【チャラ男視点】地味な男
入学式から5日後、俺は智也の席の前に立った。
「なんだ? どうした?」
智也が不思議そうに俺を見上げる。
「俺は今ほど地味な自分を呪ったことはない……」
「……は?」
智也は、俺の言葉に露骨に眉をひそめた。
「俺……、覚えられてなかった……」
智也の反応など気にしている余裕はなかった。
「知らないやつに笑いかけられて困った顔してた……」
「ああ、あの子のことか……」
智也はようやく意味がわかったという顔で、軽く息を吐いた。
「そりゃ、そうだろ。一回会っただけなんだろ? しかもおまえが一方的に見てただけみたいだし」
「そうだけどさ……」
思わずため息がもれた。
わかっている。浮かれていた。
俺のこと覚えてるかな、なんて淡い期待もあった。
だから、廊下でたまたま会えたとき、思わず笑いかけたのは失敗だったと今ならわかる。
困った顔で会釈を返されたときに、あの子と俺は完全なる他人なのだと痛感した。
「普通にはじめましてって話しかけたら?」
智也が呆れたように言った。
「用もないのにか? それこそ怖がられるだろ」
「そうだけど……。そんなこと言ってたら一生話す機会なんてないかもしれないぞ。だいたい、まだあの子の名前すら知らないんだろ?」
「……紗綾」
「ん?」
「紗綾だよ。あの子のいるクラスに行って、同じクラスの子にさりげなく名前聞いてきた」
「……は?」
智也の頬がピクリと動く。
「怖……。っていうか、わざわざあの子のクラスまで行って、なんでほかの子に話しかけるんだよ。そこまで行くなら本人に声かけろよ」
「いや……、直接はまだ心の準備が……」
「乙女か!」
智也が頭を抱える。
「ああ……、おまえの思考回路がわかんねぇよ……」
「せめて俺に、もうちょっと存在感があったらな……」
ため息をつきながら智也を見ると、智也はなぜか可哀想なものを見る目でこっちを見ていた。
「なんかもう何を言ってもムダな気がしてきた……」
智也は大きく息を吐いた。
「まぁ……、2年は同じ学校通うんだから、どっかで話しかけるチャンスもあるだろ……。うん、もうそういう感じに思っとけ。なんかストーカーみたいになりそうで怖いし……」
「ハハ、ストーカーにはならねぇよ」
俺が笑うと、智也は呆れた顔で俺を見た。
「もう片足突っ込んでるって……気づいた方がいいぞ……。まぁ、犯罪者にならないようには見守ってやるから……」
「よくわかんねぇけど、ありがとな」
とにかく、智也は手助けしてくれってことだなと、俺は満足した。
智也は呆れた顔で俺を見た後、また頭を抱えていた。
すごく更新まで空いてしまいましたが…。
きちんと完結まで更新はしていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。゜(゜´Д`゜)゜。




