032_蛙ちゃんの差し迫った緩い危機。
「大臣が一人、病気療養に突入したらしですわね」
同級生の一人が慌ただしく早退して、
後からの噂とか、情報収集で判明しました。
「大事なければ宜しいですね」
蛙姫ことナダ姫に応えるのは、
運よく、同じ教室で学ぶことになりました、
兎娘さんです。
「いいえきっちり手を回していますので、
別に運が良かったわけではありませんが」
権力というか、影響力が振るえる範囲に、
人事権を握っている方がおられたのは、
ある意味運がいいといえば良かったのかしらね?
「何かまた怖いこと考えてますね、
いやですよ、
学校にいる間くらいは、
平穏に過ごしたいのですから、姫様」
不穏当な思考をその表情から読み取った、
兎娘さんが、釘を刺しておきます、こう、ぶすりと。
「いやですわね、
わたくし、学校では、猫をかぶるつもりですわよ?」
げこっとか笑う姫様です、
変身術はかなりの腕前までに成長していますので、
姿形は、完璧なお嬢様ではあります、
肌艶もよく、髪の毛も真っ直ぐ長く、
黒く光っています。
体型も十三歳くらいの少女としては、
めりはりもあり、
ゆったりとした着物に身を包んでいますが、
その射影は美しいものがあります。
「見た目詐欺ですよね〜」
顔に傷がある色眼鏡侍女がしみじみ呟きます、
身分が身分ですので、教室にも付き添っています、
警備も兼ねているわけでございまして、
さらには、祖霊返り特有の、あれやこれやの、
不具合を修正対応する、人員でもございます。
「その大臣、都の防衛を司る部署のお偉いさんなのですけどもね、
どうも、学園の特別顧問であるところの、老師?先生?
真言術の達人という方の術式に当てられたという、
噂がありまして」
ぱらりと情報を記した帳面をめくりながら、
報告として補足する侍女さんです。
「うちの学校の先生、結構凄いのね?」
色々学べるかしらね、と、学習意欲を高めるような、
言葉は放つ姫様です。
「術式はちょっと頭が痛くなるので、
あまりやりたくないですねー」
肉体派の兎娘は、そうぼやきます、
そう、彼女は頭まで筋肉なのです、
筋肉で思考するので、むしろ、容量が一般人よりも、
多いのではなかろうかという、意見に、賛成するくらい、
残念な頭脳の持ち主ではあります。
「ただまあ、不確定情報ではありますが、
威圧された、当てられた、その威容の本尊は、
どこぞの惑う一柱であったという話もありまして、
久方ぶりに、都に他の神様が寄ったのではなかろうかなという、
噂もありますね」
侍女が続けます。
「あー、どこかで似たような話を最近聞いたような気がするわね、
件の生徒さんって、今日は登校していないのでしょうか?」
ちょっと思い出しつつ、教室内、周囲を見渡す蛙姫です。
早めに接触したいのに、自然な場を整えることができなくて、
少々困っている姫様ご一行でございました。
つまりこれが、かえるちゃんの危機であるのでした。




