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第99話 戦闘民族エルフ

深森のエルフは二百人の集落を築いている。

クリムト帝国の襲撃を恐れ、避難先を探していた。

次郎はどう判断する?

草原に転移で到着。

「今、戻ったよ」

見ると、クリスチーナ達はロープを解かれ、弓も返してもらっていたようだ。


「これから、みんな揃って君達の集落へ“跳ぶ"よ」

「「「跳ぶ?」」」

彼らの疑問の声を待たず、サトリを通じてクリスチーナのここまでの道程を僕の頭に転送してもらい、脳内マッピングと照らし合わせて距離を計算する。

八咫烏やたがらすの映像から彼らのパヒュン……移動速度を逆算して、大まかな位置を叩きだし、ステータスボードのマップと照合する。

僕のアスポートは、雲外鏡うんがいきょうの転移と違って、転移先の場所にいた経験が無くても、マップと照合さえ出来れば可能となる。

ただし、他人の数日の行動を脳内で高速に再現するので、結構頭が疲れる。


「よし、測定完了」

ととっ…………現実との差異に少し足がふらつきそうになる。

『次郎様、あまりご無理為さらぬように』

サトリが心配してくれる。

「大丈夫さ。

サトちゃんも疲れたでしょ。

ありがとうね」

『私はただ読み取って流すだけですので、さほど疲れる訳ではありません。

しかし、次郎様はそれをつぶさに観察しながら、何やら計算もされていた様子。

私ではそこまでの処理は出来ようがありません。

ただただ、次郎様が心配なだけです』

心配してくれて、ありがとう。

愛してるよ、マイハニー。

『…………はぅ』

あ、サトリは読心術持ってるんだった。

…………。

気持ちを切り替えて。


「見ていなさい。

これから、大樹の森の盟主の力の片鱗を体験出来るわ。

あのお方に敵対することの愚かさを知ることでもあるわ。

覚悟なさい」

ミレイユさんが脅す脅す。


「出発!」

クリスチーナ達の反応を聞く前に転移を開始した。


計算転移は成功した。

全員揃ってる。

うまくピンポイントに、集落の入り口の前だ。

正確には、集落の結界の前だね。

クリスチーナ達が出発する時の記憶で、結界を解除する様子が見られたので、その手前に転移することにしたんだ。

ぶっつけ本番で結界内に転移するほど馬鹿ではない。

雲外鏡うんがいきょうもアヤメの結界から逃げられなかったからね。


「いったい何が起こったの!?」

「集落が目の前に!?」

「いつの間に!?」

クリスチーナ達がざわめくが、話を進める。

「ここが君達の集落だろう?

今日より一週間後に返事を聞かせてもらう。

君達が意思統一出来ることを願っている」

クリスチーナ達に別れを告げる。


「お待ちください!」

クリスチーナ達が一斉に跪く。

「大樹の森の盟主様に対する数々の無礼、改めまして謝罪致します」

クリスチーナ達は、片膝を立てて跪きながら額をその膝に乗せ、手のひらを上に向けて頭より高い位置に置く。

これが彼らの謝罪の儀式なのか?

こういうのは、各部族ごとに違いがあるね。

日本式でもないし、獣人達のとも違うし。


「わかったから、もういいよ」

僕は返事をしたが、ナターシャ、ミレイユさん、リントが僕の前を遮るように立つ。

「ジロー様はすでに謝罪を受け取っておられます。

これ以上の謝罪は必要ありません。

また、必要以上に接触を図ろうと為さらないでください」

「そうね。

あなたがいくら地位が高かろうが、それは氏族内でのこと。

弁えることね」

「外の世界との触れ合い方は、そこのライデンから学ぶと良いわ。

ライデン、他国の王との接し方を教えておいてね」

まあ、ここは三人に任せておこう。


雲外鏡うんがいきょう、ここを記録出来たか?」

「それは当然」

(あるじ……ボクは飛んで帰るね)

「大樹の位置はわかるのかい?」

(空から見れば、一発だよ)

「ハハ、それもそうか」

(からすも付き合え)

「ハハハ、こちらに飛び火しましたな。

八咫烏やたがらす殿のご指名とあらば、喜んでお供致そうぞ」

「わかった。無理をせずに帰ってくるんだぞ」

二人は早速空に舞い上がって行く。

「クリスチーナ、また一週間後に」

残ったみんなを連れて、大樹の森の屋敷に転移する。



「なんか、いろいろあったね」

屋敷に帰ってくるとホッとする。

ステータスボードの時計を確認するとお昼を少し過ぎていた。

「みんなでお昼ごはん食べようか」

「では、キッチンにその旨を伝えて参ります」

リントが素早く反応する。

「私は着替えた方が良いかしら?」

ミレイユさんがメイド姿になろうとしていたが断った。

「ミレイユさんの今日のお仕事はお昼ごはんまでとします。

なので、そのまま食堂に行きましょう」

「あら、いいの?」

「魔王ミレイユさんのお仕事は終わりです」

「まあ、ジロー様!」

「冒険者の二つ名ってやつね。

よくお姉ちゃんを現してるわ」

その時、ミレイユさんのチョップが唸り、ナターシャの脳天に直撃した。

「それ、嫌いって言ったでしょ」

ミレイユさんは憤慨し、受けたナターシャは頭を押さえ、涙目になっていた。

「本来は魔法の女王と言う二つ名だったんだけど、いつの間にやら、変に短縮化されてそうなっちゃったのよ」



食堂に入ると、前鬼ぜんき後鬼ごきが食後のお茶を啜ってた。

「「お帰りなさい」」

「ただいま」

「あら? 八咫烏やたがらす烏天狗からすてんぐは一緒じゃないの?」

後鬼ごきが僕らを見渡して言う。

「飛んで帰るってさ」

「ああ、その方が上空から偵察出来て良いな」

前鬼ぜんきに言われて気付いたけど、彼らの目的はそっちだったか。

エルフの集落だけでなく、周辺の偵察も実施するつもりだろう。

彼らは仕事熱心だね。


「それで、そのエルフ達はこちらに合流しそうなの?」

「ん~、どうなんだろ?

長のクリスチーナとその周辺は来そうな感じではあったけど」

「エルフは皆、魔法が卓越しているらしいから、その二百人の加入は戦力的にはありがたいがな」

軍を掌握している前鬼ぜんきらしいね。

「全員は難しいかもしれませんね」

ミレイユさんが僕の内心を読み取ったかのように言う。

「エルフは実力主義的なところが多いですから……。

ナターシャはあのクリスチーナをどう思う?」

「長としての求心力はありそうだったけど……戦闘力がアレじゃあね。

リントが手を抜きまくっても余裕じゃない?」

「ボクは決して手は抜きませんよ。

……けど、もしクリスチーナさんと手合わせすることがあっても、一分以内で終わらせることが出来ると思います」

「私なら最初の一撃ね」

「とまあ、こんな具合なので、二百人全員の意思統一は難しいんじゃないかな、と思いますね」

「お姉ちゃんなら一睨みね」

「魔王の一睨みですね。

魔眼みたいなものですか」

スパンッ。

一瞬にしてリントの頭にミレイユさんのチョップが食い込んでいた。

「痛い!

ナターシャ様のより痛い!」

口は災いのもとだよ、リント。

「ほら、涙が出るでしょ。

魔王の一撃は格が違うん……」

スパンッ。

「あなた達、いい加減にしなさい。

泣かすわよ」

「「もう泣かされてます!」」

何やってんだか、この師弟は。

「ウフフ、魔王ミレイユの降臨ね」

前鬼ぜんき後鬼ごきも笑っている。

後鬼ごき様まで……もう」


「ミレイユさんが言いたいのは、クリスチーナ以外の本当の強者が他にいるんじゃないか、ということだよね。

返って良いことのようにも思えるけど」

「あのクリスチーナにそこまでのカリスマ性があれば良いですけど……。

ああ、それと、たとえ強者がいたとしても、ナターシャを超えるエルフはいないので、それもご了承くださいね」

いやいや、僕の目の前にいるあなたがエルフ最強なんじゃないかとずっと疑っているんですが。

ナターシャが一度も勝ったことがないエルフ、ミレイユ・アズナブル。


「まあ、半分の百人のエルフが加入してくれるだけでも、軍の強化に繋がるさ。

魔法戦士は多彩な攻撃手段を持っている上に、皆弓矢に長けておろう」

「加入してくる者達の希望もちゃんと聞いてよ」

前鬼ぜんきは総司令官らしい発言をするが、一応釘を刺しておく。

「もちろんだ。

だが、戦闘民族のエルフだぞ。

ほぼ皆、軍を希望するはずだ」

「「「エルフは戦闘民族ではありません!」」」

え?そこ?

前鬼ぜんき後鬼ごきも、僕すらそう思ってるんだけど、違うの?

ああ、自分達のことはなかなか客観的に見られないもんだからね。

前鬼ぜんき様、後鬼ごき様!

なぜ、こちらを見ないんですか!?

ジロー様、目の焦点が合っていません!

どういうこと!?」

ナターシャが何やら喚いているが……。


あ、お昼ごはんが到着した。

雲外鏡うんがいきょうのやつ、先に受け取って、端っこに避難してやがる。

「おほっ、今日の昼餉ひるげはしょうが焼きにトリけんちん汁じゃな。

良い良い。

ほれ、鈴木様。

早う号令せんと冷めてまうぞ」

調子の良いやつ。


「では、皆さん、手を合わせてください」

パンッ。

「いただきます」

「「「いただきます」」」


早速、しょうが焼きのお肉に箸を伸ばすが……あれ? 豚肉じゃない?

一口パクリ……あ!トリ肉だ。

それでネギと一緒に炒めてるんだ。

玉ねぎもくし切りにしてある。

タレも少し濃いめに味付けされて、白ごはんが進むように工夫されてる。

これもアリだな。

トリのけんちん汁も、ゴボウや大根、人参といった根菜類がホクホクしてて良い。

ごはんもおかわりして、全部平らげた。


トリのダブル攻撃もあり、と学べて満足して顔を上げると、アヤメとタマモが目の前にしゃがんでいた。

「ビックリした!

突然現れるんだもん」

「さっきからずっといたにゃ!」

「ほら。あちきの言った通りになったでありんす。

食事中の次郎様は周りが見えなくなるって言ったじゃない」

「でも、こんな美人が二人も目の前にいたのに、気付かれにゃいにゃんて、ショックにゃ」

「ご、ごめん」

「うふふ。

それはそうと、今のお食事はいかがでありんした?」

「おいしかった!

……あ、もしかして、二人が作ったの?」

「当然にゃ。

メインと汁物の両方をトリ肉にしたのはあたしの発案にゃ」

「そんなことするから苦労したでしょう。

味付けのバランスを調整したのはあちきでありんすからね」

「しょうが焼きにネギを入れたのはあたしにゃ。

おかげでトリ肉とばっちし合ったにゃ」

「そのせいで一味足りなくて、急遽玉ねぎを入れることになったのを忘れたでありんすか?」

「全てオールオーケーにゃ」

「あなたはもう!」

「ありがとう。

どちらもおいしかったよ」

二人して両手を繋いではしゃぐ姿は、そこらのJKやJDみたいで可愛らしい。

「ごちそうさまでした」



パヒュンパヒュンは森に住むエルフの標準技術です。

森の狩人らしい技術ですね。

森の中でエルフと戦ってはいけません。

かといって、平地に出ても魔法や弓矢に狙われてしまいます。

まあ、ハヤテとかなら、魔法も弓矢も避けまくって、エルフの居る樹木ごと叩き折りそうですが……。


次話は、一変してほのぼの話になります。

お楽しみに。

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