チャラ男と二人の美女
「今日は石神先輩来なかったね」
放課後、千晶が私のところに来るなり言った。
「そうだね……」
昨日の朝起こった英語事件以降、先輩は教室に来ていなかった。
今日の朝には絶対来ると思ってたのに……。
ん? いや、全然待ってないけどね!
「寂しい?」
千晶がニヤニヤしながら私を見る。
「そ、そんなわけないでしょ!?」
「そんなこと言って、全然帰る準備しないじゃん。先輩が来るの待ってるんじゃないの~?」
千晶が意地悪く笑う。
「全然そんなんじゃないって!」
そんなやりとりをしていると、教室がざわつき始めた。
あ、これは!
思わず教室の入口を見ると、そこには予想に反して派手な二人の美女が立っていた。
え……?
私が二人をじっと見ていると、同じクラスの子が私の肩を叩いた。
「あ、あのさ……あの二人が話しがあるんだって……」
おずおずとそう言うと、その子は入口の二人をちらりと見た。
……え? 私??
二人の美女の顔をじっと見たが、どう考えても私の知り合いではなかった。
なんか上級生っぽいし……もしかして調子に乗るなってシメられるやつかな……?
ゆっくりと千晶の方を見ると、千晶の顔も青ざめていた。
あ、やっぱり千晶もシメられるやつだと思ってるよね……。
でも、教室に来ちゃってるし、行くしかないか……。
私は諦めて二人の美女のもとに向かった。
二人共、明るい金髪に近い髪に少し濃いめのメイクをしていた。
メイクはちょっと濃いけど、メイクに見劣りしないくらいはっきりした目鼻立ちだから、きっとすっぴんもキレイなんだろうな……。
なんて考えながら、私は二人の前に立った。
「えっと……、お話しというのは……」
「あんたが紗綾?」
ひとりが私に顔を近づけて聞いた。
「あ、はい」
私は美女の迫力に思わず目をそらしながら答えた。
「ヤバい! めっちゃ美人じゃん!」
顔を近づけてきた美女が大声で言った。
「え……?」
「ほとんどノーメイクでこれってありえなくない!?」
「そうだねぇ。これなら、もう仕方ないかぁ」
美女は二人で頷き合っていた。
「あ、あの……」
おずおずと声をかけると、美女のひとりが私の方を向いた。
「ああ、ごめんごめん! こっちの話! それよりあんたにお願いがあるんだけどさ」
美女はまた私に顔を近づけるとにっこりと笑った。
「今日ね、巧真風邪で休んでるの! 悪いんだけど、このプリント巧真の家に届けてくんない?」
「え!?」
思わず大きな声が出てしまった。
先輩の家に!? 私が!??
「で、でも、家の場所とか知りませんし……」
「ああ、大丈夫大丈夫! これ地図! このマンションの32階ね!」
美女はプリントと一緒に簡単な地図が描かれた紙を差し出した。
「えっと……」
紙を見つめて戸惑っていると、美女が慌てたように口を開いた。
「あ、大丈夫! うちら行ったことないから、安心して! 巧真の友達に聞いただけだから。まぁ、もう諦めざるを得ないっていうかさ……。ねぇ?」
美女はもうひとりの美女を見つめる。
「そうそう」
もうひとりの美女も困ったように笑いながら頷いた。
「あの……」
「あ、気にしないで! 巧真が風邪ひいたの、うちらのせいみたいなとこあるから、これは罪滅ぼしみたいなもんなの」
美女は苦笑いしながら言った。
「罪滅ぼし……ですか?」
一体どういう……?
「そうそう! まぁ、そういうことだから! 頼んだよ! それ絶対今日渡さないといけないやつだから!」
「そうそう! 頼んだよ~」
「え!? ……ちょっと……」
私が引き留める間もなく、二人はそれだけ言うと手を振って颯爽と去っていった。
私は手に残されたプリントと地図を見つめる。
「行くしか……ないのかなぁ……」
私は今日初めてのため息をついた。




