2 クラスメイトの前でアピール
「なあ。」
ふにふに。
「なあ。」
「あっ!ごめん。
どうしたの、お兄ちゃん?」
ぎゅっ、ふにふに。
抱きつき具合が強くなった気がした。
「こういうのはあんまりしないほうがいいんじゃないか?」
「だって私達兄妹じゃない。
これくらい普通だって。
あれ?もしかしてお兄ちゃんドキドキしてる?」
花音はいたずらっぽく笑う。
これはわかってるやつだ。
俺の顔は自然と熱を帯びていく。
「…知らないよ。」
「からかってごめんね、充希くん、これならいいよね?」
組んだ腕が解かれ、
手が繋がれ、指が一本一本絡ませられる。
いい具合の組み方を確かめるように感触が探られ、
さらに頬に熱がこもる。
今までこんなにドキドキしたことはない。
心臓が口から出てしまうんじゃないかというくらい、
血が沸騰するんじゃないかというくらい熱い。
俺は彼女との距離を測りかねている。
―
放課後になり、置き勉分以外をカバンに詰め込んでいると、
教室の扉のあたりから聞き覚えのある可愛らしい声が聞こえてきた。
「お兄ちゃん、一緒に帰ろ!」
視線を向けると、こっちこっちと飛び跳ねながら嬉しそうに手を振っている。
おそらく同年代の他の者がすれば、あざとさが先行し、
苦笑いを浮かべるものが大半だろうが、
花音に対してはそんな表情を浮かべるものは誰一人いない。
純粋に喜んでいるからか?はたまた美人だからか?
俺がそんな愚にもつかない事を考えていると、
そんな花音の様子に見惚れる者とこちらに視線を向ける者とに別れ始めていた。
…まずい。
なんとなく面倒なことになりそうな気がしたので、
さっさと残りをカバンに詰め込み、
混乱を少しでも避けるべく、今朝の面倒からもあくまでカノンの独断専行ですよと主張すべく、花音がいる方と逆側の扉から出る。
すると、花音は笑顔でこちらにトテトテと走ってきて、
ギュッとカバンを持っていない方の手を抱き抱えてしまった。
「げっ!」
予想外の行動に思わず言葉が漏れる。
今朝も学校が近くなると組まれた腕が解かれ並んで歩くくらいのスキンシップに抑えられていたので
学校でまさかこんな行動をとってくるとは思っていなかった。
俺が動揺し、振りほどくかどうか頭を悩ませていると、
花音はニヤリと笑い、火に油を注いだ。
「お兄ちゃん、花音とっても寂しかったんだ。
さっ、早くお家に帰って仲良くしよっ!」
…空気が凍った。
俺は天を仰ぎ、内心でこう呟く。
…オウ、ジーザス。
―
こんなことがあって帰り道に問い詰めようと思っていたら、
こんな風にもてあそばれてしまった。
ようやくいい塩梅な組み方を見つけたのか、
指の動きは収まり、今はご機嫌に腕を振っている。
これなら聞き出せるだろうか?
「なあ花音?学校でのあれは何だったんだ?」
「あれ?」
「放課後俺を迎えに来たときのやつ。」
「あ、あ〜…あれね?
うん、あれは牽制。」
「牽制?」
「うん、だってあのクラスにもお兄ちゃんを狙っている子がいたからね〜。
やっぱり私に優先権があるってアピっとかないと〜。」
まあ、他にも理由はあるんだけどなどと
聞こえた気がしたが、
どこか黒い笑みを浮かべていたので
無視する。
これ以上、藪をつついて蛇を出したくはない。
そうこうしていると、いつの間にやら家の真ん前についていた。
夕暮れの中、花音は指を解き俺に向き合うと、真剣な表情でこう言った。
「充希くん、私のアピールは始まったばかりだから。」
こんなのは序の口、
始まりも始まり、
だから覚悟してと言われているようで俺は嘆息した。