序章 3
暫くプルプル足の痺れと格闘していたが、だんだん和らいできた。足を軽く動かして、もう平気なことを確認すると、私は母さんお手製のおやつを食べるため、リビングに意気揚々と歩き出した。
リビングの前に来た。それは、別に、何も不思議なことは無い。ただ、おかしい。私はさっきリビングの前を通っただけの筈だ。ドアを閉めてもいない。最初から開いてた。
だのに、今、リビングのドアは閉まっている。
母さんまたはお義父さんが実は帰ってきてて、ビックリさせようとしましたってのはありえない。だって、お義父さんは車通勤だし、母さんの料理教室は四時までだ。三時の今に帰ってきてるわけない。
もしかして、強盗? そう思うと、血の気がサッと引いた。
どうしよう、私、なんにも対処出来ないよ。運動神経が良くっても、勉強の成績が良くっても、そんなのは関係ない。
今こうして強盗に入られてるかもしれない状況で、私に出来ることは……本当に強盗か確認して隠れることと、警察を呼ぶこと。
そうだ、そう、落ち着け。落ち着かないと強盗犯に見つかる。あまり音を立てない暗殺者のようと言われた歩き方と、やたらお高いフローリングの床に今だけは感謝する。
リビングのドアを音を立てずにそっと開く。ゆっくり、ゆっくり。ほんの少し出来た隙間から、顔を覗かせた。
男の、マントのような後ろ姿。
それを認識した途端、さっきの五倍くらい血の気が引いた。ドアを握る手が震える。大丈夫、落ち着いて。ゆっくり閉めれば気付かれないから。
そっと、そぉっと、ドアを閉めた。あまり音を立てずに済んで少しホッとした。金具の噛み合うカチャンという音が鳴るまでは。
冷や汗がどっと溢れた。男の足音が真っ直ぐこちらに向かってくる。あ、ダメだ間に合わない。そう直感的に死を覚悟した時、ガチャリとドアが開いた。
目の前に立っていたのは、予想すらしていない人物だった。
「……と、父さん…………!?」
「お、お前……雪……雪なのか…………!!?」
私にそっくりな金髪、深い青の瞳。間違いない。父さんだ。後ろ姿ではマントのせいで気付かなかったが、何だか変な格好をしている。まるでお貴族様のような、高級そうな服だ。
「雪……会いたかった……!!」
その格好のまま私を抱き寄せるから、少したどたどしくなってしまった。
「と、と、父さん……! どうしたのさその格好……それに、今まで何処に行ってたの……!?」
「雪、聞いてくれ」
私の問いに、少々食い気味に父は言った。
ここに……地球にいては危ないのだと。いずれ異世界から魔法を使える者たちが攻めてくるだろうと。その前にこの世界から脱出しようと。
……正直、真面目に父さんの頭がおかしくなったんじゃないかと疑った。
閲覧ありがとうございます!
かなりの遅い更新になると思われる小説ですが、少しでも面白いと思って頂けたら嬉しいです