6話・野盗
村の入り口にはいかにもといった風情の野党が十人ほどたむろしていた。
怯える村人の前に出ているのはイザークだ。罵詈雑言を浴びせる野党たちは道中で倒した奴らの仲間のようだった。
野党相手に一歩も引かないイザークに相手も手を出しあぐねているようだ。
根っからの商売人ではあるが厳つい体つきをもったイザークはおそらく売り物だろう剣を手にしていた。
それだけで貫禄があるのだから、つくづく男は得だな、などと余裕の思考でステラは思案する。
「イザーク、待たせた。すまんな」
「おお、ありがたい。後は任せていいか」
「もちろんだ」
背後からイザークに声をかけ、隣に並ぶ。イザークが後ろに一歩引いたのを確認して、目の前の野党たちをねめつける。
「お頭! こいつです! こいつが舐めた真似してくれやがったんだ!」
頭に包帯を巻いた男に見覚えはなかったが、言葉からして先日蹴散らした野党の一部なのだろう。
あのとききちんと首領まで問い詰めて殲滅しておくんだったと内心でため息を吐きつつ、眼光はするどくステラは剣に手をかける。
「今ならまだ見逃してやらないこともないが?」
「ふざけたこといってんじゃねぇ。この村は皆殺しにして、商品も全部戴くぜ!」
下卑た笑いとともに告げられた言葉に軽く嘆息して、ならば、と身の丈ほどの大剣を構える。
「どうやら、遠慮はいらないらしいな」
シェリアとともに村の入り口にたどり着いたリースが見たものはまさに圧巻の一言に尽きた。
十数人の男達が、それもステラよりよほど体格もガタイもいい男達がこぞってステラに襲い掛かる。
その手にあるのはありふれた剣だったが、そんなものとは無縁の生活をしていたリースには恐ろしいものとしてうつった。
だが、ステラは一歩も引くことはなく、軽やかに大剣を操り、次々と敵を倒していく。
それも剣の腹で敵を打っているから、殺してはいない。知識のないリースにもわかる、圧倒的な力の差がそこにはあった。
ステラの大剣を剣で受け止めようとした者は、剣を真っ二つに折られ青ざめて後退する。
その隙を見逃さず、ステラが追撃をかけて打ちのめす。
ものの三分ほどで残ったのはボスと思われるいっそう大柄な男だけだった。
部下がいとも簡単にやられたことに対してか、怒りで顔を真っ赤に染め上げた男が、ステラのものよりは小ぶりだが、それでも十分に大剣と呼べる剣を振り下ろす。
避ける様子のないステラに思わずリースが「危ない!」と叫んだのと、剣と剣がぶつかり合う甲高い音が聞こえたのは同時だった。
男の剣をステラが大剣で受け止めたのだと理解し、思わずつめていた息を吐く。ギリギリと歯軋りでもしているかのような男に対して、あくまでもステラは余裕を崩さない。
二つの剣の力は拮抗しているように見えて、明らかにステラに軍配が上がっていた。
「はっ」
短くも鋭い掛け声とともにステラが男の剣を押し返す。そのまま後ろに下がることを余儀なくされた男に対して、ステラは冷たい眼差しを送るだけ。
その眼差しがあまりに凍てついてこごって冷たかったものだから、真正面から見ていないリースですら萎縮してしまったほどだ。
だが隣のシェリアは慣れているのか、変わった様子は見せない。それどころか、シェリアもイザークもステラを心配している様子は欠片もない。
それだけ、ステラの腕前は信頼されているということなのだろう。
「野党がもつにはあまりにいい剣だ。どこで奪った」
「へへ、そりゃあ旅の行商を襲ったに、決まってんだろ!」
そういって踏み込んできた男の剣先を紙一重でひらりとかわし、ステラは「そうか」と呟いた。
「ならば、返してもらおう」
そういって繰り出された一撃は男の意識を刈り取るのに十分だった。