異世界召喚多すぎです!
『メールが届きました』
ピコンと着信音がなって女神は差出人を見て不思議に思いながらメールを開いた。
上司から連絡がくるなんて、何百年ぶりだろうか。
「えーと、第6支部の管理官が過労で倒れたのでその代理をしろですかー」
命令なのでやらないわけにはいかないのでそれはいいのだが1つの疑問がある。
第6支部と言えば地球と呼ばれる世界の周辺で比較的平和で管理が楽と言われているところのはずだ。
そんな場所の管理官が過労で倒れた?おかしなこともあるものだと思う。
「とりあえず、行ってみますかねー」
任された第6支部に向かって5日、怠惰を貪っても平気なほど平和でやることがないことくらいで退屈である。
よくもまぁこんな環境で過労なんか起こせるものだ。
「管理官様!被膜に穴にです」
「珍しいこともあるものですねー。すぐ修復しますねー」
被膜とは世界を覆う膜で、世界を1つずつ包んでいるシャボン玉のような透明な膜だ。
穴があくとは珍しい。
滅多に起こりえない異世界からの干渉などがなければそうなることはないのだが。
とにかくと女神は被膜を修復して再び怠惰を貪っているとまたも被膜に穴があいたと報告がくる。しかも2回とも地球とかいう。
「1日に2回とかほぼ奇跡を超えるレベルですねー」
これもさっさと修復をして、仮眠をとっていると今度は複数の補佐官が同時にやってきた。
「「「管理官様、被膜に穴です」」」
「へ?」
今度もまた地球、それと周辺の世界。
こう何度も同じ場所に穴があくのも、短い時間に被膜が破けるのも、どう考えたっておかしい。異常すぎる。
珍しいとか気楽なことを言ってる場合じゃない。
「と、とにかくすぐ修復しますねー」
「お願いします、女神様」
同時に複数の被膜の修復はかなり疲れる。
それにしても、補佐官たちはこの異常事態によくもまぁ平然としていられるものだ。
「いくらなんでもおかしくないですかねー」
「ここ数日が珍しいだけですね。毎日10以上はあいてましたから、やっと落ち着いてきたのでしょうか」
「……………」
なんてことないと言ったふうな補佐官の言葉に女神は言葉を失った。
被膜があくのが毎日?
異常も異常、ありえないなんてものじゃ足りないし、ここの神が過労で倒れたのも納得はする。
「シ、システムボードオープン」
宙に表示画面が浮き出て、女神は震える手でそれに触れて1年の記録を見ていく。
確かに担当者の記録を見る限りそのようだ。
修復にも時間はかかるし助けを求めようにも出来なかったのも頷ける。
正式な記録を作って提出する余裕もないし、何より他の神の手を借りなければならないほどの緊急事態はほぼ起こらないので助けを求めても気づかれるかどうか怪しい。
つまり担当の神はひたすら修復を続けるしかない。
「それよりもー、気になることがありますねー」
女神は大量に記された数字を指でなぞると訝しげに目を細めた。
「地球だけ魂の」
「――女神様、補修をお願いします」
「またですかー」
ゆっくりする時間もないことを嘆くように息を吐いた女神は補修を終わらせるとシステムボードを再び開く。
「やっぱり減り方がおかしいですねー。輪廻の輪から外れるにしても異常ですしー、それでしたら被膜に穴があれほどあくはずないですからー」
ピンっと爪を弾いた女神はダンっと机に足を置くとすぅと息を吸い込んだ。
「ふっざけんじゃねぇぞ、あいつらー!!」
叫んだ女神はコホンと咳払いをすると失礼と笑って深呼吸すると担当エリアの被膜を強くするために力を振るった。
おそらく、過労倒れた管理官も力を振り絞ってこうしたのだろう。
「これでしばらく安泰ですねー。さてさて、怠惰に戻る前にお仕置きを考えなくてはー」
神の許可なく世界間への魂の移動は禁じられている。当然、それを破った罰は受けてもらう。
神と人の子の間にあるルールなのだから、人の子にも、放置していた別の支部の担当官の神にも。
「異界の魂を呼べば強いのは分かりますが世界を壊すものですからー。相応の報いを考えなくてはー」
無辜の民には同情するが、このままにしておけば全世界を消滅させてしまいかねない。
ちょっとした罰を受けるだけであとは無罪放免なのだからきっと彼らも喜び勇んで受けてくれることだろう。
「さてと、まずは召喚を行った世界を調べあげなくてはなりませんねー。神々も忙しくなることでしょうねー」
システムボードを眺める女神は心底楽しそうに笑っていた。
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