第102話 深森のエルフ
深森のエルフ編、再開です。
ナターシャ率いる緑森のエルフ一同とクリスチーナ率いる深森のエルフ一同が邂逅する。
第二次北山調査団も無事に帰還し、大量の純魔石の水晶と植物等を持ち帰って来た。
八岐大蛇とティラノサウルス、四枚羽のラプトルも一緒だ。
八岐大蛇が引率して、彼らの専用小屋を目指しながら、都を案内してくれるようだ。
八岐大蛇の話では、他にラプトル達や翼竜達も同居させたいとのことだった。
四枚羽が統率しているらしい。
建設班に小屋の増築をお願いしなきゃ。
また、正義からは足の速い草食恐竜を発見したと報告があった。
ラプトルの倍以上の大きさで、スピードも倍以上あったという。
ああ、なんかそういう恐竜いたなぁ。
群馬県で見つかった化石で、山中竜という名前のラプトルと同系統の恐竜だったと思う。
単純な名前だなって覚えてた。
調査団の原住民からは、走竜と呼ばれ、馬と同じように馬車を牽いているらしい。
いいね、それ。
今いる馬達は全部軍馬として調教しちゃってるから、都内の運行バスで使えるかも?
第三次北山調査団は走竜捕獲作戦にしますか。
第二次北山調査団の帰還の宴も終わり、建設班に翼竜の住居の草案を渡した2日後、クリスチーナ率いるエルフの集落へ迎えに行く日になった。
行くメンバーは、僕とナターシャ、ミレイユさん、リントは当然として、なぜかエルフ全員が揃っていた。
子供達も武装した状態で。
ミレイユさんの娘、ミーシャちゃんまで弓を背負い、腰に短剣と投擲ナイフを履き添えてキリッとしていた。
「子供達は来ることないんじゃない?」
「いいえ、ジロー様。
他のエルフの集落を見る良い機会ですし、相手は所詮エルフです。
たとえ戦闘になってもこの子達が劣るものではないことを証明出来るチャンスです。
私達は誇りあるアズナブル氏族です。
侮らないでください」
ナターシャが戦闘狂モードに突入する寸前みたいな感じがする。
他にもアヤメとタマモがおり、談笑している。
「チェックにゃ、チェック」
「また住民が増えるのでありんすから、不届き者がいないかつぶさに確認しないとでありんす」
(エルフの女は種族的に美人ばかりだから、気が抜けないでありんす)
(そうにゃ。
新しい女は次郎様の半径10メートル以内に近づけさせないにゃ)
二人は物見遊山らしい。
まあ、いいか。
そして、八咫烏と烏天狗率いる天狗達は、すでに先行している。
「では、準備が良いようなら“跳ぶ“よ」
「「「はい」」」
全員の返事が聞こえたので、アスポートする。
転移を成功させると、前方の集落の入り口に大勢のエルフ達が待っていた。
中央にクリスチーナがいるようだ。
ん? 少し少ないな。
軍でよくやる簡易計測で人数を数えると120人ってところかな?
ほら、10人数えて一括りにして、その幅と厚みを基準に一つ二つと数えていくやり方。
「盟主様、よくぞお越しくださいました」
クリスチーナが前に進み出る。
僕の両脇をアヤメとタマモが固め、ナターシャ、ミレイユさん、リントが前に出てくる。
「ごきげんよう、クリスチーナ。
少し人数が少ないようね」
「申し訳ございません。
集落にどうしても残ると言う者もおりまして……」
クリスチーナはうつむき加減で、申し訳なさそうに言ってくる。
「それはいいけど、その人達って、戦える人達かな?」
後ろにやられているけど、クリスチーナの顔は見えるので、彼女に向かって言う。
「ええ、一応。
彼らを率いている者は、単独でオーク五体を仕留める猛者でございます」
その程度で猛者になっちゃうのか。
リントでも瞬殺出来そうなんだけど。
「そうか……。
僕らの空軍が偵察したところ、クリムト帝国の軍隊がこちらに進行中ということがわかっている。
それは知ってるかい?」
「えっ!?そんな……。
クリムト帝国というとオーガの集団ですよね?
ダイクン王国を滅ぼしたという……」
「そうだ。
といっても、せいぜい千人長が率いる程度の規模だけど」
「オーガが千体も……」
「配下も二千体いるわ。
合計で約三千体の敵よ。
残った者達で果たして撃退出来るのかしら?」
空軍の情報を共有しているナターシャが問いかける。
「お、お待ちください!
今、人をやってその事を伝えます。
その者達も一緒に連れて行ってください」
「にゃら、この結界も役に立たないって伝えることにゃ」
そう言ったアヤメが集落を覆う結界に手のひらを触れ、特に変わった動作もなく、スルリとすり抜ける。
「ああ!結界が!」
「通り抜けたぞ!」
エルフ達がざわめく。
「この程度じゃ、力あるオーガにゃら砕けるにゃ」
くるりと向きを変え、スタスタと歩きながらアヤメは再度結界をくぐり抜ける。
「こんな柔な結界じゃねぇ」
タマモも結界に手を伸ばす。
「あんたは触れたらダメにゃ!
結界が吹っ飛ぶだけにゃ」
慌ててアヤメがタマモの手を掴んで押し留める。
「あら、そんなに弱いの?」
「やわやわにゃ」
アヤメはわざわざ額の汗を拭くような仕草をする。大げさな娘。
あ、いや、大げさでもないのか。
タマモはアヤメと百日戦争した時に、アヤメの結界をついぞ破れなかったと言ってたけど……アヤメの結界じゃなきゃ破れるということではないのか?
今の段階では、下手すると国際問題になるところだったのか?
「とにかく、こんな結界ではオーガ共を防ぐことは無理にゃ」
「か、かしこまりました。
つぶさに伝えます」
クリスチーナが数人に指示をして、伝令達が集落に走っていった。
しばらくすると、集落の中からエルフ達がぞろぞろと出てきた。
これで無駄な死者を出さずに済んだか。
「スレッガー、わかっていただけましたか。
一緒に大樹の森へ行きましょう」
クリスチーナが集落の中に留まっていた集団の最前列にいた男に話し掛ける。
「クリスチーナ様、にわかには信じられませんね。
オーガが千体も侵攻しているだなんて」
スレッガーと呼ばれた男は、エルフにしては筋肉質の良い体格をしていた。
「ですが、ダイクン王国が滅ぼされたばかりです。
次にここに魔の手が伸びることは明らかでした。
それがいささか早かっただけのこと」
「だとしても、ここには結界があります。
そうそう立ち入ることは出来ません。
上手く立ち振舞えば、負けることはありません」
スレッガーは自信ありげに宣う。
「その結界もオーガには通用しないかもしれないのです。
今も大樹の森の方が通り抜けたばかりです」
「はあ?」
「本当だ。我々の目の前で通り抜けたんだ」
「何事もなく、普通に通過した」
「結界に頼り過ぎたのよ、今まで」
クリスチーナについてきたエルフ達が口々に言う。
「私の結界が未熟な証拠です。
そんな弱い結界ではオーガに通用しません。
どうか一緒に避難してください」
そうか。クリスチーナが結界を張ったんだ。
「そんなに結界に未練があるなら、いっそ散らしてあげましょうか?」
タマモが進み出る。
「タマモ」
タマモを呼び止め、首を振る。
たとえ通用しないとしても、時間稼ぎが出来るかもしれない。
そのままにさせておく。
「まあ、本当にオーガを討伐出来る力量があるんなら良いんじゃない?」
ナターシャが少し煽り気味に言う。
「力を示せ、ということだな。
良いだろう。
このスレッガー様が示してやろう」
スレッガーが弓を手に取り、自信満々に名乗り出る。
「この中に魔王ミレイユがいるのだろう?
相手をしろ」
スレッガーはミレイユさんをご指名のようだ。
「また嫌なあだ名を。
それにあんな汗臭いのを相手するの、面倒くさいわね。
誰か代わりは……」
ミレイユさんが周りを見渡す。
「はい、お母さん。
ミーシャ、立候補するの」
ミーシャちゃんが手をまっすぐ挙げている。
「ちょ、ちょっと待った!
ミーシャちゃん、まだ未成年でしょ?
まだ戦闘は早いよ」
慌てて止めに入る。
「ミレイユさん。
ボクで良ければ相手しても良いですよ」
ナイス、リント。
リントなら百人長のオーガを単独で討伐した実績もあるし、良い指標になるだろう。
「ミーシャ、調子は悪くないのね?」
「じょうざいせんじょう、なの。
ミーシャはいつでもイケるの」
常在戦場ね。
いやいや、ミーシャちゃん、何言ってるの!?
「スレッガーさん。
私がミレイユだけど、今回は、私の娘が相手をするわ」
「なにっ!?
まだ、ほんの子供ではないか!」
「ええ。でも、魔法の女王の娘よ」
「ミーシャなの。
よろしくなの」
ミーシャちゃんは律儀にペコッと頭を下げる。
「次は貴様が相手をしろよ」
「ええ。
もしも、あなたが勝ったなら、私ではなく、アズナブル氏族最強の……いえ、エルフ最強の者を出してあげる」
「ふん。よかろう」
ミレイユさんはどうしてもスレッガーの相手をするのはイヤなようだ。
次の候補にされたナターシャの眉が下がって、何かを訴えるかのようにミレイユさんを見ている。
あ、ミレイユさんがツンとお澄まし顔で横を向いた。
あんたら師弟はもう……。
スレッガーとミーシャちゃんは戦闘モードに切り替えていく。
出ましたね。
魔王の娘、ミーシャちゃん。
さてさて、その実力は?
次話をお楽しみに。




