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歓迎パーティ

「な、なんだとおおお!」


 英雄アックスがやってくる。その情報にミッドクロス島の住民は戦々恐々とした。


「いいか貴様等、くれぐれもクローン実験のことは気取られぬようにな。施設の中身も植物の実験道具に入れ替えておけ。やつは実直で正義心の強い男なのだ。クローン兵のような倫理の冒涜など許すはずがない」

「はっ」


 島の代表であるヨーマの声に兵達がキッと姿勢を正す。彼等はクローン兵。戦争に勝つためにこの島で密かに誕生し、培養され、訓練を受けていた。だが、アックスの手により戦争が終わり、彼等は不要となった。活躍の場が奪われた彼等は、単に国の闇を背負う存在でしかない。厳しい立場に置かされているのだ。このままひっそりと処分されてもおかしくはない。そのためにアックスが遣わされたのではないか? 既にクローン技術は彼にバレているのではないか? そんな疑念がクローン兵達にうずまく。

 そんな彼らの様子を見て、ヨーマは密かにほくそ笑む。


(くくくっ、バカ共め。クローン実験がバレて危険なのは我々研究者だけだ)


 ただ生まれただけのクローン兵に罪などない。素直に自身の境遇を説明すればアックスは受け入れるだろう。アックスの善意とはそういう類のものである。だが無知なクローン兵にはそれが分からない。


 さて当のアックスは船で暇を潰していた。剣を振ったり魚釣りをしたり勉強したり。トゥエルが何故か船に乗っていたというアクシデントもありながら、船は島へと到着する。島は予想よりも大きく、自然は立派だった。南国のカラフルなサンゴやマングローブの木。また、遠くからも見える巨大な人工の施設が1つあった。それ以外にも家がいくつか見えるが、こちらは木の上にさらに木を組んだだけだったり、葉っぱで覆っただけだったり、みすぼらしい物ばかりだ。ど田舎、野生的、という言葉を連想させる。人口も思ったより多かった。1000人近くの若い男女がアックスを歓迎する。


「英雄さまー!」

「楽しんでいってくださいねー!」


 自分の名声はこんな所にまで届いているらしい。気分をよくするアックス。その彼の前に、大臣によく似た男が現れる。


「ようこそおいでくださいました、アックス様。私この島の管理を任されておりますヨーマと申します」

「はじめまして。アックスです。未開の孤島と伺っていましたが、これほどの活気があるとは驚きです。村と言っていいほどですね。指導者が優秀なのでしょう」

「おほほほほっ。英雄様ったらお世辞もお上手なようで」

「世辞ではないですよ。本当に驚いたのです」

「おほほっ。実は歓迎会を予定しているのです。お楽しみいただければいいのですが」

「本当ですか! ありがとうございます!」

「いえいえ、私共も英雄様にお会いできてうれしいですから」


 アックスがヨーマを褒めると、ヨーマはとても上機嫌になった。大臣と顔は似ているが雰囲気はあまり似ていない。


「失礼ですが、大臣とのご関係は……」

「ん? ……ほほほっ。私はユーマの弟に当たります。いえ、別に彼と親しいわけではないのでお気になさらず」

「そうだったのですが。すみません不躾な質問をして」

「いえいえ、お気になさらず。分からないこと、困ったことがあれば何でもおっしゃってくださいね。英雄様に不便な思いをさせるわけにはいきませんから」

「いえいえ、そんな。もっと気楽にお願いしますよ」

「善処しますよ、おほほっ」


 ヨーマは大臣に比べれば、朗らかな話し方だった。一般人と比べれば下衆な感じなのだが、大臣とのギャップでとてもいい人に見えた。アックスは彼を信用してしまう。

 歓迎パーティの席へ案内されるアックス。未開の地ということもあり、人々の露出が多い。葉っぱだけだったり、何もつけていなかったり。ウブなマックスは興奮してしまう。


「うおっ。すっ、すげえ」

「アックス! もっと堂々と歩け!」

「ご、ごめんよ。だけどさあ」

「情けない声を出すな! お前は国を救った英雄なんだぞ!」


 そんな英雄の姿に、彼に恋しているトゥエルは苛立ちを募らせる。ヨーマは2人のやり取りをにこやかに見つめていた。

 パーティ会場に着くアックス達。木彫りの簡単な椅子とテーブルが並べられている。前方には女性と花飾りで仕切りをした舞台があった。何か見世物をするのだろう。ヨーマは「準備がある」と言って人ごみへ消えた。


「いい人そうだな、ヨーマさん」

「アックス、すぐ人を信用するの、悪い癖だよ」

「クレーバス。すぐ人を疑うのは、お前の悪い癖だ」

「いいや、今回は私もクレーバスに賛成だ」

「トゥエルまで。なんで?」


 キッとアックスを睨むトゥエル。だが口には出さない。女を使ってアックスを丸め込もうという魂胆が気に入らないのだが、それをアックスに言いたくないのだ。自分の女心がアックスにバレるのが恥ずかしいから。

 アックスは頭がよくない。彼の代わりに生態系の調査をしたり、彼に勉強を教えるのが今回ついてきた部下の役目だった。特にクレーバスはアックス支持者の中でも三賢者と呼ばれ、国の不正の証拠を集める中で中心的な役割を担っていた。


「準備が整いました! 舞台をご覧ください!」


 ヨーマの声と共に黄色い歓声が上がる。左右の人ごみから大きな弧を描いて飛び出てくる2人の若い男。1人はきのこ頭の長身、1人は筋肉質で野生的。互いに剣を持ち睨みあう。そして、動いた。きのこ頭の踏み込みと同時に振るわれる剣。それを咄嗟にガードする筋肉質な男。


「速い!」


 最強の戦いを目にしてきたアックスの部下が、思わず叫んでしまう程の攻防が続く。互いに表情は必死だ。剣と剣が幾度となくぶつかり合い、金属音が鳴り響く。


「驚いたな。よく鍛えられている。だが……」


 トゥエルは呟くと、アックスの方を見る。アックスは頷いた。


「ヨーマさん! 戦いを止めてください!」


 アックスは立ち上がり、叫ぶ。ギョッとするヨーマと観客達。


「す、すみません。お気にめしませんでしたか?」


 慌てて愛想笑いを浮かべるヨーマ。戦闘を行っている二人も一瞬動きが止まる。だが次には、再び動き出す。先ほどよりも激しく、先ほどよりも本気で。剣が肉に届き、血が飛び出る。その姿を見て、アックスは怒ったように声を張り上げた。


「早く! こんなのはダメだ!」

「いっ!? お、お前達! ショーは中止だ! 早く剣を降ろせ!」


 ヨーマは慌てて止めるように言う。2人は動きを止め、悔しそうにうつむいた。


「え、英雄様にとってはレベルが低かったですか? うちの、自慢の子達なのですが」


 愛想笑いのヨーマ。その周りの観客達が、縋るようにアックスに視線を送る。


「いいえ、戦闘の実力自体はすばらしいものでしたよ。しかし、これはショーだ。相手を傷つける気で戦うなんて間違っている!」

「そ、それはその、英雄様に喜んでいただくために張り切り過ぎたのでしょうかね」


 ヨーマはアックスから視線を逸らし、責任をなすり付けるかのように舞台の2人に目を向けた。


「アックス様! 俺、アックス様みたいに戦って英雄になりたいんです!」

「俺もだ! そのためにずっと鍛えてきたんだ! 仲間にしてくれよ! 死の覚悟ならできてる!」


 なるほど、とアックスは思った。殺し合いと見間違えるほどの本気の打ち合い。あれは自分の仲間にして欲しいとアピールするためだったのだろう。だが、アックスは知っている。ただの暴力が生み出す悲劇を。


「君たちは勘違いしている。戦争が終わったから力が必要なくなったとか、そういう問題じゃないんだ。根本的に人を、世界を救えるのは、愛なんだよ! ただの暴力など不要! むしろ害悪だ! これから世界は、平和の中で発展していくのだから!」


 アックスの演説に、2人はガックリうなだれた。自分が人生をかけて、文字通り生まれた時から叩き込まれた武。それを真っ向から否定されてしまったのだ。自分自身を否定されてしまったようなもの。観客達も同じだ。この2人ほど武にのめり込んだ者は多くないが、全員兵士として戦うための訓練を受けてきた。今の言葉は辛い。実はアックスの隣で、女騎士のトゥエルもつらそうな顔になっていた。彼女も武に身を捧げるつもりで頑張ってきたからだ。平和な世界で、私のように無骨な女がアックスの隣に並び立てるのだろうか、と不安になっていた。


「おほん! ちょ、ちょーっと白けてしまいましたなあ! しかあああしっ! パーティはまだまだ続くのです! 次はお料理をお楽しみください!」


 ヨーマが無理矢理声を張り上げ、場を盛り上げた。若者達も少しずつ動き始める。


「ちょっと言い過ぎちゃったかな」


 反省気味につぶやくアックス。


「ううん、あれくらいがちょうどいいと思う」

「そうかい? ありがとうクレーバス」


 しんみり待つアックス一同。先ほど戦っていた舞台には、楽器を持つ男女が5人出てきて、演奏を始める。その演奏に合わせて、人ごみから料理を手に持つ女が出てくる。


「さあ一食目は、南国フルーツの盛り合わせとキノコのおひたし! 挨拶代わりにどうぞ!」


 ヨーマが解説をする。あまり手はかけてないが、新鮮な素材のままでおいしそうな料理だ。だが、料理よりも目についたのは、女の格好だった。もともと葉っぱだけの簡素な服だったのだが、その葉っぱがより少なくなっている。さらに、蝶の羽を模したような衣装を身に着けている。とても肉欲をそそる姿である。次々と料理を運んでくる女、全員レベルが高く、露出が多かった。


「す、すごっ」

「英雄様! たっぷり楽しんで行ってくださいね! にゃんにゃん!」


 しかも、料理を渡す時に、誘うようなことを言うのだ。キノコや長い果物を何かエッチな感じで食べたりもするのだ。


「ああっ、英雄様! 英雄様の凛々しい顔を見ていると、お胸が熱く……っ! 癒していただけませんか?」


 あからさまに誘うこともあるのだ。


「い、癒すって、どうやって……っ?」

「それはもちろん、英雄様のお身体で……」


 女の1人が、アックスの手を引き、自分の胸に押し当てる。ドキッとするアックス。


「なあにしとるんじゃお主等はああああ!」


 その2人に、トゥエルの拳骨が降り注ぐ。倒れるアックスと女。


「ト、トゥエル、やりすぎだよー!」

「フゥー! フゥー!」


 アックスは女に弱い。意外な一面が明らかになったことで、場の空気が和やかになる。ヨーマは密かにほくそ笑んだ。


「ほほほっ。この調子なら、あの女がいない時に攻めればイチコロよな。分かっているな、お前達」

「はっ」


 ヨーマの近くには、エッチなかっこうをした女達。彼女達も勝利の期待が高まり、にやりと笑んだ。


「英雄様は愛をお望みだ。ならば存分に見せてあげようじゃない。我々の愛を。おほほほほっ」

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