067 古代遺跡と聖遺物⑤
恐怖のあまり、一角兎を跡形も無く倒してしまった、さくら。
角や爪、毛皮などの素材回収をする事が出来ずに、呆気なく戦闘が終了する。
(今後は、さくらの事を安易に驚かすような真似をしない方が良さそうだな...これを見る限り...絶対に無事ではすまないな...)
目の前に映るのは惨状。
そして、立ち尽くす事しか出来無い僕とメリルとギュンター。
うん。
そう言った表情になってしまうのは解るよ。
“人の振り見て我が降り直せ”では無いけど、相手の行き過ぎた行動を見る事で途端に冷静になってしまうやつだね。
ただ、メリルの感情が抜け落ちた無表情はまだ良いとしても、ギュンターのその表情は酷いものだった。
一角兎の肉片が残らず蹂躙される様を目撃した事で、触れたら爆発してしまう地雷に四方八方囲まれている気分。
その場から動いてはいけない緊張感と、いつ爆発の被害がこちらに飛んで来るのかと怯えている様子。
(ギュンター...この少しの時間で老けた気がする?...さくらを見るその目が、まるで、取り扱い要注意の爆発物を見る目そのものじゃないか...)
少しの振動で爆発が起きてしまうニトログリセリン。
この時の出来事から、僕達の中で暗黙の了解が出来上がった。
さくら×恐怖=破壊者。
人には触れてはならない、パンドラの箱があるのだと。
(ふーっ。古代遺跡は、さくらを囲むように進んで、攻撃支援に専念して貰うのが良さそうだな...変に刺激を与えて魔物を駆逐されては、素材も回収出来ずに勿体無いからね)
魔物の素材は、その用途が多岐に渡る物。
売ればお金に換える事も、素材を利用して武器や防具を作る事も出来るからだ。
「さくら?...落ち着いた?」
僕は、前屈みになって両膝に手を乗せて下を向いている、さくらへと話し掛けた。
我武者羅に魔物を攻撃し、その疲れから肩で息をしていた。
「...落ち着く...って?」
「!?」
今にも消え入りそうな、吐息まじりの声。
目も虚ろで、心此処に在らずと言ったところ。
どうやら、本人は今の出来事(自分がやった事)を理解していないようだ。
曖昧な返答の仕方一つで、僕達はその事を悟った。
「...そうか。解っていないのか」
さくらを除いた僕達三人は、目配りをする事で意思を共有する。
テレパシーなんて大層なものでは無いけど、この時、お互いの目を見るだけで心が通じ合う事が出来るのだと初めて実感をした。
こうなると、古代遺跡を進む為の陣形が重要となる。
無駄な破壊や魔物の駆逐を生まない為にも、さくらに恐怖を与えないように安心感が必要となるのだから。
「じゃあ、さくらは僕と一緒に行こうか?」
まだ、目の前の恐怖心から呆然としている様子。
僕は、さくらの震えている手を取って、少しでもその怖さを和らげる。
恐怖や緊張から手が冷たくなっていたので、今直ぐにコントロール出来る感情では無さそうだ。
(自制の利かない感情...恐怖に慣れれば少しは変わるのかな?まあ、思わぬところで意思疎通が出来る事が知れたし、同じ事を体験、共有する事で理解が出来るんだな)
無言のまま、「うんうん」と首を縦に振って、僕達は陣形を固めていた。
ギュンターが先頭を進み、僕とさくらを間に挟んで、メリルに背後をカバーして貰う。
流石に上空から来られた場合はどうしようも無いが、此処は天井が存在する古代遺跡。
今出来る、僕達の最大限のフォローだ。
「...うん。ルシウス、ありがとう」
此処に来て、ようやく、さくらの笑顔を見る事が出来た。
何処か様子が可笑しかったものも、少しずつ解けて来たようだ。
「では、進みましょうか?」
僕達の目標は、聖遺物を入手する為に、古代遺跡に来ているのだ。
進まない事には始まらない。
だが、陣形を組み直した後は、探索が見間違えるようにスムーズとなった。
襲い掛かって来る一角兎の動きに慣れた事もあるのだが、一角兎自体、速さ以外に目を引く能力が無いからだ。
「さくらは、歌による支援を!ギュンターは、相手の動きを確実に足止めをして!仕留められるならそのまま仕留めるように!メリルさんは、ギュンターの攻撃を掻い潜って来た一角兎を狙って下さい!」
僕は、各々に指示を出して戦闘を行う。
それぞれの役割を分ける事で行動の重複を省く為と、その事だけに集中すれば良い環境を作る為だ。
「♪♪♪〜」
さくらは、歌による僕達の強化支援。
相変わらず素敵な歌声だ。
魔力が混じった歌は、とても心地良い。
(どうやら、歌っている時は他の事が気にならないみたいだ。良かった)
ギュンターは、その肉体一つで魔物へと立ち向かう。
状況に応じて構えを変えながら対峙するのだが、相手に合わせて前傾姿勢を取ったり、後ろ足に重心を残したりと、臨機応変だ。
「くらえっ!虎旋脚!」
この時、ギュンターは技名を叫んで攻撃をしているのだが、本人が勝手にそう名乗っているだけ。
虎旋脚とは大層な名称だが、ただの回し蹴りで、戦技とは違った通常攻撃なのである。
でも、ギュンターの体格から繰り出される攻撃は、迫力が相まって凄く格好良い。
(ギュンターは、魔物相手でも一才臆しないところが気持ちの強さを表しているよね。それに、眼(動体視力)が良いから、相手の攻撃を殆ど貰わないんだよね)
明らかな格上の相手とでは、眼(動体視力)が良くても(見えていても)反応が出来無い事が殆ど。
だが、自身と対等な相手や、格下の相手からなら、攻撃が当たったとしても致命傷を貰う事は先ず無い。
「すまない!メリルさん!一羽そっちに向かった!」
ギュンターの撃ち漏らした一羽の一角兎が、その脇を抜けて僕達の方へと迫って来る。
すると、後ろに控えていたメリルが僕達の前へと出た。
「ああ、私に任せろ!そこだ!!」
正面に身構えていた剣を、上段から真っ直ぐ下に振り下ろす。
踏み込み、下半身からの力の伝導から関節の連動率、筋肉の収縮。
どれも今までに無い練度の高さ。
訓練の成果が見事に反映されている一撃だ。
(真っ二つ!無駄な力みの無い見事な一撃!この上段からの振り下ろしに限ればだけど、剣士の中でも上位級かも!)
メリルは、元々身体能力が高い人物。
それは数値上の筋量では無く、身体を思い描いた通りに動かす事へのセンスがだ。
此処に来て、自身のセンスに技術も相まる事で、その能力を遺憾無く発揮している。
決して達人級とは言えないが、そこら辺の剣士には負ける事が無いだろう。
「凄いな...魔物相手に。こんな余裕を持って戦闘が出来るだなんて...これも、ルシウスの的確な指示に、ルシウスが控えてくれている心強さがあってのものか...」
一角兎を斬り下ろしたメリルは、剣に付いた血を拭いながら声を漏らした。
古代遺跡経験者のメリル。
当時、魔物を相手した時には怪我が絶えなかったそうだ。
余裕など全く無く、一心不乱に戦っていたとの事。
「ああ、本当だな。此処まで簡単に魔物を倒せるなんて異常だよ...」
ギュンターも同じ古代遺跡経験者。
自身のトレードマークでもある革ジャンもそこで手に入れた物だ。
通常、魔物相手では一対複数が基本なのだ。
魔物相手に仲間全員で戦う事でようやく対処が出来ていたらしい。
しかも、遠方から一方的に攻撃を加える事でだ。
「♪♪♪ー...」
丁度一曲歌い終わったところ、さくらは周囲をキョロキョロと見渡した。
最初の頃よりも暗闇には慣れた様子。
だが、恐怖心を完全に取り除く事は出来ずに、僕と手を繋ぐ事で安心がまだ出来ている状態。
「そんな事無いですよ。これは純粋に皆の実力が成せる事です。もし、理由を一つ補足するならば、それは魔物を理解した事がこの結果を生み出していると言う事です。ギルドダンジョンや古代遺跡での戦闘で解って貰えたと思いますが、魔物にもそれぞれの特性がありますよね?相手の事をしっかりと理解したからこそ、正しく対処が出来ているのです」
そうなのだ。
何も、僕が居るから戦闘に余裕がある訳では無い。
個々の実力があって、魔物に対して正しく対処が出来ているからこその余裕なのだ。
(確かに、それぞれの精神的な拠りどころって意味ではそうかも知れないけど...僕達は、個人の技術力に差はあれど、能力的には大差が無い。重要なのは、相手の事を正しく理解している事だよね?)
『はい。マスター。“敵を知り、己を知れば、百戦危うからず。敵を知らずして、己を知れば、一度勝ちて一度負ける。敵を知らず、己を知らざれば、戦うごとに必ず敗る”と言ったものです。敵の実力や現状をしっかりと理解する事で、自分自身の事をわきまえて戦えば、何度戦っても勝つ事が出来るもの。相手の情報を吟味し、自身の力量を認識した上で対処すれば、上手く行くと言う事です』
孫子の格言で、兵法の書である。
「知彼知己者、百戰不殆(彼を知り己を知れば百戦殆うからず)」
ただ、この時、注意をしなければならない事は、多様化されている情報の本質を掴む事。
“敵を知る”と言う事は、表面に現れている通り一遍の情報では無く、中身の伴った高度な情報を如何に掴む事かに懸かっている。
そして、幾ら精度の高い価値のある情報を掴んでいたとしても、“己を知る”と言う事が出来ていなければ、正しく情報を活用する事が出来ずに、“戦うごとに必ず敗る”と言う結果に陥るからだ。
(まあ、その己を知ると言う事が難しいんだけどね...)
『他者とのコミュニケーションを通じて、己を理解する事に繋がりますが、感情を把握するまでに観測する事が重要となって来ます。但し、自我と言うものは、刺激が加わる事で簡単に意思のコントロールが制御出来なくなってしまいますが』
他者を観察する事で、初めて自分自身を類推する事が出来る。
心や感情と言った実体の掴めないものも、他者との社会的な関わりを経験する事で、その存在を掴む事が出来る。
相手に心があると思うから、己にも心があると信じる。
相手に感情があると思うから、己にも感情があると信じる。
こうした外部観測を経て、自分自身を理解する内部観測を行うのだ。
「嬉しい」、「悲しい」と言った感情を知覚すると、その感情を理解する為に「今の自分の気持ちは、嬉しいのか?それとも悲しいのか?」と区別をして行く。
そこから、更に感情を把握する為に、「何故嬉しいのか?」、「何故悲しいのか?」と分析をするのだ。
そうする事で脳が発達し、未知なる部分を認識して行く。
すると、自分だけでは解らない事があると言う事に、次第に気付いて行くのだ。
そこからは、更に想像をする事が出来るようになり、相手の気持ちに寄り添う事が出来る。
ただ、そうなると他者からの影響を受けたり、相手の意思に流されてしまう事もあるのだが。
(現状なら、自分の得意、不得意が解れば十分に対処出来るもんね)
『はい。マスター。この世界における未知なる魔物と遭遇した場合はその限りではありませんが、現状では、そちらで問題無いと思われます。後は、魂位を上げる事で未知なる魔物にも対応出来ると思います』
既に、この世界で進化している生物を確認している。
僕達が養鶏をしている、フォレストコッコ。
僕達が身に着けている毛皮の主、スノウベアー。
魔物に関しては、まだ遭遇していないが、これらの事からもいる事は確実だろう。
その事を考慮すれば、やはり魂位を上げる事が必須となるのだ。
「では、ルシウスよ。それが出来ているのは、私達の能力だと言う事を言っているのか?」
自分に自信の無いメリル。
本人も成長している事を実感しているのだが、目標の高さがその認識をズラしている。
その目標自体も、自身が成長している事で曖昧なものへとブレているのだが。
「はい。その通りです。ただ、メリルさんの場合ですが、感受性に想像力、そして、理想が高過ぎる為に、目標とする自身の思い描く姿がその都度更新されているので、ハッキリと認識を持てないのだと思いますが」
「そうなの...か?それは、自分自身で認識をズラしているって事か?」
顎に指を重ね、思案するメリル。
僕が言った事に心当たりがあるようで、他人から指摘される事で気付きへと変化した。
「ええ。僕が居なくても、一角兎程度なら、相手の特性をしっかりと掴めばメリルさん一人でも勝てる相手です。と言うか、この古代遺跡自体、情報さえ把握出来ればメリルさん一人でも踏破出来ますよ?」
ゲーム時代に、全クエストをソロプレイで攻略していた僕が感じた事。
何も知らない状態で戦闘中に敵の情報を知る事と、予め敵の情報を知っている状態では、その難易度が変わるものだ。
今の僕達みたいに、敵の情報がある状態で探索をするのとは雲泥の差。
プロネーシスの記憶がある状態で探索をするのとは月とすっぽん。
「なっ!?この古代遺跡を私一人でだと!?」
メリルが、大きく目を見開いて驚いている。
「はい。なんならメリルさんに限らず、ギュンターでも出来ますよ」
僕は、ギュンターの目を見てそう伝えた。
すると、ギュンターは声にこそ出していないが、「うおおお!本当か!」と言った心の声が表情に現れていて、とても嬉しそうだった。
そして、そのままチラッと、さくらの方へと視線を動かす。
「さくらは...一人では、ちょっと出来そうにありませんが、古代遺跡を踏破出来る能力は持っています」
さくらの怯え方を見ても、一人で古代遺跡を進む事は出来そうに無い。
十分に踏破出来る能力はあるのだが、まだ不安な表情で、僕の手をギュッと握っている。
「...確かに、さくらの能力は凡庸では無く汎用性が高いもの。歌による支援から、舞うような近接戦闘...」
これが、メリルがイマイチ自信を持てない原因でもある。
自身の成長スピードよりも、さくらの圧倒的な早さで成長をしている姿を目にしている事。
訓練を始めたのは同時期なのに、さくらの出来るようになった事が多過ぎるのだと感じている。
「私には...そう言った事が出来そうにも無い」と小声で呟いていた。
(対人戦闘訓練も、結局は僕達の中だけで回しているからな...別の他人と対人戦闘を経験すれば意識が変わるんだろうけど...ただ、相手が居ないからな)
戦闘技術も、何も無い状態から習得する事と、基礎全般が出来ている状態で修得する事では、その成長が変化する事は当たり前だ。
習得は、習って身につける事を意味している。
稽古などで繰り返し教わる事によって、主に技術や学問を身につける事に使われる。
修得は、学んで身につける事を意味している。
一通り覚えた段階で学ぶ事によって、主に学問や字業を身につける事に使われる。
種の状態から芽が生えて木へと成長するのと、既に木の状態から更に成長するのでは、見た目の印象がだいぶ変わるものだ。
種の状態だったものが木へと成長したのなら、「もう、こんなに成長したのか?」と思うだろう。
木の状態のものが少しの樹齢を重ねた程度では、「何処が変化したのかな?」と思うだろう。
メリルは、確実に成長をしているのに、自分の傍で追われるように伸びて来ている、さくらの成長に圧倒されているのだ。
(僕達意外と対人戦闘を行えば、自身の成長度合いにもっと気付く事が出来るんだろうけど...追われる立場の辛さではあるよね...人の先を進み続けるのは...苦しいんだよね)
少し雰囲気が暗くなってしまった。
だが、こんなところで時間を掛けるのは勿体無い事。
強くなるなら、魂位を上げるのが一番の近道になるのだから。
「取り敢えず、この場で止まっているのは危険なので、古代遺跡を進みましょうか?」
「...ああ。そうだな。私達は聖遺物を入手する事が目的だからな」
メリルは、一旦自分の考えを頭の四隅に追いやり、目的を遂行する為に行動する。
魔物が蔓延る古代遺跡の中、その場で止まる事程危険な事は無い。
(いずれ、僕達意外の人と対人戦闘をする機会があれば良いけど...)
モヤモヤとした気持ちは残ったままだが、僕達は古代遺跡を進んで行った。
神殿型の古代遺跡。
中は、入る度に変化する迷宮型で、出現する魔物が固定されている。
一階層に出現する魔物は一角兎。
基本、群れで行動をしている為、僕達対複数の一角兎との戦闘だ。
道中は、前衛のギュンター、後衛のメリルの位置を変えながら、実戦を通しての訓練も行って行く。
そして、辿り着いた場所は、階層を降りる手前の広場。
かなりの広さだ。
「もう、お前の動きは見切っている!」
メリルは、剣を巧みに使って一角兎達を斬り伏せて行く。
上段から振り下ろし。
下段から振り上げ。
斜めからの一閃。
真横への一閃。
どれも動きが滑らかで、その一撃に力が込められている。
足運びが格段に上手くなっていた。
「単調過ぎるぜ!」
ギュンターは、突進して来た一角兎の鋭く尖った角を手で掴んだ。
相手の速さと攻撃に慣れて来たところ、今では簡単に反応が出来ている。
「虎襲落!」
角を掴んだまま地面と叩き付けた。
その時、相手が複数だった場合、一角兎を持ったまま武器のように使用していた。
トンファーのように使いながら、一角兎同士をぶつける形で。
(何だか、魔物の数が異様に多い?)
踏破されておらず、探索の進んでいない古代遺跡。
そこかしこに魔物が溢れている。
(この数だと、流石に二人だけでは対処出来ないな...)
「くっ!?突破させられた!」
「すまねえ!ルシウス!そっちに行った!」
撃ち漏らしをしている訳では無のだが、その数があまりにも多い為、前衛を抜けて僕達の下に辿り着く一角兎が何羽もいる。
僕は、二人が倒せなかった一角兎を倒す役割だ。
「大丈夫!!僕の方は気にしないで、倒せる一角兎は確実に倒して下さい!」
周囲に展開している複数の魔力球。
相手の急所目掛けて、螺旋状に回転させながら貫通させて行く。
すると、その光景を見る事で奮起する二人。
「ふっ。流石ルシウスだな」
「くそっ!負けてられねえ!!」
先程よりも更に動きが良くなっている。
複数居る一角兎に対しての動きが効率化され始めているのだ。
(懐かしいな...僕も、五冥将との試練でスケルトン達を相手した時に色々学んだからな)
実戦の中で学べる事は多い。
学習した事、創意工夫した事、それらインプットした情報を実戦でアウトプットする事で技術として昇華出来るからだ。
「「これで最後だ!!」」
二人の活躍が目覚ましい。
どちらもタイプが違うけど、片や剣術で、片や武術で、双璧を成している。
格好良い。
「じゃあ、次の階層へと進みましょうか?」
メリルとギュンターの集中力が増している事で、二人を主軸に攻略を進めて行く。
二階層に出現する魔物は、鎌鼬。
爪の部分と、尻尾の先端が鎌のように鋭くなっている。
「鎌鼬の攻撃は飛んで来ます!軌道をしっかりと見極めた上で対処して下さい!」
爪を振るうだけで、尻尾を振るうだけで斬撃が飛んで来る。
その斬撃は風による刃。
魔法のウィンドカッターと同じもので、この国ではヴィントクリンゲ。
「クソっ!?そんな簡単に言ったってよ...実体の無いものをどうやって見れば良いんだよ!」
ギュンターが嘆いている。
目に見えない風の刃だ。
感覚頼みで、攻撃自体を大きく避けているおかげでダメージは受けていない。
「ギュンター!風を感じれば良いのだ!ビュー!ゴォー!スパッ!だ!」
ギュンターよりも、もっと感覚肌のメリル。
相変わらず擬音だけの説明だ。
一応、それぞれの擬音に合わせて、応じた部位を触りながら説明をしているが伝わり辛い。
(ビューは耳で音を、ゴォーは肌で振動を、スパッは空気の揺めきを指しているのか?)
僕からの一方的な指示だけでは無く、仲間内で情報を共有している。
何だか、パーティっぽい?
うん。
実に良いね!
「ビュー...ゴォー...スパッ...」
ギュンターは、頭の中で反芻させる。
えっ?
伝わるの?
「!?そう言う事か!メリルさんありがとう!」
その一言で何かを掴んだギュンター。
見えない攻撃を怖がっていたギュンターだったが、見えない攻撃を正確に捉え始めた。
感覚肌の天才二人。
凄過ぎる...
「ハハハッ!これなら相手の懐に潜れるぞ!!」
相手の攻撃を避ける事で精一杯だったのに、感覚を掴んでからは、紙一重までは行かずとも、大きく攻撃を避ける事が無くなり、鎌鼬迄の最短距離をなぞれるようになっている。
「フッ。私も負けてられないな。そちらが風の刃を繰り出すなら、こちらはそれを斬るまでよ!」
流石に風を斬る技術はまだ無いが、実体の無い風の刃を剣で受け流して行く。
剣速が上がった事、身体の動かし方が上手になった事、そして、剣を巧みに操れるようになった事。
そこには、先程までの自信の無かったメリルでは無く、逞しさを感じさせてくれる剣士が居た。
戦闘に集中している事が生み出した結果だろう。
精神の弱さを感じる暇が無いのだ。
(このペースで進めるなら、一日で踏破出来てしまうかも!良し!今の内にサクサク進んじゃおう!)




