序章
ジリリリリリリリ……
ジリリリリリリリ……ガシャン!
目覚まし時計を落とした金髪の少女は、うんざりした顔で起き上がった。
シルクのネグリジェのままで天蓋つきのベッドから降り、アンティーク調の金の細やかな装飾が入った時計をヴィンテージのサイドボードに戻す。
「はぁ……」
そろそろこの生活もやめにしたいものだと溜め息を吐く。周りの物すべてが高くて生きてる心地がしない。そう思いながらも馬鹿みたいに高い時計を叩き落としたのは自分だが。
「もう、これで落としたの何回目かな……」
一つ大きな溜め息を吐いて着替えだした。セーラー服のスカーフを結びながら今日の時間割を思い出す。
自身の得意教科があることに気付き、整った顔立ちが気だるげな表情から微笑に変わった。
透き通るような金髪を梳かしていると、自室のドアをノックする音が聞こえた。ノックをするのはこの家で1人くらいだけど、一応「はーい?」と返事をした。すると、未だ微妙に聞き慣れない義父の声が聞こえた。朝ごはんができているらしい。了承の返事を返し、スカートのチャックを確認してからドアを開けて義父とともにリビングへ向かう。
「おはよう」
食器の準備をしながら笑顔で朝の挨拶をしてきた母に、同じ言葉を返す。
「そういえば、今日は落とさなかった? 時計」
質の良い木製の椅子に座ったとき、痛いところを突かれた。すっと目を逸らすとクスクス母に笑われる。義父も少し困ったような穏やかな笑みを浮かべていた。
「そんな笑う? て言うかお義父さんまで笑ってるし!」
「いやいや、微笑ましいなと思っただけさ」
どこかの外国の出身らしい義父は四十近いとは思えないほど若々しい。体も筋肉質で締まっており、言葉や態度は紳士的。母が再婚してからうんざりなほど豊かになったこの生活から見ても、義父はかなりの金持ちなのだろうと推測できる。
まるで西洋ぽい世界観な小説の貴族だな、とベーコンエッグの乗ったトーストを齧り、咀嚼して飲み込んだ。
余裕を持って義父と共に家を出て、お互い挨拶をしてから反対の道へ歩き出す。
道中に会う友達に挨拶したり、校門の所で自転車に乗ったクラスメイトに通り魔みたいに声を掛けられたりしながら、教室に向かった。
近くの席の人と会話をして席に着き、授業の支度をする。使い古した栞が挟まった、分厚い本を開く。
これでやっと、少女の一日は体感として始まるのだ。
閲覧ありがとうございます!
始まったばかり、それもかなりの遅い更新になると思われる小説ですが、少しでも面白いと思って頂けたら嬉しいです