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誘い

「拓海。8月1日から三週間、もっ……モニターのバイトしないか」


 一学期最後のホームルームを終え、帰り支度をしているときだった。いつの間にか目の前に立っていた静流に突然声を掛けられた。

 予期せぬ誘いにリュックに入れようとしていた通知表片手に俺は固まってしまった。


 辻宮静流。高校に入ってからできた二人の友達のうちの一人だ。

 天才と呼ばれる人種らしい。

 らしいというのは彼が自分のことを話さないからだ。一度彼について調べてみたことがあるが、論文を学会で発表し高い評価を受けているそうな。内容は難解で俺のような平々凡々の頭では理解できそうになかった、というより面倒くさくなって寝た。だって興味なかったし。

 いつも帰りは車で送迎されているところを見ると実家は金持ちか。


 静流は無駄を嫌う。効率主義というべきか、基本的に話すには俺か剛のどっちかで、会話は必要な時に最小限の言葉で伝わるように理路整然と話す。


 そんな彼が自分からバイトを誘い、しかもどもるなんて……。

 冷たい目を向けられうっとおしいなんて言われたこともあったから、友達と思ってるのは自分だけかと思った時もあったけど、静流も友達だと思ってくれてたのか……。

 嬉しさのあまり涙が出そう。

 だが我慢だ。涙なんて流したら静流に引かれそうだ。平静を装え。


「そのモニターって何やんの?」

「没入型VRゲーム機器のモニター」


 机をバンッと叩き、立ち上がり

「やる!」

 無茶苦茶心惹かれるワードにいつの間にか口が勝手に了承を伝えていた。


 だが後悔はしていない。

 ゲーム好きの自分としては喉から手が出るほどの好機。最新のゲームがやれて、お金ももらえる。マジハッピーセット。やらないという選択肢は存在しない。


「剛の奴も誘おうと思うんだけど、どこにいるか知ってるか?」


 静流は教室を見渡した。


「さっき先生に連れていかれたぽいから、後で俺が誘っとこうか?」

「よろしく頼む。当日は家に向かいに行くから。何も待ってこなくていいから」

 それだけ言うと静流は教室を出って言った。

 

 終業式の今日は学校は昼には終わる。教室内にはこの後部活動がある生徒が残って弁当を食べていた。

 部活に入っていない俺は昼食を家で食べるつもりだったので弁当は持ってきていない。剛も同じ帰宅部で弁当を持参していないだろう。先生も生徒を昼食抜きで説教はしないはず。直ぐに戻ってくる。

 それまで暇だし夏休みの課題をやっておくか。気兼ねなくゲームのモニターをするために……。

 




 五時になった。あいかわらず紫外線をまき散らす太陽と同様、俺はまだ教室内に残っていた。下校を促す放送がながれる。運動部の活発な声はいつの間にか聞こえなくなっていた。


「課題が二つも終わってしまった」


 自分でもびっくりするほど集中していたようで、いやにはかどった課題に満足感に浸っているとつかつかと廊下を歩く音が聞こえてくる。


「なんだぁ樋口。まだいたのか」


 剛かと思ったら担任の吉川先生だった。


「お前部活入っていなかったよな?」

「帰宅部です。剛を待つついでに課題をやってました。剛のかばんは教室にあるんですけど……。先生は剛がどこにいるか知ってますか」

「ああ、南条なら各教科の先生方から順番に個人授業してもらってたぞ。俺、教師になって五年だけどゼロ点何て初めて見たぞ」


 馬鹿だとはおもっていたが、それほどとは。


「まあ、あいつはそもそも授業に全然でないから勉強ができないというより、知識を知らないって感じだからな」

「よくこの高校受かりましたよね」

「スポーツ推薦だからな」

「でも部活入ってませけどね」

「そこがあいつの凄いところだよ。人徳っていうんだろう。ほとんど毎日といっていいほど学校にお礼の電話がかかってくるからな、クレームの電話じゃなくて嬉しくなるんだよ。教師たちは南条が人助けをやりまくって遅刻ばっかりなのを知ってるから特別に補習やってるんだろう」


 部活の顧問の剛が人助けを優先し部活に出てくるのを諦めているから、偶に練習に出てくれるだけでありがたいと思っているようだしな。


 静流が知の天才だとしたら、剛は体の天才だ。身体能力とセンスが凄すぎて練習しなくても頑張って練習している生徒より全然上手いから運動部の生徒は面白くないと感じているし、先生が剛を贔屓するから生徒の間では評判はあんまりよくないのだけど。


 噂をすれば影というように、吉川先生と話していたら剛がふらふらっと教室に入ってきた。精も魂も尽き果てたといった感じだ。


「ッ、疲れた。腹減った。頭痛い」


 そういえば俺も昼飯食べていなかったな。


「じゃあお前らクーラー消して早く帰れよ」


 吉川先生は机に突っ伏す剛と俺にそう告げて他のクラスの見回りに戻った。


「俺らも早く帰ろ。お前待ってたから昼めし食ってないんだわ」

「うぃ~。どっか寄って帰ろぜ」

「賛成」


 剛は机に引っ付いたままバックポケットから財布を抜き出し中身を開く。

 俺は取り敢えず先生に言われた通りクーラーの電源をきり、静流に頼まれてたバイトの話を切りだした。


「静流がさ、8月1日からバイト――」

「する」


 即答だった。むしろ早すぎだ。


「……まだ詳しい話してないんだけど」

「もう決めた」


 剛とは誰よりも早く新しいゲームをすることができるこの感動を共有できそうにない。メールで言わずわざわざ待ってたのに。


「……そう。一日は自分の家で待っとけば迎えに来てくれるらしいから」

「オッケーわかった」

 

 起き上がった剛と教室を後にした。


「ところでさ、なんか奢ってくんない」

「知ってる?タンポポって食えるらしいよ」

「マジか!」


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