チャラ男のお迎え
「ああいうのがタイプだったんだぁ」
放課後、千晶がニヤニヤしながら私の席に近づいてきた。
「ホントにそう思ってる?」
私は千晶を軽く睨んだ。
千晶は肩をすくめる。
「う~ん、自覚ないかもしれないけど、あんたまんざらでもなさそうな反応してたよ」
千晶は私の机の前でしゃがむ。
「まさか!」
思わず大きな声が出た。
「まぁ、確かにカッコよかったけど……」
「でしょ?」
千晶はニヤリと笑う。
「それにほら、あんたがこのあいだ観て感動したって言ってた映画! あの映画の主演の俳優さんみたいだったから、映画じゃなくて俳優が好きだったんだなって思ったんだけど……」
「映画……? ああ! 確かに!」
少しだけ思い出した!
先輩としたのは映画の話だ!
ただ、決してその俳優が好きなわけではないので、好みだといった覚えはまったくないけど……。
私が難しい顔をしていると、千晶がクスクスと笑った。
「それにしても、先輩ってホントに紗綾のこと好きなのね! あそこまでいくとなんか頭が下がるわ」
「え!? ……からかわれてるだけだと思うけど……」
千晶は呆れたような顔でこちらを見た。
「からかうだけで、あんな手間のかかることしないでしょう。ちゃんと向き合ってあげなよ、あの王子様と」
千晶がそう言うのとほぼ同時に、教室の扉が開かれた。
「紗綾ちゃん、迎えにきたよ」
黒髪、黒ぶちメガネのイケメンは、やっぱりキラキラとした輝きを放ちながら登場した。
「ほら、お迎えだよ。また明日ね。あんたが朝から近寄るなオーラ出すから、今日は全然話し聞けなかったけど、明日はちゃんと聞かせてもらうからね!」
千晶は顔を近づけてそう言うと、立ち上がって自分の席に戻っていった。
私は先輩に引きつっているであろう笑顔を向ける。
「すぐ準備するので、待っててくださいね……」
「うん、待ってるから。ゆっくり準備して」
先輩は爽やかな笑顔でそう応えた。
私は荷物をまとめると、鞄を肩にかけて教室を出る。
「お待たせしました」
先輩の前まで来ると、私はさりげなく両手を後ろで組んだ。
ふふ、これなら手はつなげないでしょう。
我ながら賢い作戦だ。
「じゃあ、行こうか」
先輩はそう言うと、サッと私の肩を抱いた。
「ひ!?」
油断していたため変な声が出てしまった。
近い! 近い!!
私の頭は今、先輩の胸にくっついている。
肩に乗っている手をどかそうと、急いで先輩の手をとった。
すると、先輩がすばやく指を絡める。
「やっぱり手の方がよかった?」
キラキラした笑顔で、先輩は私の顔を覗き込んだ。
う……その笑顔、なんか怖いです……。
「あ、はい……。手の方が……」
私は顔の引きつりをなんとか抑えて笑顔で応える。
「そっか。じゃあ、これで行こう」
先輩は恋人つなぎの手を見つめて、満足げに微笑む。
手を引かれて昨日と同じように廊下を進みながら、私は思った。
先輩、友達はこんなふうに手をつなぎません。
この強引さが許されてるのは、先輩の顔が良くて、かつ私が流されやすいからですよ〜。
わかってますか〜。
学生同士でなかったら通報されるレベルですよ〜。
そんなことを考えていると、ふいに先輩が振り返った。
黒髪と黒ぶちメガネの先輩が知的な色気を振りまきながら微笑む。
思わずドキッとした私は結局何も言えず、ただ微笑みを返す。
私……何やってるんだろう……。
先輩に聞こえないように気をつけながら、私はこっそりとため息をついた。