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【チャラ男視点】再会

「俺、めちゃくちゃうまくやれてると思わないか?」

 朝、俺は教室に着くと智也の席の前に立ち、ドヤ顔をした。


「……は?」

 智也が呆れたような顔で俺を見上げる。

「何が? 何の話だよ」


「俺、この一年真剣な告白とかされてないし、思わせぶりとか言われてない。これって成功だろ?」


 智也はなぜか目を丸くした。

「おまえ……、まだそんなこと気にしてたのか……。もう高2だし、さすがに忘れてると思ってたのに……」


「忘れるわけないだろ? 何のためにこんな変なキャラやってると思ってるんだ」


「変なキャラだと思うならもうやめろよ……」

 智也は片手を額に当てて、やれやれとでも言うように首を横に振った。


 高校に入学して一年が経った。


 帰国子女というワードが効いているのか、金髪は入学式の日に担任に説明して以降、ほかの先生から注意されることもなく、なんとなく受け入れられている。


 我ながらチャラ男も板について、誰にでも軽いノリで声を掛け、適当にあしらうことにも慣れてきた。

「付き合ってよ~」と軽いノリで言われることはあっても、真剣に告白されることはこの一年一度もなかった。

 ただ、チャラそうだからという理由で告白されていないのではないらしい。

 噂によると、いつの間にかできたファンクラブというものが、誰も告白できないように牽制しているらしいが、俺にとってはむしろ都合がよかった。


「変なキャラだけど、いろいろ便利なんだよ」

 俺は智也に向かってニヤリと笑ってみせた。


「あ~、そう……。まぁ、好きにしてくれ……」

 智也はどこか諦めたような表情で、頬づえをついて俺を見ていた。



「お! 来たぞ!」

 クラスメイトのひとりが声を上げた。

 その言葉が合図のように、クラスメイトたちが一斉に窓際に移動すると、窓に貼りつくようにして校門の方を見ていた。


「なんだ? どうしたんだ?」

 俺が首を傾げると、智也が呆れたような顔で俺を見る。

「今日は新入生の初登校日だろ。おまえホントに何も気にしてないんだな……」


「ああ、それでか……」


 クラスメイトたちは外を見て、歩いてくる新入生を指さしながら「あの子が可愛い」「あの人がカッコイイ」と楽しそうに話していた。

 この学校では入学式に在校生は参加しないため、2年と3年の生徒が新入生を見るのはこの日が初めてだった。


「おい! 見ろよ! あの子めちゃめちゃ可愛くないか!?」

 そのとき、ひときわ大きい声が上がった。

「うわ、確かに! あれは相当美人だな!」

「いやいや、近くで見たら微妙かもよ?」

「いや、あれは絶対美人! 遠目で見てあのオーラだぞ!」

 クラスの男たちのテンションは異様なほど上がっていた。


「美人だってさ。おまえも見てこいよ」

 智也が興味なさそうに言った。

「おまえは見なくていいのか?」

 俺は首を傾げながら智也を見た。


 智也は相変わらず高校でもモテていたが、みんなに対して一定の距離を保っていて、誰にも興味がなさそうに見えた。


「俺は間に合ってるからいいよ」

 智也は面倒くさそうに、片手を振った。

「おまえ、付き合ってるやついたっけ?」

「いや、女は姉貴たちだけでお腹いっぱいなんだよ。ほら、話題の美人を見て感想でも聞かせてくれ」

「ああ……」


 そういえば、智也って姉貴が3人くらいいるんだっけ。

 まぁ、とりあえず俺はクラスのやつらとノリを合わせておいた方がいいな……。


 俺は窓際に立つと、みんなが指さしている方を見た。


「……え?」

 思わず声が漏れた。


 あの子だ……! あの公園で会った……!


 あれから何度もあの公園に行ったが、今日まで彼女を見かけることはなかった。


 髪が少し伸びている気がしたが、ストレートな黒髪に白い肌、大人っぽい整った顔立ちもあのときのままだった。

 違うところといえば、初めてあったときは可愛らしい雰囲気だったが、あのときよりも少しクールな印象ってことくらい……。


 顔が熱くなった。

 ああ、また会えた……!


 俺は慌てて智也の席に戻った。

 智也が顔を上げて俺を見る。


「どうだった?」

 智也がニヤニヤしながら聞いた。


「なぁ……、運命ってあると思うか?」

 自然と声に熱がこもった。


「……は?」

 智也の顔が一瞬にして引きつった。


「だから……! 運命だよ……! ああ、これは運命だ……」

 俺は両手で顔を覆った。

 興奮で手が震えていた。


 智也が息を飲んだのがわかった。

「俺……、もうちょっと……おまえが怖いよ……」

 智也がドン引きしているのがわかったが、そんなことはどうでもよかった。


 また、会えた……!

 俺はそれだけで胸がいっぱいだった。

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