第105話 商人ブライト
クリムト帝国軍を監視している烏天狗の下へ急行する次郎達。
オーガとの戦闘が始まる。
ーーー三人称ですーーー
茂みをかき分け、深い森林を進む者達がいた。
「本当にこんな深い森にいるんだろうなあ?」
オーガにしては痩身な体格をしているが、その背丈は普通のオーガの頭一つ飛び抜けている。
クリムト帝国第4師団の千人長、バスクである。
そのバスクに睨まれているのは、ダイクン王国の商人、ブライト。
「嘘はつかん。
妻と娘を人質にされているからな。
おまえの方こそ、本当なんだろうな。
エルフの集落に案内すれば、解放してくれるというのは」
ブライトは虜囚の身にも関わらず、気丈にバスクを睨み返す。
「ふん。
だから、こうして連れている」
バスクの後方に、馬車を2体のオークが引き、その後ろから3体のリザードマンが押している。
その馬車の中でブライトの妻と娘が囚われているのだ。
(いつもなら、馬車道が一本通っているはずが、茂みが深い。
エルフの魔法か何かだろう。
エルフ達も警戒しているんだろうな。
すまんな。こんなことをして。
もし、チャンスがあれば必ず助け出す。復興にも力を貸す。
許してくれ……)
ブライトは自分のやるせなさ不甲斐なさに苛まれながらも、今は愛する妻と娘の為、歩み続けるのだった。
(ふふん。
おまえ達は案内が済めば、約束通り解放してやる。
エルフとの戦闘で巻き込まれないと良いがな。
クックックッ。
エルフならば美女揃いだ。
戦争は良い。美味しい思いが出来るからな。
存分に楽しむぞ)
バスクとブライトの秘める想いが交錯する深い森の上空から、彼らを眺めている者達がいた。
「人質みたいなのもいるにゃ」
「面倒くさいでありんす。
もろともでよくありません?」
上空1kmの距離からオーガ軍を見下ろしているのは、次郎率いる妖達だ。
「相変わらず、アヤメは目が良いね。
僕じゃそこまで見えないよ」
次郎は八咫烏の背に跨がっている。
「ああ、確かに人質がいるようですな」
次郎の隣で烏天狗が、人差し指と親指で輪っかを作り、それを覗いている。
「それで見えるの?」
「天狗の術法、遠見の術なり」
「便利だなぁ。
今度教えて!」
「鈴木様ご所望とあらば、この烏天狗、自ら教えましょうぞ」
「ホント!? やったあ。
……で、人質は何人いる?」
「はっ。
……先頭に男性が一人。
そのすぐ後ろの馬車内に女性が二人のようですな」
「そうか……。
それにしても、オーガって、バカの集団なのか?
三千もの軍隊が一列で行軍してくるって。
陣形もへったくれもないじゃん」
「オーガ千体、全部前にいるにゃ。
雑魚は後ろにゃ」
「配置もハチャメチャだ」
「軍のえりいとだった次郎様からしたら、そうなんでありんしょうね。
却って宜しいじゃありんせんか。
前の千体を殲滅すれば良いだけのこと」
「それもそうか。
では、オーガ千体は殲滅。
雑魚はテキトーに」
「はいにゃ」「はいでありんす」「ピーヒョロロ」「はっ」
「僕と烏天狗が最前部、中央部はタマモ、アヤメが最後部のオーガを仕留める。
僕が人質を救出する。ヤタは僕を馬車の上に降ろして。
アヤメは結界を張って、オーガを一匹たりとも逃がすな。
タマモは好きにして良い。
天狗達は広域に広がってサポートを頼む」
僕は一度みんなを見渡す。
「では、作戦開始!」
「はいにゃ」「はい」「「「はっ」」」
妖達が一斉に急降下して行く。
その中でも八咫烏が抜きん出ている。
馬車にぶつかる寸前にふわりと急減速して、次郎が馬車の上に音もなく着地する。
代わりに、馬車の周りに強烈な風が巻き起こる。
「ブヒィィ!」「ぐおっ!」
オークとリザードマンが悲鳴を上げる。
「何事だ!」
砂ぼこりや衝撃で散った木の葉で辺りが見えなくて、千人長のバスクも焦る。
その状況をゴーグル越しに見渡した次郎が、馬車から飛び降り様、オーク2体を切り捨てる。
そのまま馬車の後方に回り込み、リザードマンを次々に斬っていく。
リザードマン3体を片付けた後、馬車に手を差し伸べる次郎。
「さあ、早く! 今のうちに!」
状況が飲み込めない二人だったが、娘の方が次郎の手を掴む。
「た、助けていただけるのですか?」
「そうだ。そちらの方も、早く!」
躊躇気味の母親の背に残りの手を回し、娘が力を込める。
「行こう、お母さん!」
そこで二人が馬車から飛び降りる。
「敵か!?」「敵だ!」「殺せ!殺せ!」
ようやく砂ぼこりも落ち着いてきて、状況を把握したオーガが次郎に向かってくる。
しかし、一列になっているオーガ達は、二人を護衛している次郎にとって、この上なく好都合だ。
最初のオーガと2体目のオーガの両目のみ切り捨て、防壁代わりとして立ち回り、3体目はしゃがみこんで足首のみ斬って捨てた。
これも防壁となる。
「ぐああっ!」「痛えっ!」「前が見えない!」
次郎は前方を見据えたまま、空いた左手で母子を後方の馬車の横に促す。
壁となったオーガ達から5メートルほど離れてから、次郎の両太ももが膨れ上がった。
次の瞬間、壁のオーガ達を通り越し、新たなオーガ3体の腹部を深く切り裂いた。
縮地を利用しての斬撃だ。
そしてまた新たなオーガの首を跳ねる。
そこで、木を蹴って、三角蹴りの要領で母子の下へ戻る。
次郎が前方を見ると、八咫烏が全身を光り輝かせて、オーガを黒ずみに変えていた。
不思議なのは、その現象に一切の火の気が無いことである。
八咫烏独特の技だ。
「貴様ぁっ!
何をしている!」
バスクが憤怒の形相で次郎を睨み付けている。
「お主の相手は某がしてやろうぞ」
バスクの前に烏天狗が、威嚇するように槍を一回しして構える。
次郎、そして大妖達と天狗達が3,000体に及ぶクリムト帝国軍に襲いかかる。
ここで次郎が使った縮地は、本来の縮地とは似通ってはいますが、違う手法です。
本来の縮地は、身体を前に傾けて自然と脚が前に出るのを利用して、前に進む手法を言います。
筋力に頼らない進み方です。
体現は難しいですよ。
自分の重心というか中心線をぶらさず、攻撃にも防御にも備えて、心も身体も柔らかく構えていなければなりません。
作者も似たようなことは出来ても、似てるだけで再現は出来なかったです。
一部の古武術の達人が出来るみたいです。
次郎が使ったのは、発動時は大地の反発力を利用して初速を稼ぎ、その後のスピード維持に縮地法を応用しているに過ぎません。
ファンタジーの世界にもリアリティを求めたい作者なのでした。




