3 様子が変な幼馴染
ギシギシ、ギシギシ。
「あっ、あんっ、あっ。」
ベッドのスプリングが軋む音とともに嬌声が響き渡る。
俺の腰のあたりで何かが跳ねているそんな気がした。
朝っぱらからそんなことがありえるはずがないので、
きっと妄想だ。夢に違いない。
まったく欲求不満にでもなっているのだろう。
今日も学校だ、夢から覚めよう。
目を開け、起き上がろうとすると目がかっちりとあった。
そこには美少女がいた。
肌は健康的に日焼けしていて、
茶色み帯びた黒髪がまとめられポニーテールになっている。
そんな彼女が恍惚とした表情で腰を振っていた。
布団という緩衝材がなければ、きっと18禁だっただろう。
「えっと〜?なにしてるの?」
俺が困惑して尋ねると、彩はコテンと首を傾げた。
「こ、興奮しなかった?」
「えっ?」
彩は立ち上がり、自分が乗っていたあたりを確かめるようにさわる。
何かしらの確認が終わると、少し考えるようにして、
「ふむ、意外に冷静。これはなしっと。」
ポケットからメモ帳を取り出し、
先程までの表情がまるで嘘だったかのように、
能面のような無表情に変えて、なにかしらを書き込む。
「えっと、まあ、みっちゃんは気にしなくていいよ?」
「いや、普通幼馴染が起きぬけに俺の上で腰を振っているなんて、なにかあるでしょ絶対。
しかも疑問形でどこか意味深だし…。」
「大丈夫!」
「いや、だから「大丈夫!」…はいはいわかりましたよ。」
彼女はわかればいいとばかりにドヤ顔をするが、
何がなにやら、それはともかく、さっさと準備をしないと。
「悪いんだけど、どいてくれる?」
すると、俺の部屋の扉が開いた。
「おっ兄ちゃん〜っ、起きて…へっ?」
―
三人揃って食事をとる。
時間が本当になかったので、
トーストと目玉焼き、ハムと牛乳だけ。
量はトーストの枚数で調整してくれというスタイルだ。
「ご馳走さま。」
早食いをして、弁当を作ることにする。
期限が近い食材がいくらかあるのだ。
作ることは作るのだが、一応確認する。
ちょっと夫婦みたいだ。
「弁当いつもの感じでいいだろ?」
「おけ。」
…これは熟年夫婦だ。
このやり取りに対して
花音は面白くないのか彩を睨みつけるが、
彩はまったく意に介さない。
トーストにマヨネーズと粒入りのマスタードを塗り、
目玉焼きをのせている。
そんな様子を見て花音は攻め方を変えることにしたようだ。
表情筋を笑顔に作り変える。
「ところで玄関もしまっていたのに、
一体どうやって入ってきたんですか?合鍵ですか?」
「ううん、充希の部屋のベランダから。」
「…あのもしかしてですけどお兄ちゃんの部屋の向かいの部屋から?」
「うん、飛んできた。」
花音の笑顔は固まった。絶句していた。
それはそうだろう。
なにせ彩の部屋のベランダから俺の部屋のベランダまで
だいたい5メートルくらいある。
家の中で助走をつけたくらいじゃ大の男だって飛ぶことは不可能だろう。
「あれくらい余裕。」
手でVサインを作り、ドヤ顔を晒した後、
マイペースに食事を再開する。
俺たちは朝からどっと疲れたのだった。
家を出るときに、花音にも弁当をやったら、やたらと元気になったが…。