第107話 烏天狗対バスク
化物らしさ満載のアヤメとタマモが、最後部と中央部のオーガを討伐していく。
一方、最前部の戦いは……。
ーーーここから三人称ですーーー
ブウンッという音と共に槍を一回しした烏天狗は、穂先をバスクに定め、ピタリと構える。
「今度はなんだ!?
邪魔だ! 鳥人風情が」
「はあっはっはっ。
天駆ける我等天狗を鳥と見立てるか。」
「テングだと?」
「普段は影に潜みし我等。
ひと度悪行を見つけたれば、直ちに災いの元へとたどり着き、天に変わって成敗してくれん」
豪快に笑い付せる烏天狗と油断なく警戒するバスク。
一見対照的に写る両者だが、その姿勢や目線が戦闘中であることを物語っている。
バスクがジリジリとした脚運びで前や横に移動するが、烏天狗が足の親指で大地を掴んでにじり寄り、槍を構えた姿勢のままバスクとの距離を狭めていく。
烏天狗の槍は少し特殊で、穂先が長い。刃長が45cmもある。
突くことはもちろん、両刃の刀として敵を斬り捨てることも出来る。
ドワーフ長のドアンに特注した逸品である。
本人曰く、蜻蛉切の模造品とのことだが、ドワーフには当然伝わらない。
烏天狗は穂先の鋳造から折り返し鍛錬、果ては柄の仕上げまで始終付き合うこととなった。
また、ドアンはこの方が面白いと、オリハルコンに北山で採取した純魔石の水晶を練り込み、そして柄は大樹の枝を使用した魔力と霊力が絡み合った魔槍となったのだった。
その槍の穂先がバスクの中心線を捉えて放さない。
豪胆で知られるオーガ千人長のバスクがなかなか踏み込めないでいるのだ。
そんな状況に我慢の限界に来たのか、バスクが息を吸い込み、その胸が倍以上に膨らむ。
烏天狗も身構えるが、決して穂先の狙いは動かさない。
そこへバスクは大口を開ける。
キィィィーーーンッ!
声とも音とも判別出来ない波長が烏天狗を襲う。
烏天狗の槍を構える手が、頬が、纏う着物が血飛沫を上げ、千切れた布の断片が辺りを舞う。
痛みを感じていながらも、烏天狗の槍がバスクの喉元を突く。
が、バスクがのけ反って槍を躱す。
だが、顎先をかすった為、バスクも顎から血を流す。
烏天狗が二突き三突きと次々と槍を繰り出すが、バスクが紙一重で躱していく。
その様はまるで軟体動物のようだ。
バスクは異常に身体が柔らかいのだ。
剛力で全てを打ち砕くオーガの中にあって、逆の柔よく剛を制すオーガというのは大変珍しい。
くねくねと槍を躱しながら近づいていくバスク。
しかし、一突きごとにかするものだから、バスクも全身血だらけになっている。
バスクもただ避けているだけではない。
避けながら、音波攻撃も挟みつつ烏天狗に近づいているのだ。
よって烏天狗も血だらけだ。
バスクが槍の穂先寸前まで迫る。
そして槍の突きを下に躱して右へ伸び上がる。
そこへ穂先が横薙ぎに振るわれるが、それもニュルリと躱すバスク。
躱し様、音波攻撃を短く入れ、反対側の左手から烏天狗に接近。
バスクの手刀が伸び、烏天狗を襲う。
「喝!」
烏天狗が大声を上げると、バスクの全身がビクッと震え、手刀も烏天狗の顔の寸前で止まっている。
「某も似たようなことが出来るでな」
烏天狗は槍を振り回し、穂先の反対側の石突でバスクの横腹を薙ぐ。
さらに槍を振り回して、穂先で横薙ぎに振るう。
しかし、バスクが跳びすさって辛うじて躱す。
バスクは大量の脂汗を流しながら、右脇腹を押さえている。
その脇腹が赤黒く染まっている。
「何をした?」
バスクが痛みを抑えつつ聞いてくる。
「ふっ。お主の気の流れを乱したに過ぎん。
ただ、そこは肝臓の位置だがな」
バスクの右脇腹から全身へと痛烈な痛みが広がっていく。
本人はわかるはずもないが、バスクの顔が真っ青だ。
「たとえ、この戦いを凌いだとしても、お主は数日中に死ぬこととなるであろう」
烏天狗が死の宣告をバスクに告げる。
「嘘……ではなさそうだな。
貴様、名はなんと言う?」
「烏天狗」
「カラステング…………しかと覚えたぞ。
俺は、クリムト帝国第4師団千人長のバスク。
死ぬのに数日もいらん。
今ここで、カラステングを喰い千切り、満足して果ててやる。
来い!」
「おうさ!」
お互い一気に距離を詰める。
烏天狗の槍がバスクの胸元を突くが、バスクは半身となって躱す。
躱しながら回転しながら、さらに距離を縮める。
バスクの手刀が横薙ぎに烏天狗の頭を襲う。
烏天狗は、顎を引いて胸から上だけややのけ反って手刀を躱すが、その爪が鼻をかすめ、鮮血が迸る。
烏天狗の鼻奥から口の中にも血が溢れ、口腔内に血が広がる。
烏天狗はそれを気にすることもなく、槍を引き、穂先がバスクの真横のタイミングで横薙ぎを一閃。
バスクはそれもニュルリと下へ躱し、烏天狗に猛接近する。
バスクの顔が烏天狗の顔面近くに寄り、嬉しげに牙を剥く。
ブッ!
烏天狗がバスクに、口に含んだ血のシャワーを浴びせる。
突然のことで、バスクの目に血がかかり、視界を失う。
そこへ烏天狗の下がり突きがバスクの胸を突き破った。
「ごふっ……。
とうとう貫かれたか……。
これまで何千もの敵を屠って来た俺がやられるとはな」
「その程度では某に届かぬ。
せめて万の敵を仕留めていれば、もう少し違っていたかも知れぬがな」
「そうか……まだ足りなかったか……」
「これも戦場の習わし。
御免!」
烏天狗の一言と共に槍の横薙ぎが一閃。
バスクの首が大地に転がった。
「敵将の首、烏天狗が討ち取ったりぃ!」
烏天狗の勝鬨の声が高らかに響き渡る。
「にゃ!?
もう遊んでられにゃいにゃ!
急がにゃいと」
烏天狗の勝鬨が聞こえ、アヤメの首を刈るスピードが上がる。
「しまった!
もうそんな時間でありんすか!?
あまり得意ではありんせんが、水術を使いましょう。
ええと……水を勢い良く出して、圧力を高めるっと」
タマモは次郎にねだりにねだって教えを乞い、科学と妖術の合わせ技を習っていた。
「それで、水が出たならその出口を細める」
タマモの水術は大量の水が勢い良く流れ、オーガ達を押し流していく。
「細く...…細く……もっと細く」
両手の扇子を閉じ、前に突きだす、
その幅を狭めていくに連れ、吹き出す水もそれに合わせて細くなっていく。
ウォータージェットの要領で、タマモの水流が細く鋭くなっていく。
狙いも付きやすくなり、オーガの首に焦点を当てていった。
水が一本の線になるほど圧縮された時、オーガの首に穴が空き、狙いを少しずらすだけでが首が跳んだ。
「やった!」
オーガの首は一体だけにとどまらず、その後方にいるオーガの首が数十と跳ね飛び、タマモの顔が歓喜に包まれる。
「これ、いったいどこまで続いているのかしら?」
疑問に首を傾げながらも、圧縮水を出すのを止めない。
「こらー!タマモー!」
慌ててアヤメが宙を駆けてくる。
「あたしに当たったらどうするにゃ!?」
「ああ、大丈夫でありんすよ。
前方の次郎様には向けておりませんもの。
ああ、あなたは後方にいたんでありんしたか」
タマモがクスクスと笑う。
「おにょれ~!」
「ところで後方のオーガはどうなの?」
「それはもう終わってる。
あんたの余計な水芸で!」
「妬かない妬かない。
あなたも次郎様から散々教えをもらってるでしょうに」
「それはそうにゃんだけど。
あたしも、そういうビッとしたヤツが良いにゃ!」
「しょうがないわねえ。
あなたも水術くらい出来るのでしょう?」
「でも、ホンのちょっぴりにゃ」
「これは少しの水が出れば大丈夫。
あとであちきが教えてあげるでありんす」
「ホントにゃ!
タマモ、大好きにゃ!」
アヤメに抱きつかれ、満更でもないタマモ。
「はっ!?
こうしてはいられないでありんす。
早く次郎様の下へたどり着かないと」
「そうだったにゃ。
急ぐにゃ!」
そうして、そこより前方のオーガは共闘して討伐していく二人。
次郎の下を目指して。
烏天狗の闘技が、オーガ千人長のバスクを討つ。
一対一の闘いでは、烏天狗がやったような足の親指でにじり寄ることが出来ると、結構有効な手段となります。
足の親指の筋力と足の母指球で大地を掴む、というイメージでしょうか。
剣道やってる人の多くは、体感していると思います。
また、これは瞬発力を発揮することが出来ます。
ボクシングでも、ステップに活かすと有効です。




