002 冒険者ギルド
今、僕が居る場所は『ホーム拠点』と呼ばれる場所。
一階建ての平屋で石造りの家だ。
「さて、これからどうしようかな?」
このホーム拠点は、ラグナロクRagnarφkにログインした場合の始動地点。
もしくは、戦闘で死亡した場合に戻って来る場所となっている。
そして、僕はゲームを始めたばかり(ログインをしたばかり)の状態で、部屋の中がどうなっているのかを知らない。
「とりあえず、それぞれの部屋の中を調べて見ようかな?」
僕はホーム拠点内のリビングへと移動を始めた。
リビングは、一〇m四方の大きさ。
初期状態で、木造で出来た質素なテーブルや椅子が部屋の中に置いてあった。
「なるほど。この部屋が中心になっていて、ここから別々の部屋に行けるんだ」
家の中は、リビング、私室、書斎、浴室、アイテム倉庫と、五つの部屋に分かれていた。
どの部屋も質素で、色味が全く無い真っ白な空間。
いわゆる初期状態と言うものだ。
「アルヴィトルがここにいるって事は...ストーリーの進行に迷ったり、解らなくなった事をアルヴィトルに聞けば良いのか」
リビングにはゲームの進行補助として、ヴァルキュリーであるアルヴィトルが待機していた。
この部屋には常時アルヴィトルが待機しており、メインストーリーの行動指針を聞いたり、攻略に行き詰まった時にヒントをくれる場所のようだ。
それから、チュートリアル室に直接繋がっているゲートが設置してあった。
「ゲートの設置...いつでもトレーニングや練習が出来るのはありがたいな。それにしても、現実との感覚がここまで一緒だと...どっちが現実なのか...解らなくなるよ」
自分の身体を動かしながら、手を握ったり開いたりを繰り返す。
脳の認識と行動にズレが無い。
ゲーム特有のデータの処理時間やタイムラグが無い。
現実の感覚そのままに、僕自身がゲーム世界に居る事が出来ているようだ。
この仮想世界が、人の手によって作られたものだと言う事を忘れてしまう程の感覚が再現されていた。
その為、現実では無いのに、脳が勘違いを起こしたように現実だと錯覚する。
それがとても不思議な感覚だった。
「次は私室にでも行ってみようかな?...こればかりは、他の人には解らない感覚だろうけど、自分の部屋があるだなんて信じられないよ」
僕は自分でも気が付かない内に、少し照れたように笑っていた。
もし、この時の表情を他人に見られていたとしたら、恥ずかしさのあまりのたうち回っていただろう。
この場所に見知らぬ他人が居なくて良かった。
僕は、その感情を隠すように下を向いたまま、部屋の扉を開けて私室の中へと入って行った。
「ここが僕の部屋か...嬉しいな」
私室は、五m四方の部屋で、自分一人の部屋だと考えても十分な大きさだと思う。
実際に他人の部屋と比べた事が無いから解らない事だけれど、僕からすれば自分だけの部屋を持てる事がとても嬉しかった。
例えそれが、仮想世界の中だとしてもだ。
「テーブル、椅子に、ベッド。感触は現実そのものだ...」
部屋の中には、木造の角テーブル、角椅子、ベッドが置いてあった。
だが、その全てが不出来な作りの家具。
角椅子は、座り心地が悪くとても硬い物だ。
そこにクッションでも置いてあれば、まだ違うのだろうけど。
ベッドも同様に寝心地が最悪の物だ。
木の土台の上に藁がひいてあり、その上に布を被せているだけ。
ベッドに寝た時、藁が背中にチクチク刺さるのがとても痛い。
それを知らずにベッドを見た時にテンションが上がり、勝手にフカフカの物だと勘違いし、勢い良くダイブして痛い目にあった事は内緒だ。
打ち身に打撲、藁による裂傷。
ゲームの中だと言うのに、まさかこんな痛みを味わうとは、想像にもしていなかった事だ。
ちなみに、ログイン、ログアウトする際は、私室のベッドで寝た状態となる。
「痛たた...今後からベッドには飛び込まないように気を付けよう...次は書斎に行ってみるか。と言うか、書斎って何をするところなんだろう?」
部屋を移動して書斎へと入って行く。
すると、僕が想像していた物と内装があまりにも違い、部屋の中を見ただけで驚いてしまった。
「えっ!?書斎って...こんな最新式なの?」
名前を聞いた時、部屋の中には沢山の本棚があって、作業机を囲むように本が溢れているイメージが頭の中に膨らんでいた。
だが、実際はそんな事が無く、全く違った光景だった。
「凄いな...これを操作すれば良いのか?空中立体投影...まるで、目の前にあるみたいだ」
部屋の中央には端末があり、それを弄る事で魔物図鑑や世界地図を閲覧する事が出来た。
全てのものがデータで保管されている、最新式の書斎。
但し、図鑑も地図も書き込み式になっているので、自分で更新して行かなければならないようだ。
「自動更新では無いのか...これは、最初だけなのかな?まあ、そのうちに解る事か」
端末を弄りながら、一通りの確認操作を終えた。
今後は、ゲームシステム的にもアップデートされて行くのだろうが、今現在では、これ以上の操作をする事が出来なかった。
どう改善されて行くのかが楽しみではある。
そんな期待を膨らませて、僕は次の部屋へと向かった。
「次は浴室かな?」
浴室と書かれた部屋へと入る。
すると、此処でも僕の想像を超えた内装となっていた。
「これはまた違った意味で凄いな...まあ、これを浴室と言えるかは解らないんだけど...」
部屋の中央に水瓶が置いてあった。
...それだけなのだ。
とても殺風景な景色。
先程のハイテクな書斎と比べると、このアナログな感じは雲泥の差だ。
どうやら浴室と書いてあるが、お湯も、浴槽も無い場所。
期待を裏切られた感じだ。
僕はその事を残念に思いながらも、水瓶の中の水を調べるように触れてみた。
「...水が冷たい」
当たり前の事を言っている自覚はある。
だが、此処はゲームの世界なのだ。
手が濡れて、水の温度をハッキリと感じている。
そして、水に触れる度にピチャピチャと音が鳴っている。
僕には、この質感や効果音が、ゲームで再現された物だとは到底思えなかった。
「この水は透き通っているけど飲めたりするのかな?...いや、やめておくか。...でも、これってどうやって使えば良いのかな?
部屋の中には水瓶しか置いていない。
それの使用方法が、僕には解らなかった。
一瞬、ドラム缶風呂みたいに温めるのかと想像したが、これは水瓶である。
それに水瓶の大きさ的にも、僕が入るには狭過ぎる物だ。
「もしかして...水を浴びるだけか?」
となると、水瓶から水を汲んで浴びるのだろう。
一瞬そう思ったのだが、地面は剥き出しの土だ。
もし、此処で水浴びでもすれば、確実に泥塗れになる。
一応、確認の為、地面に水を撒いてみると、乾き易く水捌けの良いサラサラとした土となっていた。
これは「せめてもの優しさなのかな?」と、思わず笑ってしまった。
「これがお湯だったらまだ良かったんだけど...水だと浴室を使う事は無さそうだな...よし、そんな事よりも最後の部屋へと向かおう」
僕はホーム拠点に存在する、まだ入っていない部屋へと向かった。
最後の部屋はアイテム倉庫。
その広さは、車が二台分入る位の大きさ。
見た目だけなら、それ程広くないが、見た事も無い装置が無数に設置されていた。
どうやら、この部屋も端末で所持アイテムを管理する仕様のようだ。
「書斎と言い、アイテム倉庫と言い、これほどの最新機能が搭載されているのに...何で浴室だけ原始的なんだろうか?意味が解らないな...」
僕にはその謎を解く事が出来無いようだ。
もしかしたら、事件は迷宮入りなのかも知れない。
と言うか、考えるだけ無駄なのかも知れないけど。
「管理の仕方は...インベントリ?へえー。端末をいじると装置が動くのか。その空間に手を入れれば、アイテムの収納や取り出しが出来るんだ」
今現在の容量は、五〇種類まで。
そして、一種類の上限が一〇個まで保存が出来る仕組みだ。
これが最も不思議な事なのだが、明らかに倉庫の大きさよりも、空間に保管出来る容量の方が多い。
これは、四次元的な謎空間ってやつ?
どうやら、ホーム拠点にある部屋は、これで全てのようだ。
「ホーム拠点で気になるのは...“拠点ポイント”ってやつかな?」
拠点ポイントは、ストーリーを初クリア時、ギルド依頼の達成時、イベントクリア時に貰えるみたいだ。
今現在のホーム拠点は、まだ初期状態のまま。
拠点の改築、部屋の設置、改装、施設の拡張は、その拠点ポイントを使用する事で操作が可能だ。
「拠点ポイントを使用して、ホーム拠点をカスタマイズ出来るのか。それなら、いずれは豪邸にも出来るのかな?...楽しみだな」
こうして僕は、全部屋の確認を終えた。
気になっていた事が解消され、とても満足だ。
その気持ちのまま私室へと戻って行く。
部屋に設置してある、硬い角椅子に座った。
「先ずは、ステータスを確認して...と」
『ルシフェル』
称号:無し
種族:天使LV1
職業:魔法使いLV1
HP
30/30
MP
20/20
STR 15
VIT 13
AGI 11
INT 20
DEX 12
LUK 10
[スキル]
短剣技LV1 格闘技LV1 杖技LV1 弓技LV1
[魔法]
火属性魔法LV1 水属性魔法LV1 風属性魔法LV1
[固有スキル]
浮遊
[才能]
無し
個人キャラクターには、魂位、ステータス、魔法、スキル、才能がある。
魂には位階があり、倒した相手の魂を吸収する事で、自身の魂位が上昇する。
いわゆるレベルアップと言うやつだ。
ステータスは、HP、MP、STR、VIT、AGI、INT、DEX、LUKの項目がある。
それぞれのステータスは、魂位上昇時、特殊アイテムを使用時、行動消費をした事による経験強化で、その能力を上げる事が出来るみたいだ。
特殊アイテムでの上昇は、平たく言えば○○の種みたいな物だ。
行動消費は、例えばだが、攻撃を繰り返す事でSTR、相手の攻撃を受け続ける事でVIT、走り続ける事でAGIを強化出来る。
筋力トレーニングみたいなものだ。
魔法やスキルについては、種族や職業の魂位を上げるか、特殊アイテムを使用する事で覚えられる。
才能は、キャラクター固有の潜在能力(特殊能力)だ。
イベント報酬や特典アイテムの使用で覚えられるみたい。
で、今から確認するのはその才能についてだ。
「β版プレイの特典で貰った『神の贈り物』を使えば才能が貰えるみたいだけど、何が貰えるのかな?」
現状、才能を手に入れるにはβ版プレイの特典で入手する『神の贈り物』だけだ。
噂では、後にイベントが実装された時、その達成報酬で入手出来るみたいだが。
運営からお知らせがあった前情報には、経験値○倍のシステム補助系や、STR+○○のステータスUP系、○○の状態異常軽減系、○○の耐性強化系などの才能がある。
後々、イベント報酬で他の才能が入手出来るとしても、僕的にはスタートダッシュが出来る、経験値○倍が欲しいと思っている。
「ものは試しか。よし『神の贈り物』使って見るかな」
所持品から『神の贈り物』を取り出して使用する。
すると、私室の狭い空間の中で、自分を中心に大きな白い光の柱が天高く伸びていった。
部屋の地面には、見た事の無い魔法陣が具現化されており、その魔法陣から光の柱が発生している。
その光の柱は、天井や雲を突き抜けて伸びていた。
「えっ、天井が透けている?」
先程まで閉ざされていた筈の天井は、ガラスのように透明になっていた。
そのおかげと言っては何だが、光の柱が伸びて行く先を目で追えるようになっていたので、雲を突き抜けた先の光を目で追って行く。
天高く伸びて行く光の柱。
その周囲には、虹色の粒子が渦巻きながら輝きを放っている。
僕にはそれが、とても幻想的な光景だと感じた。
「...綺麗だ」
そのまま光の柱が極限まで伸び切ると、上空から無数の天使が出現した。
光の柱に対して、その周囲を螺旋状に回りながら天使達が降りて来た。
「何だ、この演出は?何が起きているんだ?」
すると、その中心から更に神々しい輝きを放つ人物が現れた。
その人物は、僕がゲームを始めて最初に出会った神様。
この世界の主神『オーディン』だ。
「えっ!?主神オーディン自らが降りて来るんだ!?」
オープニングで出会った時とは違った格好をしていた。
その召し物は、絹のような滑らかな光沢を放ち、肌触りがとても良さそうな物。
その衣を羽織っている姿は、まさに神々しい“神”そのものだ。
醸し出す神聖な雰囲気が、何処か近寄り難い。
そうして、天からゆっくりと舞い降りて僕の目の前へと降臨した。
一緒に降りて来た天使達は、僕達の周囲を円になるように囲み、手を合わせてお祈りを捧げている。
「...」
言葉が出ない。
その圧倒的な存在感に平伏し、その神々しい雰囲気に飲まれてしまい、有無を言わさずに周囲へと同調した。
考えるよりも先に行動をしており、気が付いた時には神の前に跪いていた。
拒む事が出来ずに、強制的に受け取ってしまう威圧。
払い除ける力も無い。
僕の鼓動は勝手に高鳴り、額にはうっすらと汗が滲んでいる。
その極度の緊張の所為か、とても喉が渇く。
渇いた喉を潤す為の生唾を飲み込む音が、無音の部屋の中で「ゴクリ」と鳴り響いた。
気が付けば、無意識に拳を握っており力一杯握り締めていた。
「よくぞこの世界に来てくれた。お主には、ワシから直接、祝福を与えよう!」
目の前のオーディンが、自分の腰の位置で両手を広げながら僕にそう言葉を告げた。
両手からは虹色の光が放出し、右手と左手を繋ぐアーチを作った。
虹色の光は段々と強く、太くなって行き、その中心部へと凝縮されて行く。
オーディンは、その光を胸の前で一つに合わせて、球体へと圧縮させた。
圧縮された虹色の光球を、僕の方に向けて放つ。
(なんだ...この光は?)
光球が僕の身体の中へと入って行く。
「ドクン!」と心臓が大きく跳ねた。
すると、たちまち全身が燃え上がるように、僕の身体が急激に熱を持ち始めた。
(かっ、身体があああ!?あ、熱いいい!!)
跪いた状態から咄嗟に胸を押さえた為、バランスを崩し、額を地面へとぶつける。
ただ、頭をぶつけた痛みよりも、身体が燃え上がる熱さの方が耐えらそうに無い。
それは、身体に流れる血液が沸騰して全身を暴れ出すような熱さだ。
身体の内側から臓器が焼かれている。
(ひゅーっ...)
肺が焦げ付いている。
喉も焼かれており、呼吸が正常に出来無い状態。
全ての内臓が焦げて行く事を知る。
僕の全身が、火傷で爛れて行く痛みと、のたうち回る苦しさを伴って。
(く、苦、しい...)
必死に酸素を吸い込むが、喉は笛を鳴らすように音が鳴るだけ。
しかも、無意識に全身の痛みに抗おうと、必死に両手で身体を掻きむしっていた。
(がっ!?が、がああああ!?)
この痛みや苦しみは何なのか?
何故、才能を貰うだけの行為に、痛みや苦しさが伴うのか?
一体いつまで続くのか?
終わりはあるのか?
既に僕の感覚は麻痺していた。
どれ位の時間が経ったのか、今の状態がどれ位続いていたのかも解らない程に。
すると、突然頭の中で何かがアナウンスされた。
[才能“記憶と思考”を獲得しました]
その時、自分の中に新しい感覚が上書きされた事を感じ取った。
それは今までに持ち得なかった感覚だ。
その新たな感覚が芽生えたと同時に、身体の熱が急激に治まり、全身を支配していた痛みや苦しさが引いていった。
そして、いつの間にか身体を掻きむしって出来た傷も消えていた。
あの全身を燃やすような感覚も消えていた。
(あれっ!?痛みや苦しさが...消えた?)
今までの痛みが無くなり、先程までの体験が幻想だったのでは無いかと脳が錯覚している。
だが、僕の身体の中心には圧縮された熱が残っていた。
しかも、今までの感覚が変化し、新しい感覚が身体へと馴染んで行く事が解る。
すると、オーディンがこちらの様子に合わせてタイミング良く話し始めた。
「これで、そなたに祝福は与えられた!」
オーディンが僕にそう告げた。
その瞬間、空気が一変する。
先程までの痛みや苦しみで忘れていたのだが、再度、この場に威圧感や緊張感が支配して行った。
僕は姿勢を直ちに戻して、オーディンへと身体を向き直す。
「では、この世界をより良い世界に導いてくれる事を期待している。頼んだぞ」
そう告げると、オーディンはその場から浮いて上昇を始めた。
無数の天使達も一緒に上昇し始め、天へと帰って行く。
これは強制では無い、極自然な出来事。
気が付けば僕は、オーディン達が完全に消えるまで祈りを捧げていたのだ。
そして、オーディン達が天へと消えて見えなくなった瞬間。
「ぷはーっ。緊張した!」
僕の強張っていた表情が、緊張が解れてだらしなく破顔して行く。
無駄な力が込められていた身体が、一気に脱力をして、その体勢を崩した。
お尻をすとんと地面に下ろしては、楽になるようにと両足を伸ばして。
上半身を支えるように両手を背後へと伸ばし、頭(首)を「ダラン」と後ろに寝かせて顔は天井を見上げる。
僕は無事に祝福を貰えた安堵感から、先程の演出を思い返していた。
あの造り込まれたグラフィックは流石なもの。
何度も頭の中で反芻していた。
「凄かったな...まさか、直接オーディンから祝福を貰えるだなんて思ってもいなかったよ」
神の贈り物の演出を嚙締めながら、祝福で獲得した才能を確認する。
「“記憶と思考”か。出来れば成長促進系の経験値○倍が欲しかったんだけど、そう上手くはいかないか...これは、一体どんな効果があるんだろう?」
ステータス画面を開き、才能の項目を確認してみる。
うん。
ちゃんと獲得しているようだ。
『記憶と思考』。
ただ、試しに画面上をクリックしてみたが何も反応が無かった。
「反応無しか...言葉の意味だけなら解るんだけど...これは、どんな効果かあるんだ??」
「う〜ん」と悩んでみたが、今深く考えたとしてもその答えは解らなそうだった。
なので僕は、効果の確認を後回しにする。
才能が有っても無くても、どうせやる事は一緒なのだから。
それにもし“記憶と思考”の効果が大したもので無いとしても、今後のイベント報酬で才能は獲得出来るものだ。
それならいっその事、才能度外視で強くなれば良いと前向きに考えた。
「まあ、後々に解る事だろうし、今気にしたって仕方無いか。それよりも、早く強くなっていろいろな魔法を使ってみたいよな!」
僕は何だか、能力の解らない才能を手に入れた。
だが、此処からは強くなる為にラグナロクRagnarφk本編を楽しむのだ。
先ずは、メインストーリーを始める前に、冒険者ギルドへと行き冒険者登録をする事が必要だ。
「よし!手始めに冒険者登録をしよう」
目的はゲームシステムに慣れる為と、魂位を上昇させ、同時にステータスを上昇させる為だ。
β版の時に思ったが、どうやら僕は戦う事が大好きみたいだ。
今も早く何かと戦いたくて仕方が無い状態。
自身の持ち得る力を、スキルを、魔法を駆使して戦いたいのだ。
僕は冒険者登録をする為、ホーム拠点から冒険者ギルドのある始まりの街へと移動を始めた。
『プリモシウィタス』
始まりの街。
ミズガルズにおける原始の街にて世界と共に繁栄してきた中立地帯。
円形に広がり東西南北と四つのエリアに分かれている。
街の中心には冒険者ギルドがあり、おおまかに東は商業エリア、西は工業エリア、南は飲食エリア、北は居住エリアで構成されている。
僕は街の中心にある冒険者ギルドへと向かった。
『冒険者ギルド』
冒険者登録をすることにより身分、収入を得ることが出来る民間資格。
魔物討伐、素材収集、遺跡探索、護衛依頼、人命救助、賞金首討伐。
様々な依頼を受け持ち、その達成難易度によりランク分けされていた。
G、F、E、D、C、B、A、Sとランク分けされており、功績を積み上げる事で昇級が出来る。
B以上のランクに上がれば民間資格を超えて、国家資格以上の効力を発揮するようだ。
主にその特典として、関所における税の無料化。
立ち入り禁止区域の制限解除。
情報取得の制限解除などが含まれている。
「ここが冒険者ギルドか...何だかワクワクして来たな!」
目の前の建物は木造二階建て。
扉を開ければ、直ぐに広いホールがあり奥に横並びの受付があった。
壁際には掲示板が設置してあり、その掲示板からランク分けされた依頼書を持ち出し、受付で受理して貰うみたいだ。
「屈強な冒険者達...乱雑に貼り出された依頼書...これが、冒険者ギルド!」
冒険者ギルドの中は、様々な冒険者達で溢れていた。
皆が皆、強そうに見える。
ああ、「僕も早く、ああなりたい!」と心が躍動した。
「早く受付をしなくちゃ!」
感情が昂っているが、先ずは受付で冒険者登録をしなければならない。
それをしない事には何も始まらないからだ。
僕は空いている受付を探して、ギルド職員へと話し掛けた。
「ようこそ冒険者ギルドへおいで下さいました。本日は冒険者の登録でしょうか?」
[YES/NO]
(もちろん!)
[YES]を選択。
「かしこまりました。それでは、冒険者登録を行います。こちらの用紙に基本情報の記入お願い致します」
差し出された用紙とペン。
たが、それらは普通の道具では無かった。
(黒い紙?...このペンで記入すれば良いのかな?)
用紙の項目には、名前、種族、職業と書かれており、僕の情報をその空欄へと記入するみたいだ。
黒い用紙のそれぞれの項目に、ルシフェル、天使、魔法使いと記入した。
ちなみに、ペンで書いた文字は白く浮き上がった。
これ、日本語だけど大丈夫なのかな?
「...確認致しました。では、こちらに左手をかざして下さい」
(良かった。日本語でも大丈夫だったみたいだ。ええっと、左手をかざす?)
記入用紙の下部には魔法陣が描かれていた。
職員はその魔法陣を指差しながら、僕にそう伝えた。
(魔法陣...複雑な模様だな...)
僕は言われた通り、魔法陣に左手をかざす。
すると、その瞬間。
身体の中に存在する得体の知れない何かが、勝手に抜けて行く事を感じた。
どうやらその抜けて行く力が魔力と言うもの。
感覚としては、採血をされた時に脱力してしまう感覚に似ていた。
(これが...魔力?)
魔法陣に僕の魔力が満たされた時。
突如、魔法陣から魔法文字が浮かび上がっていった。
その魔法文字は記入用紙(黒い用紙)を対象に、周りを球状に包み込んで行った。
そして、魔法文字が光り始めた。
すると、僕が記入用紙に書いた文字が宙に浮かび上がった。
その文字はグルグルと回転しながら縮小して行き、用紙ごと手の平サイズのカードへと変化して行く。
その変化が終わるタイミングで、ギルド職員が僕に話し掛けて来た。
「冒険者における規約、注意事項はご存知ですか?」
[YES/NO]
(冒険者じたい初めてだから、まだ何も解らないよ)
[NO]を選択。
「かしこまりました。では、説明させて頂きます。お客様が冒険者登録を行い、登録が完了しますと、お客様は冒険者として、当冒険者ギルドでサービスを受ける事が出来ます」
サービス?
それは一体何があるんだろう?
僕は職員の話に耳を傾けた。
「ユグドラシルにおける全ての冒険者ギルドにおいて、仕事の仲介、報酬の受け渡し、素材の買取り、貨幣の両替、これらのサービスを行っています」
職員が身振り手振りで解り易いように説明をしてくれる。
ミズガルズ世界だけで無く、他の八つの世界でも共通なのだと。
「仕事の仲介は、個人、ギルド、国から請負っております。その依頼内容により冒険者ギルドの裁定で難易度を決め、各ランクへと振り分けられております。報酬の受け渡しは、依頼達成時に成功報酬として、もし失敗した場合は違約金として、報酬金額の二倍を徴収させて頂きます。依頼には期限も定められていますので、期限を過ぎた場合も、失敗扱いとなります。尚、失敗が続くようでしたら冒険者資格は剥奪されますので、依頼を受ける際は慎重に、自己責任でお願い致します」
職員は次に受付と違う場所のカウンターを指差した。
そこには『買取り所』と書かれている場所。
他の受付よりも少し広めのカウンターとなっており、その裏には扉があって違う部屋と直接繋がっているようだ。
「あちらの買取り所で、ギルド管轄で素材の買取りを行っております。この素材の買取りは、身分証をお持ちの方だけ行えます。各支部、各国ごとで素材の相場は変わりますが、情勢を考慮した適正な価格で買取りをさせて頂いております。その際、素材の品質により、金額の上乗せ、減額がありますので注意下さいませ」
そして、買取り所の反対側にある方へと指差した。
今度は『両替所』と書かれた受付だ。
その受付の裏手には厳重な鍵付の金属の扉が付けられていた。
どうやら、部屋自体も木造では無く、金属で出来た部屋のようだ。
「あちらが、両替所となります。世界各地の貨幣と両替を行うことが出来ます。国により硬貨の名称は変わり、この国ではお金をガルドで表します。最少硬貨が石貨になり、一枚一ガルドになります。石貨一〇枚で銅貨となり、そこから一〇枚毎に、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨と上がっていきます。硬貨はそれぞれ金属の含有量が定められていまして、それに応じた金額になります。硬貨は魔法による偽造の判別が出来ますので、偽造硬貨を使用した場合は犯罪奴隷になり、人権が無くなりますので注意下さいませ」
手持ちの資金は一〇万ガルドあり、金貨一枚分。
説明を聞いたおかけで硬貨の価値は解ったけど、このゲーム世界に奴隷制度がある事に驚いた。
まあ、普通にゲームを楽しんでいれば問題無い事だろうけど、一応心に留めて気を付けておこう。
「これらが、基本サービスになります。続いて冒険者における注意事項です。冒険者はカードにおいて情報の登録を行います。カード自体が本人の身分証明になりますが、管理は自己責任となります。紛失した際は再登録出来ますが、ランクは一番下からのやり直しになります。その際、罰金も発生しますので管理は自己責任でしっかりとお願い致します」
(これは保管の仕方に注意が必要だな。失くしたり、落としたりする事は無いだろうけど、盗まれることも考えといたほうが良いかもな)
「冒険者は身分証明の証として、依頼を請け負う義務が生じます。冒険者には有効期限が定められており、半年間成功報酬を達成していない場合は、冒険者資格の剥奪があります。冒険者にはランクが分かれ、一番下からG、F、E、D、C、B、A、Sと上がっていきます。昇格、降格には条件があり、条件を達成した場合に選択、もしくは、違反した際に強制的に降格となります」
(有効期限があるなら盗まれても大丈夫なのかな?まあ細かく設定もされているし、条件もしっかりしているから大丈夫なんだろうけど...どうなんだろう?)
「依頼を受ける際は特別な依頼を除いて、自分のランクからひとつ上のランクまで受ける事が出来ます。但し、失敗した際は違約金の発生に、同ランクにおいて三回失敗すると、ランクの降格がございます。先程も伝えましたが、違約金は報酬の二倍の金額になり、完全自己責任になりますので依頼を受ける際は注意をお願い致します」
(やっぱりペナルティはあるよね。...設定もシビアだから依頼は慎重に受けないと)
「冒険者には禁止事項があります。当たり前ですが、各国の法令に違反する行為。他者の依頼を妨害する行為。ギルドの品位を貶める行為。があります。禁止事項が破られた場合、冒険者資格の剥奪に、罰金の支払いがあります」
(この辺は当たり前か)
「ギルドに申し出があれば、冒険者の引退が出来ます。その際、身分証となる冒険者カードも失効になりますので注意をお願い致します。再登録も可能となりますが、例外なく、ランクはGからとなります」
(ストーリー上引退出来無いと思うけど、冒険者辞めた場合って生産系に転職とかなのかな?まあ、僕には関係無い事か)
「以上が、注意事項になります。冒険者カードにも記載がありますので、魔力を流すことでいつでも閲覧出来ます。解らなくなった場合は私達職員に聞くか、そちらでご確認下さいませ。それでは、お待たせ致しました。こちらが冒険者カードになります。失くさないように気をつけて下さい」
そうして冒険者カードを職員から受け取った。
(おお!これが冒険者カードか!)
冒険者カードは白い長方形の板で丁度手に収まる大きさだ。
職員の説明によるとランクが上がるごとにカードの素材も色も変わるみたいだ。
「じゃあ、登録も終わったところだし、ランク上げや魂位上げを始めるかな!」