008_蛙ちゃんの三年目
不思議な音が響きます、
歌と呼ぶにはあまりにも暴力的な、
しかし騒音というには、
魅力あふれる節回し、
決して美声ではないけれども、
心に響く重低音、
いや聞く人によっては、かなり心地よい音響であるのであろうか、
その音に被せるように、合唱、輪唱、恋歌爆音雨霰、
高音域がかぶさっていき、その音域が乱高下、
目を回しそうな心地よさ、
「はい、そこまでー!
というか、なんか違うー!」
大きな声で、遮る無粋、
いやまあ、周囲の惨状を見るに、
遅きに失しているような気がしなくもなく、
破壊音波と言っても過言ではないけれども、
音楽としては、成り立っています、
いや方向性がかなり違いますが。
「清らかな、春の歌なのですよ、これ、
なんというか、激流下をしていたら、
いつの間にか滝を登っていて、天上で、
激しく踊りつつ、脳天を、冥府魔道に叩き込むような、
音にどうしたらなるのでしょう?」
音楽の先生、声楽から、ちょっとした琵琶やら箏やらを指導する、
家庭教師の、ちょっと年配の方が、途方にくれています。
「げこげこ、って鳴くように歌うと、
とても調子が良いのですよ、
というか、本能がね、ああしろと、言っているのよ、
ゲーコげこ、むしろ魂の歌みたいな?」
人間の子供大、翠色肌が綺麗で美しい、かえる姫、ナダ姫さまが、
これはもうどうしようもないよね、という顔、
カエル顔なのに、細やかな感情表現を手に入れています、器用ですね。
「調子に乗ると、
拍子が加速しますね、
というか、どうして変拍子になるのでしょう?」
ちょっと困っている先生です。
「なんというか、小節を聞かせているような気もしますけど、
こう、和音の作り方がいろいろ思いついて、楽しいのですよね、
弦を響かせるところにコツがあるような感じですね」
うーんと、琵琶を弾きながら、答えるナダ姫さまです、
「あと、周りのカエルさん、どこから出したのです?」
姫様の周りで、合唱をしている普通のカエルを見つつ、
たずねる先生です。
「さあ?こう、歌っていると自然に現れまして、
気がつくと輪唱していたり合唱していたり、
裏泊で拍子を取っていたり、
太鼓のような音を、手足で表現したりしてるのですよね?
不思議ですね?」
そして、いつの間にか消えているのです。
祖霊がえりの影響というか、権能のうちなのでありましょうか。
そして受け答えはかなりしっかりしてきました、
早熟なのもそれの影響でしょう。
「姫よ姫」
練習室の外から、カエル母が声をかけ、開けてあった引き戸をくぐり、
入室します、
なぜか、頭から水をかぶったようにびしょ濡れです、
「雨呼びの歌になっていますよ、
廊下が水浸しです」
なるほど、避けられなかったのですね、
まあ、室内で夕立に会うとは、あまり考えないですからね。
「いえまあよくあることなので濡れても大丈な服ではありますよ?」
そうですか。ちょっと薄布が張り付いて、妖艶ですね。
「はーい気をつけます」
祖霊の力と唄の関係で制御が甘いようです。
カエルちゃんの三年目はこんな感じです。