序章 2
帰りのSHRも終わり、大きく伸びをした。部活にも入っていない私は、荷物を纏めて直ぐに教室を出る。
帰ったら昨日の続きを編まなきゃ、と頭の中で、昨夜までに編み終えたマフラーの編み目を思い起こした。
「ただいまー」
おかえり、と返る声が今日はない。
あ、そっか。今日火曜日だから、母さんは料理教室だ。
豪奢な家に住んでいる割に、家事は全てこなす母の姿を浮かべる。
リビングの前を通ると、テーブルの上に大皿が置いてあるのが見えた。母さんが手作りしたおやつだ。わあい。
「手ぇ洗ってこよう」
洗面所で手を洗い、リビングではなく仏間に行く。畳の上を歩いて、仏壇の前にある座布団に座った。
父さん、ただいま。今日も私は普通にやってるよ。母さんも体調良さそうだし、お義父さんも優しいし、心配事はないと思う。だから早く……父さんがいなくなった本当の理由について、知りたいなと思うんだ。
手を合わせながら、声には出てないけど父さんへ語りかける。
目を開くと、まるで死人のように写真が置かれた父さんの顔が目に映る。同時に、あの日の母さんからの言葉を思い出す。
二年前、母さんに「父さんは死んだ。けれど葬式は出来ない」と伝えられたあの日。
ごめんね、ごめんね、と泣く母さんに、最初は本当に父さんは死んでしまったのだと思った。けど、母さんの涙は父さんが死んだから流れた訳じゃない。多分、私の事を一番に思ってくれる母さんの事だ。私を騙す罪悪感に、泣いたんだと思う。
だって、よく良く考えればおかしな話だ。
墓もない、葬式もしない、死亡届を出してた様子もない。なのに「死んだ」なんて。きっと私には言えない事情があるのかもしれない。でも娘なんだから、実の父親のことは知りたい。特に生死に関わることだから。
……思考を切り替えよう。いくら私が知りたいと駄々を捏ねたところで、教えて貰えないなら仕方ない。知るのを諦めた訳じゃないけど、今は教えて貰えないのだと気持ちを落ち着かせる。
「それじゃ、おやつ食べよ」
すっくと立ち上がった、のはいい。しまった。長いこと正座で留まってたから……。
足が、痺れた!
閲覧ありがとうございます!
かなりの遅い更新になると思われる小説ですが、少しでも面白いと思って頂けたら嬉しいです