4年目 2
言いたいことはあった。でも言い出せなかった。踏み込めば彼女は身をかわす気がした。今の年に一度の癒しすら、また会えるという期待すら失うことに怯えていた。
彼女はいつも改札まで見送ってくれそこで俺たちは「またね」と言って別れる。そして俺はいつも何度も彼女を振り返ってしまう。名残惜しさと言えなかった事への後悔を抱きながら、彼女が立ち去る姿を眺めてしまう。彼女はけして振り返る事はなく、いつものややせっかちなあの歩き方で迷いもなく立ち去っていく。俺になんの未練もないかのように。
当たり前だ。俺はただ途中下車してきただけの過去の存在で、彼女は十分幸せそうで、二人に何がありえると?
そう思いつつ、もし彼女が振り向いて俺を見てくれたら、視線が昔のようにカチッと合うことがあれば、言えずにいたことを言おうと決めていた。
お互いのコーヒーが空になり、店を後にし、改札へ向かう。「またね」と言って彼女はいつものようにやや素っ気なく立ち去る。俺は改札を抜け、振り返って彼女の姿を目で追う。
と、彼女が再会して4年目にして、はじめて振り返り、俺を目で探している。
彼女と視線が重なる。そしてあの頃のように、どこかでカチッと音がした気がした。
世界がストップモーションの光景に変わる。
時がとまるように雑踏の音も気配も何もかもが消え、俺にはやや戸惑った表情で立ち止まっている彼女しか見えない。
俺はくるりと向きを変えて歩き出す。
そして、彼女も同じように。