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新人歓迎七人ミサキ

お久しぶりの陰陽師アスカくんです!



 さてこの異世界に攫われ、家を追い出されて何日経ったのか。ついに危惧していた事態に陥った。


「金がない」


 まともな教育を受けていなかったのに加え、カレンダーすらない生活を余儀なくされていたもので。あれから何日何か月経ったのか、わからなくてもしょうがない。


 ありがたいことにもっとも頭を悩ませていた宿の問題はマヨヒガが仲間になってくれたので解決した。日本人なら欠かせない風呂とトイレ付き。おかげで毎日風呂に入れる。神は清潔を好むのでこれは本当に嬉しかった。


 旅の道中では水だって無料(ただ)じゃない。洗濯くらいなら川でやればいいが、飲料水となると話が違う。一度沸騰させてから飲む、という知識はこの世界にもあるが、湯を沸かす薪に火熾しにも金が必要だった。


 貴族が魔法使いを優遇するわけである。家を出てから気づいたが、飲料用の井戸水やコンロに火をつける道具、トイレなどの下水道に魔法がかかわっていた。生活に密着している以上、自分の領地を富ませようと思ったら魔法を使うしかないのだ。そして民は、税金として魔法使用料を払っている。


 貴族の家に生まれながら魔法のない俺が無駄飯ぐらい扱いされるわけだ。ただ憎いからという理由だけで捨てたのではないことはわかったが……。


『剣と魔法のファンタジー世界なら、酒場で仲間集めてモンスター退治ってのが定番だよなー。「ああああさーん、アスカさんがお呼びよー」とかいうやつ』

「ゲームじゃないんだから。つか、「ああああさん」って誰だよ」

『ゲーム主人公によくある名前』

「よくあるの!?」


 それ絶対俺の知らないゲームだ。


「酒場で仲間はともかく、この世界に職安はあるのかな」

『ハローワークは聞いたことねえなあ。役場で求人広告ならあるけど』

「役場か……」


 ろくな生活能力も、手に職すら持っていない(と思っている)未成年の子供を放逐とか、殺意高すぎだろ。日本なら違法でも、ここではそうではないのだろう。まず法を守るべき貴族がやっているのだから、奴隷、捨て子、人身売買お手の物なのだ。むしろ金を与えただけ、本当に慈悲だったのだろう。


「役場で求人なら移民を視野に入れてのことだろうな。俺の戸籍は抹消されてるんだろうし、旅をするのに住民権は邪魔だ」


 それにどこかに属すると、保証を受けられる代わりに義務が発生する。消防職員が災害時に緊急招集がかけられるように、どんなに自分に不都合があっても出動しなくてはならないのだ。


『じゃあやっぱり酒場だ!』


 疾風丸が頭の上でくるくる回る。


「無理だって。中身はともかく実年齢と外見が子供じゃ、酒場に入れないだろ」

『夢がないなー』

「悲しいけどこれ現実なのよね」


 疾風丸に憧れのシチュエーションがあるのはわかる。俺にもあるからな。


「ここはひとつ、日本の誇るあの男を参考にしようと思う!」

『あの男?』

『だれ?』


 小豆を詰めたお手玉で遊んでいたお福が話に入ってきた。


 二千二百年代においても愛され続けた、男の憧れを体現した男。東京浅草から旅に出てマドンナと出会い恋をする、かの風来坊の職業は。


『……ようするに屋台だな』


 疾風丸が夢のないことを言いながら、呆れた目を向けた。なんだよ。いいだろ、行く先々で叩き売り。あの口上がこっちでも通用するのかやってみたい。


『なに売る?』


 お福は賛成のようだ。大きな黒い瞳を輝かせている。


『りんごアメ、チョコバナナ、鈴カステラ、綿菓子……』


 違った。食い気だった。


「何を売るかは市場調査して決めよう。競合商品だと新規参入者は不利だろうし、かといって異世界にないものを売ると珍しすぎて逆に売れなさそうだ」

『マヨヒガに頼めば出してくれるのにもったいないなー』

「そうだけど、仕入れもしてないのに売ってるんじゃ何かありますって言うようなもんだろ。下手すりゃ襲われるぞ」

『アスカなら勝てるだろ?』

「日本の神を盾にこられたらわからない。最悪、監禁されてマヨヒガからひたすら食料を出す係にさせられる可能性だってある。食糧庫扱いだな。必要なのは金じゃなくて俺の霊力なんだから、ばれたら死んでも手放さないだろう」

『あ……っ』

『……っ』


 日本の神を握っているのは異世界だというのを忘れてはならない。畏敬の念を持って加護を願うならまだしも、お福の時のように魔力源にしているなら死に物狂いで守ろうとする。異世界から攫うほどせっぱつまっているならなおさらだ。神を使役して戦いを挑まれたら、防戦一方になる。


「慎重に行こう。金を稼ぐにも神を探すにしても、どっちにしろ街に行かなくちゃならないんだ。目立たないように行動する」

『ああ……そうだな』

『わかった』


 もっとも疾風丸とお福が見えるのは今のところ俺だけだ。なので一番危険なのは俺なのだ。


 慎重に行く。そう決めて向かった先の街は、賑わいを見せていた。


 朝市には新鮮な魚介類と野菜が並び、肉はきちんと熟成されてある。ベーコンやソーセージなどの加工品も売られていた。

 飯物の屋台もあった。リヤカー式の屋台に汁物とパンが一般的なようだ。果物もある。火を使って肉を焼いている店もあるが、そちらは割高だった。


「……料金が高いのは魔法を使っているからか。火事にならないよう設計されているんだな」


 リヤカー屋台と鉄板屋台では鉄板屋台のほうが大きい。規格があるのか種類別でサイズが揃っていた。


『どうやら屋台は役場の貸し出しらしいぜ。出店料と屋台の賃料、それと場所によって土地使用料も変わってくるみたいだ』


 情報を集めに行っていた疾風丸が戻ってきた。


「妥当だな」


 何かを販売する、という行為は金のあるやつにできることだ。仕入れ、製造、店舗テナント料などの先行投資に、従業員を雇えば人件費だったかかる。


『えー、ぼったくりじゃね?』

「必要経費だ。これが払えないなら商売ができないとみなされる。役場だって善意でやっているわけじゃない」


 街を盛り上げるために場所を解放しているのだ。リターンを求めて当然だろう。


 疾風丸との会話は気を使う。なにしろ疾風丸は他の人には見えない。傍目には一人で喋っている怪しい子供だ。

 人気ひとけの少ない路地に行こうとして、後をつけられていることに気が付いた。


『……アスカ』

「ああ」


 疾風丸も気が付いたようだ。誰かは気になるが後ろを振り向くつもりはない。ここは逃げの一手だ。


「っ!?」


 ダッシュで走り出すと後ろの気配が驚いたのがわかった。


『お福はアスカについてろ。オレ様は連中が何者か見てくる!』

『りょーかい』


 お福が俺の背中に飛びつき、疾風丸は追いかけてくる連中を探るため、旋風となって消えていった。


 まだ追いつかれてはいないが分が悪い。この街に来たばかりの俺には地の利がないのだ。疾風丸がいれば道案内をしてくれただろうが……。


 人通りの少ない路地に入ったところを狙われたな。逃げているのに追い詰められている気がする。人の少ない方向へ追い込まれている。


 誰だろう? ヴィルヘルムの実家か? 不干渉の誓約を破ったことで何かあったとか。魔法はともかく霊的素質のないあいつらが俺と不幸を結び付けて考える可能性はなきにしもあらずだが考えにくい。だとすると人身売買目的の人攫い? 見るからに金持ってない身なりの俺だが、外見だけなら美少女と見紛うばかりの美少年だ。自分でいうのもなんだけど。……そっちのほうがありえそうだな。


 嫌な想像をしながら走り回るうち、案の定というべきか、袋小路に追い詰められた。


「……手こずらせやがって……っ」

「だったら追いかけてこなければいいじゃないか。何の用? おじさん、もしかしてそっちの趣味?」

「うるさいっ」


 振り上げられた拳をあえて避けなかった。当たり前だが痛い。

 男たちの背後で疾風丸が「ついていけ」と合図してなければ塀を飛び越えて逃げていたところだ。感謝してほしいくらいである。


 見たところ、男たちは商人ではなさそうだ。強盗などのゴロツキといった顔でもない。着ている服は上等とまではいかないが俺よりましである。どこかの家に雇われている使用人、あるいはその家の次男坊三男坊といったところか。息切れしているので騎士や兵士という可能性は排除した。


「おい」

「ああ」


 殴りつけても気絶しなかったからか、縄でぐるぐる縛り上げて抵抗を封じた後、麻袋に詰められた。周囲を気にしているわりに手際が良い。慣れているな、これは。


『アスカ』


 米俵よろしく肩に担ぎ上げられる。トン、と袋越しに軽いものが乗ってきた。疾風丸だ。


『こいつらの主人、何かある。たぶん、こっち関係だ』

「!」


 思わず身じろぎをすると、足の部分を摑む手の力が強くなった。暴れるな、というのだろう。


 こっち関係、ということは日本の神かあやかしがこいつらの裏にいる。そして俺を――幼児を誘拐。俺だから狙ったのではなく、この街に知り合いの一人もいない子供だから狙ったのだとしたら。住民権のない新参者。身寄り無し。

 ここから察せることは一つある。大昔の日本では正式な儀式であり、罪人を罰する手段として用いられることもあった。


 生贄。


 日本から攫われた神たちは和魂にぎみたまであったはずだ。それが生贄を必要とするほどの荒魂あらみたまに変じるなんて、どんな無礼をしやがったのだ異世界め!!


『アスカ……』


 同じく自我を忘れるほど荒んでいたお福がきゅっと腹にしがみついてきた。祀られず、名前も呼ばれず、感謝もされず、願いを込めて祈られることすらなく、ただただ力を行使させられる。これほどの屈辱があるだろうか。人でも神でも関係ない。無機物でさえ大事にされれば神が宿るのだ、使い捨ての道具にされて黙っていられるわけがない。


「大丈夫だよ。みんなで帰ろう」


 抱きしめてやれないのが悔しい。俺を担いでいる男に聞こえないように小声で慰めると、お福は『うん』とちいさくうなずいた。



 運ばれて連行された先は、思った通り祭壇のような部屋だった。日本にいた頃にはとんと縁のなかった、教会聖堂みたいなところだ。三角屋根に床も壁も真っ白で、お福が閉じ込められていた部屋を彷彿とさせるが、神聖な場所らしく屋根にも明り取りの窓があり部屋全体が明るかった。イメージする教会と違うのは礼拝者のための席がなく、床一面に魔法陣のようなものが描かれているところだ。


 俺に魔法はないけれどこれでも陰陽師、そしてサブカル大好き日本人だ。魔法陣くらいは知っているし、なんならそちら方面対策として西洋魔術の勉強をしたこともあった。ただし、異世界のそれは俺の知るものとは当然だが異なっている。


 俺を床に放り出して男たちはどこかに行ってしまった。すかさずやってきた疾風丸に麻袋と縄を切り裂いて解放してもらう。


『アスカ、ひとまず隠れて様子を見よう』

「そうだな。生贄が要るとなったらそこそこ大物の神のはずだ」


 魂鎮めの儀に何も持たずに挑むほど馬鹿じゃない。相手を知らずにぶっつけ本番で戦うほど無謀でもない。三十六計逃げるに如かずだ。


『よし、そんじゃ……』


 パリン。

 木刀で窓を割り、そこから抜け出して外に出る。逃げられると思っていないのか、見張りはいなかった。


 どうやらここの領主か、金持ちの屋敷内らしい。周囲は木々に囲まれてうまい具合に教会が隠されている。森の向こうに西洋の城そのまんまの建物が見えた。


「あそこの木から屋根に登れそうだな」


 屋根には明り取りの窓があった。そこから何がはじまるのか、高みの見物といこう。

 疾風丸とお福にサポートしてもらいながら木に登り、細い枝が折れる前に屋根に飛び移った。お福は遊び大好き悪戯大好き座敷童、木登りのプロだった。


 待つことしばし。

 白装束の男が七人並んで入ってきた。


「いない!?」

「おい、どういうことだ!?」


 いるはずの俺が切り裂かれた麻袋と縄を残して消えているのを見て焦っている。


「こっちの窓が割れてるぞ!」

「クソッ、逃げたか!」

「まさか仲間がいたのか!?」

「ちゃんと縛っておかなかったのか!」

「そんな場合じゃないだろう!」

「は、早く見つけないと……!」


 見ているのがばれてもまずいので、一度頭を引っ込める。


『おーおー、慌ててんなぁ』


 疾風丸が笑いながら言った。


「……」

『アスカ?』

『アスカ? どうした?』


 もう一度下を見ると、白装束たちは怯えているかのように固まって揉めている。


「あいつら、さっきの誘拐犯だ」

『ええっ!? まさかの本人!?』

「責任押し付け合ってるわりに誰も探しに来ないな……外に出られないのか? それにあの白装束……」


 どうにも嫌な予感がする。神教や仏教において、白とは必ずしも良い色ではない。武士が切腹の際に着たように、死装束でもあるのだ。


「うわあああああっ!!」


 一人が叫ぶと同時に魔法陣が起動したのか淡く輝きはじめた。

 白装束がゆらりと揺れ、霊体が浮かび上がる。骸骨のように落ち窪んだ眼孔と剝き出しの歯列が生理的嫌悪を催す姿だ。何かを訴えるかのごとく、大きく口を開けた。


「っ!!」


 咄嗟に頭を引っ込めた。

 全身にぶわっと鳥肌が立ち、汗が滲むのがわかる。


『ヤベェ……ヤベェよ……』


 疾風丸も気が付いたらしい。カマイタチなので顔色は変わらないが、人間だったら真っ青になっていただろう。お福なんか両手で目を覆い隠している。


「七人ミサキ!」

『七人ミサキじゃん!』


 期せずして同時に叫んでいた。もちろん、小声でだ。


「どういうことだ……!? 攫われたのは和魂だけじゃなかったのか?」


 いや、確認がとれたのが和魂だけだった、ということなのだろう。荒魂は基本的に祀って封じてあるからな。ヘタにお越して暴れられたら敵わん。


 七人ミサキ。


 四国から発生した怪異だ。武家のお家騒動で切腹させられた七人の侍が無念のあまり怨霊になったとか、悪逆非道の果てに討たれた山伏の怨霊だとか、海で死んだ者の霊だとか、諸説ある。が、その所説に共通することがある。


 必ず七人で行動し、目撃者を祟り殺すのだ。


 七人ミサキの恐ろしいところは、祟り殺した者が『七人目』になることだ。そして一人目のミサキが七人から抜ける。七人目が新しく入ってくるまで、七人ミサキから抜けることはできず、彷徨い続けるのが七人ミサキのルールだった。


 新人募集、未経験者歓迎、ただし一度入ると代わりの者が来るまで辞められません。元祖ブラック企業みたいな怪異である。


 さらにいうと七人ミサキに明確な弱点はない。うっかり出会ったが最後、死ぬまで追いかけてくる。七人ミサキのほうも七人目が来てくれないと延々彷徨うことになるのでそれこそ必死である。


『金の君の加護があるアスカなら平気だろうけど……異世界人ってどうなんだ?』

「それより七人ミサキを憑依させるなんて正気か? いや正気じゃないからそんなことやってるんだろうけど……そうか、それで生贄が必要になったのか」


 二千二百年代でも七人ミサキとされる目撃情報と不審死はあった。都市伝説みたいに様々なパターンが新たに生まれたりもしていた。


「七人ミサキを憑依させて魔法を使ってたんだ……」

『スゲェ度胸だな』

『こわいもの知らず』


 悲鳴が呻き声に変わり、啜り泣きになった。白装束の一人が喉を掻きむしって悶えている。

 七人ミサキの症状として、高熱による衰弱死というのが一般的だ。しかし今眼下では、若かった男の顔が見る間に骨と皮の……憑依したミサキと同じ姿に変わっていた。残りの六人が彼に縋りながら泣き喚き、うずくまって頭を抱えている。


『ア、アスカ、あれは……』

「魔法に力を使われて弱ったミサキが憑依した肉体から霊力を吸い取っているんだと、思う……七人ミサキって弱るのか!?」


 七人ミサキを憑依させた例は、少なくとも日本では一度もない。死んでしまうからだ。

 憑依ということは、白装束は人間であると同時に七人ミサキでもある。いつから彼らが七人ミサキの入れ替わりルールに気づいたのかはわからないが、七人ミサキの消滅と自身の死がイコールであることを知り、生贄を捧げることを思いついたのだ。


 七人ミサキは七人いるから『七人ミサキ』として存在していられる。そして、七人目のミサキを得るには厳正なルールがあった。七人ミサキには、そのルールを破ることはできない。存在意義が揺らぐ。

 生贄を七人目にして憑依させ、その霊力を――魂を魔法にしていた。


 七人ミサキとなった彼らに死は訪れない。


「ごめん……ごめんよ。俺が神を召喚なんかしようと言ったから……」

「兄さんだけのせいじゃない。俺だって止めなかった」

「神を侮りすぎたんだ……」

「早く生贄を見つけないと、俺たちも……」

「ねえもう止めようよ……。これ以上犠牲を出したら……」

「綺麗事言ってんじゃねえぞ! お前だって賛成しただろう!」


 どうやらあの七人は兄弟らしい。家のため街のため、日本から七人ミサキを召喚して体に宿したが、七人ミサキの霊力が尽きるたびに生贄を捧げることになった。七人ミサキとは、ようするに死霊なのだ。万能感に酔いしれてみても神ではない。七人ミサキとなった彼らに死は訪れない。高熱に魘され、おぞましい悪夢を見続けることになる。


『アスカ、七人ミサキも連れて帰るのか?』


 疾風丸が苦々しく聞いてきた。


「……無理だ。すでに生贄を捧げられている。あれはもう、日本の七人ミサキではない」


 七人ミサキの輪から抜けた霊魂は成仏する、といわれている。

 日本人だった魂がこの異世界でどうなったのか、俺に知る術はなかった。日本に帰れたのか、それとも異世界の神の身許に行ったのか。あるいは消滅してしまったのかもしれない。


 どちらにせよ、七人ミサキは七人ミサキのまま、ルールを逸脱することなく復讐を遂げたのだ。


「天晴だな、七人ミサキ」


 さすがは日本の怪異である。やられっぱなしで終わるわけがなかった。


 白装束がいつ七人ミサキのルールに気づいたにせよ、この街に向かった者が行方不明となっていれば噂が広がる。やがて司法の手であの七人は裁かれるだろう。それでいい、俺の出る幕はない。俺が助けるのは、あくまで日本から攫われた神と妖だ。


 おそらくだが、あの状態に陥って最初に見た人間が犠牲になったのだ。家族か、使用人か、それとも恋人か。いずれにせよ彼らを心配して近づいてきた、親しい相手だ。

 大切な人を死から遠ざけるために、旅人を攫って生贄にした。それを続けてきた。


『……ちょっとホッとした』


 屋根から木を伝って地面に降り立つ。ぽつりと零したお福に、疾風丸と顔を見合わせて苦笑した。


『まあな。七人ミサキじゃ分が悪い。マヨヒガに閉じ込めても他の神が嫌がるだろうしなぁ』


 とんだホラーハウスである。七人ミサキが大人しく閉じこもっているとも思えないし、夜中にトイレに行けなくなるな。


「七人ミサキの伝説は西日本だけじゃなく日本中にある。おそらくあれは、そのうちの一つだったんだろう」

『ってことは……』

「七人ミサキはまだ日本にいるのです。たぶん」

『うわっ、やめてくれよー! そーゆーのは不思議ないきものだけで充分!』


 本当にな。しかし困ったことに我が祖国は荒魂さえも『神』なのだ。


「これからは知名度の低い妖も考慮に入れて捜索したほうがいいな。近衛も把握してないのが攫われているかもしれない」


 次にコンタクトがとれたら近衛に言っておこう。七人ミサキ誘拐事件なんて聞いたら頭を抱えそうだな。頑張って!


『ところでさー、屋台はどうする?』

「……そういえばそんな話だったな」


 七人ミサキのショックですっかり忘れていた。

 少し考えて、首を振る。


「やめておこう。ケチの付いた街で商売をしても失うもののほうが大きそうだ。手持ち資金でここの特産品を買って、よそで売る」

『買うのはいいの?』

「金を手放すのは縁を切るのと一緒だからね。すぐに手放せば大丈夫」


 金の切れ目が縁の切れ目とはよくいったものだ。大儲けしようと欲をかかなければ悪縁を免れる。


「生贄方式なんて長くは持たない。早晩あの七人は魔法に使ったツケを支払うことになる……。そうなればこの街の衰退はすぐだな」

『みんなのためと思ってやったんだろうが、異世界の神を攫った時点で終わってる』


 神だけではなく妖まで見境なく攫って行った。異世界からすれば魔法の源で、その性質まで区別がつかなかったのだろう。どちらにせよ、搾取されて怒らないやつはいない。


『あんまなめんな』


 お福の言葉が的を射すぎている。七人ミサキは死霊から発生した怪異で、あまりお近づきにはなりたくない種類のものではあった。けれどあれらもたしかに同郷の仲間だったのだ。


 異世界に散った七人の魂に黙祷を捧げ、俺たちは街を後にした。




七人ミサキ、私がはじめて出会ったのは「地獄先生ぬ~べ~」でした。すごく恐ろしかったのを覚えています。マイナーすぎず、メジャーでもないそこそこの認知度だと思ってたけど友人に知らないと言われてちょっと不安です。みなさんご存知ですかね……?


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[良い点] 続き、続き?あれ? 面白いです(〃∇〃)!ありがとう御座います! \(^o^)/!!☆☆☆☆☆!!! [一言] |ू•ω•)続きを、もし良ければ宜しくお願いします すみませんです (人ω<…
[一言] 七人ミサキ、確かにマイナーですね。 自分の初遭遇は孔雀王でした、他者を殺しても自らは成仏しようという執念は怖かったですね。 次はナニが出て来るか楽しみです。
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