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チャラ男の願い

 放課後、先輩は朝言っていた通り教室にやってきた。

 いつものようにキラキラしているが、なんとなく無理に笑顔をつくっているようにも見える。

 口数も心なしかいつもより少ない。


 やっぱり家に行ったのがよくなかったのかな……。


 学校を出て少し歩いたところで、私は意を決して先輩を見た。

「あ、あの……」

 歩道で急に立ち止まった私を見て、先輩は不思議そうに私を見た。

「あの……家に行ってしまって……申し訳ありませんでした!」


 どうか、許してくださいという想いを込めて、私は深く頭を下げた。


「え!? ちょっと待って……! なんでそうなるの!? とりあえず顔上げてよ」

 先輩は慌てて、私に駆け寄ると顔をのぞき込んだ。


「怒ってないんですか……?」

 おそるおそる先輩の目を見つめると、先輩は目を見開く。


「怒るわけないでしょ。むしろごめんね……。俺の家、紗綾ちゃんの家から近いわけでもないのに……」

 先輩は申し訳なさそうに目を伏せた。


「いえいえ、そんな! 私こそお邪魔したうえ、お茶までご馳走になってしまってすみません……」


「お茶……?」

 先輩の表情がなぜか少し固くなった気がした。


「あ、先輩のお兄さんの……省吾さんでしたっけ? 出していただいて……」


「省吾……さん……?」


「あ、はい。省吾さんに」


「へぇ……」

 先輩の声がなぜか低くなった。


 え? な、なんで??

 心なしか表情も暗い……。


「そ、それにしてもいいお兄さんですよね! 無事に帰れたかどうか私に連絡もくれて……」


「連絡?」

 私が言い終えるより早く、先輩が被せるように鋭く聞いた。


 な、なんか、強い口調……。

 これは怒ってないか……?


「あ、はい……。スマホに……」


「スマホに……ね」

 先輩が明らかな苦笑いを浮かべた。


 な、なんだろう……。

 すごく怒っている気がする……。


「ねぇ、紗綾ちゃん」

 いつもより低い声で先輩は私を呼ぶと、一歩近づいた。

 思わず後ずさると、先輩がまた一歩近づく。


 えっと……、これは……。


 私がさらに後ろに下がろうとすると、かかとに壁が当たったのがわかった。


 う……、下がれない……。


 顔を上げれば、すぐそこに先輩の顔があった。

 先輩は壁に手をつき、私の顔を覗き込むように顔を近づけた。


 ち、近い……。



「兄貴みたいなのが紗綾ちゃんの好みなの?」


「へ?」


「兄貴、カッコいいもんね。スポーツマンって感じで、爽やかで。あれが紗綾ちゃんの好み?」


「好み……というわけでは……」


 至近距離にある先輩の目に、戸惑っている私が映っていた。

 思わず顔をそむけると、先輩が長い息を吐く。


「先輩……?」


 先輩は壁に手をついたまま、片手で顔を覆った。


「ねぇ……」

 先輩が絞り出すような声に、私は思わず先輩の顔を見た。

「どうやったら俺は……紗綾ちゃんの視界に入れるの?」


 指のあいだから見える先輩の表情はひどく傷ついているように見えた。


「私の……視界……?」


 私がそう呟くのとほぼ同時に、先輩は壁から手を離し、私に背を向けた。



「ごめん……。俺……やっぱりまだ調子が悪いみたいで……。俺、もう帰った方がいいよね……。誘っておいて送れなくてごめん……」

 先輩の声は明るかったが、やはり無理をして明るい声を出しているようだった。


「あ、いえ……。私は大丈夫ですから……。あの……むしろ私が送っていきましょうか……?」


「紗綾ちゃんが?」

 先輩は私に背を向けたままクスッと笑った。

「いや、大丈夫だよ……。その気持ちだけで……。ありがとう」


「あ、いえ……」


「じゃあ、また明日……」

 先輩はそれだけ言うと、背を向けたまま来た道を引き返していった。


「はい、また……明日」

 私は小さな声で呟いた。


 どうしたんだろう……、先輩……。

 私の視界……?


「どういう意味……?」

 私は小さくなっていく先輩の背中から、目を離すことができなかった。

更新が遅くなってしまい本当に申し訳ありません!

3月中には完結できると思いますので、お付き合いいただけると嬉しいです!

どうぞよろしくお願いいたします!

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