第106話 美しき天女と可愛らしい猫
オーガの行列の最前部では、次郎と八咫烏がオーガ達と戦闘に入った。
また、千人長のバスクと対峙する烏天狗。
一方、中央部と最後方部は……。
ーーーここから三人称ですーーー
空から優雅に舞い降りる天女。
扇子を手に持ち、ヒラヒラと舞いでも舞っているかのように地上すれすれに降り立つ。
脚は着物で見えないが、豊かな胸を惜しげもなく半分ほど現し、辛うじて大事な部分は隠れているその様は、却って数多の男共を魅了するだろう。
目元は少々きつめだが、長い睫に潤んだ瞳、鼻筋も通り、絶世の美女でありながらやや丸顔が反面可愛らしくも写る。
天女にしては妖艶過ぎる。
それでも、オーガ達はしばし我を忘れて見惚れていた。
オーガが単なる民衆と化した最中、何の前触れもなく、オーガの首が跳ぶ。
その異常な状態にも関わらず、また一体また一体とオーガの首が切断されていく。
隣にいるオーガの首が無く、その血のシャワーを浴びているのに、一歩一歩その美女に近づいていくオーガの群れ。
美女はただ微笑むばかり。
ああ、あの頬に触れたい。
あの嫋やかな指に武者振りつきたい。
あの胸に顔を埋めたい。
そんなことしか考えられなくなっている己の思考が異常とも思っていない。
ただただ、今は美女を崇めながらそばに寄りたいのだ。
美女に近づいた者から首が切断されているというのに、その美女を見た者は全て歩みを止めない。
そして、段々と我先へと向かい出す。
仲間同士合い争い、殺し合いまで発展していく。
一番近くに近寄った者は首が跳ぶというのに。
「おぅおぅ、汚ならしいオーガも血は赤く、綺麗なものでありんすねえ」
タマモの嗜虐的な言葉も、オーガ達には金言に値する天女の笑み声に聞こえているに違いない。
「さて、このまま放って置くのも減らすことは出来るでありんすが、もたもたしてるとアヤメに抜かれてしまう恐れも……。
今のあやつは次郎様の手解きで、攻めの要素が強まったでありんすからねえ」
そう言ったタマモが両手に扇子を持ち、開いてヒラヒラと舞わせる。
時折、扇子が舞う速度が早まるタイミングでオーガから血飛沫が舞う。
見えない斬撃だ。
またくるりと回って扇子を振ると、今度は地中から尖った岩が突き出て、何体ものオーガが串刺しになる。
すでに十数体が犠牲になっているのに、悲鳴一つ上がらない。
逆に歓喜の声が上がるのが不気味だ。
「ここは森の中ゆえ、鬼火を使う訳にもいかないのが、なんとも歯がゆいものよ……」
一方、オーガの列の最後部を任されたアヤメは、タマモが心配した通り、大虐殺をしていた。
首の無いオーガが百体以上、綺麗な一列を成し、そのまま倒れることなく立っていた。
「次郎様の言う通りにすると、あたしはドンドン強くなるにゃ」
首無しオーガの前にも生きているオーガ達がいるが、動けずに立っているだけ。
いや、正確には蠢き、叫んでいるが、動けないのだ。
「ぐおっ、動かん!」
「ぬおおぉっ、動けん! 何故だぁ!」
オーガ達は首から下をアヤメの結界に地中ごと囚われており、その場から移動出来ないのだ。
囚われたオーガは、首から下が自由に動かすことが出来るかというと、そうでもない。
首を頂点とした半球形の結界に囚われていて、首以外の肩先等が結界外に飛び出ていて、これで自慢の腕力も封じられている。
中には、不幸にも両腕も結界に囚われた者もいる。
足で土を掘ることは出来ても、首吊りが完成するだけだ。
事実、数体のオーガが首吊り状態になっている。
あとは、アヤメが順番に自慢の爪で首を刈っていくだけだ。
生来の面倒くさがり屋のアヤメは、綺麗に首を刈ることはせず、飽きたら頭蓋だけ刈り取ったり、顔半分だけ頭蓋骨もろとも引き裂いたりと、その攻めの差が激しい。
頭半分無いのに呻き声を上げている者や、脳漿がずり落ちながら生き永らえていても、下顎が消失してしまっているので呻き声すら上げられない者もいる。
オーガを閉じ込めた結界の方法も、自慢の爪に結界を纏わせて強化する手法も、全て次郎の入れ知恵だ。
「これこそ、肉湧き血踊るというヤツにゃ」
次郎がこの場にいたら、「逆だ、バカちん!」と言われただろう。
「しーおーつーより、こっちの方がサクサク進むにゃ」
「貴様ぁ、喰ってやる。喰ってやるぞ!」
「なぁにぃぃ……あたしを喰らうだとぉ」
言うが早いか、アヤメはそのオーガに食らいつき、左目周りごと喰いちぎる。
幾ばくか咀嚼し、吐き出す。
「ペッ、不味い。
おまえはなんて不味いんだ。
お魚は目の周りが一番の珍味なのに、おまえは煮ても焼いても喰えんわ。
要らん!」
いつもの可愛らしい口調も吹き飛び、爪を一閃。
このオーガは首と胴体が泣き別れとなった。
ああ、美しくも凄惨な二人の化け物の宴よ。
タマモとアヤメの乱舞。
妖しさの中で美しく映えていることでしょう。
皆さんの脳内画像で投影してみてくださいませ。




