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第10話 ハヤテ

 さあ、少しずつ住民が増えていきます。

 豊かな生活はまだまだ先ですね。

 ここしばらくは拠点整備に勤しむことになった。


 大きく変わったのは大樹のウロが屋敷に変身。

 大樹のウロの中も5階フロアにまで仕上げてくれた。前鬼ぜんき様々だね。

 みんなは大樹の屋敷と呼んでいた。

 エルフ達の小屋は拡張し集会場とした。それとは別に、各々母子ごとに住めるように長屋形式で各部屋を設け、トイレも設置した。

 住居は日本式の、玄関で靴を脱いで部屋に上がる形式。

 母4人その子供7人で4部屋、ナターシャは独身なので一人部屋。

 親の居ない子供は僕の付き人として屋敷で同居することに。こちらの世界風に言うなら従者だろうか。

 この子の名前はリント。13~14歳くらいの男の子。

 目の前で両親の死を目撃したにもかかわらず、他の子供達の面倒をよく見るリーダー的存在。

 いずれ強くなって仇をとります!と僕にだけ言ってた。

 弓と魔法をナターシャに習いつつ、屋敷の小間使いとして従事している。


 畑の拡張も少し出来た。

 とはいっても、今はまだ植え直しただけなのだが。

 そのおかげで拡張スピードは早い。以前の3倍にはなったんじゃなかろうか。

 残念ながら小麦と米はまだまだ先になる。それっぽいのはすでにアヤメが発見しているが、開拓してからの順になるから仕方ない。

 また、貯蔵庫も肉専用と野菜類専用の立派な倉庫を設置してある。当然、不思議術施行済みで長期保存可だ。


 また、公衆浴場も整えた。

 上下水道なんて無いから一ヶ所に集約した方が効率的。なので公衆浴場。

 入り口に男湯と女湯ののれんが掛かった本格派。

 たぶん、こっちの人は日本語読めないだろうけど、こういうのは情緒が大事。

 ちゃんと男湯は青色、女湯は桃色ののれんで色分けされてるから大丈夫。

 これらを半月ほどで整えた。

 偉くない?

 みんな働き者で助かります。



 そんな頃、また事件が発生した。

 南の草原近くで薬草を探していたアヤメが、頭に耳を生やしたヒトを発見したとのこと。

 この森に向かって集団で歩いて来ているらしい。

 まだ数キロメートル先でたどり着くにはまだまだ時間が掛かるようだ。

 男女子供合わせて30名だと。

 目が良いね!

 そんなに先だと米粒より小さいじゃん。

 耳の形だけでなく毛づやまで把握出来たらしい。

 ん? 頭に耳? 毛づや?

 もしやの獣人では?

 発見者のアヤメの他に、もしもの時のためにタマモと真神まがみに同行してもらうことにした。

 草原との境にたどり着いた後、真神まがみの眷属狼には森の中に控えてもらった。

 4人で草原に出て出迎える。

 しばらくしてようやく目の前に獣人達が現れた。いかにも疲労困憊の様子。


「ああぁ、フェンリル様……本当に居らした」

「……やっと……」

 真神まがみを見て、全員がへたり込む。

 いや、膝をつき両手を後ろに持っていく様は彼らの土下座なのか。

 急所の腹を見せ、後ろ手なのは獣人らしい拝謁の仕方だ。

真神まがみ、呼んでるよ)

(いや、ここはあるじ殿お願いします。

我はフェンリルなどというものではありません)

 真神まがみにも大神・犬神としてのプライドがあるのかな。

 仕方ないので一歩出る。


「こんにちは。

僕は鈴木次郎と申します。

この森に住まう者です。」

「おお、御子だ」「御子様!」

 獣人達が口々にざわめく。

「ええと、どうしてこちらに?」

「我らはここより南東にあります疾駆はやがけ村の生き残り。

フェンリル様の助けに一縷の望みを託し、三月みつきの道をたどり着いた由にございます」

 一番体格が良く、疲労困憊でもよく通る声で、もの申して来た男性がリーダーらしい。

「何がありました?」

「くっ……村がモンスターの襲撃に合いました。

おそらく陥落していると…」

「僕らに仇をとれと?」

 ここは大事。しっかり意思を確認しないと。

「そ、そんな畏れ多い」

「ではどうしろと?」

「畏れながら、復興のメドが立つまで手助けいただけないかと!」

 おそらく30名では復興は難しいだろうな。

 だが、避難民として収容は出来る。


「わかりました。

皆さんを避難民として受け入れます」

 獣人達にホッとした空気が流れた。

真神まがみ。子供や怪我をしている人達を狼達に運ばせて」

「御意」

「アヤメ。前鬼ぜんき後鬼ごきに知らせて。

集会場を仮宿にする」

「はいにゃ。伝えたらすぐ戻ってくるにゃ」

「タマモ。彼らの護衛をよろしく」

「かしこまりました」


 拠点への道中、さらに話を聞いた。

 ハヤテと名乗ったリーダーによると、彼らの村を襲ったのはオークの集団。

 またしてもオーク。

 300人の獣人村に千を超えるオークが押し寄せた。

 村一番の猛者だったハヤテは前線に居たが、父親の村長は女子供を中心とした避難民のリーダーとして我が子を据えたのだ。

 その様は文字通り、父親が暴れる息子の首根っこを掴んでズルズルと後方まで引きずったそう。

 村一番の猛者はお父さんだったんだね。

 ハヤテは狼系獣人だが、猫系や兎系など多種存在するようだ。

 避難民も最初は50人ほど居たが、旅の途中でオーク以外の魔物にも度々襲撃を受け、一人また一人と削られ、とうとう30人までに縮小してしまった。

 ハヤテは守りきれなかった自分自身が悔しくて男泣きしてた。

 ここまでしっかり引率したのだ。

 僕だけはハヤテを称えてやろう。


 拠点に到着すると、さすがは前鬼ぜんき後鬼ごき

 お風呂も炊いて、食事の準備も抜かり無い。

 集会場にはお布団まで敷いてある。

 そう、ここはあやかし旅館。

 予約殺到のお宿……冗談はさておき。

 獣人達には2、3日はゆっくりしなさいと伝え、エルフ達にサポートもお願いして任せることにした。



余談


 屋敷の会議室にて。

「またもやオークなるものとは」

とは前鬼ぜんき

「単なるブタの化身でありんしょ?

雑魚、ね」

「でも、それが千匹もいたら……おぞましいわね」

 どうやら後鬼ごきはオークを嫌いらしい。

「ん~、確か大陸にそんなようなのが居た気がするにゃ~」

 あ、猪八戒!?

「ああ、アレか。居たな」

 前鬼ぜんき後鬼ごきも知ってるようだ。

「多少の妖術も使えたと記憶にありんすが、ほとんど力押しのおバカでしたねぇ」

 タマモは遭遇済み?

 ああ、九尾狐って大陸から流れて来たって逸話もあったな。

「我はよく知らぬが問題無いか?」

「「「無い」」」

 ウチのあやかし達に言わせるとそういうことらしい。

『フフッ頼もしいことですね、あるじ様』

「ジロー様、お茶のおかわりをお持ちしました」

「ありがとう」

 リントの要れてくれたお茶がおいしい。



余談


「なんだかわからんが、このスープうまいな」

 ハヤテが貪るように掻き込んでいると、

「これはねー、トン汁!

あたし、これ好きなんだ-」

 エルフの子供がにこやかに話しかける。

「そうか。トン汁というのか。

俺も好きになったぞ」

 ハヤテも笑顔で返す。

「それに、お腹いっぱいになると幸せになるって、ジロー様が言ってた」

「うんうん、俺もそう思う!」

「おかわりいっぱいあるよー」

「では、もらおうか」

 ちょっと幸せを感じたハヤテだった。



余談


 公衆浴場前にて。

「ジロー様ぁ。わざわざ男女別にすることも無いでありんしょ?」

「君は女性。僕は男性。公序良俗大切です!」

「猫の姿なら良いにゃ?」

「「ダメ」」

 入浴後。

「そういえば、サトちゃんの性別って……?」

『聞きたいですか?』

「あ、やっぱいい!」

『それがよろしいかと』

 七不思議は七不思議のままで。




 豚汁、良いですよね~。

 冬にもってこいですね。

 豚汁には七味が欠かせない! 一味派の人もいるかもね。

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