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1.裏アカ女子

 スマホのカメラをこちらに向ける。


 インカメの機能を使い、一枚とっては確認、一枚とっては確認を繰り返し、やっと撮れた奇跡の一枚を見て、広菜はにんまりとする。


 広菜はそのままTwitterにその画像を投稿する。


『裏アカ女子、始めました♡ よろしくお願いします!』


 投稿しようとして、おっと、と手を止め『♯裏アカ女子』と付け足す。


「これでよし!」


 広菜は投稿ボタンを押し、脱ぎ散らかしたキャミソールを手繰り寄せながら、目はスマホの画面を追う。


 数秒後に一つハートマークがついたかと思えば、また一つ、秒針を刻むように増えていくファボ数とDMの数。


『こんにちは、めためたえちちですね』

『肌スベスベですね』

『おっきくてすこ』

『良ければお話しましょう、成人済みの学生です』


 自分の下着姿を見て興奮した男たちが群がる様子が可視化され、広菜は優越感に浸る。


 それに対してとくにメッセージを返すわけでもなく、広菜はキャミソールの下からそっと胸に手をやった。


 写真の半分ほどの大きさに思える自身の胸。


 少し角度を変えてあげるだけで、こんなにも可能性があるのだと、確かに伸びしろを証明した一枚だった。


「馬鹿だなぁ」


 広菜は画面を見ながら、あざ笑うよう、舐めるようにメッセージを読み、自分の身体が賞賛される様にうぬぼれさえも感じたとき、大きなかっこで挟まれたメッセージが目に飛び込んだ。


『【月25万】はじめまして。毎月大人の関係ありの25万円でお会いしませんか? もちろんいきなりとはいいません。まずはお話からで構いませんので、よろしくお願いします』


 これを見たとき、ほとんどの人が危ない話だと疑うだろう。


 だが、このときの広菜は、不思議とそうは思わなかった。

 

 厳しい家庭でしつけられ、早くこの家を出たいと思いながらも、地元の大学に通い、社会人になってからも、多額の奨学金を返すために子ども部屋に居座った。


 まだ奨学金のすべてを返し終えていないが、ある程度のめどがたったため、やっとのことで一人暮らしを始めたばかりのときだった。


 気が付いたら、広菜の指はそのメッセージに返信していた。


『こちら関西住みですが…もちろん、こちらにも色々と条件はあります』


 これが、すべてのはじまりだった。

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