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チャラ男の贈り物

「ねぇ、今日ちょっと買い物に付き合ってくれない?」

 先輩は学校を出ると、私に微笑みながら言った。


「あ、それはちょっと親に言ってないんで……すみません」

 私は申し訳なさそうな顔をつくって言う。

 まぁ、嘘ですけどね。

 うちの両親は常に帰りが遅いため、基本的に何時に帰ろうが自由だった。


「そっかぁ、わかった」

 先輩は変わらない笑顔で続ける。

「じゃあ、ご両親に連絡しないとね! 電話する? 待ってるよ」

 そう言うと先輩はつないでいた手を離した。



 …………ん?




 先輩はにこにこしながらこちらを見ている。


「えっと……、じゃあ、メッセージ送っときます……」

 私はスマホを取り出し、メッセージを打ちながら頭の中はパニックだった。


 え?? 私、断ったよね?? なんで行くことになってるの?

 どうして?? どうしてこうなった!?


「あ……、打ち終わりました……」


「うん。じゃあ、行こうか」

 先輩はそう言うと、また私の手をとって歩き出した。

「あ、はい……」

 私はよくわからないまま引きずられるようについていく。



 先輩が向かったのは、学校から近い商店街だった。


 まぁ、電車にも乗らずに行けるところってなるとここになるか。

 私は、学校からそれほど遠くないところだったことに少しホッとしていた。


 学校の近くにある商店街は、少し時代を感じる古いつくりだったが、最近では若い人にも来てもらおうという試みからか、新しいカフェや雑貨屋さんを続々とオープンさせていた。


「先輩は何を買いに来たんですか?」

 私は先輩を見て聞いた。

「ああ、もうすぐ妹の誕生日だからプレゼントを買おうと思って。ただ、俺だと何がいいかわからないから、一緒に選んでもらえたらと思ってさ」

 先輩は微笑む。



 なんだ。それなら最初から言ってくれたらよかったのに。

 デートかと思って身構えていた私はホッとする。



「そうだったんですね! じゃあ、雑貨屋さんとか見に行きますか?」

 私は目についた可愛い雑貨屋さんを指さした。

「ああ、そうだね」

 先輩は頷くと、私の手を引いて雑貨屋さんに入った。


 お店はカントリー調で、私には少し懐かしく感じられる雰囲気だった。

 温かみのある店内の壁にはドライフラワーが飾られている。


「妹さんはどんなものが好きなんですか?」

「う〜ん」

 先輩は考え込むように顎に手をあてて、目を閉じた。

「全然わかんないや! 紗綾ちゃんは何がいいと思う?」


「え!? 妹さんについて何もわからないとなんとも……」

 私はそう言いながら店内を見回す。

 一人っ子の私はなかなかイメージできないが、兄妹でアクセサリーを贈るというのはきっとなしだろう。

「じゃあ、あっちの方にあるガラス細工とかオルゴールとかはどうですか?」

「ああ、いいね!」


 私は先輩の手を引いてガラス細工やオルゴールの並ぶ一角に足を進める。

「妹さんの好み、わかります?」

「はは、全然わかんない」

 予想どおりの先輩の答えに、私は心の中でため息をついた。


「あ、これなんてどうですか?」

 私は教会のステンドグラスをイメージしたようなデザインのオルゴールを手に取る。

 ステンドグラスのような透き通った赤い色で、中央に大きなバラが一輪描かれたオルゴールだった。


「ああ、すごく可愛いね」

 先輩はオルゴールを見て頷く。

「じゃあ、これにしようかな」


「え!? そんな即決で大丈夫ですか!?」

「うん、大丈夫だよ」

「ほ、本当ですか……? 私、妹さんのことまったく知らないので、先輩のイメージで選んじゃってますけど、本当に大丈夫ですか……?」

 先輩の目がわずかに大きくなった気がした。

「え……、俺のイメージなの?」

「あ、はい。キラキラです」

 先輩は苦笑する。

「キラキラね。うん、とりあえずこれにするよ。そういえば、紗綾ちゃん、昨日スカルが好きって言ってたよね。今日のお礼にプレゼントさせてよ」

 先輩はそう言うと、ガラスでできた透明な置物を手に取る。


 …………は?

 すかる? すかるって何? スカル? え、ラスカルとかじゃなくて??

 え!? 待って、ドクロってこと!?



 先輩の手はドクロを掴んでいた。


「え!? 先輩! 私、絶対そんなこと言ってませんよ! ドクロなんて好きじゃありません!」

 私は慌てて否定する。

 先輩は笑った。

「そんな、遠慮しなくていいよ。じゃあ、レジ行ってくるね」

 先輩はそう言うとオルゴールとドクロの置物を持ってレジに行ってしまった。



 え……、どうしよう。すごくいらない……。



 どちらかというと、ドクロの隣にあった天使の置物が好きだったのに……。

 私はため息をつくと、お会計が済ませて戻ってきた先輩を引きつった笑顔で迎えた。


「はい、これ。今日は付き合ってくれてありがとう」

 先輩はラッピングされた商品が入った紙袋を私に差し出した。

「あ、ありがとうございます。そ、そんなよかったのに……」

 私は紙袋を受け取った。




 先輩は昨日と同じく、私の家の近くまで送ってくれた。



 家に着いた私は、すぐに自分の部屋に入るとベッドに横になる。

 つ、疲れた……。

 それにこれ、どうしよう……。

 私はベッドの横に置いた紙袋を見つめる。


 ドクロ……飾るべきなのか……。


 私は紙袋を掴むとベッドの上に置いた。

 紙袋から可愛らしい包みを取り出し、恐る恐る開く。



「え……?」

 思わず言葉に詰まった。

「……あのチャラ男は……!……マジシャンか!?」

 私はそのまま仰向けにベッドに倒れ込む。


 包みの中にはガラスでできた天使の置物があった。


「何なんだ……まったく……」

 私は天井を見つめたまま、大きなため息をついた。

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