038 グループとチーム
孤児達は、先程までの浮浪者のような身なりから、石鹸での水浴びが終わり、体や頭の汚れが落ちると、それだけで見間違えるように人(子供)らしさを取り戻した。
(これで皆が、生きる上での活気を取り戻してくれると嬉しいんだけど...)
孤児の皆は、教えた事ならば忠実に実行してくれる。
だが、自らが進んで行動する事は無い。
(目的と目標の設定が、ずっと人任せだったからな...)
人が行動する時は、その目的に沿って行動をする訳だが、孤児達には、自らが考えて行動する意思が無い為に、言われるがままなのだ。
例えば目的が“実の収穫”だとしたら、それに伴った目標が、“終了の合図が出るまで実を収穫する”なのだ。
孤児達に実の収穫を頼んだ場合、終了の号令が出るまでは、ひたすらに実の収穫をしてくれる。
但しそれは、実の状態を気にせずに、大小様々な実を、青く若い実も黒く腐敗した実も含めて。
(いずれは、目的も目標も、自分で考えられるようになって欲しいな)
孤児達のその目に映る景色と僕が見ている景色が同じだとしても、それを見て皆が感じる事と僕が感じる事では大分差がある事だろう。
だけど今は皆、笑顔で水浴びをしている。
この時間を、この空間を純粋に楽しんでいるのだ。
(これから皆は、今みたいに、もっと感情を表現出来るようになれば良いのだけど...)
孤児達が身体を洗い終わり、これから服に着替える訳だが、この世界の服は決して安い物では無い。
購入するにしても、服が直接お店に並ぶのでは無く、布が販売されているだけ。
その布から自分達で服を縫製するのだ。
その為、孤児達が頻繁に着替えられる程、服を持っている訳では無い。
基本、ボロボロになるまで同じ服を着続ける。
(せっかく身体が綺麗になってさっぱりしたのに、臭いや汚れが残った服を着直してもね。でも、丁度、ボロボロの服を交換する時だったから良かった)
先程まで着ていた服は、臭いや汚れがそのまま残っている物。
いつもなら、そのまま汚れた服を着直す事になるのだが、今回は丁度孤児達の服を取り替える時。
男の子はあまり気にしていないが、女の子はやはり気になるもの。
新しい服を渡して行くと「新しい服?私が着て良いのですか」や、「これ私のですか?」と、信じられないように、嬉しそうに受け取っていた。
一番簡単な変化は、見た目を変える事。
見た目が変わると、それに釣られて気分も変わるものだ。
綺麗になった身体に、綺麗な服。
これだけで気持ちは舞い上がる。
(皆...着替え終わったみたいだね?)
周りを見渡すと、全員が新しい服に着替え終わっていた。
「では、グループごとに、集まって貰って良いですか?」
これからグループ毎に分かれて仕事をするのだが、孤児達は畑仕事以外の仕事を知らない。
先ずは、皆にそれ以外の仕事を教えなくてはいけないのだ。
だが、此処では新しい仕事の先生になれるのは僕一人だけ。
一度に違う仕事を、グループ毎に分かれて教える事が出来無い。
なので、最初は全員に、一つの新しい仕事を取り組んで貰う。
「今日、皆に新しく覚えて貰う仕事は、オリーブオイル作りです。必要な材料は、ここに用意してあります。皆は、作り方の手順をしっかりと覚えて下さい。では...」
オリーブオイル作りの為のオリーブは、事前に山登りをした時に採集した物を使う。
作成方法は簡単で、熟したオリーブを布袋の中で潰し、布の上に広げるだけ。
これは、品質の良いものでは無いが、しっかりとした植物性の油として役割を果たしてくれる。
「この布袋の中でオリーブを潰して行きます。このように果汁が出て手が汚れてしまいますが、後で、また汚れは落とせるので、今は気にせずに潰して下さい」
僕は全員にお手本を見せるように、オリーブを布袋の中で潰して行く。
作り方を見て貰ってから、孤児達に実践して貰う流れだ。
熟れたオリーブは、子供の手でも簡単に潰せるもの。
オリーブから果汁が溢れて、手がベトベトに汚れて行く。
孤児達は水浴びで綺麗になったばかりだが、オリーブオイル作りの為、果汁で再び汚れてしまう。
でもこれからは、その汚れを石鹸で落とす事が出来る。
「では、オリーブを潰し終わったら、この木桶の上に広げてある布の上へと載せて下さい」
そうして潰したオリーブを、木桶の上に広げた布の上に載せて行く。
孤児達は、こうした作業も初めてで、とても興味深そうに取り組んでいる。
「次はどうなるんだろう?」、「これで何が出来るんだろう?」と。
「潰したオリーブからは、果汁と油が抽出されるので、木桶に溜まった上澄みの油を掬えばオリーブオイルの完成です」
潰れたオリーブから布を通して果汁と油が木桶に抽出される。
時間が経てば果汁と油が分離するので、浮いた油を掬えばオリーブオイルの完成だ。
こうして初めて自分の手で、何かを作り出した孤児達。
何も出来ないと思っていた、固執した固定観念を見事に断ち切った。
この時にようやく、皆が子供らしさを、自分に対しての希望を持った瞬間だ。
(この世界だと、子供だとしても、生きて行く為には仕事が必要になる。だけど、その仕事を通して、何か新しい自分への気付き、やりたい事への何かに繋がってくれると嬉しいな...)
このように、一日目は、オリーブオイル作り。
二日目は、石鹸作り。
三日目は、フォレストコッコのお世話。
僕は、グループ毎に日替わりする仕事を、皆に一通り教えた。
(皆、真面目だから手を抜かずにやってくれるのは嬉しいな。でも、得意な事は、それぞれ違うみたいだ)
やはり、それぞれの年長者がグループの中で一番生産性が高い。
だが、人によって得意な事が違うようだ。
孤児の中で一番年上になるハンスとカール。
赤髪のハンスは、糸目でそばかすが目立つ男の子だ。
いつも微笑んでいる表情が特徴的だ。
ハンスは動物に興味があり、フォレストコッコのお世話が得意だ。
(仕事終わっても、ずっとお世話していたもんな...動物が好きなんだろうな)
橙髪のカールは、短髪で髪が逆立っている。
無口で人と話す事が苦手だが、相手を射抜くような、鋭く釣り上がった目が怖い。
手先は不器用だが、力仕事が得意なようだ。
能力を活かせる場面はオリーブを潰す時、石鹸作りで素材を混ぜる時と少ないが、黙々と作業をこなす。
(あんなに細い体躯なのに、見た目以上に力があるんだよね。スキル持ちなのかな?)
年齢は一つ下になるフランクにイルゼ。
黄髪のフランクは、計算が出来る訳では無いが、数を認識出来ている。
数を認識しているならば、計算式さえ教えれば、直ぐにでも計算が出来るようになりそうだ。
それから年長者四人の中で、メンバーに指示する事が一番上手い。
(周りの状況を随時、確認しているし、グループとしての生産性はダントツなんだよね)
そして緑髪の女の子イルゼ。
伸びっ放しの髪がボサボサで、自分に自信が無いのか、随分と内向的だ。
得意な事は...何だろうか?
何事も卒なくこなしてくれるが、際立った特徴が見当たらなかった。
(まあ、まだ皆と一緒にいるのは三日間だけだからな...それに仕事の内容も、まだ単調なものだし、性格が解るのもこれからか)
皆と一緒に仕事を始めて、まだ三日。
個人能力を把握するまでは、まだ時間が掛かる。
だが、僕とさくらの二人で作業をしていた時よりも、断然早く、多く成果を上げれる。
やはり、個の力よりも、数の力が優れている。
これでグループが個の固まりでは無く、チームとして連携出来れば、相乗効果が生まれて成果がもっと向上する。
チーム作り。
それが当面の目標となる。
(今日の午後から、やっとグループごとの仕事が始まる...)
今日から、それぞれのグループに分担した仕事を担当して貰う。
それが出来るようになれば、皆が仕事に慣れて来たのならば、新たに素材採集を任せるようにもしたい。
勿論、場所は、裏山にある恵みの森。
此処ならば、森の支配者であった熊は既に倒している。
その為、熊以上の危険生物が存在しないからだ。
(猪や狼などの人を襲う生物が、まだ存在しているから今は無理だけど、今後は、狩猟訓練も視野に入れておくべきだな)
今後は、自衛の為にも、生活向上の為にも、孤児の皆で訓練をする事を考慮しておく。
自活が出来れば、皆が教会(孤児院)に拘る必要は無くなる。
自分が望む、本当にやりたい事が出来るのだ
(今はまだ、将来を選べる訳では無いけど、少しずつ色々な事を知れば、出来る事が増えればそれだけ可能性は広がる!...まあ皆が楽しんでくれる事が一番だけど)
グループ分けをして、それぞれのグループに仕事に就いて貰った。
火を取り扱う石鹸作り担当が、危機管理の面で一番注意が必要だが、周りには大量の井戸水を用意して、消火作業が出来るようにしてある。
あと危険なものは、フォレストコッコが暴れた時。
一応、捕獲した時に爪や嘴は削らせて貰ったが、それでも爪や嘴で攻撃されたら怪我をしてしまうだろう。
現状、回復魔法を使用出来る者はいない。
回復アイテムのポーションも無い。
あるのは、恵みの森に生息している薬草のみ。
薬草の効果は傷を防ぐ(火傷を抑える)程度の物だが、これがあれば命に支障を来たす事が無い。
(皆には、危機管理を注意してあるけど、それでも失敗はするもの。最悪を考えたら怖いけど、それぞれに責任感を養う為にも必要な事。それに薬草があれば、皆だけでも任せる事が出来る)
薬草採集する事で、僕は自分の取り組みに集中が出来る。
僕が今やるべき事は二つ。
教会(孤児院)の環境改善と、自身の魂位上げ。
一つ目は既に取り組んでいる事で、一歩ずつだが確実に進んでいる。
問題は二つ目だ。
熊(魔物化)との戦闘を経験した事で解った事は、僕自身に、圧倒的に能力が足りない事。
魔法が使えない僕は、自身の身体能力と、魔力操作だけで、それを補わなくてはいけない。
何故なら、本来の魔物の強さは、魔物化したばかりの熊とは比較にならないものだからだ。
僕が目指す理想は、史上最強の英雄であって、皆を助けられる存在。
だが、今現在、僕はそんな力を持っていない。
僕が出来る事は、知識を活用するだけだ。
(今のままではダメだ...もう誰も傷付いて欲しく無い...もう二度と...さくらを傷付けたく無い!)
僕の力不足のせいで、さくらを傷付けた。
一命を取り止め、傷が痕に残る事は無かったが、さくらはまだ体調が戻らずに寝ている状態。
もう二度と、同じ事を体験しない。
そしてもう二度と、同じ事を体験させない。
その為の魂位上げだ。
(先ずは、薬草採集からだな。プロネーシス。薬草は識別出来る?)
『はい。マスター。マスターの魔力圏の中でなら薬草の照合が出来ます』
魔力圏。
僕が魔力を広げられる範囲の中で、プロネーシスの能力を合わせれば空間内を把握出来る。
その魔力圏の中ならば、プロネーシスの記憶から対象を照合出来るのだ。
(恵みの森には、薬草が自生しているんだよね?)
『はい。マスター。記憶からの分析結果となりますが、薬草で間違いありません。それにマスターならば、グループ仕事が始まる前に採集する事が出来ます』
午前中に薬草採集を済ませ、午後からはグループでの仕事を始める。
これが上手く出来れば、手の空いた僕は個別で魂位上げに勤しむ事が出来る。
(じゃあ、プロネーシス。薬草がある場所へと案内して貰っていい?)
『はい。マスター。お任せ下さい』
僕達は、魔力を広げた状態で裏山へと向かった。
今のところ、自身の魔力強化だけは順調に進んでいる。
教会では比較出来る対象者が少ない為に、僕自身の魔力総量がどれ位なのか解らないけど。
だが、一日中、身体強化をしても問題無い程にはある。
その強度は、まだ最低限のものだが。
『マスター。あちらと、あちらの場所に薬草がございます』
プロネーシスが照合した薬草を、脳内でマッピングした地図にピックアップをしてくれた。
頭の中で認識するその映像は、立体的に捉えて詳細に映し出す。
縮小、拡大も自由自在なので、後はその認識度を向上させれば、僕自身で対象を絞る事も出来そうだ。
(まあ、そこまで把握する事が難しいんだろうけど...でも目標は、高い程やりがいがあるよね!)
僕は、プロネーシスがピックアップしてくれた薬草を次々と採集して行く。
魔物化した熊を倒して、僕の魂位が上がった事で身体能力が向上している。
探索作業が、かなり楽な状態だ。
(...薬草も、これ位あれば十分かな?)
『マスター。その量は十分過ぎる程、採集されたかと思われます』
僕は、プロネーシスがピックアップしてくれた薬草を、見境無く採集した。
どうやら思ったよりも、乱獲していた様子。
これで午後からのグループ仕事を安心して取り組む事が出来る。
僕は早速、教会へと戻って、孤児の皆を広場に集めた。
皆は新しい仕事を覚えて、慣れない事をしているのだが、今までの、気力が亡失とした単調な日々とは違い、皆が活気に溢れている。
ちゃんと仕事の楽しさを、生きる事の楽しさを、それぞれが感じてくれているようだ。
広場に集まったところで、皆にはグループ毎に分かれて貰った。
「これからハンスグループは畑仕事。カールグループはオリーブオイル作り。フランクグループは石鹸作り。イルゼグループは養鶏に分かれて仕事をして貰います」
「「「「はい!!!」」」」
ここからは、分担した作業を、仕事の成果を効率化させて行く。
その為に、僕がグループ長と約束した事は一つだけ。
それは、グループ全員で、必ず結果を振り返りをして貰う事。
グループからチームへと変化させる為にも、全員が責任感を持つ為にも必要な事だ。
結果に対して、良かった部分、悪かった部分を深堀り、見直す事で次に活かせる。
何故、成功したのか?
何故、失敗したのか?
どうすれば、もっと上手く出来るか?
どうすれば、同じ失敗をしないか?
そしてそれは、グループ長から一方的な意見では無く、グループ内全員での共有。
現段階では、当然、年長者としてグループを統括して貰う訳だが、それは、上の立場から下の立場への強制では無く、同士としての協力。
これが当たり前に出来る事で、グループからチームへと成る。
僕が目指すチームの在り方だ。
(全員を一人一人見る事は出来無いけど、ここまでスムーズに分担が出来るとは...皆が言われた事(命令)に忠実だからこそ出来る事か...それでも全員が欲(好奇心)に打ち勝つ事が凄い)
子供の好奇心は止められるものでは無い。
気になったものは触れてみたいと考え、何なら口に運んでそれを確かめる。
考えるよりも、興味や、好奇心が身体を行動させる。
だげど孤児の皆には、それが無い。
指示した事を忠実に再現する為、頼まれた事以外の行動をしない。
これは、危機管理をする上で大変助かる行為。
(僕が管理している訳では無いけど、これなら皆に任せる事が出来る!)
元の世界(日本)では、子供だけに仕事を任せる事が無いだろう。
怪我への問題。
管理の問題。
生産性の問題。
このように、危険を上げ出したらキリが無い。
でもこの世界では、年齢は関係無い。
誰しもが生きる為に、必死だから。
(ハンスグループは、慣れている仕事だけあって無駄な動きが無いな)
ハンスグループには、これまで全員でやっていた畑仕事を、その少ない人数で同等の成果を出すように頼んである。
これは、普通に考えれば、無理な難題である。
孤児二〇名でやっていた仕事を、ハンスグループの五名でやらなければならないからだ。
だが、僕はハンスグループに一つのお願いをする事で同じ成果を出して貰った。
そのお願いとは、収穫をする際の進行方向を決めて、他人と重複をしない事。
今までは、耕してある畑を全員で闇雲に収穫作業をしていた。
同じ場所を複数人が重なって乱獲をする。
一度収穫した場所でも、そこにある筈の無い実を懸命に探していたのだ。
これだと、非効率そのもの。
僕は、それをレーン毎に区切り、一度収穫した場所へは戻らない事を約束するだけで、孤児全員で作業をしていた時と同じ成果を出せた。
(これは、今までに監修する者がいなかった事が原因だけど、たったこれだけの決め事で効率が何倍にもなるのだから、知識(情報)程、重要なものは無いよね)
これは、収穫だけで無く、手入れをする際も同様にして行う。
教会の畑には精霊が共生をしてくれている為、魔力を流すだけで作物が育つ。
そのおかげで、細かい手入れをしなくても実は育ち、収穫は出来るもの。
だが、作物の品質は別となる。
雑草取りや、枝や茎の剪定をする事で、実の栄養分は高まる。
手入れをするのとしないのでは、実の品質に天と地の差が出るのだ。
少ない人数で、畑の手入れから収穫までを、同じ時間内で同じ量をこなす。
(これなら畑仕事に関しては、どのグループがやっても大差は無いだろうな...次はカールグループを見てみようかな)
カールグループの担当は、オリーブオイル作り。
この作業は、孤児達にとってまだ慣れていない仕事で、まだ二度目。
(流石に、スムーズとはいかないけど、指示した事は問題無いみたいだね)
孤児達は慣れない手つきで、懸命に取り組んでいる。
それも真面目に、一切妥協せずにだ。
但しそれは、集中力が持つ間に限るが。
(疲れた時は、休憩を取るようにお願いをしているけど、皆、全然休まないんだよね...)
孤児院の皆は、孤児になって直ぐに教会に拾われた訳では無い。
中には僕みたいに、赤児の内に拾われた子もいるが、大半の孤児は、ある程度の自我が芽生えた頃に拾われている。
だが、その自我を決して表に出す事が無い。
感情を隠している?
嘘を吐いている?
それは、僕には解らない事だが、育った環境がそうさせるのだろう。
皆が口を揃えて「休んだら居場所が無くなる」とか「もう今度は...捨てられたくない」と言葉にする。
孤児にとって、今の環境が無くなる事が一番の不安なのだから。
これは、孤児が死の淵を経験してるからこその思いだ。
(死を意識した事がある者なら、生きる為には何だってやるよね...僕にも、その気持ちは痛い程解るし。だからこそ、忠誠にも似た行動なんだろうな)
どの世界でも、自分の力だけでは、生きる事が困難な者がいる。
どうしても、他人の力を借りなければ生きられない者がいる。
そういう者は、得てして周りに生かされている者。
そしてそれが、自分が生きる為に必要な事ならば、それを全力で全うする。
だから孤児達は休まずに、黙々と行動をするのだ。
(これからは、効率も重視していかなければならない。休憩の必要性を理解して貰う事が、課題だな)
作業や行動をする時に、重要になるものが集中力。
人間の集中力が持続する時間は、九〇分が限界と言われている。
そして集中力の波は、一五分周期に訪れるもの。
更に身体的な、疲労、空腹、眠気と、集中を阻害するものは多数有る。
脳を、身体を定期的に休ませる事が、集中を保つ鍵となるのだ。
これを知るだけで、休憩の重要性が如何に重要なのかが解る。
(闇雲や、我武者羅は、決して悪い事では無い。だが、皆には感情を隠したり、誤魔化して無理矢理やるのでは無く、その仕事を、その人生を楽しんで欲しい)
カールグループは、慣れない仕事の中でオリーブオイルを量産して行く。
初めは、出来上がる本数が人数分だけだった。
だけど、此処からは効率が上がって、その本数は増えて行くだろう。
それがとても楽しみだ。
(次は、石鹸作りをしているフランクグループかな?この仕事は、火を使用するから怖いけど、上手くやっているかな?)
フランクグループの担当は石鹸作り。
このグループが、今のところ一番チームに近いのだ。
それは、ひとえにもフランクの指揮能力の高さが起因する。
(まさか、グループ長に任命しただけで、こうも変わるとは)
人が研鑽、成長する事で、自ずと役職がついて来るものだ。
だが、役職に就かせる事で人を成長させる事もある。
フランクの場合は勿論、後者となる。
今までは、自分の出来る範囲だけで懸命に作業をしていた。
それは、他人の作業効率はフランクには関係が無く、自分が出来る事だけに全力を注いでいたから。
(フランクは、他人がどうでもいい訳では無く、他の孤児達を、家族としてちゃんと認識している。でもそれは、自分主体の考えがあってこそだ。良くも悪くも自分一人で頑張ってしまう性格だったんだな)
フランクは、グループ長に就いた事で、自分以外の他人を気遣えるように変化をした。
それは、グループ内での連帯責任と言う言葉が、その恩恵をもたらした。
指揮能力と言えば、聞こえが良過ぎるが、フランクは他人にお願いする事が上手なのだ。
フランクは、自分の出来る事を冷静に把握している。
今は、グループ内での他人の出来る事を分析中だが、出来る事が最低値で仮定している。
その把握している自分が出来る事、仮定している他人が出来る事、それを任された仕事の中で、上手に割り振るのだ。
石鹸作りで考えるなら、フランク一人だと一日に作れる量は五~六個。
他のメンバーだと、それぞれが三~四個が限界となっている。
単純に、それぞれが別々に石鹸作りをした場合、一日に石鹸を作成出来る量は、一七~二二個の間。
それを把握した上で、早速、今回のグループ作業に活用しているのだ。
(グループでの作成量は、全グループに教えた時に把握したのかな?それを早速、今回に反映させるとは凄いな)
フランクが取り入れたのは、分担作業。
これは、僕がお願いしたグループ毎の日替わりの分担作業から着目した発想だ。
五人で教わった石鹸作りを、それぞれが別々に作業していては、一日に出来る量は一七~ニニ個の間。
フランクはそれだと効率が悪い事を感じ取ったのか、石鹸作り自体を分担させる事にしたのだ。
生産ラインを分けて、材料を混ぜる者。
鹸化した液体を箱詰めする物と分担させたのだ。
但し、人数が少ない現状では、生産ラインの分担は、期待された効果を発揮する事が出来なかった。
それは、鍋の数が限定されている事、材料を混ぜて鹸化させる時間が変わらない事、液体を冷ます時間が変わらない事、結局、木箱に詰めるまでの作業が効率化出来なかったのだ。
でもフランクは、自分で考えてそれを実行している。
(四人の中では、フランクがリーダーとしての適正が一番高いな。正直、『この世界全体では無く、孤児院限定』だが、一番、理解と分析に長けている。今回は上手く行かなかったけど、この調子で色々と試しながらやって欲しいな)
僕が皆に、限られた中での正解を教える事は出来る。
でもそれは、皆の成長に繋がらない事。
今後は自立する為にも、自分達で行動して行かなければならないのだ。
いつまでも僕に正解を聞くだけでは、自立など出来る訳が無い。
それに皆が自立した時、僕は皆の側にいないのだから。
それとこれは、希望的観測も含まれるのだが、この魔法がある世界ならば、常識を超えて新しい物を生み出せると思っている。
なので、失敗を恐れずに試す事を、常識に囚われずに試す事を、どんどんと皆にはして欲しい。
(よし、フランクグループは問題無さそうだな...じゃあ、次は養鶏のイルゼグループか)
僕は、孤児院の近くに養鶏場を作った。
木で作った簡単な柵で、指定範囲を囲っただけの簡易な物だが、これでフォレストコッコが勝手に逃げ出す事は無い。
そして養鶏を担当をしているイルゼグループを見に行くと、役割が全う出来ずにグループは見事に崩壊をしていた。
グループ全員が、フォレストコッコに振り回されていたのだ。
(わあ...まさか、こんな悲惨な状態になっているとは...)
追い回されたイルゼグループの皆が、その場でへたれ込んでいる。
イルゼグループは、正直、特筆すべき点が無い。
今の時点では、平々凡々。
(まあ、今後はどうなるか解らないけど、案外こういったグループが一番成長したりするんだよね。そう言った意味では、一番可能性に溢れているグループかも知れないな)
成果を出す、と言う事で順位を付けるのならば、イルゼグループは、四つのグループの中では最下位となる。
でも僕は、その事をあまり気にしていない。
何故なら今は、僕が指定した仕事を手伝って貰っているだけだから。
皆の得意な事が解るのは、これからなのだ。
(それにフォレストコッコに振り回されているけど、基本、放任でも大丈夫な仕事だからな)
養鶏(お世話)と言っても、基本フォレストコッコは放任で大丈夫なもの。
グループ作業は、餌やりと掃除位なのだ。
餌は、麦を主体に、芋や草、そして地中にいる虫を食べ、水は山(川)の水を飲んでいる。
これらの物は、僕が事前に用意しているので、グループでは配布するだけなのだ。
だからグループ主体でやって貰う事は、鶏糞の掃除位だ。
もしかしたらフォレストコッコのストレス発散が、メインかも知れないが。
(後々は、ケージで管理した養鶏も視野に入れるけど、今は平飼いで頑張るしかないな)
現実世界でのケージ管理された養鶏は、量を生産する為には必要な環境。
だが、この世界にはそんな設備など無い。
平飼いとは、地面の上で放し飼いで飼育する方法。
地面は土だけで無く、草が生えている事もポイントになっている。
餌以外に、天然の青草を食べる事で、ビタミンや、食物繊維が、摂取出来るからだ。
ケージ(鶏かご)飼育に比べて、鶏達が自由に動き回れるので、体力が付いて病気になり辛い。
地面から虫を探して食べたり、地面に体を擦り付けて砂浴びをする事で、汚れや、寄生虫を落として清潔に保つ。
そして孤児院に作成した養鶏場は広く、ストレスが感じ難い為、健康で丈夫な鶏に育つのだ。
今のところ、地道に数を増やして行くしか無いのだ。
(ケージ飼育に比べて手間は掛かるけど、丈夫な鶏が飼育出来るのが利点かな。後は自然交配の条件を満たさないと...)
品種改良された鶏は、雌だけでも卵を産む。
だが、此処にいるのは野生のフォレストコッコ。
どんな特性を持っているのか解らないのだ。
なので、有精卵を産む為の環境作りをしなければいけない。
有精卵を生む為の基準として、『雌一〇〇羽に対し雄五羽の割合』が、自然交配可能の飼育環境に該当する。
それでも動物の為、受精確立は一〇〇%では無い。
(今飼育しているのは、雌二羽と、雄二羽。卵は一個生まれたけど圧倒的に数が足りない。教会と町に安定した供給を作る為にも、最低一〇〇〇羽は欲しいところ)
将来を見据え、領単位、国単位で考慮すれば、もっと数が必要になる。
今現在の目標、一〇〇〇羽を飼育する為の環境は用意出来る。
無駄に広い教会と、孤児院の土地を使用すれば良いのだから。
(場所は、無駄に広い教会の土地を使用すれば問題無い。後は飼育の内訳だな。恵みの森から雌を捕獲して、ある程度育てたら野性に戻せば大丈夫かな?)
安定した供給をする為には、圧倒的に雌の数が足りない。
但しこれは、恵みの森から捕獲すれば解決は出来る。
でも一度、捕獲(人の手によって)飼育したフォレストコッコは再び野生へと戻れるのか?
乱獲をして森の生態系が変わらないか?
と、問題が出てくる。
(今出来るのは、森の生態系を崩さずに、雌のフォレストコッコを捕獲する事か...)
今一度裏山に入り、恵みの森の生態系の調査をしなくてはいけない。
森の守護者であった熊を倒した事もあり、生態系は少なからず変化している事だろう。
(明日にでも、浮遊を使用して調べて見ようかな。魔力圏を併用すれば把握も容易だし、ついでにフォレストコッコも捕獲出来る)
これで明日の午前中にやる事が決定した。
グループでの分担作業に必要な材料の調達が前提だが、生態系調査を一緒に行う。
これは後に、孤児の皆だけで調達作業をして欲しい事も見定めての行為。
それから熊が魔物化した事も踏まえて、他の動物が魔物化していないか、その危険を調べ直す為だ。
僕達の生命に関わる危険は、全て排除する。
(分担作業に、まだ慣れていないから成果は薄いけど、でも順調な滑り出し。明日は、恵みの森をくまなく探索をしよう!)




