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ラグナロクRagnarφk  作者: 遠藤
IMMORPG
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005 魔獣諸国連邦ポセイドン②

『皇都ポセイダル』

 魔獣諸国連邦ポセイドンにおける最大都市で、周りを海に囲まれた海上都市。

 様々な亜人種が此処で暮らしている。

 但し、皇都に住むには『市民権』が必要となる。

 『市民権』は大金で購入するか、軍にて功績を挙げた者だけに配布される永住権だ。


 皇都ポセイダルは、海に囲まれた海上都市だけあって街中に水が溢れていた。

 街中を水と光が彩り、至る場所に虹の橋が掛かっている。

 皇都に住める者は、まさに選ばれし上流階級と言う事だ。


「凄く綺麗な街だ。確かに、この場所に住めるなら...大金をはたいてしまうだろうな」


 周囲を見渡せば、海上都市の利点を最大限に堪能出来ると言うものだ。

 様々な場所から噴出す水が、光に照らされて華やかな色彩を飾る。

 道に流れる、景観の為だけに作られた人口の水路。

 どちらの水も一切濁りが無い純水。

 海上都市と言う、その恩恵を最大限に活かしていた。


「やはり、皇都の中は物々しいんだな...それでも、都民に紛れてしまえば、革命軍だとは思われないんだろうけどさ」


 皇都の入り口は厳重な警備が敷かれていた。

 ただ、皇都に入ってしまえば、こちらのもの。

 まさか、入場規制をしている皇都の中に、革命軍のメンバーが居るとは思わないだろうから。

 その為、邪魔をする者が居ないので、処刑場の広場まですんなりと進める事が出来た。

 後は、革命軍リーダーのレオンハルト救出のみだ。


「君には、すまない事をしているな。だが、重要な役割である、レオンハルト救出は君の役目になる。俺達はこれから、街の警備の陽動をして撹乱して来る」

「その間にリーダーの救出をお願いするわ。ただ、一つ問題があるとすれば、三獣士の一人と遭遇するかも知れないと言う事」

「もし、三獣士と遭遇した場合、なりふり構わず逃げて欲しい」

「ええ。貴方一人では手に負えないと思うわ。リーダー救出が最優先と言えど、三獣士が居た場合は、お願いだからすぐに逃げてね」


 これはフラグなのか?

 それとも戦う事の出来無いイベントなのか?

 取り敢えず、三獣士が居た場合の対処法を聞き、逃げる事を念頭に置いた。

 僕的には、戦えた方が嬉しいんだけれど。

 だが、二人からは懇願されるように頼まれた為、本当に危ない事なのだと肝に銘じた。


「では、ここからは別行動になる。各自役割を全うしてくれ!」


 レオンハルトの救出を成功させる為にも、失敗する事は許されない。

 実らせる為にもマークの力強い指示出し。


「...無事に戻って来てね。じゃあ、後でまた会いましょう」


 ジェレミーの心配する表情がとても印象に残った。

 大事な役割を僕に頼んだは良いが、最悪は二度と会う事が出来無いと思っての事。

 また会いましょうと言う言葉には、それを払拭する希望が含まれていた。

 それぞれが自分の役割を果たす為に別行動を開始した。

 どうやら、二人は皇都の端と端で暴れ回り、処刑場にいる警備を拡散させる狙いだ。

 これはレオンハルト救出を助長する為の行い。


(僕にも解るように暴れるって...一体、何をするつもりなんだろう?とりあえず、僕は合図を待てば良いのか...)


 僕は、レオンハルトが処刑される広場へと移動して行く。

 後は救出をし易くする為の合図を待てば良いのだと。

 どうやら、爆発を利用して皇都を混乱させる事が合図らしいのだが、僕は、その合図を聞いていなかった為、直前までずっとヤキモキしていた。

 事前に知らせてくれれば良かったのに。


(僕の役目は、合図に合わせて処刑人を仕留めてレオンハルトを救出する事...)


 今回の作戦は、街の両端で爆発を起こし、都民(+警備兵)が混乱している間にレオンハルトを救出する事。

 僕の場合、合図に合わせて処刑人を仕留める事が役目。

 爆発を起こすなら、前もって知らせてくれればもっと楽に出来たのに。


(あそこが処刑台か?どうやら、三獣士エアホークはいないようだ)


 広場には急造の処刑台が作られていた。

 その周囲には沢山の警備兵が警戒をしている。

 だが、要注意人物の三獣士らしき人物は、この場所には居なかった。


(それよりも...処刑人が厳ついな。あいつを倒さなければならないのか...)


 自分の身体よりも大きな斬首刀を持つ大柄な男。

 服の上からでも膨れ上がった筋肉が目立つ。

 その着ている服も服と呼べる物では無く、ボロボロの布切れを何層にも重ねて全身を包んでいるだけ。

 布の色も、元の色が解らない程、真っ黒に変色していた。

 しかも、こちらから見えるのは口元だけで、その口は喋れないように縫い付けてあった。


(口が縫い付けられているとか、処刑人に人権は無さそうだな...奴隷なのか?ええっと、あの人がレオンハルトかな?)


 処刑人の傍には、鎖で繋がれた男が伏せていた。

 病院の入院着みたいな物を着させられ、随分と身体がボロボロな状態で拘束されている。

 ちなみに、この鎖は魔法具の一種で、魔封石(魔力を封じ込める石)で作られた、特殊効果が付与された(五感全てを封じる事が出来る)鎖だ。


(鎖が...かなり頑丈そうだな)


 処刑までの時刻が、刻一刻と迫っている。

 タイムリミットは、広場の鐘の音が一ニ回告げた時。

 僕はその機会を伺いながら合図を待っていると、鐘の音が鳴り始めてしまった。

 一度。

 二度。

 三度と鳴り響く。


(合図は...まだなのか?)


 無常にも時間は待ってくれない。

 四度。

 五度。

 六度。


(マーク!?ジェレミー!?)


 七度。

 八度。

 九度。

 心臓の鼓動が速まる。

 その焦りが緊張を誘い、身体が強張ってしまう。

 後三度、鐘が鳴ってしまえば処刑をされてしまうと言うのに。

 僕が(まだか!?)と焦り始めた時、ようやくそれが起きてくれた。

 「ドカーン!!」と派手な音が街の端で鳴る。

 その衝撃音が凄まじく、広場内が慌しく騒ぎ始めた。

 処刑に立会っていた都民達は驚き、あたふたと混乱し出した。

 爆発の衝撃は街全体へと広がり、荒々しい爆風が街の到るところを通過する。

 割れるガラス。

 倒れる木々。

 その様子を見た都民達は、広場から逃げるように慌てて一斉に動き出した。


(なっ!?合図って爆破だったのか!?)


 だが、鐘の音も止まらない。

 一〇度。

 僕は、この混乱に乗じてレオンハルトに近付いた。

 そして、呼吸を整えて処刑人の隙を伺う。

 好機はこの一度きりなのだから。


 一一度。

 弓矢を構えて、処刑人に狙い済ます。

 どうやら、屈強な処刑人も、爆発の所為で動揺しているようだ。

 処刑を続けて良いのか、その迷いが見て取れる。


 そして、一二度目の鐘が鳴る時。

 処刑人は、その瞬間が来た事に慌ててしまい、適当な持ち方のまま斬首刀を振り上げた。

 形振り構わず、無理矢理刑を執行しようとする処刑人。

 呼吸も乱れ、構えも乱れている。

 その専用の斬首刀でレオンハルトの首を落とそうと振り下ろした瞬間。

 僕は無防備な処刑人に狙い済ましていた矢を放つ。


「ここだ!!」


 相手は、その焦りから警戒が薄れてしまい隙だらけだった。

 そのおかげで、僕が放った矢は相手の頭を見事に打ち抜いた。

 混乱に乗じた一撃必殺。

 自身の集中力に、弓矢の精度。

 それは、とても満足の行く出来だった。


「よし!!今の内にレオンハルトを救出しなければ」


 爆発の騒ぎで、未だに広場が騒然としていた。

 誰も処刑場を見ていない。

 今が救出の好機。

 僕は、その間にレオンハルトの鎖を外した。

 周囲には敵が居ない。

 後は逃げるだけ。

 そう思っていると、上空から不意に声を掛けられた。


「やはり、ドブネズミがウロウロしていたか」


 先程、周囲を見渡したのだが、上空は盲点だった。

 僕は相手の特徴を忘れていたのだ。

 三獣士・空将エアホークの特徴を。


『三獣士・空将 鷹人エアホーク』

 鷹の顔を持つ人型で、背中に翼を持ち四本指の足が特徴。

 鋭い目つきに尖った嘴。

 身長、ニ五〇cm。

 自身の体長よりも長いランスを持つ。

 身に纏う装備は部分的な箇所を守る程度で頭、胸、腕、腰、脛の部分だけを覆う防具を着けている。


「我等がネプチューン皇に逆らう愚かな屑共め!一瞬でも救出が成功したと思った事を悔やむが良い」


 僕は、マークやジェレミーに伝えられた言葉を思い出していた。

 「三獣士と遭遇した場合、なりふり構わず逃げて欲しい」と。

 だが、この状況では、どうやら逃げる事は出来そうに無い。


(これは、戦うしか無さそうだな...)

「公開処刑は、まだ続いているぞ!私自らの手で完遂させる!」


 宣言と共に、広場にバトルフィールドが広がった。

 ラグナロクRagnarφkにおいて、BOSS戦は一撃では倒せないダメージ制。

 しかも、BOSSの強さは、こちらの強さに比例するシステム。


(僕が強ければ強い程、相手も強くなる...だからこそ、戦闘の技術が試されるんだけどね)


 エアホークは戦闘が始まったと共に、即座に翼を使い空中へと飛翔した。

 そして、地上から一〇m程浮いたところで停止し、こちらを見下ろす。


「国を汚すドブネズミが!何も出来ずに死ぬがいい!キェーーーーーーーっ!」


 上空から急降下し、ランスで刺突して来る。

 スピードはかなりのもの。

 その体格も相まって、軽自動車が勢い良く突っ込んで来る感じだ。


「それくらいのスピードなら!」


 僕は事前に身構えていた事もあり、相手の攻撃が良く見えた。

 上空からの攻撃と言えど、その攻撃は直線的な軌道の為、思いの他大した事が無かった。

 タイミングさえ掴めば、目を閉じてでも簡単に避けられそうだ。

 しかも、攻撃を避けてしまえば、エアホークは突撃の勢いが止まらず進んでしまうの為、すれ違い様に反撃も出来そうだった。


「この攻撃なら余裕で反撃が出来るぞ!」


 エアホークは先程と同様に、上空まで飛翔をする。

 その攻撃は先程と同じもの。

 一〇m上空まで上がり、急降下しながら突撃して来る攻撃だ。


「同じ攻撃を二度も続けるだなんて、あまい!」


 この攻撃は、一度見ているものだ。

 先程の軌道をなぞるように、相手の動きを読んだ上で弓を構える。

 そのまま狙いを済まし、反撃へと移れるようにサイドステップで避けた。


「無防備な!!」


 僕は攻撃を避ける際、標的を逃さない為に身体と弓の向きをエアホークに向けたままサイドステップをしていた。

 がら空きの脇腹。

 その一瞬の隙を伺うように、すれ違い様に矢を放った。


「よしっ!命中」


 攻撃は見事に命中。

 エアホークへとダメージを与えた。

 そのダメージを受けたエアホークは、防御などお構い無し。

 流石に攻撃パターンを変えて来るかと思っていたら、変わらず飛翔をし出した。


「同じ事の繰り返し?これは、ある程度ダメージを与えるまでは行動パターンが変わらないのか?それなら、僕の動きを変えてみるか!」


 変わらず同じ行動を取るエアホーク、

 僕はそれに対して、浮遊を使用して接近を試みる。

 相手の攻撃パターンが変わらないなら僕の戦闘技術向上の為、その礎となって貰う。

 だが、相手の飛翔(上昇)するスピードの方が速い。

 しかも、僕がが浮いた瞬間に、エアホークの攻撃パターンが切り替わった。

 空中を飛行しながら相手から僕の方へと接近をして来たのだ。


「わっ!まさかの新しい行動パターン!?」


 エアホークは飛行で近付いて来ると、その手に持っているランスで攻撃をして来た。

 その迫力は凄まじいもの。

 身体の大きさが相まって、かなりの威圧感を放っていた。


「くっ!迫力が凄いな!」


 エアホークが飛行で近付いて来る勢いで空気が揺れている。

 圧倒的な巨体が目の前に迫っている。

 しかも、野生の獰猛さを前面に持ち出し、ひりつく殺気を放ちながらだ。

 そのあまりにも鋭い威圧に恐怖してしまう。

 勝手に足がすくんでしまう程の呑まれ方。

 エアホークは、その飛行の勢いのままランスで突いて来ている。

 自分の身長よりも大きいランスを閃光のように走らせて。


「...やばいっ!?」


 動かなければ殺されると思い、必死に身体を動かす。

 だが、足がすくんで動けない。

 腰に力が入らないのだ。

 身体が言う事を聞いてくれないのだ。

 目の前に攻撃と言う暴力が迫り、確かな殺意を受け取る。


「!?」


 すると、一瞬で捉え始めた目の前の情報。

 相手の状態から僕の状態を、それらを平行して同時に考えていた。

 思い返せば、僕の状態は何だ?

 身体が動かない事が関係の無い、浮遊している状態。

 だったら、する事は一つ。

 浮遊の高度を下げる事。

 僕はそれを直ちに実行し、運良く相手の攻撃を回避した。

 エアホークの勢いのあるランスは、僕の頭上をかすめて攻撃の威力で髪が揺れていた。


「うわっ!ぎりぎり!!今のは危なかった!!」


 九死に一生を得た瞬間。

 これは、浮遊スキルのおかげで偶々助かっただけだ。


「今のままじゃ無謀で終わってしまう...先ずは、相手の行動パターンを解析しないと」


 今の僕では、相手に近過ぎると威圧で呑まれてしまう。

 その為、絶えず動き回る事を誓った。

 そして、浮遊で身体を操作しながら相手の行動パターンを解析して行く。

 これならば、足が動かなくても、浮遊で無理矢理身体を動かせるからだ。

 それに一定の距離さえ保てれば、相手の突撃して来る攻撃くらいなら楽に避けられると言うものだ。


「先ずは慎重に...そして、反撃が出来る時だけ攻撃をする...それ以外は回避行動が優先だな」


 そうして相手の行動パターンを解析して行く。

 浮遊のおかげもあって、エアホークの攻撃パターンを楽に見極める事が出来た。

 大前提として、エアホークは浮遊では無く飛翔(飛行)の為、飛び続ける事が出来無かった。

 その為、どうしても“動きが止まる瞬間”があった。

 それも、現状の行動パターンの中で何箇所か発見をする事が出来たのだ。

 一つ、飛翔により一〇m上昇した後、刺突へと移行する時。

 一つ、飛翔から飛行に切り替わり、刺突を行う勢いでブレーキが効かず、身体が流れている時。

 一つ、飛翔(飛行)は浮遊と違い、空中に浮き続ける事が出来無い為、必ず地上へと降りて来る時。


「この行動パターンなら、全部、弓矢で狙えそうだな...」


 弓矢は、現状、僕が出来る攻撃手段の中で有効なもの。

 魔法だと詠唱(拘束時間)がある為、発動までに時間が掛かってしまう。

 そうなれば、エアホークの攻撃の的だ。

 だが、弓矢なら構えたまま移動(浮遊)が出来る。

 すぐさま相手にと反撃が出来るのだ。

 僕は、エアホークの行動の隙を狙った、弓矢で確実にダメージを与えていく作戦を実行する。


「落ち着いて...確実に攻撃を当てる」


 浮遊したままの状態で、弓矢を構えていつでも攻撃が出来るようにした。

 そして、エアホークの行動を見極め、その隙を突くように確実に攻撃を当てて行く。


「そこ!」


 これは、集中力との戦い。

 何度も繰り返す事で、少ないダメージを積み重ねて行く。

 “塵も積もれば山となる”を体現した作戦だ。

 すると、エアホークの体力ゲージが四分の三を切った瞬間。

 また新たな行動パターンへと切り替わった。


「このちょこまかと煩わしいドブネズミが!!」


 ドスの効いた迫力のある怒声。

 頭の血管が浮き上がり、口が唾が飛沫する。

 これは、どんだけリアルなんだろうか?

 そんな事が頭を過ぎった。

 その叫び声と共に、エアホークはランスを正面に構え力を込め始めた。

 すると、周囲から緑色の粒子が集まる。

 その粒子は、エアホークの装備しているランスへと渦巻きながら収束して行く。

 そして、ランスが緑色の魔力に満たされた瞬間。

 エアホークは力一杯に、ランスを真横に薙ぎ払った。


「これでもくらえ!!」


 一閃。

 それは荒ぶる風を纏う閃撃となり、横一文字に斬撃が飛んで広がった。

 空気を切り裂きながら、僕の方へと向かって。


「えっ?風の...刃!?」


 エアホークが繰り出す、突然の遠距離攻撃。

 想定していない事態に戸惑う。

 頭が真っ白になった瞬間。

 僕は、その攻撃を避けられずに受けてしまった。


「ぐはっ!かっ、身体が!?」


 自身の身体が、上半身と下半身の真っ二つに分かれる衝撃。

 周囲の風を巻き込みながらの斬撃は、細かいかまいたちを生じ、僕の全身を切り刻んだ。

 その衝撃やダメージがもの凄い。

 一度の攻撃にで、僕のHPの半分を失っていた。

 しかも、身体には倦怠感が漂っている。

 献血後と同じように(それ以上の血を失っている感じで)、全身に力が入らない。


「血が...」


 身体から血を何本も抜かれたような気だるさ。

 しかも、全身に痛みが広がっている。

 このままでは不味い。

 身体はどうなっている?

 僕はそう思い、急いで全身を触りながら状態を確認した。


「 ...良かった。身体が繋がっている」


 どうやら、身体が真っ二つにされた衝撃は、感覚だけで済んでいたようだ。

 胴体と下半身が無事に繋がったまま。

 一先ずの安心だ。

 だが、血が滲む程度に、僕のお腹が横に切り裂かれていた。


「くっ、初見でこの攻撃はきついぞ...相手が、今の攻撃モーションに入った時点で反対側に回るか?それとも、浮遊で範囲外まで避けるか?」


 血が滲んでいるお腹を押さえながら、痛みを我慢する。

 都合良く、戦闘中の興奮作用により痛みを直ぐ忘れる事が出来た。

 これは、脳内麻薬アドレナリンが出ているおかげか?

 そして、この攻撃の対処方法を考える。

 僕の場合、浮遊持ちの為、同じ攻撃なら次は上手く対処出来そうだ。

 だが、浮遊を持たない普通の人物なら「攻撃をどう対処するのか?」と疑問が浮かんだ。

 そんな事を考えていると、既に相手は次の攻撃モーションへと移っていた。


「くっ、考えている暇は無いか!動きながら対応するしかないな!」


 目の前の相手に、常にジャンケンの後出しをされている気分だった。

 だが、泣き言など言ってられない。

 相手の新しい行動パターンを解析しなければならないのだから。

 先ずは、回避行動が優先だ。

 浮遊を使用し、エアホークの攻撃を避ける事を第一とする。


「...」


 黙々と作業に没頭をしていた。

 どうやら、新しい相手の行動パターンは、近、中、遠の三パターンに分かれていた。

 近距離の場合、ランスでの連撃を繰り出して来る。

 これは横へのなぎ払いから始まる連撃か、突きから始まる連撃の二種類。

 それぞれ三から四連撃で終わる攻撃だ。

 パターンはこの二種類のみで、三連撃後さえ注意していれば四撃目には問題なく対応出来るもの。


「エアホークの迫力にも慣れたおかげかな?攻撃が全然怖くない。注意点は、三撃目が終わった後すぐには攻撃せず、四撃目を見極めれば難無く対処出来るな」


 中距離の場合、地上からの刺突攻撃、又は、飛翔で上空へと昇り急降下を利用した刺突攻撃。

 こちらも攻撃パターンは、この二種類のみ。

 どちらも直線的な攻撃なのと、攻撃を繰り出す前のモーションが特徴的なので解かり易い。


「地上からの刺突攻撃は一瞬!だけど...それだけだ!」


 地上から始まる攻撃は、攻撃前に必ずランスを真正面に立てて、柄を地面に叩き付けるモーションから攻撃を繰り出す。

 その構えは、真っ直ぐ相手を突けるようにランスを両手で構え直す必要があった。

 腰を落とした状態で右足を引き、いつでも駆け出せる構えだ。

 突撃のスピードは一瞬だが、エアホークが攻撃モーションに入った時にサイドステップを繰り出せば余裕を持って避ける事が出来る攻撃。


「上空からの攻撃は、最初と同じか」


 上空からの飛行を使用した突撃は最初と変わらず、最高地点から飛行の勢いで繰り出す攻撃。

 なので、浮遊で簡単に対処出来るものだ。


「遠距離は...さっきの厄介な攻撃...」


 遠距離の場合、先程の魔道武器のランスを使った範囲攻撃だ。

 横薙ぎの閃撃で風のかまいたちを纏った広範囲攻撃である。


「どれも瞬間的な判断が必要だけど、迷っている暇は無いな」


 飛んで来る閃撃は、周囲の風を巻き込んだかまいたち。

 広範囲に斬り付けて来る攻撃の為、ジャンプでは避けられない。

 なので、エアホークがランスを構えて魔力を込めている間に、急いで相手の目の前まで近付く。

 そして、閃撃を放つ瞬間、エアホークの背後へと回り攻撃を避けるしか無い。

 もしくは、僕の場合なら浮遊で上空に離れるかだ。


「よし!全パターン解析完了!ここからが...反撃だ!!」


 攻撃パターンの解析は出来た。

 なら、後は相手を仕留めるだけ。

 相手の動きに合わせた行動を取り、僕の攻撃は確実に当てて行く。

 何度も繰り返し。

 地道に、何度でも。

 そうして、ダメージを繰り返し当てていると、新たな事実に気が付く。

 それは、攻撃を当てる部位によってダメージ量が変わる事だった。


「これは...エアホークに弱点が、あるのか?」


 当たり前だが、防具で守られている箇所は弓矢ではダメージを与える事が出来ずに弾かれた。

 もしかしたら、打撃系の攻撃ならばダメージを与える事は出来るかも知れないが、僕自身にそんな余裕が無い為、調べる事を諦めた。

 そして、此処からが本題。

 特定の部位へと攻撃を当てる事が出来た時、通常よりもダメージ量が増えていた。

 どうやら、エアホークの急所は翼の付け根部分らしい。

 剥き出しになったその背中。

 その場所に攻撃を当てる事が出来れば、通常よりも多くダメージを与える事が出来た。


「これなら!狙うは背面だ!」


 急所が解った事で、そこを狙い打つ集中力を高める。

 命中精度を上げるのだ。

 その際、自身の持つ思考の雑音を遮断するように、僕が今出来る事だけを考えて目の前の事だけに集中して。


「...」


 すると、頭の中で余計な雑音が薄れて行く。

 しかも、カメラのピントが合うように、視界が相手にだけ絞る事が出来て。


「 」


 意識に余計な雑音が無い。

 行動と思考が一体化した感覚。

 その状態を保ったままに、エアホークの急所部分に攻撃を確実に当てて行く。

 そうして、エアホークの急所を攻めていると、徐々に翼の形が変化をし始めた。

 翼はボロボロに負傷して行き、羽が毟り取られて行く。

 更にダメージを重ねる事で、最終的には、背中の翼が無くなった。


「ぐっ!まさか翼が!」


 エアホークは翼が無くなった事で空が飛べなくなる。

 その状態では、攻撃パターンが限定されてしまう。

 ランスを振り回すか、閃撃を飛ばすだけの状態だ。


「これは、新しい発見だ!」


 こうなってしまえば、浮遊と言う上空からのアドバンテージが活用出来る。

 しかも、エアホークの対空攻撃が無くなった為に、余裕を持って魔法で攻撃が出来る。


「これなら、魔法で一気に決める!」


 エアホークは地上にて、その場で右往左往している。

 翼が無い事で、バランスが崩れてしまったようだ。

 僕は、その何も出来無い相手に容赦はしない。

 浮遊した状態で狙いを定めて魔法を唱える。


「ファイアボール!」


 ヴォイスアシストにより、呪文の詠唱が始まった。

 体内から赤い粒子が集まり出す。

 その粒子は収束を始め、光の輝きが増して塊となった。

 それも一つでは無く、等間隔に三つ。

 呪文の詠唱が終わると同時。

 光の塊は発光し、燃え上がる火の球となった。


「その身を燃やし尽くせ!!」


 光の発光が周囲に広がり切ると、三つの火の球は螺旋を描きながら勢い良くエアホークへと飛んで行った。

 相手は為す術が無い。

 避ける事も出来ず、その全てを被弾した。


「がああああ!!!」


 火による燃焼のダメージと、衝撃によるダメージが加わりエアホークのHPを大幅に削った。

 魔法は、弓矢の攻撃よりもかなり強かった。

 一気にエアホークのHPを四分の一まで減らす。

 すると、エアホークに急激な変化が訪れた。


「もはや...ここまでやるとはな...だが!これで終わらせる!!」


 エアホークが叫ぶと、周囲から緑色の粒子が身体へと集まり始めた。

 全身の毛は逆立ち、身体の筋肉が隆々と膨れ上がる。

 しかも、無くなっていた翼は生え変わり、再び飛翔(飛行)が出来る状態へと戻ってだ。


「えっ!翼が復活した!?」


 全身が緑色の魔力に覆われ、身体が一回り大きくなったエアホーク。

 バチバチと緑色の魔力が弾けている。

 周囲を切り裂く、細かいかまいたちだ。

 すると、エアホークは上空へと飛翔し、僕を見据えながら上空に留まった。

 それは、エアホークの必殺技。

 風の力を最大限移用した突撃を繰り出す構えだ。

 身体を覆う魔力が、更に膨れ上がった。

 しかも、それに合わせて、エアホークの周囲に荒ぶる風が集まる。

 それは徐々に風が渦巻きながら、周囲を巻き込む竜巻のように大きくなって。


「跡形も無く消し飛べっ!」


 飛行した状態から風の勢いを利用した突撃。

 その身体の周りを渦巻いている風は、触れる物全てを鋭利に刻み、周囲を削り取って行く。

 エアホークが近付いて来ると、暴風の求心力により、僕の身体が勝手に吸い寄せられて行く。


「なっ!?」


 僕は慌てて浮遊を使い、急いで攻撃範囲外へと移動した。

 エアホークの狙いの反対側へと向かうのだが、相手の勢いの方が凄い。

 風の力も利用しているので尚更だ。

 しかも、今までの速さと比べる事が出来ない程の速さで。


「くっ、間に合うか!!」


 生命の危機を感じ、死が手招きしている。

 まるで、時がゆっくりと進み、コマ送りで世界が動いているようだ。

 そのスローモーションの世界で、せめぎあう攻防。

 これは相手の攻撃が当たるか、当たらないかのギリギリの勝負だ。

 

「!!」


 僕は精神をすり減らしながらも、必死に身体を動かす。

 そのおかげもあり、相手の広範囲攻撃を、身体をギリギリかすめる事で回避する事に成功した。


「くっ!またしても、ギリギリ!!」


 攻撃を避けて安心をしたその時。

 エアホークは流れる身体をこちらへと無理矢理、方向転換させた。

 そして、身体を向き直した瞬間、突撃の勢いと、ランスに渦巻く竜巻の威力を僕に向けて放った。

 それは、突撃と放出の二段構えの必殺技。


「なっ!?そんな事も出来るのかよ!」


 僕が攻撃を避けて、安心しているところに合わせての新たな攻撃だ。

 緊張が緩んだ為、反応が遅れてしまった。

 だが、こちらは浮遊状態。

 多少の反応の遅れなど関係無しに、身体を無理矢理にでも動かした。


「うおおおお!!!」


 この二段構えの広範囲攻撃は、エアホーク最大の必中の攻撃。

 ...の筈だった。

 僕は浮遊スキルのおかげで命拾いし、現状使えるものを全て使った結果、そして運も味方した結果。

 エアホークは無防備にも、自身最大の技を放った反動でその場で硬直していた。

 これは千載一遇の好機。

 この戦闘を終わらせる為にも、僕はこの隙を逃さずに魔法で一気に止めを刺しに行った。


「ファイアボール!!!」


 硬直して動けないエアホークの無防備な状態に、三つの火の塊が命中した。

 火の塊は相手に衝撃を与え、更にはエアホークの身体を焼いて行く。

 そうして、エアホークの残りHPを全て奪い、戦闘不能へと追いやった。


「まさか、負けるとはな...ネプチューン皇。申し訳ありません。我が魔獣諸国連邦ポセイドンに栄光あれ...」


 エアホークは最期の言葉を残し、その身体は粒子となって散って行った。

 そして、身体の中心にあったエアホークの魂は、僕に吸い込まれた。


「さすが...三獣士の魂。他とは密度が全然違う」


 エアホークの魂が僕の魂へと吸収されると、力の源である魂位が上昇するのを感じた。

 自身の能力全てが軒並みに上昇した事を感じ、HPが回復した訳では無いのに、僕のダメージを負っていた身体が少し楽に感じた。


「身体中がボロボロだ。傷を癒さないと」


 ようやく、バトルフィールドが解除されて戦闘が終了した。

 僕はアイテムバックからポーションを取り出し、傷付いた身体を回復させる。

 思い返せば初めてのBOSS戦。

 振り返っても反省点ばかりだ。

 戦闘中にアイテムを使用出来る程の余も無かったのだから。


「今になって身体の痛みが...ポーションがすんなり飲めないな」


 ポーションは野菜ジュースみたいな味だ。

 普段であれば、比較的飲み易い方となるのかな?

 これがもし、青汁みたいな感じであればドロドロして飲み辛いし、味も不味い物。

 そうでなくても、身体が疲れている時や、口が乾いている時はポーションは飲むのがキツいのだ。

 だが、飲むと直ぐに効果があり、身体中の傷や痛みが無くなった。


「ふーっ」


 これは、細胞が活性される事で治っているのか、それとも状態が怪我をする前に回帰して治っているのかは解らない。

 とても不思議な感覚だが、傷は回復しているのだ。

 ダメージも消えていた。


「これからは戦闘中でも、身体のダメージを意識しないとダメだな」


 今回は運良く初見で倒す事が出来た。

 だが、次回のBOSS戦ではそう上手くいかないだろう。

 普段から自身のダメージや状態異常を確認しながら戦闘をする事を肝に銘じる。

 正直、行き当たりばったりだった。

 浮遊が無ければ負けていた。

 でも、今のところ戦闘で負けた事は無い。

 そして、ゲームで死んだ事も無い。


(...負けたくない。それ以上に...死にたくない)


 システム上ダメージを負った場合、それに伴った痛みを感じる。

 随分とドエム使用のゲームだが、現実と同じ感覚を得る事が出来るのだ。

 それは、痛みだけでは無く、快楽も含めて。

 そこで疑問に思う事が、自身を投影しているキャラクターが死んだ場合どうなるのか?

 僕は、それをまだ身を持って実感していない。

 一説には、キャラクターが死ぬと本体は強制的に意識を失いブラックアウトするらしいが。

 本当なら、それだけでかなりの恐怖体験だと思う。


(...うん!そんな事が起きないように、そんな事を起こさないように、自身の能力や技術を上げて行こう!)


 僕は心に深く、そう誓った。

 後は皆と合流して、此処を脱出するだけだ。

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