1 付き合ってる?
「なあ。」
今日の夕飯は何にしようか?
さっぱり系、ガッツリ系?
「なあ。」
和風、洋風、中華風?
「なあ、なあってば!
無視すんじゃねぇ!」
スパ〜ンッ!
頭を叩かれた。
叩いた相手の方を向く。
そこには不満げな表情を浮かべた男子高校生の姿が…。
俺は困惑した表情を作る。
「…誰?」
「いや、そういうのいいから。
そんな強く叩いてないから、記憶も飛ばないから。」
これはちょっとしたコミュニケーション。
決していじめではない。
「…ああ、ゴタクか。」
「ゴタクじゃない。俺の名前は後藤拓真だ。」
こいつはお調子者でいつも絡んでくる暇なやつだ。
しかし俺は暇ではない。
仕方がないので手を叩いて促す。
「ほら、いつものやつ終わったから、もういいよ。
はい、クランクアップ。お疲れ様でした~。」
「はい、どうもお疲れ…じゃない!
少しは真面目に聞け、俺もこれが終わったら、
宿題しなくちゃいけないんだから。」
えっ、マジ?
そういえば、なんか言っていたような…
てことは俺もやらなきゃじゃん。
俺は若干焦り、数学ワークとノートを取り出す。
いつもならそんなことをすればとがめられるところだが、
どうやら今のゴタクにはそんな余裕はないみたいだ。
「なあ、充希お前、白沢花音と付き合い始めたって本当か?」
そう言葉を発した瞬間、クラスは静寂に包まれた。
ん?
なんか妙な雰囲気だな、でもまあ、いいか。
「いや、花音と付き合ってないけど?」
「嘘つくな、今朝、腕を組んで歩いていたじゃんか。
というか、花音っ!?」
白沢花音とはモデルをしている学園のアイドル?だ。
そこらへんのことはよく知らないが、
そこらの道ですれ違えば、十人中九人は振り返るだろう際立った容姿をしている。
母親がハーフだからか染めたそれとは一線を画する美しい金髪が肩のあたりで切り揃えられている。
目は大きく涼し気な碧眼、まつ毛は長く、整った顔立ちを引き立たせる。
身長は女性にしては少し高く、
ほどほどの大きさの胸、くびれたウエスト、
小ぶりなお尻と女性が理想とした体型をしている。
彼女の気さくな性格と相余ってかなりモテる。
そんなやつと付き合うわけがない。
…ああでも、
そういえば、今朝なんか腕を組まれたな。
なんかいい匂いがして、柔らかくてドキドキしたのを覚えている。
「ああ、普通妹のことを名字で呼ばないだろう?」
「え?え?なにそれ、どういうこと?」
面倒なので、困惑を隠せないゴタク含めクラスメイトにも聞こえるように説明する。
先日父が再婚して、相手の連れ子が花音だったと。
困惑からいち早く自分を取り戻したゴタクは、
神妙な表情でこう告げた。
「妹さんを俺にください!」
そう土下座をしてきた友人にノーを突きつけた。
だって、
俺も告白の返事を考えなければならないのだから。