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002_蛙ちゃん生まれる

 初夏終わり、梅雨の入り口、夜半、

 都のちょっと裕福な、貴きお家での、

 出産、産婆さん出張中、主治医付き、

 二十歳過ぎ、初産でちょっと緊張している女性、

 陣痛で顔を少し歪めているけれども、

 なんとなくしれっとしている、美人さん。


 あまり時間をおかずに、安産な感覚ではありますが、

 どうにもこうにも様子がおかしく、

 産婆さんもお医者さんも首を傾げている、

 あれかなあー、という予想もできている感じではあります。


 ぬるり、という擬音が響くような感じで、

 生まれてくるのは、

 半透明で中身が透けて見える、たまご、

 こう、両生類の雰囲気が漂う、

 赤ん坊の頭くらいのたまごです、


「あー、祖霊がえりですな!

 これまたありがたい」


 産婆さんが嬉しそうな、

 恭しそうな声をあげます、


「生湯に動かしますねー、

 ええと、たまごの状態は良好なので、

 自然孵卵に任せた方ますー」


 医師さん、母体の女性を安心させるように、

 どじょうヒゲを震わせながら、長いゆっくりとした喋りです、

 100年か200年に一度くらいの珍事というか、

 慶事に驚くも、その内心を、あらわにしませんです、

 職業意識高すぎです、どじょうヒゲ先生。


「ふうう、ええ、随分楽でしたわね、

 良い子です、

 つるんと出てきてくれてありがとうなのです」


 結構しっかりとした意識のまま、

 呑気に感想を述べる、お母さんです、

 彼女は、少々小柄でありましたので、

 出産の難しさを懸念しておられましたが、

 産んでみると案外容易かったので、ホッとしている、

 ようにうっすらと見えるのですが、

 やはり、のほほんとしているような表情です、

 こう、浮世離れしている感じでしょうか?


「赤ん坊の声が聞こえなかったので、

 心配だったのだが、

 たまご生まれだったのだなぁ、

 祖霊がえりか、めでたいめでたい、

 いや、無事に生まれてよかった、よかった」


 ひょこひょこと、産屋に入室するおひと、

 ふくよかな男性、子供の父親さんです、

 唇がちょっと厚ぼったいです、

 身なりはちょっと良さげ、

 翠系の薄着を重ねています。


「どうなのでしょう?お腹からは出てきましたけど、

 たまごからはまだ孵っていないので、

 生まれたと言ってよろしいのでしょうかね?」


 小首を傾げるお母さんです。


「それは心配ござらんですなぁ、

 つるりと、たまごから、今出てきましたぞ、

 元気な、ええと、少々お待ちを、

 おそらく多分、お嬢さんだと思いますな」


 生湯の中で元気に泳ぎ回る、

 ちょっと白っぽい、

 オタマジャクシを観察して、

 断定は避けつつ、告げる、

 どじょうヒゲのお医者さんです。


「まあまあ、元気でよろしいわね」

「ぴちぴちしておるな」


 名前はどうしましょうかね?

 カワズ姫ではそのまんまでよろしくないですわね?

 そのまんまではちょっとですな、


 すったもんだ、と、和気藹々と、

 行ったり来たりしつつ、決定です、

 命名、ナダ。


 ナダ姫様のご誕生です。 

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