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キャラメイク

 俺たち3人は、教卓の前で頭を突き合わせ3つのタブレットを見ていた。

 個人的にはレベルが上がる真ん中のタブレット、タイプ2のキャラでプレイしたい。ゲームではやっぱり成長できることにやりがいを感じる。

 他の二人はどのタイプがいいのだろうか?

 ちらりと二人を見ると、ちょうど剛と目が合った。


「なあなあ、ただキャラ作ってもつまらないからさ、作りあっこしようぜ」


 こいつ、とんでもないことを言い出しやがった。


「嫌だ。俺は自分の作ったキャラを動かしたい」


 闇鍋はご遠慮だ。俺はワクワク感より、普通においしい方がいい。


「別にやってもいいぞ」

「は?」


 静流も俺と一緒で反対派だと思っていたのに!?


「よし、賛成2と反対1で作りあっこな」

「ちょ、ちょっと!」

「剛の作るは」


 静流はそういってタイプ3のタブレットを持ってさっき座っていた席に戻った。


 本当にやるのかよ!?


 クッ!この際、自分がキャラメイクできなくてもいい。俺が扱うキャラが成長するタイプなら文句は言わない。

 タイプ2のキャラメイクは初期装備とアバター名ぐらいだから痛くもかゆくもない。つまり俺が剛より先に残ったタブレットのタイプ1の方をとり俺が「静流のキャラ作るわ」と言いさえすれば、必然的に剛が残ったタイプ2のタブレットを持ち「じゃあ俺が拓海のな」ということになって、俺は望みのタイプ2の成長型でプレイすることが出来る。

 自分でも驚くほどの短い時間で結論に達した俺は、タイプ1のタブレットに手を伸ばす。


「俺はこのタブレットにしよ」


 しかし、初めの立ち位置が災いして俺が取るより先に剛がタイプ1のタブレットを手にした。


「……なあ、俺そのタブレットで作りたいんだけど……」

「ええ~。やだ」

「そこを何とか……」

「やだ」


 このわからずやめ!剛ってホントこういう頑固なとかがあるよな。


「はあ~」


 まあ、怒ってもしょうがないし、俺が使うキャラのタイプ3にならないだけでも良かったって思うしかないか。


「じゃあ俺は静流の作るわ」


 そう言って剛も自分の席に戻っていった。


「……………………え?」


 静流がタイプ3を持って剛のキャラを作る、剛がタイプ1を持って静流のキャラを作る。ということは俺は残ったタイプ2で自分のキャラを作るってことか。


 じゃあさっきの多数決は何だったんだよ!俺が仲間外れにされただけじゃないか!


 望み通りになったのだが釈然としない。俺はタイプ2のタブレットを自分の席の戻る。


「これは知能のステータスを上げといたほうがいいな」


 俺と剛のやり取りを視界の端でとらえていた静流は、タブレットを操作しながら呟いた。


 ぜひそうしてくれ。ステータスにインテリジェンスがあるなら極振りしといてくれ。


 俺も自分のタブレットを起動すると、成長型は選ぶのが初期装備だけなのに物凄い量の選択肢があった。一日中見ても見終わらないぐらいに膨大なその数に、開発者のこだわりと気合が感じられる。こんなにあったら誰でも迷うな、と思っていたが


「お、地雷職なんてものがある。面白そうだしこれにするか」


 剛は直感で職業を選んだ。


 誰でもは言いすぎた。バカは迷っていなかった。

 ていうか、地雷職なんて選んでやるなよ。剛には静流がそのキャラを使うということを忘れているのではないだろうか。


「知能だけ挙げても中身がないとな…………、装備品は教科書や専門書にしとくか」


 静流は剛のことを考えて作っているが、その優しさが裏目に出て、報復になっている。結局ひどいキャラを作り合ってるだけだな、これ。

 でも、お互いの脚を引っ張っているだけなのに、楽しそうだ。


 少しうらやましい。


 いやいやいや、後のことを考えれば、しっかり考えた方がゲームを楽しめるはずだ。

 最高の初期装備を選んでやる!

 所詮、初期装備だから凄い武器なんてあるわけないし、気合を入れて選ぶ必要はないでしょと思う人もいるだろう。

 俺も全くの同意見だ。

 それでも俺がタブレットに穴が開きそうなほど睨んで、選んでいるのはやっぱり、楽しいのからなのだろう。

 遊びだろうと何だろうと悩むことが醍醐味で、一生懸命に悩むからこそ愛着というものが生まれるのだと思う。だから物凄い微妙な装備だろうとかまわない。どれだけ凄い装備を手に入れようと、その初期装備はずっともっている。捨てることはしない。学校の技術の授業で作った拙い作品も捨てたかったけどすててはいない。『物は大事にしなさい』とひいおばあちゃんは言っていたはずだ。俺が生まれたときには無くなっていたかが。


 それに美人は三日で飽きる、ブスは三日で慣れる。そして一週間も経てば愛着が湧くというように……あれ、言わないっけ?


 まあそんなことはどうでもいい。凄そうで強そうな、初期装備とは思えないほど立派な武器を見つけたいま、そんなどうでもいいことを考えている余裕はない。どんどんとスクロースしている俺の目がある装備を見つけた。


 勇者の鎧と剣(仮)。


 (偽)なら分かるけでど(仮)ってなんなんだよ。

 (仮)がどういう意味なのかは分からないが、その装備には心惹かれた。神々しい光を放っていそうな、美しくもあるも実践的なロングブレード。鍔の真ん中にはめ込まれた宝石には退魔の力が宿っているらしい。何でも切り裂いてしまいそうだ。

 鎧一式もロングブレード同様神々しく輝いていて、説明書きには本物はありとあらゆる災厄を退けると書いてある。


 気が付いたら、決定ボタンを押していた。


 居ないとも、あり得ないとも思うが、もし俺の頭の中を覗いている人がいるのなら『舌の根も乾かぬうち』とか『さっきいいことを言っといて』とか思うことはあるだろうが、弁解させてほしい。この弁解を聞けばほとんどの人は、最低でも地球の人口おおよそ八十億人の半分は納得させることが出来る自信が、俺にはある。


 …………やっぱり美人はいいよね!俺TUEEEEEって憧れるよね!!


 さて、本音をぶっちゃけたことで一部からはクズ呼ばわりされ、ゴミを見るような目で見られているだろう。しかしそれ以上に多くの人と友達になれた、そんな気がする。


 それはともかく、次はプレイヤー名を決めないとな。

 何がいいのだろうか。

 やっぱりここは勇者っぽい名前がいいかな、例えば――

「シュナイザーとか?」

「フォルテとか?」

「あ、フォルテとか音楽記号とかオシャレでかっこいいよ……な…………」


 いた。

 いつの間にか剛と静流が俺の後ろに立っていた。

 肩越しに俺のタブレットを覗いていた。


 ああああああああああああああああああああああああああああ恥ずかしい!!


 見られてた?見られていたよね!?見てたよね!

 ポーカーフェイス気取ってるけど、絶対今耳真っ赤だわ!!


 中学二年の頃、「母親にティッシュの箱一つじゃ直ぐ無くなるでしょうから二箱持ってきなさい」と言われた時ぐらい恥ずかしい!!

 気づいてないフリをしてくれればいいのに、気付いたフリしてくるのを本当にやめてほしい!無駄な気づかいするぐらいなら、思春期というデリケートな心に対して気遣って欲しかった。あ、ヤバい恥ずかしいエピソードを思い出して、さらに恥ずかしくなってきた……恥ずかシナジーが起こってしまった!


「い、い、いつからそこにいたんだよ」


 振り向かず平然と尋ねた。

 二人はこんなことで笑うやつらではないと知っているけど、もしも彼らが笑ってるのを、笑うのを我慢しているのを見ってしまったら、暫く立ち直れないから、振り向けなかった。


「えっとキャラを作り終えてぐらいだから……」

「三十分前だな」


 決めるの早いな!


「そんなに前からいるなら、声かけろよな!」


 完璧な八つ当たりだった。


「声かけたぞ」

「でも、すごい集中してて気づかなかったから、いつ気付くかなって見てたんだよ」


 言い逃れが出来ない。本当に恥ずかしい!穴があったら入って、土を上から被せて、来るかどうかわからない春が来るまで冬眠したい。


「それより名前どうするんだ?」

「やっぱりシュナイザーだよな!」

「バッカお前そんなの決まってるだろ。……はじめっからタクミ一択だよ」


 その後もなんやかんやあり、名前を決めキャラを作り終わった俺たちは、自分たちに与えられたそれぞれの部屋に行き、明日に備え寝ることにした。


 けれど俺は、ほとんど寝ることはできなかった。


 


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