021_蛇くんの十年目
森の中、光の小道、狩人の装い、足音を立てず、気配を殺し、
けれども結構目立つ赤系統の上着、
誤射を防ぐための工夫された装い、な、ナギくんでございます。
不可視の精霊、風霊と、見えているけれども認識されない、
樹木の精霊を駆使して、移動と共に索敵、
森の妖精種であるところの、師匠から、
当面問題ないところまで技術を習得したと、
認められた精霊術です。
今日の獲物は群れから弾き出された、
若めの牡鹿です、
肉だ、肉が食いたいのだ、
という食欲に導かれて、
少年は獲物を追いかけていきます、
その獣の通り道を読み取り、
痕跡を観察、
現在の位置を推測し、
目を飛ばします。
大きめの弓に矢をつがえ、
上空に向けて構えます、
つるのはり、しなる弓、
強靭な、大の大人が数人がかりで、
振り絞ることができるかどうかの、
強弓、それを、軽々と引き絞る、
見た目細身の10代後半くらいの少年です。
息を少し吐いたと同時に、
撃ち放たれる矢、空をきり虚空に消え、
僅かな時が過ぎます、
目を通じて結果を確認するナギくん、
ゆるゆると、最初と同じ拍子で、歩き、近づき、
結果を、現実の眼で確認します。
そこには、天空から降り落ちてきた、
矢が、綺麗に脳天を貫き、
一瞬で、何が起きたのかもわからないまま、
絶命した、豊富な山の幸によって、
よく肉づいた牡鹿が、あったのでありました。
矢を放ってから獲物まで、およそ、人の歩数で言うところの、
80歩程度、曲射打ち下ろしでの恐るべき精度であり、
深めの森での、視界を確保できる技術との合わせ技であり、
素直に、神業と言える、弓の技術でございます。
手際よくこれまた、水の術を駆使して、
血抜きやら食肉加工の初期処理をしていきます、
熟練の狩人程度にはその手際は素晴らしものであります。
大きさ的に担ぎ上げることが難しいので、
今度は、神術由来の水術で持ってして、
大きめの水球に包み込んで、浮かして、運び、移動します。
数刻ほどののち、森の中を歩き、
自然と一体化したような、住居へと辿り着きます。
「ししょー、鹿肉取ってきましたー!」
声をかけると、
「おー、処理するから、小屋に吊るしておいてくださいな」
大きな木の、これまた大きなうろを利用した住居から、
森妖精と呼ばれる、見た目16、17の少女が現れます、
雰囲気的にはかなり落ち着いた、大人の感じがします、
長命種であり、おんとし、ええとそこそこでありますね。
二人して肉処理用の小屋に入り、
内臓やら皮やらを丁寧に取り払い、肉として食べられるように、
捌いていきます。
「内臓は食べられるな、厄介なものもないみたいだし」
「生で食べると美味しいのですよねここ」
注意です、生肉処理用の術式を利用しています、
加えて、ナギくんは、蛇神様系なので、
生肉に抵抗がありません。
新鮮で美味しい内臓を今日は食して、
筋肉やら脂肪やら、その手の食材は、
少し熟成させて、後日いただくことにしています。
「この辺りは私にくださいな」
精力的に効果があるという部位を確保する森エルフの師匠です。
なぎくんを相手にするには、かなり体力を使うので、
夜に備えて、しっかり栄養をとる気の森妖精です、
精霊術による回復系のあれこれを併用しても、
結構早めに気絶してしまうように体力が尽きるので、
昨今は工夫が必要である、と言う事情があるわけです。
「初めから凄かったものなぁ」
ちょっと遠い目をして、初物をいただいた日を思い出してしまう、
森妖精の師匠でございました。
蛇くんの十年目はこんな感じです。




