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ラグナロクRagnarφk  作者: 遠藤
IMMORPG
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006 魔獣諸国連邦ポセイドン③

「次は皇都から脱出しないとだな...レオンハルトは...やはり、目覚める気配が無いか」


 三獣士の一人を倒し、革命軍リーダーのレオンハルトを無事に救出したところ。

 だが、この場所は敵地のど真ん中。

 憔悴しきったリーダーを休養させる為にも、改めてポセイダル城に攻め込む為にも、一度撤退をして準備をする必要があった。


「三獣士との戦いは、見事にフラグが立っていた訳だけど...でも、想像以上の強さだったな...そんな相手に勝つ事が出来たんだから...本当に最高だよ!!」


 皇都へと侵入する前、三獣士の話題があれだけ出ていたのだ。

 そうなれば戦闘になる事は必然であり、倒せなければ先に進めない事は予想が出来ていたもの。

 だが、相手の強さは想像以上のものだった。

 初のBOSS戦と言う事で、難無く倒せるような相手かと思っていたが、見事なまでに期待を裏切られる結果となった。

 僕からすれば、戦闘をする上で自身の能力を最大限に活かせなければ勝てない相手は、とても喜ばしい事なのだが、他のプレイヤーにとっては、多分そうはならないだろう。

 ゲーム的な感覚で強い技を繰り出していれば勝てるのでは無く、実践的な感覚に近く、相手を観察しながら情報修正をし、その都度対応を変えて戦わなければならないのだから。

 まあ、だからこそ余計にリアルを感じる事が出来て、この世界に生きている実感を得る事が出来るのだが。


「この後は、マーク達と合流すれば良いんだんよね」


 レオンハルト救出後はマーク達と合流し、革命軍の本拠地へと向かう予定。

 だが、三獣士エアホークとの戦闘が終わると同時。

 ポセイダル軍の兵士達が、続々と広場に集まろうとしていた。

 しかし、僕自身のダメージ量や疲労などを考慮すると、これ以上の戦闘をする余裕が無かった。


「先ずは、広場から離れなくちゃ...となると...担ぐしか無いか...」


 広場で囲まれた場合、気を失っているレオンハルトと居ては、逃げる手段が無い。

 この状況に手が負えなくなる前に、広場から撤退する必要がある。

 僕は、無理矢理にでもレオンハルトを背負った。


「ぐ、お、重っ!」


 レオンハルトは身体が大きく、身長がニ五〇cmを余裕で超えていた。

 しかも、かなりの筋肉質で体重も一五〇kgを超える人物だ。

 自分よりも大きい相手を背中に担ぐ。

 それは、僕の身体が隠れる程の大きさだった。

 この行為は、魂位によるステータスの補正が無ければ、レオンハルトを持ち上げる事など出来なかった事だろう。

 だが、能力が上昇している今では、レオンハルトの重さを感じる事はあるが、その重さを苦も無く持つ事が出来ていた。


「さすがに、レオンハルトを担いだまま戦闘するのは無理だな...」


 背負ったままのこの状態では、戦闘をする事など出来無い。

 両手は塞がり、足腰はレオンハルトを支える事で精一杯なのだから。

 もしも、戦闘になれば、僕は逃げる事しか出来無いのに、相手は攻撃をし放題だ。

 そうなれば、格好の的になるだけで、待っているのはゲームオーバー


「とりあえずは、敵の居ない方に移動をしてと...」


 レオンハルトを背負いながら移動を始めた。

 だが、正直、何処へ向かえば良いのか解らない。

 また地下水路に戻れば良いのか?

 僕が、そんな風にどうしたものかと考えていると...


「時間が掛かっているから心配で見に来てみれば、まさかエアホークを一人で倒すとはな!これは凄い事なのだよ!」

「もう、無茶をして...でも、あなたが無事で良かったわ」


 陽動をしてくれていた革命軍のメンバー、マークとジェレミーが僕の下に来てくれたのだ。

 予想以上の結果に興奮をしているマーク。

 何故だか解らないが、僕を見る目が優しいジェレミー。


「革命軍に参加してくれたのが君で良かった。ルシフェル、ありがとう!」

「ええ、本当に嬉しいわ!リーダーを無事に救出してくれてありがとうね」


 マーク達は、頭を深く下げて心からの感謝を述べた。

 二人は、リーダーが助かった事でようやく安心が出来たのか、この時に初めて二人の笑顔を見る事が出来た。


(あっ ...二人は、こんな風に笑うんだね)


 それは、見ている僕も釣られて嬉しくなるような、相手の感情が直に伝わる笑顔。

 しかも、こんな時に思う事では無いのかも知れないが、初めてマークに名前を呼ばれた事が嬉しかった。

 ようやく、僕と言う人間が二人に認められたのだと思う事が出来た瞬間だ。


「では、ここから急いで脱出するぞ!」

「ええ。これ以上の長居は無用よ」

「俺が先陣をきる!だが、敵軍の射撃に、魔法攻撃には、くれぐれも気をつけてくれ!」

「私は、あなた達の後ろから付いて行くわ。出来る限り魔法で結界を張り続けるけど、その結界には頼りすぎないでね!」

「では、行くぞ!」


 皇都から脱出する為、進入時に使用した地下水路へと戻って行く。

 その戻る最中、僕達の行き先を阻むように兵士達が集まって来ていた。


「邪魔をする者は、蹴散らす!」


 だが、多少のポセイダル兵が集まって来たところで、マークには関係が無かった。

 見た目通りの戦闘スタイル。

 だが、そのスピードは段違いのものだった。

 相手が集まるよりもマークの動きの方が早く、通路を防ごうと動く敵を瞬時に切り伏せて行った。


「なるほど。マークが進むべき道を作ってくれるから、僕達はその後を付いて行けばいいのか!」


 僕達はマークの後ろを付いて行く形で、通路の障害物や敵の攻撃を避けて行く。

 左右から、又は上空からの弓矢での攻撃や魔法での攻撃が飛んで来た。

 ちなみに僕は、レオンハルトを背負っている状態の為、攻撃も反撃をする事が出来無い。


「背負いながらだと行動が制限されてしまうんだな...人を担いだ状態が、こんなにも大変だなんて」


 敵からの攻撃は、ジェレミーが張ってくれる結界で防ぐ事が出来る。

 だが、結界は一撃で決壊してしまうものだ。

 ジェレミーが、再度結界を張り直すまでの時間は決まっており、その間、三〇秒程は無防備な状態となってしまう。

 もしも、無防備な状態で攻撃を受け過ぎるとHPは無くなり、ゲームオーバーを迎える。


「何だか...立体スクロールゲームみたいだな」


 感覚的には、自分からは攻撃が出来無い、味方の援護攻撃のみで攻略をしなければならない立体シューティングゲーム。

 画面一杯に広がる敵の弾幕を、此処だと言うタイミングで避けなければならない。

 しかも、特定の場所で無ければ避ける事が出来ず、その見極めが重要となるのだ。

 とても繊細な身体操作が必要となる。

 その上、正しい手順を踏まなければ解く事が出来無い知恵の輪を、時間が限られた中で難易度が違うものを幾つも解かなければならない。

 そんな思考感覚が必要となる。

 一つもミスが出来無い極限状態の中、繊細さと速さの両方が必要だった。


「前方の敵は、俺に任せろ!」

「結界を過信し過ぎないで!なるべく攻撃は避けてね!」


 敵方も、最初は単体での攻撃だった。

 だが、道を進むに連れて攻撃のバリエーションが徐々に増えて行った。

 正面から来る攻撃を右へ左と横の動きだけで避けていたものが、加速や減速と言った真横からの攻撃に対応したり、ジャンプをしたり、腰を落としたりで、上下の攻撃にも対応して行かなければならない。

 注意点としては、浮遊などの空を飛ぶスキルが一切使え無い事だった。

 純粋な、僕だけの身体能力で対応しなければならない。

 それなのに、道を進むにつれて敵の攻撃の弾幕は増えて行き、難易度が急激に跳ね上がって行くのだから、困ったものだ。


「残りは僅かだ!最後まで気を抜くな!」


 終盤に差し掛かったところで、マークが叫んだ。

 勿論、気を抜くつもりは最初から持ち合わせていない。

 だが、レオンハルトを背負いながらの移動は、上下左右動き回る運動は、かなりしんどいもの。

 僕の心肺機能を、否応無しに圧迫した。

 身体(全身)の筋肉はパンパンに張った状態。

 疲労が蓄積されて、僕の限界も近くなっていた。


(これはしんどいな...特に、終盤になってからの攻撃は、避ける場所が限定され過ぎているよ...)


 此処まで来ると「そこしかない」と言うような絶妙なタイミングでアクションを起こさなければ、敵方の攻撃を避ける事が出来なかった。

 少しのズレが致命傷となる攻撃。

 まるで、緻密に組み立てられた設計図のように。

 こうなってしまうと、ダメージ覚悟で死なない事だけに注意するしか無い。

 だが、それすらも凌駕する攻撃の弾幕が襲い掛かって来た。


(!?)


 この攻撃を避けるには、僕自身の限界を超えなければならなかった。

 極限の疲労の中、自身の最高のパフォーマンスを披露しなければならないのだ。

 マラソンを走りきった直後に、再度全力で一〇〇m走を走るようなもの。

 しかも、自己ベストを更新する事が必須条件なのだ。

 我武者羅に身体を動かす。

 そして、苦しさの奥の扉を開いて行くのだ。

 何故なら、僕にとって、死ぬ事よりも苦しい事は無いのだから。


「一っ!二のっ!三っ!!」


 掛け声と共に、必死に身体を動かした。

 限界を振り絞り、疲労の奥の一滴の可能性を捻り出す。

 僕は攻撃の弾幕を避ける為、壁を使った三角跳びの要領で攻撃を避けながら反対の壁へと跳んだ。

 そこから更に壁を蹴り上げ、弾幕の無い場所へとピンポイントに二段跳びをして行く。

 だが、その最後の一踏ん張りが利かない。

 既に身体の感覚が可笑しかった。

 踏ん張ると言った行為、力を込めると言った行為が出来無いのだ。


(く!!)


 僕は、最初からダメージを受ける事を覚悟していた。

 そのまま何もせず死ぬ気など毛頭に無いのだから。

 それに、まだ結界が残っている。

 敵の極大の一撃だろうと、ある程度の威力を結界が身代わりしてくれるのだ。

 ならば、覚悟を決めて全力で身を固めれば良いだけ。

 そうして、ダメージを最小限に抑える事が出来たのだ。


「ふーっ。何とか...切り抜ける事が...出来た」


 空間全体に広がる弾幕のような攻撃をかいくぐり、やっとの思いで地下水路の入り口へと辿り着く事が出来た。

 だが、これ以上の戦闘も、身体を動かす事も避けたいのが本心。

 既にもう、身体は満身創痍の状態なのだから。


「地下水路に来たと言っても、ここはまだ敵の本拠地...」


 まだ安心は出来無い状況。

 その為、急いで此処から離れる必要があった。

 どうやら、水路を使って一気に移動するらしい。

 地下水路に待機していた残りの革命軍のメンバーが、水路用の小型の船を用意してくれていた。

 僕は、疲れた身体を無理矢理動かし、船に乗った。

 先程まで背負っていたレオンハルトは、革命軍のメンバーが代わりに運んでくれた。


(あと...すこし...)


 僕の意識は薄れ始めていた。

 何とか船に乗り込むのだが、溜まっていた疲れがどっと噴き出してしまい、その場で脱力するように倒れてしまった。

 だが、自分の力でやり遂げたのだ。

 その気持ちは、とても満足行くもの。

 大の字になりながらも、天を仰ぎ呟いた。


「救...出...完...りょ、う。あぁ...疲...れ、た」


 もう、一ミリも身体を動かす事が出来そうに無い。

 それに意識を保つ事も出来そうに無かった。

 だが、心に残る達成感と充実感。

 今の僕は、一体どんな表情をしているのだろうか?

 そのまま気を失っていた。




 次に僕が目を覚ました時。

 僕の居た場所は『革命軍本拠地』だった。

 レオンハルト救出から数時間が経っていたようだ。


『革命軍本拠地』

 魔獣諸国連邦ポセイドンの中にあり、最南端の小島に位置する。

 海と山が繋がる洞窟の中に本拠地を構える。

 この洞窟は山の一部を削り取り人工的に造られたもの。

 見た目以上に中が広く、皇都ポセイダルと同じ広さを保有していた。

 ただ、何故この洞窟が造られたのかは誰も解っていない。


「...こ、ここは?」


 レオンハルトの意識が覚醒する。

 目が覚めたばかりで、まだ頭が回っていない様子だ。

 それもその筈。

 救出時には自力で動けない程にかなり衰弱していたのだから。

 その状態を平常に戻すまで、今の今まで寝たきりの状態だった。

 どうやら、身体が完全回復するまで一週間も寝ていた。


「レオンハルト!意識が...無事で良かった」


 マークは慌ててレオンハルトへと駆け寄った。

 その身体をしっかりと支えて、レオンハルトが生きている事を実感する。

 唇を横一文字に噛み締めているのだが、上下に小刻みに震えていた。

 どううやら、ようやく安心が出来たのだろう。

 目の下の腫れて黒ずんだクマが心労を物語っていた。


「リーダー!目が覚めたのね!」


 離れて立っていたジェレミーは、人目を憚らず大粒の涙を流す。

 マーク同様、ようやく気を緩める事が出来たからだ。

 これは、三人にしか解らない感情なのだろう。

 三人が歩んで来た歴史があっての今に繋がっている事だ。


「そうか...俺の為に、すまなかった」


 レオンハルトは即座に状況を把握した。

 この場に居ると言う事は、処刑を免れたと言う事。

 自分が覚えているのは、死刑直前の記憶だからだ。

 それを理解し、助けられた事に対して感謝を浮かべる。

 そして、危険を侵してまで助けてくれた二人に対して謝った。

 だが、マークはそれを訂正するように答えた。


「レオンハルト。感謝はルシフェルに言うんだな。彼が居なければ、俺達は再び、こうして会う事も出来ていなかったのだから」


 マークが僕の方を指差し、感謝の言葉を伝える相手はこっちじゃないとジェスチャーを送った。

 正直、救出作戦の成功率は極めて低いものだったから。


「ル、ルシフェル?」


 レオンハルトは言い慣れていない言葉に淀む。

 一体、どんな人物なのだと表情に疑問が表れていた。


「そうよ。あなたを助ける為に、わざわざ革命軍に参加をしてくれたのだから。そのうえ三獣士空将のエアホークまで倒したのよ!!」


 ジェレミーは溢れ出る涙を拭いながら補足をして行く。

 その泣き顔も徐々に笑顔へと変わって行き、声も大きくなっていった。

 まるで、僕を英雄と崇めるような態度だ。

 最初が素っ気無い態度だったから、今の気を許してくれている態度は嬉しいけれど。


「まさか、エアホークを倒すだと!?それは凄いな!!一体、何処の亜人なのだ?」


 それを聞いたレオンハルトは、信じられないと驚く。

 三獣士は、一人で一部隊に匹敵する特機戦力者だからだ。

 この一部隊とは、一個師団相当の戦力。

 大体の目安になるのだが、十名前後で一個分隊。

 二個~四個分隊で、一個小隊。

 二個~四個小隊で、一個中隊。

 二個~四個中隊で、一個大隊。

 二個~四個大隊で、一個連隊。

 二個~四個連隊で、一個旅団。

 二個~四個旅団で、一個師団と表す事が出来る。

 その人数は時代と共に変わって来たものなので、同じ師団だとしても一万名から二万名の開きがあったりするが。


「それが、亜人では無いのだよ。そこにいる人間。ルシフェルだ」


 マークが自信満々に僕を紹介する。

 そこでようやく、レオンハルトは僕へと視線を動かした。

 眼の動きで、動揺している事が解ってしまう程に。


「亜人では無く人間だと!?そんな事がありえるのか?」


 レオンハルトが、人間と言う言葉に反応を示す。

 今まで亜人を虐げて来た人間が、亜人革命軍に力を貸してくれた事に驚いたからだ。

 しかも、よりによって、魔獣諸国連邦ポセイドン内で圧倒的弱者の革命軍にだ。


「ええ、それは間違いないわ」


 ジェレミーの後押し。

 力強い視線で、真っ直ぐにレオンハルトを見て答えた。


「人間が、俺達の...力に?」


 生死の懸かった救出劇。

 それを打算抜きで手伝ってくれた事に心底驚く。

 レオンハルトは視線だけでは無く、その身体を真っ直ぐ僕の方に向けた。

 そして、しっかりと僕の眼を見た。


「ルシフェル殿。この度はありがとうございました」


 真面目な表情。

 しかも、思いの込められた、心の底からの感謝を僕に伝えてくれた。

 先程までの砕けた口調も、いつの間にか丁寧な言葉遣いへと切り替わっていた。

 とても真剣な表情で頭を下げたのだ。


「...」


 僕は、こう言う時どう反応して良いのかが解らなかった。

 今までの人生で、お礼を言われる事など殆ど無かったのだから。

 そして、レオンハルトが頭を下げてから、どれ位の時間が経ったか解らない。

 だけど、その真摯な態度から、心が込められた誠意だと言う事が伝わって来る。

 この時、マーク達も同じように一緒に頭を下げていた。

 僕は、この状況が、照れるような、気恥ずかしいような、そんな思いが感情を支配していた。

 出来る事は、皆の感謝をしっかりと心に受け止める事。

 すると、何故だろうか?

 目の前に映る光景は虚像の筈なのに、僕の見るものがリアルだと捉えて感情が昂ぶっている。

 まるで、この世界が現実であるかのような錯覚を覚える程に。


(ここは...仮想世界なのか?それとも...現実世界なのか?)


 こうして一段落着いたところで、マークが僕達の今後について話し始めた。

 無事にレオンハルトを救出した事で、当初の目的であるネプチューン皇を倒して国の改革を再開する事を。

 そこで改革を起こす為にも重要になって来るのが、三獣士の討伐。

 ちなみにレオンハルト救出の際に、三獣士・空将エアホークを倒しているので、三獣士も残りは、海将、陸将の二人だ。

 そして、三獣士を倒した後は、この改革の要となるネプチューン皇の討伐。

 但し、残りの三獣士とネプチューン皇を倒すには、敵の本拠地であるポセイドン城に攻め込む必要があった。

 そして、そのポセイドン城に乗り込むには、皇都ポセイダルの港を経由して海路を渡る必要があったのだ。


「ここまでの流れは理解出来たかな?」


 先ずは敵の戦力を分断する為、国の至るところにいる工作員に協力を頼み、特定の場所で陽動して魔獣兵団を抑える事。

 そうして各地で反乱を起こして本拠地が手薄の間にポセイドン城に攻め込むのだが、ポセイドン城は周りが海に囲まれている為、海路を渡らないといけない。

 その為、皇都ポセイダルの港から船を奪いポセイドン城に攻め込む算段だ。


「ええ、大丈夫よ。いよいよ革命も最終段階ね」


 ジェレミーが、マークに応えるように頷いた。

 すると、レオンハルトが皆を見渡しながら話を始めた。


「皆のおかげでようやくここまで来る事が出来た。革命軍の皆、本当にありがとう」


 一人一人の眼を見ながらレオンハルトが話す。

 革命軍として機能出来ているのは皆が居るからこそなのだと。

 同じ志をもつ同士(同志)が集まった事で、対抗勢力と呼ばれる組織まで成り上がる事が出来た。


「我々は亜人というだけで虐げられてきた過去がある。そこには人権などは無く、家畜同然の苦しみを味わってきた。先代の皇だった我が叔父上が亜人の権利を開放する為に戦争を起こしたのが今から五〇年前。そこでようやく我々は亜人としての人権を得た瞬間だ」


 拳を力強く握り締め、革命軍の皆に宣言する。

 そうする事で、全員の視線が自ずとレオンハルトへと集まった。

 亜人と言う言葉そのものが、人間との差別を生んで来た歴史だ。

 人種を分けて明確にする区別では無く、人間に近い生物だと蔑む為の言葉なのだと。

 本来なら、種族としての優劣は無いもので権利が平等で無ければならないのにだ。

 多くの亜人達は、長い歴史の中で人と違う(人に似ている)と言うだけで、人権を得る事が出来なかった。

 レオンハルトは握り締めた拳を見つめ、顔を下に伏せた。


「しかし、ネプチューンがこの国の皇についてから一〇年。亜人という種族の中で能力に応じた優劣が生まれ、人権を得たはずの我々亜人は再び弱肉強食の強権、奴隷制度という苦しみを味わう事になった。力こそが全てである今の制度では、我々の自由を奪い、“人”として生きる権利を奪ったのだ!」


 亜人に含まれている人と言う言葉。

 それは何を持ってして人と呼ばれるのか?

 その姿や形か?

 持ち得る能力か? 

 特性か?

 思考か?

 ただ、ハッキリと言えるのは、絶対的強者が都合良く解釈出来てしまうと言う事だ。

 レオンハルトは、その語る言葉に合わせながら握っていた拳を開放し、大きく風を切るように横へ払った。

 その場の雰囲気を一変させるように力強い身振り。

 すると、革命軍のメンバー達の眼にやる気という光が灯り始めた。


「だが、“亜人”という言葉は今日を持って新しい意味に生まれ変わる。種族の違いを乗り越えて、“人”として生きる為に!我々は再び圧政や弾圧から逃れる為に、自由を勝ち取る為に戦うのだ!!同じ痛みを知る我等革命軍は同志であり、我々は平等である。そこには、“亜人”である誇りがあるからだ!」


 この革命は、言葉の意味を改める為の戦いでもある。

 これまでの周囲の認識が潜在意識に植え付けた影響。

 それを払拭させる為にも、勝ち取るしか無いのだ。

 そうして全員が決意を新たにした瞬間。

 亜人である誇りを胸に秘めながら、人間に近しいと言う認識をぶち壊す。

 我等は平等なる人なのだと。


「皆で生きる為の権利を掴み取るぞ!革命の狼煙を上げよ!今こそ我々に再び自由を!」

「うおおおおお!!!!!」


 レオンハルトの宣言に革命軍全員で呼応した。

 皆が一丸となって、その声を合わせて叫ぶ。


(言葉の力は...そこに在る背景が見えてこそ意味が伴うのだな)

 

 僕はレオンハルトの言葉を聞いてこの革命に対する意識が変わった。

 現実世界の僕は、戦争を経験した事も無いし、奴隷のように強制された事も無い。

 これは他人から見たら安っぽい共感(偽善)かも知れないが、これでも、誰よりも生きる事の大変さは身に沁みているつもりだ。

 そして、この体験を通じて“人”として生きる意味を知れた気がした。


(普段使っている言葉も、人によって理解や解釈が変わるもの。通常はだとか、常識はだとか、気軽に言ってはダメなんだ...それこそ、他人ひとによって、通常も、常識も変わるものなのだから)


 共通の認識方法として、もの(物、者)にレッテル(言葉)を貼る事は人間の偉大なる発明だとは思う。

 だが、それを使用する者によって、意味の捉え方が異なってしまうのも事実だ。

 結局は、自分の中の物差し、匙加減によって、言葉は善意のあるものにでも、悪意のあるものにでもなれるのだがら。


「ルシフェル殿!」


 そう物憂げに考えていた僕のところへとレオンハルトが近付いて来た。

 革命軍のメンバーは、それぞれが自分の役割を全うする為、敵の本拠地を攻める下準備の為、皆が散り散りに分かれて行動を開始していた。


「こんな事を其方に頼むのはどうかと思うのだが...もう一度私達に力を貸してくれないだろうか?」


 レオンハルトの表情から、亜人同士の戦いに僕を巻き込むのが申し訳なさそうに見えた。

 だが、レオンハルトの眼には、例え僕抜きだとしても、この革命をやり遂げると言う強い意志が表れていた。

 すると、その意思を問うように選択肢が出現する。


[YES/NO]


(そんな事は聞かれなくても...既に決まっているよ!)


[YES]


 僕がYESを選んだ瞬間、レオンハルトは強張っていた表情が崩れて安堵した。

 すると、僕の手を両手で取り、共に戦ってくれる事の感謝を、心からのお礼を込めた。


「ルシフェル殿、助かります。ありがとう!」

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