プロローグ
「おにいちゃん?」
誰かが話し掛けてきた。
ゆっくりと目を開ける。
そこにいたのは蒼色の少女だった。いや、正確には髪が蒼いだけのようだが。
「おにいちゃん、おはなし、できる?」
俺は木に寄りかかるように座っており、その前に少女が立っている。目線は同じ高さだ。
周りを見回すとどうやら草原を通る道の脇にいる事が分かる。
「ああ、大丈夫だ」
俺はそう答え立ち上がった。何と無く体が軽く感じる。
もう一度周りを見回すと、遠くに山脈がそびえているのが360度確認できた。そうして少女に視線を戻す。
「君は」
「ミアだよ。おにいちゃんは?」
俺が立ち上がった事によって空を見つめるかのように顔を上に向けた少女は、反対に地面を見つめるかのように顔を下に向けた自分に問掛けた。
「俺は――」
はて。
俺の名前は何だっただろうか。
――サカイ。
期待と、なぜか希望に満ちている瞳に、とっさに思い付いた名前を言った。
「サカイ。サカイ・エイムだ」
「やっぱり」
何が、やっぱりなのだろう。
そう思ったのも束の間、ミアは俺に抱きついてきた。
「おにいちゃんは、きよくそうしつなんだよね」
「違う」
さっきまでとはまるで違う哀しそうな声に、俺はとっさにそう答えた。
「……ごめんなさい」
抱きついたままのミアは、俺の胸に顔を擦り付けて泣き出してしまった。
ここは一体どこだろうか。この少女は誰なのだろうか。そして、なぜ謝ったのだろうか。
山端に沈む赤い半月を眺めながら、そっとミアの頭を撫でてあげた。