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ラグナロクRagnarφk  作者: 遠藤
新世界・少年期
55/85

054 彷徨いの精霊人②

「???...??????」

(ここは...どこだろう?)


 空間が歪んでいる穴へと飛び込んだ精霊人エルフの子供レア。

 どうやら見知らぬ土地へと来ている様子。


「???...???、????????...?????...」

(マナが...踊って、いる?こんな光景...初めて見た...)


 どうやら今居る場所は、空気中に溢れる体外魔力マナの量が多いみたいだ。

 これ程、体外魔力マナが多い場所は精霊人エルフの国では見た事が無いらしい。


「?!??????????」

(っ!?オドが喜んでいる?)


 自身の中に存在する、体内魔力オド

 どうやら周囲の体外魔力マナに感化され、活性化されているようだ。


「?...?????!?」

「何...この場所は!?」


 子供と言えど、精霊人エルフであるレアは魔力感知に優れている存在。

 この場所の異常性が身に染みる。

 「バッ!」と勢い良く周囲を見渡す。

 どうやらこの時に初めて、森の中に居る事を知った。

 そして森の中の開けた場所に居る事も。


「???...????????。??...??????」

(広場?...とても綺麗な場所。花も...踊っている?)


 多種多様な花が咲き乱れる広場。

 その色合い、その香り、此処でしか感じられないものだ。

 そしてこの広場で一際目に付くものが、薄桃色の花を満面に広げる大樹。

 「フワーッ」と風がそよぐと、その花びらも一緒に舞い踊る。


「????...????」

(失われた...世界樹?)


 レアが「ポロッ」と口に出してしまった言葉。

 その大樹からは、それ程不思議な力を感じているようだ。

 レアが今までに感じた事の無い力で、見た事も無い力。


「?????...??」

(霊樹よりも...凄い)


 精霊人エルフの国で、レアが閉じ込められていた大樹(居住地)も魔力に愛されている存在で、霊樹と呼ばれるもの。

 目の前にある大樹はその霊樹と比べると、遥かに小さい樹ではある。

 だが、その神秘的な力は、比べる事も出来ない程に圧倒的な差があった。

 その大樹が内包する魔力。

 その大樹が生み出す魔力。

 その大樹に誘われる精霊。

 その大樹に感謝する精霊。


「?????????、????????????。...???????」

(魔力だけじゃな無く、精霊にも愛されている場所。...とてもいい場所)


 その大樹を見上げて、レアはそう感じる。

 この場所こそが、精霊人エルフが求める桃源郷なのかも知れないと。


「????????...????????」

「ここは精霊人エルフの国...じゃないのかな?」


 周りをキョロキョロするがレアには解らない。

 そして、どうやった自分が此処に辿り着いたのかも解らない。

 自分に解る事は、此処に来るまでにずっと抱いていた感情。

 見知らぬものへの憧れと期待。


「??????...????????」

(もしかしたら...天使様に会える?)


 それを探しに行くように、好奇心に誘われて「ふらっ」とこの場所を離れる。

 その言葉を淡く胸に抱いて。




「ここからは、僕にも何が起こるか解りません。くれぐれも集中を切らさないで下さいね?」


 僕達が居る場所は山の頂上の石造りのダンジョン。

 ダンジョン。

 この世界では古代遺跡ダンジョンと呼ばれる。

 自分達の技術では再現出来無いその超常の力。

 見た事も無い魔物に、見た事も無いお宝。

 己の強さを証明する為に、または一攫千金を夢見て古代遺跡ダンジョンに潜るのだ。


「うむ。私の力量は解っているつもりだ。油断など出来る訳が無かろう?」


 メリルは古代遺跡ダンジョン経験者。

 但し、僕はメリルからその時の話を聞いた事が無い。

 それに他人の過去の話は無理矢理聞くものでも無いし、メリルが伝えてくれるまでは聞くつもりも無い。

 誰にだって他人に言いたくない話はあるし、自分だけが抱えている打ち明けられない悩みはあるのだから。

 ただメリルが、古代遺跡ダンジョンの怖さを知っている事は確かだ。


(メリルさんが古代遺跡ダンジョンに思い入れがある事は確か。それが良いものか悪いものかは解らないけど...)

 

 ただ僕が気になる事は、今のメリルが自分の事を過小評価している事だった。

 今現在、魂位やステータスが低い事は確かなのだが、それを補える技術が身に付いている事を本人がまだ解っていない。

 どうしてそんなに自分の評価が低いのだろう?

 今までのメリルよりも、格段に強くなっているのに。


「おう、任せろ!俺はこんなところで死ぬつもりなど無い!そして、これからもだ!」


 メリルに続いて、ギュンターは力強く返事をした。

 だが、今の発言は本人に自信があっての発言では無い。

 言うなれば、死にたく無いからこその宣言であり、自分を奮い立たせる為の覚悟。

 それはギュンター自身が、生きると言う事が簡単では無い事を知っているから。

 何故ならギュンターはスラム街出身。

 毎日、食べる事も満足に出来無い。

 毎日、寝る事もゆっくり出来無い。

 毎日、生きる事が死との隣り合わせ。

 そんなスラム街の環境下で、同じ境遇の仲間を導いて必死に此処まで生存して来たのだから。


(個人の人格やその志は生まれた環境に左右されてしまう部分だと思う...)


 そしてギュンターは、ようやくその劣悪な環境も終わりを告げて、新たなる環境へと身を投じたところ。

 それはギュンターがずっと夢に見ていた生活で、苦楽を共にした仲間との安定した生活。

 お腹一杯に食べる事が出来て、他人に怯えずに熟睡が出来て、そして必然的な死から免れた生活。


(だからこその...ギュンターの“強さ”なんだろうな)


 仲間を守る為の肉体的な“強さ”。

 仲間を導く為の精神的な“強さ”。 

 その責任を果たす為の意志を貫く“強さ”。

 それらは全て、スラム街出身だからこその“強さ”なのだ。

 これまでにギュンターは、一度も仲間を見捨てた事が無い。

 そして、それは今後、ギュンターの立場が変化したとしても変わる事が無い不変の志。


「うん!魔物が現れたら一定の距離を取って、相手の動きを見れば良いんだよね?」


 僕がさくらに伝えた事。

 それは“自分の身は自分で守る事”。

 何故なら、“人生は自己責任”なのだから。


(仲間との協力と連携は...全然違うものだ)


 仲間がいる事は協力し合えて心強い事だが、どうしても馴れ合いに生じる時が来る。

 僕達はお互いに協力し合う仲間だが、それ以前に個人なのだ。

 それは個人の成長があってこその協力であり、連携があってこその仲間なのだ。


(仲間だからこその甘え...期待しちゃうよね)


 相手を知っているからこその甘え。

 仲間と協力をするからこその甘え。

 例えば、自分が出来ない事は仲間が出来る場合。

 それだと「自分は出来ないままでも良いか」とその成長を止めてしまう。

 例えば、自分の動きに合わせて仲間が動いてくれる場合。

 それだと「仲間が動きを合わせてくれるなら」とパターン化してしまう。

 必ずしも結果がそうなる訳では無いが、このように協力しているだけでは弊害があるのだ。

 協力する事は前提なのだが、その先の連携を目指しているのだから。


(自分と違う他人だからこそ、各々が満足している完璧な連携が出来る事など人生で何回あるのか?もしかしたら、それは一度も経験出来ずに終わるかも知れないな...)


 きっと僕が求めている事は、緻密に練られている完璧な連携で美しいもの。

 それがどう言うものかは再現を出来ないが。

 きっとそこまで求める事も、そこまでする必要も無い事だと思う。

 これは単なる僕の願望で、夢に近い目標だから。


(まあ、そこまでしなくても良いんだろうけど...ただ、それとは別に、個人の力が必要な事は変わらないからな)


 さくらが望んでいる事も個人の強さが前提。

 だからこその“自分の身は自分で守る”なのだ。


「これなら皆、丈夫そうですね。それに古代遺跡ダンジョンと言ってもこれは特殊なギルドダンジョン。今は一階層だけの簡単なものです」


 メリルやギュンターが思っているものは古代遺跡ダンジョン

 それはゲーム時代の遺物であり、現実となった今ではその危険度が計り知れないものだ。

 明らかに、任意設定が出来るギルドダンジョンとでは危険と言う事に差がある。 


「じゃあ、中へ行きましょう」


 そうして僕達は、多少の不安と期待を抱えながら遺跡へと入った。

 入り口を抜けると坑道のような狭い通路となっており、落盤の危険の無い整備された石造りの遺跡。

 蔦が所々に蔓延り、空気が湿っている。

 臭いはそこまで無く、ふと意識した時に誇りっぽい匂いが香る程度。

 僕達はその狭い通路を進んで行くと、少し広めの部屋へと出る。

 目に付くのは大きな両開きの石扉位で、他は特に何も無い。

 此処の先の扉を抜けた先がお目当てのギルドダンジョンとなる。


「さて、内部はどうなっているかな?」


 此処から先は、ギルドダンジョンに入る度に内部が変わる不思議のダンジョン仕様。

 一度でその全貌が把握出来る訳では無いからこそ、飽きが無く何度も潜る事が出来る。

 但し、此処で出て来る魔物はまだ限定されているが。


「凄いな。教会に長い事居るが、まさか、こんな古代意識ダンジョンがあるとは思わなかったぞ」


 メリルがやたらと驚いている。

 それはそうだ。

 このギルドダンジョンが出来たのは昨日なのだから。


「メリルさん。ここはギルドコアによって生まれたギルドダンジョンです。他の古代遺跡ダンジョンとは違い、成長をするダンジョンなのです。それに、ここは昨日生まれたばかりですからね」


 ダンジョンが成長する。

 メリルはその事を初めて聞いてのだろう。

「そんな事があるのか?」と目を見開いている。

 何故なら、他の古代遺跡ダンジョンは内部が変化する事など、ましてや、その階層が増えて行く事など在り得ないのだから。

 基本、古代遺跡ダンジョンでは、内部が壊れてしまえばそのままだ。

 修復するには人の手で直すしかない。

 その為、歴史的建造物の観点から古代遺跡ダンジョン保護組合が存在する程。

 まあそこまで簡単に壊せる古代遺跡ダンジョンは稀で、剣で斬り付けても、魔法が当たってもビクともしない強度を誇るのが古代遺跡ダンジョンなのだが。

 その古代遺跡ダンジョンが壊れる程の威力は、正直僕には想像がつかない。


「ルシウス!この先に行けば、俺も強くなれるんだな?」


 ギュンターが真剣な表情で聞いて来る。

 だが、これは少し不純な動機が混じっている。

 もしかしたら、逆に真っ直ぐ過ぎるのかも知れないが。


「ええ、ギュンター。魔物を倒す事が近道です」

「そうか...それならメリルさんよりも強くなれるって事だな!!」


 そう。

 ギュンターは、メリルに一目惚れをしたその時から愛を捧げ、メリルよりも強くなる事で彼女に振り向いて欲しいのだ。

 本来このギルドダンジョンに潜るメンバーは、僕とさくらとメリルの三人だけだった。

 だが、ギュンターはダンジョンに潜る事でメリルが今以上に強くなる事を危惧した。

 自分だけ置いてかれては強さの差が開き、メリルに認めて貰う事が出来ないと駄々をこねた。

 何故なら、ギュンターはその先の結婚すらも意識しているのだから。


「「...」」


 僕もメリルも、目をパチクリさせて言葉が浮かばない。

 思考が停止する事ってあるのだと身をもって知った。


「ルシウス?身体強化は中に入ってからで良いの?」


 さくらが質問する。

 これはタイミングが本当に良かった。

 僕は一人燃えているギュンターを放置して、さくらの方へと向き直した。

 何だろう?

 心から癒されるよ。


「そうだね。さくらの魔力量を考えれば全然問題無いけど、ダンジョン内では常に気を張る状態になるから精神的な疲労の方が大きくなるかも?途中で休憩は取るつもりだけど、中に入ったら身体強化を切らさないように注意してね?」

「うん。解った!」


 僕は皆の顔を見渡した。

 今の皆の状態はかなり良い。

 程良くリラックスも出来たし、程良く緊張感を保ったままの今が。


「じゃあ、行こうか!」


 ギルドダンジョンの扉を開けて中へと入った。

 光が「スーッ」と扉の奥へと入って行く。


「...思ったよりも明るいんだな?これなら何とかなりそうだ」


 メリルがダンジョンの中を見てそう言った。

 ダンジョン内部は外部から閉鎖された空間で太陽の光は届かない。

 だが、光が無い訳では無い。

 天井からは、自然に発光されほのかに薄暗い程度。

 二〇m先となると見え辛いが、その間の距離なら僕達の顔はハッキリと見える。


「メリルさん!大丈夫だ!!ルシウスがいれば問題無い!この世にルシウスより怖いものなんて存在しないのだから!!」


 「ハッハッハッ!」と笑いながら大声で訳の解らない事を言い出したギュンター。

 この世に僕よりも怖いものが無いだって?

 そんな訳無いのに何を言っているんだろう?

 それは心外だよ。


「ギュン...っ!?」


 僕がギュンターに注意をしようとした時、言葉をメリルに遮られる。


「ああ、確かにそうだな...訓練中のこちらを射殺すような眼差し。その身に宿す膨大なマナ。そして子供離れした戦闘技術。どれも私が出会った物の中で断とつだ」


 えっ?

 メリルまで何を言っているの?

 こんなのは魂位が上がれば誰だって出来るようになる事だ。


「そうだろ?あの時だって...」

「うむ。そう言えば...」


 二人は僕の話で盛り上がり、内容が白熱している。

 直ぐに自分達もそうなるのに、訳が解らない。


『マスター。どうやらお互いの認識に相違が見られます』


 その時、プロネーシスが困っている僕を見かねて口を出してくれた。


『マスターはゲーム時代と言えど、最大魂位まで能力を上昇させております。その時の能力が、現状のマスターに対して比べる事が出来ない能力だと知っているのです。ですが、二人は先の事を知りません。未来の自分に対して、比べる事も出来ない能力だと知らない状態なのです』


 成る程。

 それで合点がいった。

 二人が言っている事は自分達の知っている範囲での話なのだ。

 それは井の中の蛙であり、お山の大将である事。

 ただそんな下らない事をする者は、自惚れて強さを履き違えている者だけだ。

 僕は本気で、現在の自分の力量が大した事では無い事を知っているのだから。

 魔法が使えず、魔力操作が上手いだけの子供。

 戦闘技術はゲーム時代の恩恵もあるので、自分でも自負はある。

 だが、それでも魂位の低い子供に変わり無い。

 僕がやっている事は、その戦闘技術でカバーしているだけに過ぎない。

 魂位の高い魔物に出会えば、単純な身体能力差に殺される。

 それは相手が人であっても同様に。

 何故なら僕は、魂位がたったの二しか無いのだから。


「ルシウス...」


 さくらが僕に声を掛けて現実へと戻してくれた。

 ただ何処か、その様子が可笑しい。


「さくら...?どうしたの?」


 僕がさくらにそう聞くと、さくらは無言のまま僕の袖を掴んだ。

 どうやらダンジョンの暗さが怖いらしい。

 何かに怯えるようにキョロキョロと周囲を見渡している。

 ただそんなさくらだが、僕が伝えた通り魔力による身体強化はしっかりと行っていた。


「...大丈夫だよ」


 僕はさくらの不安を拭うように、ゆっくりと語り、優しく笑い掛けた。

 そうして僕の袖を掴みながら震えているさくらの手を取り、安心して貰うように手を繋いで。


「ほら?こうすれば、もう怖くないでしょ?」


 すると、さくらの強張っていたその表情も柔らかくなり、身体の震えが止まった。


(ただ、さくらの感じている怖さは...全てを拭う事が出来てないのだろうな...)


 他人からどんな言葉を掛けられようが、当たり障りの無い口当たりが良い言葉を掛けられようが、本人にしか解らない恐怖がある。

 それは幽霊を信じている相手に、幽霊は科学的に存在しないから大丈夫だよと言うようなものだ。

 僕が出来る事はその恐怖に対して寄り添い、相手の不安を和らぐ事。

 幽霊がいる事を否定せずに、幽霊がいたとしても僕が一緒にいるから大丈夫だよと伝える事だ。


「...うん!ルシウス。ありがとう!」 


 この笑顔が見られたのなら、もう大丈夫かな?


「じゃあ...後ろの二人は置いて先に行こうか?」


 僕達の背後で、まだ話に白熱しているメリルとギュンター。

 はあー。

 僕の事でそんなに話す事があるなんて、何だかショックだよ。

 と言うか、後半悪口になっているよね?


「あいつは人の心を失くしてしまったんだ。だから模擬戦の時でも平気で人の弱点を突いて来るんだ...きっと、人間の皮を被った悪魔なんだ」


 メリルは自分の顔を両手で覆い、その時の事を思い出しながら震えている。

 瞳がギョロギョロと動いて、逆にメリルの方が怖い。


「確かにそうだな...俺もこないだ、肉体トレーニングしている時に“ギュンター。それじゃあトレーニングになって無いよ?”とか言い出して、“負荷を掛けるなら自分の限界を超えてやらないと意味が無い”とかで、平気で重りを増やして来るんだぜ?」


 ギュンターは話の途中で僕の真似(?)をしながら喋っている。

 似ているのかは置いといて、その時の表情が何とも言えない位に腹立つ。


「それで俺が腕をプルプルさせながら腕立てしていると、“残り五回!”って言い出して、”嘘だろ?此処からはもう無理だって!“と思うんだけど、負けたく無いから何とかその数をやり遂げるんだ。そしたら“まだ行ける!後三回!”とか言い出して数を増やすんだぜ?あれは子供じゃ無いね。鬼だよ。それも人の苦痛を餌にしている羅刹だね」


 よし!

 これで今後、個別訓練で手加減する必要は無くなった。


(僕の事を悪魔や鬼と呼ぶのなら、本当の地獄を...見せてあげないとね?)


 僕とさくらは二人を置いて、先へと進む。


「なっ!?待ってくれ!」


 こちらの動きに気付き、慌てるギュンター。


「置いて行くとは、やはり人の心が無いのか!」


 もはや、メリルは感情を隠そうともしない。

 僕はそんな二人に、解り易く睨んで威圧する。

 先程メリルが言っていた、射殺すと言う眼差しを数倍、濃縮させて。


「「ヒィッ!!」」


 と解り易く身悶える二人。

 呼吸をする事が辛そうに、喉を押さえながら苦しんでいる。

 いい気味だ。


「許して...くれ...」

「私が...言い過ぎ...た」


 さくらは頭に「?」を浮かべながら二人を見ている。

 何をそんなに苦しそうにしているのか、さくらは解っていないから。

 何故なら僕は、その威圧をさくらには一切向けずに、二人だけに絞って当てているのだから。

 二人は無視して懲らしめながらこのまま進んで行くと、僕が広げている魔力圏の中の魔物に反応があった。


『マスター。一五m先、魔物に動きがあります』


 そう。

 ギルドダンジョンの広さは、僕の魔力圏の範囲よりも狭い。

 ギルドダンジョンに入ったその瞬間から、一階層に存在する魔物の位置を全て把握していた。


「(...確かに。曲がり角の先にいる一体がこちらに向かって来ているな)...皆、この先曲がったところに魔物がいます」


 僕は歩みを止め、さくらと手を繋いでいない方の手で皆の動きを静止した。

 そうして魔物が此処に近付いている事を知らせて。


「「「!?」」」


 すると、皆が一斉に身構えた。

 僕と手を繋いでいるさくらは、その手を離して戦闘態勢を取った。

 魔力操作(放出)がメインなので、武器は身を守る為の物。

 今は、僕が石から作ったナイフを装備している。

 それでは心許無いと思うかも知れないが、石のナイフと言えど侮るなかれ。

 ナイフ単体でも人の骨位なら「スパッ!」と切る事が出来る。

 魔力を纏えば尚更だ。


(さくらの場合、魔法が主体だから、ナイフの扱いはまだまだなんだけど、それでも最低限は自分の身を守れる感じかな?)


 メリルも瞬時に武器を構えて、戦闘態勢を取った。

 メリルが持つ武器は自前のロングソード。

 何やら昔から愛用している物で、随分と年季が入っている。

 メンテナンスはしっかりと行っているので、斬れ味は問題無い。


(年代物だけど、斬れ味はしっかりしているんだよね...今のメリルさんの動きなら、これから戦う相手なら余裕だろうな)


 ギュンターは魔力を身に纏って戦うタイプ。

 どんな時も、己の拳一つで戦って来た。

 その為、武器は何も持たず、自分の身体全てを使う。

 それに拳撃を飛ばす事が出来るので、臨機応変に対応が出来るのだ。


(誰かに武術を教わった訳でも無いのに、あれだけ動けるのは凄いよな...動きの無駄は多いけど、実戦で鍛えて来たんだろうな)


 皆が、これから来るだろう魔物に対して戦闘態勢を取った。

 曲がり角の先、直ぐにそいつはもう来ている。

 その一階層に居る魔物とは、フォレストリザード。

 体長六〇cm位のトカゲだ。

 

「あれは...アイデクセか!?...だが、見た事も無い種類だと?」


 メリルが魔物を視認すると、そう叫んだ。

 それはこの国でトカゲを意味する言葉。

 地面を這い蹲って、手足を上手に動かしてこちらに迫って来る。

 ただ相手は一体だけなので、四人で囲めば問題無い相手だ。

 僕はそれぞれに指示を出す。


「さくら!ギュンター!先ずは二人の遠距離攻撃で敵の進行方向を限定させて!メリルさんは敵が逃げ出したところを仕留めるように相手の動きに合わせて!」


 二人は返事をすると、同時に行動を移した。


「うん!」


 さくらはフォレストリザードを正面で捉え、両手を真っ直ぐ突き出した。

 その時、右手はナイフを構えている為、体内の魔力を左手へと集める。

 その魔力を圧縮させて、形を球状に整えて行く。

 それは野球ボール位の大きさへと変化させて。


「おう!任せろ!」


 ギュンターも同じように拳へと魔力を込める。

 それは拳の部分にだけ魔力を凝縮させて。

 準備が整ったところで二人は目配りをし、その呼吸を合わせる。


「マギークーゲル!!」

「虎爪破!」


 同時にフォレストリザードへと放たれた遠距離攻撃。

 さくらからは、圧縮させた魔力球が凄い勢いで放たれて。

 ギュンターからは、突き出した拳撃が真っ直ぐ飛んで。

 すると、迫り来る攻撃に為す術の無いフォレストリザードは、攻撃を真上に跳んで避けるしか無かった。

 その場でジャンプするフォレストリザード。

 そこで僕はメリルに合図を送る。


「メリルさん!ここです!」


 メリルはその言葉に無言で頷くと、全身全霊の一撃を繰り出した。


「てやー!!」


 事前に伝えていた通り、相手の動きに合わせるメリル。

 躊躇無く剣を振り下ろし、相手がジャンプをして無防備になっているところを、見事に両断した。

 フォレストリザードは、その身体が縦に真っ二つにされ、空中で左右に分かれて行く。

 そうして斬られた身体が地面に落ちるのだが、その状態でもまだ動いている。

 身体の内側が全て見えているのに、ジタバタと暴れるように動いては、その生命力の強さを教えてくれた。


(これは、流石に気持ち悪いか...さくらの顔が少し青ざめているよ...)


 だが、相手はもう何も出来ない。

 そのまま時間が経つと、やがて動きは止まり身体から光が抜けた。


「あ...光?」


 それを初めて見たさくら。

 フォレストリザードの魂の光だ。

 その光はメリルへと向かい、メリルの魂へと吸収された。


「これが魂の力だったのだな。今までは気にもしていなかったぞ」


 古代遺跡ダンジョン経験者のメリルは、勿論魔物を倒した事がある。

 だが、その吸収される魂の力を意識した事が無かった。

 何故なら、魂の光が見えていなかったのだから。


(ゲーム経験者じゃ無いと気付かないのかな?まあ、その光自体、薄くて見辛い物だから仕方無いのかも知れないけど)


 そして魂の光は、パーティを組んでいても都合良く分担される訳では無い。

 専用の魔法具があれば、パーティ限定で分担する事は出来るが。

 今はそんな特殊アイテムなど無い。


「初めてにしては上手く行きましたね。とても良い感じでした。これを続けて皆の魂位を上げて行きましょう。では、次はフィニッシャーを変えてやりましょうか?」


 こうして僕達の魂位上げが始まった。

 だが、多対一で勝てる事は当たり前である。

 僕達が求めている事は一対一で戦える強さ。

 それを目指してダンジョンに潜ったのだから。


(さて、ここからが始まりだ!)

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