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チャラ男と英語

「おはよう、紗綾」

 朝、教室に入るとすぐに千晶がやってきた。

「おはよう」

 千晶に挨拶しつつ、私はカバンを下ろすとすぐに席に着いた。

「何? 元気ないじゃん。どうしたの? あ、昨日は放課後、石神先輩が教室に来てくれなかったから寂しかった?」

 千晶はニヤニヤしながら、私の前の席に座った。


「ああ……石神先輩ね……」

 思わず苦笑いしてしまった。

「会ったよ……。帰り道にある公園で……」

「え!?」

 千晶は身を乗り出して、私を見た。

「何? どういうこと!?」


 私は昨日の公園での出来事を千晶に話した。

 先輩の行動をどう受け止めているのか、千晶の目はなぜかキラキラしている。

「なるほどね~。石神先輩やるね~」

 千晶は楽しそうに笑った。

「どこが……。あの先輩おかしいでしょ……」


 そういえば、豆しばに気を取られて、聞きたかったこと何も聞けてないな……。

 ハンカチも結局返してもらってない……。


 思わずため息がもれた。


「あ、噂をすれば……」

 千晶が私の肩を叩く。


 教室がざわざわしていた。


 あ……、来たのか……。


「おはよう、紗綾ちゃん」

 教室の入口を見ると、キラキラした金髪をなびかせた先輩が微笑んでいた。


 う……、今日もまぶしい……。


 先輩は微笑みを浮かべたまま、私の席までやってきた。

 千晶がそっと席を立って、自分の席に戻る。


 ああ……、行かないで千晶……。


 先輩は流れるような動きで、さっきまで千晶が座っていた席に腰を下ろした。

「昨日はきたろうと遊んでくれてありがとう」

 先輩は爽やかな笑顔を向けた。

「ああ……いえ、私が遊んでもらったようなものなので……」

 朝日を浴びて、一層キラキラしている先輩から目をそらそうと目線を下げると、先輩がノートのようなものを持っているのが目に入った。


「あ、これ?」

 私の視線に気がついたのか、先輩はノートを机の上に置いた。

「ちょっと英語でわからないところがあったから、紗綾ちゃんに教えてもらおうと思って。紗綾ちゃん、帰国子女なんでしょう?」

 先輩がキラキラの髪をなびかせて首をかしげた。


「あ、はい。一応……そうですね」

「じゃあ、ここわかる?」

 先輩はノートを開いて、ひとつの問題を指さした。


「あ、はい。ここは文法というより、こういう熟語があるんです」

 私はカバンから筆箱を取り出すと、シャープペンでノートに英文を書き込んだ。

「ここは、これをそのまま暗記するしかないやつですね」

 書き終えてノートから顔を上げると、とんでもない近さでこちらを見ている先輩と目が合った。

「な!? なんでそんな近くで見るんですか!?」

 慌てて顔を離すと、先輩はなんでもないように微笑んだ。

「ごめんごめん。俺ちょっと目が悪いから」


 う……、顔が熱い……。

 それに目が悪いって本当……?


 私の探るような視線に気づいたのか、先輩はにっこりと笑うと、ノートに視線を落とした。

「じゃあ、ここは?」

 私は先輩を警戒してノートを手前に引き寄せると、先輩の方をチラチラ見ながら英文を書き込んだ。


「プッ……」

 吹き出すような音が聞こえ、私は顔を上げて先輩を軽く睨む。

「今、笑いました?」

「え? 笑ってないよ?」

 先輩は何のことかわからないというように目を丸くする。


 いや、絶対笑った。

 でも、ここで言い合っても勝てる気がしない……。

 思わずため息がもれた。


「あ、そろそろ教室に戻らなきゃね」

 先輩はそう言ってノートを閉じると、ゆっくりと立ち上がった。

「ありがとう。紗綾ちゃんのおかげで助かったよ」

 先輩はそう言うと、ノートを持って爽やかな笑顔を浮かべる。

「ああ、いえ……そんな……」

「あ、申し訳ないんだけど、今日は帰りに用事があるから先に帰っててね」

 先輩はそれだけ言うと、手を振って教室から出ていった。


 え、毎日一緒に帰ることになってましたっけ……?

 私は首をかしげながら先輩の背中を見送った。


 私がひとりため息をついていると、様子を見ていた千晶がニヤニヤしながら近づいてきた。

「なんだ~、ラブラブじゃない!」

「どこが!?」

 私は目を見開く。

「そんなこと言って~。二人でくっついて何してたの?」

「くっついてって……。先輩が英語でわからないところがあるから教えてほしいって……」

「英語……?」

 千晶が眉をひそめる。

「そう。私が帰国子女だって知ってたみたい」

 千晶は目を丸くした後、何か迷っているように目を泳がせた。

「え~と、紗綾……」

 千晶が少し困ったような顔で私を見た。

「先輩も帰国子女だよ?」

「え!? 何それ!?」

 思わず大きな声が出た。


 クラスのみんなの視線が集まり、私は恥ずかしさで机に突っ伏した。

「中学の途中くらいまで海外にいたはずだから……。英語は紗綾以上にできるはず」

 千晶が私の耳元で囁いた。

「何それ……」

 私は少しだけ顔を上げる。

「あの先輩、私のことからかって楽しんでるだけなんじゃない?」


 千晶は苦笑する。

「さぁ……。でも、私が見てる限り、紗綾のこと本当に好きそうだったよ? 紗綾がノートに何か書いてるあいだ、めちゃくちゃ愛おしそうに見つめてたから」

「何それ……」

 顔が熱い……。

 私は両手で顔を覆った。

「フフフ、やっぱりさすがだね~。石神先輩は」

 千晶は私の頭をポンポンと叩きながら、楽しそうに笑った。

あけましておめでとうございます!

更新が途切れがちでしたが、一気に完結まで書ければと思いますのでお付き合いいただけると嬉しいです!

どうぞよろしくお願いいたします!!

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