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第一話 出発

 朝起きると、隣にミアが眠っていた。

 まだ日が出ていないのか、部屋の中は薄暗い。

 確か昨日は夕食をご馳走になった後、ノイジは奥の部屋に行ってしまい、二人でここで寝るように言われたのだった。

 体を起こすと、椅子にノイジが座って読書をしているのが見えた。


「あ、旦那、よく眠れたんか?」

「ああ」


 自分がそう言うと、ノイジは本を閉じ、それをテーブルに置いて立ち上がった。


「お嬢さんはそのまま寝かしておくさかい。朝食の準備をするんで、しばらく待っててな」


 昨日の夕食で使った調理台にお椀を乗せてその中に食材を入れ起動キーを言うと、あっという間に料理が完成した。

 調理台にはいくつもの魔法陣が重ねて描かれ、起動キーにより様々な料理が出来るようになっているらしい。

 しばらくすると、三人分の朝食を作り終えたノイジは、テーブルにそれらを並べた。


「ほな、お譲ちゃんも起きて、食べような」


 そう言ってノイジは起動キーを言ったが、ミアには特に変化が起きていない。

 ノイジを見てみると、少々驚いたものの何事もなかったかのように食事を摂り始めていた。

 俺もそれに倣って食事を始めた。




 朝食も食べ終わり、そろそろ日が出てくるかという時間帯。

 もそもそとミアが動いたかと思うと、目を開けて布団の上で正座をした。


「おはようございます」


 そしてそう言ってそのままの姿勢で頭を下げた。青い髪がばさりと顔の前側に落ちる。


「おはよう」

「おはようさん」


 俺とノイジが返事をすると、頭を上げる。だが髪が顔にかかっていて表情が分からない。

 しばらく家の中には外から聞こえてくる人の声や馬車の音だけしか響いていなかった。

 太陽が完全に山端から顔を出した頃になって、ノイジが言った。


「お嬢さん、朝食、食べるか?」


 首を左右に振ることで眼前にかかる髪を除けたミアは、一つ頷くと立ち上がって外に出て行った。

 多分、顔を洗いに行ったのだろう。


「旦那、追いかけなくてええんか?」


 ノイジに言われたことがすぐには理解できなかったが、ミアが戻ってこれない可能性があることに思い至ると、慌てて外に出た。

 ミアが出ていってからしばらく経つが、すぐに見つかるだろう。

 そう思っていた俺の予想は、目の前の光景によって脆くも崩れ去った。

 行き交う人や馬車の波。多分これがノイジの言っていた大商人の人たちなのだろうが、この人数は想像をはるかに超えていた。それよりも、この村にこれだけの人数を泊められたものだ、と感心するほどだった。

 俺は首を横に振り雑念を追い払うと、ミアを探すことに集中する。

 青い髪はそれほど珍しものではないらしく、ちらほらとミアと同じ色の髪を持った人が通っている。

 まずは兎に角、前に進もう。


「あれ、珍しい」


 そう思った矢先のこと、突然声をかけられた。

 きょろきょろと周りを見回すが、声の主は見付けられない。


「下だよ。下」


 そう言われて下を向くと、そこに青い少女がいた。

 ミア、のように見えるが、口調は違う。


「お兄さん、ノイジのとこに泊まってた人だね!」

「あ、ああ。そうだが」

「ミアちゃんなら大丈夫。私の後ろにいるから」


 そう言って後ろを振り返った青い少女は、突然悲鳴を上げた。


「え〜〜〜〜〜〜〜〜!!! いっないよ〜〜〜〜!!」

「誰がだ」

「ミアミャミャミャちゃんだよ。さっきまで一緒にいたのにさ〜〜〜!」


 いちいち五月蠅い。

 そんな事を思っていると、その青い少女はあっという間に駆け出していた。

 慌ててそれを追いかけるが、すぐに見失ってしまった。

 このままだと俺まで迷子になりかねないので、ノイジの家に戻ることとした。





「で、その子は誰だ?」

「私はミッシェでーす。よっろしくね!」


 ノイジの家で待つことしばらく、今しがたミッシェと名乗った青い少女がミアを連れて帰ってきた。こうして二人が並んでいると、よく似ている。

 彼女はノイジとは古い付き合いのようだった。


「ミッシェ、落ち着きや。五月蠅くてかなわんわ」

「ノイジこそその変な喋り方止めてよね。聞き取りにくいったらありゃしないんだからね!」

「この喋りはな、わいが苦労して本の中から発見した、極東の国の喋り方なんや。せやから珍しくて、そんで人が寄ってくる。そしたら本が手に入るかもしれへんのや。こんなチャンスを逃してなるかい」

「本本本本って、本当に役に立ってるの?」

「せやな〜。今までは立ってなかったかもしれへん」


 そこでミッシェが胸を張ったが、続けられた言葉に首を傾げた。


「でもな、今日からは、役に立つんや。特にこのミアお譲ちゃんと、旦那には、な」


 俺とミアに役に立つ?

 それは旅の仕方とかそういった事だろうか、と思ったがそれは違うとすぐに首を横に振った。

 ノイジを見ると、俺の様子を見てくすりと笑った。


「せやな〜。わいから言えることは少ない。少ないんやけど、ミアお譲ちゃんがここにいる理由も、旦那の過去も、だいたいの予想はつくな」

「なにっ!?」


 俺はついそう叫んだ。いや、叫ばずにはいられなかった。


「俺の過去を知っているんだな」


 掴みかかる勢いでノイジに迫るが、対するノイジは落ち着いた顔でこんな事を言った。


「多分、やな。確証も無いし、ほんまにそうなんかも知らん。ただ、ミアお譲ちゃんと旦那の旅に、わいは付いていくさかい、確信が持てるまで待っててもらえんか?」


 俺は、それを聞いて引きさがった。

 今自分の過去を知っても、何が出来る訳でもない。それに、混乱するだけだ。

 ノイジが付いてくるのだったら、もう少し色々と整理が付いた時に聞けば充分だろう。なぜだかそう思った。

 だが反対に、ミッシェが掴みかかる。


「ちょっと、何考えてるの? この村を出て行くって、何時、誰が決めたのよ。っていうか、最初からこの心算だったの? 人を泊めるなんて珍しいと思ったけど」

「今、わいが決めたな。まあ、まずは落ち着きや」


 胸倉にあるミッシェの手を、ゆっくりと体から離していくノイジ。

 ノイジの顔にある決意の表情に気圧されたのか、ミッシェは渋々といった感じで手を離した。


「まあ、ミッシェには悪いかも知れん。けど、こん二人で旅が出来ると思うか?」


 そう言われたミッシェは俺とミアを交互に見る。

 そして、首を横に大きく振った。


「せやろ。そやから、わいは二人に付いて行くんや。心配することはない。危険な旅になる事は、無いさかい」


 ミッシェはノイジをしばらく睨みつけていたが、やがて微笑むとこう言った。


「気を付けてね。絶対帰ってきてよね。あと、出ていく時に、皆に挨拶していくこと。分かった?」

「了解や」


 ノイジが笑顔で頷くのを確認したミッシェは、さっさと外に出ていった。

 それからしばらくの沈黙は、ノイジが話し始めたことで終わった。


「突然あんなこと言って、すまんな。せやけど、ミアお譲ちゃんと旦那にとっては、悪いことやないやろ」


 俺は頷いた。


「旦那やミアお譲ちゃんにも、話さなあかん、というか聞かなあかん事はあるさかいな。まあ、今は旅の準備が先決や。詳しい事は、道中にでもはなそうや」

「ああ、そうだ、な」

「うん」




 雑貨店で保存食や丈夫な衣服などを買った。

 ミアは袋に圧縮した服や食糧を持っていたので特に必要ないと主張していたが、さすがに不振に思われるとノイジに言われて、渋々服装を旅に合わせたものにしたりバッグを購入したりした。

 俺はもとから動きやすい服装をしていたが、所々擦り切れていたりしたので新調し、そして手頃なナイフを1本買った。なんとなくこのナイフを持っていると落ち着かなかったが、それでも持っていないよりはましだろう。

 ノイジは家にあった旅用の服を着て、ナイフを一つ買った。彼の手には使い古されたワンドが一本握られている。


「ほな、行こか」


 そう言って、ノイジは俺とミアを引き連れて村を回り、一人一人に別れの挨拶をしていった。

 一通り終わると、街道に出る所まで移動して、そこで待っていたミッシェや長老らしい人と挨拶を交わした。


「気を付けてね」

「もちろんや。ちゃんと帰ってくるから、待っててや。長老も、今までありがとうな。一通り終わったら帰ってくるさかい」

「気を付けるんじゃぞ」

「わかっとるがな。そんじゃ、行ってくるわ」


 踵を返して俺とミアに向き直ったノイジは、左手を突き上げてこう言った。


「出発や!」

「しゅっぱつ〜」


 それに続けてミアが同じように左手を突き上げながらそう言った。

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