいスキルですね。
初めて見ました」
「これしか出来ませんもの。
少しでもお役に立てるなら、嬉しいですわ」
奥さんは控えめに笑うが、とんでもない。
「あ、あのっ!
ブライトさんだけでなく、奥さんや娘さんにも、ウチの都に住んでいただきたいんですが!」
「そうにゃ!絶対逃がしちゃダメにゃ」
「あちき達妖でも、そんなこと出来ないでありんす。
優れた能力を都で活かすべきでありんす」
アヤメやタマモも一緒になって口説いてくれそうだ。
「「「都?」」」
ああ、大樹の森の都のことを説明するのを忘れてた。
かいつまんで三人に大樹の森の都を説明する。
「では、ダイクン王国の大半がそちらの都に移住していると?」
「アルメリア姫様もご無事なんでしょうか?」
「ええ、他にもヤクト・ダイクンは文官長として活躍してもらっています」
「まあ、ヤクト様まで」
三者三様の発言だが、一様に同国民を心配していたのが伝わる。
「ですので、皆さんに住民になって欲しくて。
もちろん、家も提供します。
ぜひ、お願いします」
誠心誠意、頭を下げてお願いする。
「頭を上げてください!
こちらがお世話になる身なんですから」
ブライトさんと僕とで、「いえいえ、こちらこそ」「いやいや、こちらの方こそ」と延々交互に頭を下げ合う。
「ストーップ!
二人して、にゃにをやってんだか……。
とにかく、三人は大樹の森の都に移住する。
次郎様は、三人のお家を用意する。
さらに、商売の投資をする。
以上。いいにゃ!?」
「「はい」」
アヤメが上手く仲介してくれた。
ブライトさんと笑顔で握手も出来た。
気を取り直して、娘さんもスキルを発動。
前に転がっているオーガの死体から魔石が現れる。しかも五個同時に。
どうやら、視界に映る全てをスキルの対象に出来るようだ。
これはすごい。
僕のインベントリの設定で、回収項目を魔石にしてみた。
こちらも上手くいったようで、五個全てインベントリに収容された。
「マジックバック!?
いや、何も手に持っていない。
まさか、伝説のマジックホールなのか!?」
ブライトさんがファンタジー用語を連発する。
いえ、ただのインベントリです。
というか、元はステータスボードなんです。
なんでこうなっているのか、僕にもよくわかりません。
解説はご容赦ください。
「娘さんは連続でスキル使える?」
「チェーミンです」
「えっ、は?」
「ですから、お父さんはブライト。
お母さんはミライ。
わたしがチェーミン。
名前ですよ。
スズキ・ジロー様」
「失礼しました。
チェーミン。
これでいいかい?」
「はい!」
名前で呼ぶと嬉しそうに笑顔になった。
そうだよね。
固有名詞は使うべき。特に名前はしっかり呼んでもらいたいものね。
「このスキルはほとんど魔力を使わないので、連続で使っても問題ありません」
良いことを聞いた。
「ヤタ」
八咫烏を呼ぶとピィーと返事をする。
「僕とチェーミンを乗せて、ゆっくり飛んで。
チェーミン、そっちの回収スピードに合わせるから、指示出しをお願い」
僕とチェーミンが八咫烏に跨がると、ゆっくり浮上する。
そして、低空飛行で、進む速度も緩やかにしてくれる。
「トリさんトリさん、もう少し速くても大丈夫だよ」
八咫烏がピーヒョと返事して、速度を徐々に上げていく。
「そう、これくらいでいいわ」
かなりスピードが出ている。
自動車より速いぞ。
魔石の方は……問題なく出現し続けている。
これは思った以上に捗りそうだ。
あっという間に最後尾まで来ることが出来た。
インベントリを見ると、オーガの魔石が1,011個、その他の魔石が2,157個と表示されていた。
5km以上の距離を、ものの5分くらいで全部回収してしまうとは。
八咫烏は最後尾まで来たので、旋回しつつ、上昇する。
そして、先頭に向かって速度を上げる。
チェーミンに予備のゴーグルを渡しておいて良かった。
「きゃあ、あははは。
トリさんすごい!」
あら、喜んでらっしゃる。
君もナターシャと同類か。
楽しんでいるようだから、まあ、いいか。
先頭のみんなと合流すると、さすがにその早さに驚いている。
アヤメとタマモも、「すご~い!」とJKみたいに言っていた。
さて、僕はもう一仕事残ってる。
オーガ共の死体に向かい、後鬼ママの真似をして片膝を立ててしゃがみ込む。
まずはテスト。
ボコッとオーガの死体の土が凹み、その上から土が被さる。
上手くいった。
「あら?
土遁の術ですか?
次郎様、いつの間に習得したんでありんす?」
いや、姿勢は後鬼ママを真似てみたけど、土遁の術とは全く違うんですわ、コレ。
単に死体の下の土を真上に物体引寄してるだけ。
あとは、今見てきた視覚情報とステータスボードのマップを展開しながら、アポートするだけの簡単なお仕事です。
ドドドッ!
5km以上を一気にやると、さすがに轟音が響く。
埋葬完了。
腐敗するのは土の中でどうぞ。
「これまた、見事でありますなあ」
烏天狗が感心したように、額に手を当てながら眺めている。
さあ、帰ろうか。僕らの家に。
レアスキルのおかげで、次郎達は大助かり。
ブライト一家を大樹の森の住民に口説きまくってます。
生活がより充実することを願ってます。
次話は、この深森のエルフ編のエピローグです。
そのさらに次から、また新たな展開が。




