放課後
あ、来たな。
クラスのみんながザワザワし始めたので、先輩が来たのはすぐにわかった。
思わずため息がもれる。
私は観念して、帰る準備をすることにした。
「紗綾ちゃん、迎えに来たよ」
キラキラした生き物が廊下側の窓から顔を出して、こちらに向かって手を振っていた。
「あ、はは……、今行きます」
私はなんとか笑顔を浮かべると、鞄を肩にかけて教室を出る。
「すみません。こっちまで来てもらっちゃって」
先輩のところに駆け寄る。
さっさと学校を出なければ!
周りからの視線が痛い……。
「いいよ、全然」
先輩が一歩私に近づくと、顔を覗き込んで微笑んだ。
「早く会いたかったから」
周りから黄色い悲鳴があがった。
一気に顔が熱くなる。
ち、近い! 距離感おかしくない!?
そして、声が甘い!
「あ、ははは……。と、とりあえず行きましょうか」
後ずさりして、先輩から距離をとった。
「そうだね」
先輩はそう言うと、私の手をそっととって指を絡める。
「な!?」
私が声をあげると、先輩は恋人繋ぎになった手を見つめて、にっこりと微笑んだ。
「じゃあ、行こうか」
先輩は私の手を引いて歩き始める。
こ、これは手慣れてる!?
やっぱりどう考えてもチャラいでしょう……。
学校を出たら早く断ろう……。
私は突き刺さるような視線に堪えながら、学校の外まで顔を伏せて歩いた。
「先輩、そろそろ手を離してください」
学校を出て少し歩いたところで、私は先輩を呼び止めた。
ここまで来れば、生徒はあまり歩いていない。
きちんと断るならなるべく早い方がいいだろう。
「どうしたの? 紗綾ちゃん」
そう言いつつ、先輩は手を離してくれない。
「あ、あの、まず手を離してもらえませんか?」
先輩は私の顔と手を交互にみる。
「離さなきゃダメ?」
「ダ、ダメです!」
甘えるような先輩の表情にドキドキしながら、なんとか言った。
先輩が名残惜しそうに手を離す。
「あの……告白のことなんですけど……」
「友達からなんでしょう?」
先輩は私の言葉をさえぎるように言った。
「あ、いや、その……」
友達からと言われてしまうと、何も言えなくなってしまう。
「ど、どうして私なんですか?」
目が泳いでいるのが自分でもわかった。
「先輩にはもっとほかの……」
「好きだからだよ」
さっきまでと少し違う声色に、思わず先輩の顔を見た。
「紗綾ちゃんが……好きだからだよ」
初めて見る先輩の切なげな表情と、眼差しから感じる熱に、一気に全身が熱くなり何も言葉が出なかった。
「ハハ、なんてね。告白したんだから、好きなのは当然か。私のどこが好きかって話? ひとつずつ言った方がいい?」
先輩の顔は迎えに来たときと同じ、にこやかな笑顔に戻っていた。
「い、いえ、大丈夫です! 言わなくて……」
私は熱くなっている頬を冷やすように手をあてる。
顔が熱い! 何あの色気!?
ダ、ダメだ! チャラ男の言うことなんだから、本気にしたら……!
「家の近くまで送るよ。帰り道はこっちでいい?」
「あ、はい……」
家から近いということで高校を選んだため、私の家は徒歩圏内だった。
先輩は私に確認をとりながら進んでいく。
「じゃあ、家に着くまでのあいだ、友達として紗綾ちゃんのこといろいろ教えてよ」
先輩は微笑みながら言った。
「あ、はい……」
「じゃあ、まずは……」
先輩は聞き上手なのか、答えやすい質問をたくさん私にしてくれた。
答えやすさもあって、私はポンポンとテキトーに答えていく。
問題だったのは、顔の熱を冷ますのに必死で、私は何を話したのかまったく覚えていないことだった。
そして翌日、私はそれを後悔することになる。