005_蛇くんの二年目
書籍溢れる部屋、術者の研究室が続きの図書室、
蔵書量的には図書館くらい?
古今東西、和洋中とわず、取り揃えておりますような、背表紙、
植物紙を中心にした巻物やら、けものの皮でできたごつい書籍、
木の板を束ねたものから、活版印刷のものまで、
形状も節操がないけれども、内容も同じくらい節操がない、
そんな感じな、混沌図書室に、
身の丈五歳くらいの少年が、扉を開けて入ってきます。
「先生ー、本読ませてー」
書架の合間で本を物色していた、やせぎすの男が、
ちらりとも見ず、こたえます。
「おう、だけど先生はやめーや、
何も教えとらんし、そんなに偉くもない」
ホイホイと、軽く応えながら、少年、
蛇くんことナギ少年は、足取りも軽く、
本の山々に向かって登山開始でございます。
二歳、ですが、体つきは五歳程度、
受け答えもはっきりと、大人とあまり変わらない、滑舌です、
まあ、蛇の舌はかなり器用に使えるのでしょう、
稀に、シューシュー言っておりますが。
ヒョイと、お目当ての本、活版印刷の厚めのそれと、
長々と紐がのたくったような、手書きの巻物を両方手に、
読書机、一枚板の雰囲気の良いやつに、
広げてみて、
トンと、椅子に乗って、眺めて位置を確かめて、
読み始めます。
「お、呪文書か?
対訳いるか?」
何を読んでいるのか知った痩せた男が、
ナギ少年に尋ねます。
「ん、いい、辞書あるし、解読しながら読む方が、
頭に入るし、何より、面白い」
軽く断りを入れて、
懐から、帳面を取り出し、
永年筆を片手に、要点の書き取りをしながら、
答える二歳児です。
控えめに言って天才というか、早熟な感じですが、
神様血筋補正のうちであるなら、
不自然ではない、のかもしれません。
「いやまあ、蛇神様の血筋とはいえ、
ちょっと、学習速度と効率が凄すぎるんだよなぁ、
おかげで、こっちは楽できているけれども?」
それで良いのか家庭教師、という声が聞こえてきそうではありますが、
好奇心のまま自由にさせておいた方が、成果が出るとあっては、
あまり先生らしいことをする必要も感じず、
「生徒の自主性に任せてみたとか、言ってれば良いのでは?」
ナギくんが一言、
「それな」
答える、痩せた男、
この男、見た目は四十前後ではあるけれども、
実年齢は不明、少なくとも千歳は超えているか?
術者としては優秀というか、
ほぼ最高峰の腕前を持つ達人で、
単独で、国を落とすくらいの階梯ではあり、
都では、博士とか教授とか呼ばれているような立場でもあるのです、
まあ、性格は結構、破綻しているとかいい加減とか言われていまして、
その評価は概ね正しいのです。
術者としての英才教育が、勝手に始まっている感じです。
蛇くんの二年目は、こんな感じで過ぎています。