チャラ男の戸惑い
月曜日の朝、私はいつも通りの時間に学校に着いた。
土日もあったし、そろそろ先輩の体調も良くなったかな?
なんて考えながら教室に入ると、クラスのみんなの視線が一斉にこちらに向けられた。
え!? あ、これはもしや……。
私がおそるおそる首を動かすと、私の席にまぶしいものが座っているのがわかった。
あ、元気になったようで……。
私は今日もキラキラの存在感を放つ先輩に向かってなんとか微笑んだ。
「おはよう、紗綾ちゃん」
先輩がにこやかに微笑み返した。
「おはようございます」
ゆっくりと先輩の方に進みながら、私は先輩を見つめる。
もう体調は大丈夫そうだよね……。
「体調良くなってよかったですね」
私がそう言った瞬間、なぜか先輩の表情が固まった。
え……?
「知……ってたの?」
絞り出すような先輩の言葉に、私は首をかしげる。
知ってるも何も、プリント届けに行きましたけど……。あ、もしや先輩! 本当に夢だと思ってたの!?
「もしかして、先週……うちに来てくれた……?」
先輩がおそるおそるという感じで私を見る。
「えっと……行きました……。先輩のお友達に学校のプリントを届けてほしいって頼まれたので……。ダ、ダメでしたか……?」
先輩の反応に、私もこわごわ聞く。
先輩は完全に固まってしまった。
「せ、先輩……?」
私が声をかけると、それが合図だったかのように、みるみるうちに先輩が赤くなった。
「せ、先輩!?」
先輩は片手で顔を覆った。
「えっと……ちょっと待って……。頼まれた? 俺の友達に? え、智也が……!?」
先輩は独り言のように、私の机を見ながら呟いていた。
「あ、たぶん智也さんという方ではないかと……。華やかな感じの美女二人だったので……」
余計なお世話かと思いつつ、一応事実を伝える。
「え!? 誰それ?? どういう……」
混乱している様子の先輩を前に、私もできる限りの情報を伝えようと、あのときの会話を思い出していた。
「あ、『罪滅ぼしみたいなもんだから』って言ってました! 先輩が風邪を引いたのは私たちのせいだからって」
「罪滅ぼし……」
私の言葉を聞いて誰かわかったのか、先輩は両手で顔を覆って長く息を吐いた。
「ああ……そういうこと……」
先輩はそう呟くと、そのまま動かなくなってしまった。
「あ、あの先輩……大丈夫ですか……?」
私が先輩の顔をのぞき込もうとすると、先輩が勢いよく立ち上がった。
え!?
「大丈夫! 大丈夫……なんだけど……」
先輩は片手で顔を覆ったまま、顔をそむけた。
「ちょっと頭を冷やして出直してくるよ。今日一緒に帰ろう。迎えに来るから! じゃあ、また後で!」
先輩は早口でそう言うと、足早に教室を出ていった。
本当に先輩はどうしたんだろう……。
私はしばらく呆然と教室の扉を見つめていたが、先生が教室に入ってくるのを見て、慌てて気持ちを切り替えて席に着いた。




