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ラグナロクRagnarφk  作者: 遠藤
IMMORPG
25/85

024 終焉

※残酷な表現、描写が含まれていますので閲覧する際は注意をお願い致します。

 場面は少し遡り、三度目のラッパの音が鳴り響いた頃。

 ジークフリートと人頭象身の魔物との戦いに戻る。

 ジークフリートは“竜殺し”と言うギルドを立ち上げ、総人員数でラグナロクRagnarφk最大規模を誇る、そこのギルド長だ。

 ジークフリート単体で“竜殺し”を達成している最上位プレイヤーでもある。

 対する人頭象身の魔物は、雷の魔力を纏い暴れながら走り回っていた。

 帯電を帯びたその走りは周囲を焦がしながら、プレイヤー、NPC、仲間である天使達を殺して行く。

 ジークフリートは、その魔物を止める(殺す)べく並走をして戦技アーツを繰り出す。

 その攻撃は、その戦技アーツは、魔物を圧倒するものだった。

 そして、そのまま「勝負を決める!」と一気に攻め立てようとした時、三度目のラッパが鳴った。


「プァーーーーーーン!!!」

「...ラッパ?...何っ!?魔物の様子が!?」


 人頭象身の魔物はそれまで好きなように暴れ回っていたのだが、上半身の人の部分は全く機能をしていなかった。

 しかし、三度目のラッパの音による目覚めと共に、急激に知性を身に付けていった。

 走りながら現状を把握して行く。

 自分の持てる能力を分析して行く。


「...」


 動くだけで、プレイヤー、NPCを踏み潰せる巨体。

 その巨体を難なくイメージ通りに動かせる身体能力。

 利き腕とは反対の左腕。

 その手には魔力さえあれば無尽蔵に放てる魔法具(魔導ボウガン)を装備している事。

 身に纏う膨大な雷属性の魔力。

 そうして自身の解析が完了すると、先程までの適当な動きとは違って、整然された理性的な動きへと変わった。

 自分の使命は、この世界の害悪(プレイヤー、NPC)を排除する事なのだと。


「パオーーーン!!」


 殺戮の準備が出来たとばかりに下半身の像の鼻が音を鳴らした。

 すると、魔物の上半身部分の人の身体が話し始める。


「理解する。この世界に住まう害悪を」


 僕達からすれば、世界を侵略している害悪は目の前の魔物達だ。

 現に、この世界の侵攻を始めたのは現実化した黄昏の神々、召喚されし天使達、創造神と共に降臨した四体の魔物だ。

 不気味な事は、未だに創造神に動きが無い事だけど。


「世界の浄化の為、害悪を滅する」


 だが、人頭象身の魔物からすれば、僕達プレイヤーやNPCの方に非があるみたいだ。

 魔物と対話が出来る訳では無いので、その滅するべき理由が解らないけれど。


「パオーーーン!!」


 魔物は、自身に纏っている魔力を完全に制御し始めた。

 その姿は、かのネプチューン皇のような魔纏武闘気に似ているもの。

 魔力量からすれば、その威力は桁違いなものだが。

 すると、いきなり無詠唱で雷属性の魔法を解き放った。


「天雷!!」


 「ガガガ!!!」と激しい音を鳴らしながら大地へと降り注ぐ豪雷の嵐。

 その威力はかつてのジュピター皇国攻略の際、総動員で放った雷撃を軽く超えたもの。

 あの時でさえ平原一体全てを焼き払った雷撃だ。

 それが、それ以上の範囲、国家を一瞬にして浄土と化してしまった。


「なっ!?」


 驚愕する表情と、漏れ出た声。

 それがジークフリート最期の言葉だった。

 共に、その場にいたギルドメンバー、NPC全てが跡形も無くそこから消え去った。


「創造神様...創生の樹の浄化の為に!!」


 魔物は片手で十字を切り、創造神へと祈りを捧げ上空を仰ぐ。

 そして、九つの世界を順に浄化する為に動き出した。

 ユグドラシル世界を下から順番に。




 現実化したNPCのオーディン達アース神族は、同じく現実化した超レイドBOSSである黄昏の神々を相手にしていた。

 下級神、中級神、上級神の神々達だ。

 その世界に散り散りと広がる敵に対して、同じように散り散りに広がって殲滅を開始した。

 そして、オーディンはこの場に居る最大級の魔物。

 四体の内の一体の合成獣と相対していた。


「これが私の怒りだ!!」


 自身の愛槍グングニルを投擲し、丁度、魔物や天使を屠ったところだった。

 だが、三度目のラッパの音が鳴り響いた時。

 この周囲の敵対者達に異変が起きる。


「プァーーーーーーン!!!」

「...なんじゃ、この音は?」


 そのラッパの音と共に、グングニルが抉った空間(地面)から浮き上がって来るものがあった。

 それは、核と呼ばれる魔物の心臓部分。

 核が、地面から空中へと浮かび上がると、空気中の魔力を吸い尽くすように急激に収束を始めた。

 渦巻くように魔力が核に集まり、そこから肉体を再形成するように復元を始めて行った。


「まさか、私の一撃から逃れているとは。いや、逃れたのでは無く、切り離したのか」


 復元を始めたのは、跡形も無く倒した筈の合成獣。

 双頭の魔物だ。

 その双頭の魔物は、オーディンの一撃を回避する事は不可能だと悟り、肉体そのものを諦めて核だけを切り離した。

 精霊種、幻想種、魔物などの生物は、核さえあれば何度でも再生が出来るのだから。

 それを確認したオーディンは、再度、魔物を消し去る為に行動を開始していた。


「今度は核ごと、その全てを屠ってやろうぞ!」


 魔物の身体が再生を始め、元に戻ろうとしている時。

 オーディンはそれを待たずに攻撃へと移る。

 変身、再生、復活と言った約束事は「ワシャ、知らん!」と終了を待たずにだ。

 これは考えれば当たり前の事。

 戦闘中の絶好機をわざわざ逃して面倒事を増やす必要は無いのだから。


「霊!魂!滅!却!!」


 グングニルが形を変えながら魔力を集めて行く。

 その攻撃は、ありとあらゆる全てをその神槍一つで屠る最大の必中攻撃。

 放たれた攻撃は一瞬で到達し、地平線まで銀閃が走ったように見えるだけ。

 ただ一つの、全てを貫いたと言う事象だけを残して。


「神槍グングニル!貫っ!?ぐぇっ!!」


 オーディンがその神槍を投槍しようとした時、口からいきなり血を噴出した。

 何が起きたのか解っていないオーディン。

 ぶつ切りの言葉を吐き出す。


「...け」


 オーディンは魔物の再生が始まる前に始末をするつもりだった。

 目の前の核は肉体を再形成している途中でまだ肉の塊だった。

 ならば何故、自分が痛みを感じて吐血をしているのか?

 キョロキョロと周囲を見渡す。

 その視線の端から見えたもの...

 それは合成獣の尾の部分。

 蛇だった。

 再生を始めていた目の前の肉の塊は、オーディンに悟らせないように身体と尾の部分を更に分離させて行動をしていたのだ。

 獅子、山羊、蛇、その全てが合成されて切り離す事の出来無い一体の魔物だと思っていたが、どうやらそれは勘違いだったようだ。

 だが、それを知った時はもう手遅れ。

 その尾の部分だった蛇が、オーディンの胸を食いちぎり身体に穴を開けて飛び出ていたのだから。


「がはっ!!」


 吐き出す血に、穴を開けられた胸からの出血が止まらない。

 オーディンは即座に回復をさせようと魔法を使う為に身体を動かす。

 だが、それよりも先に、目の前で再生途中だった魔物が再生を終えて動いていた。

 それも、獅子と山羊の二つの身体に分かれてだ。


「ガオー!!」

「メェー!!」


 分かれた二体の魔物はオーディンが魔法を使用する前にオーディンの四肢を食いちぎる。

 そして、身体を達磨のようにした後、蛇が絡み付いて空中へと貼り付けた。

 オーディンにも再生機能は備わっている。

 だが、これだけの負傷は直ぐには治せない。


「ガオ(メェ)ーー!!!」


 獅子の鳴き声に、山羊の鳴き声が世界に響く。

 だが、オーディンは動く事が出来無い。

 喋る事も出来無い。

 意識だけが活動をしている。

 尾であった蛇はオーディンの自由を奪い、空中に貼り付けたまま分離した二体の魔物によるアース親族の蹂躙が始まった。

 そして、蛇は再生を続けるオーディンを少しずつ飲み込んで行く。

 その身体を完全に消滅させるまで。



 そして、ギルド魔法九帝の戦いへと移る。

 属性魔法の乱発で天使諸共、建物、自然、フィールド、障害物、全てを度外視して破壊を繰り返すギルドメンバー達。

 そのギルド長である魔九羅は、魔法を駆使し、昆虫と獣の合成獣を追い詰めていた。


「何も出来ずに死ね!」


 魔九羅が笑いながら魔法で蹂躙しているその時。

 三度目のラッパが鳴り響いた。

 すると、蹂躙をされていた筈の合成獣が、ラッパの音が鳴り響いたと同時に身体から溢れる魔力に闇属性が付与された。

 合成獣の属性が変化した事により、それまで効いていた魔九羅の魔法攻撃が合成獣に吸収されてしまう。


「なっ!?魔法が吸われる!?」

「キィー!キィー!!」


 合成獣の口が斜め四方向に開き、虫の鳴き声のような音を発する。

 その音は鳴き声にしか聞こえず、理解する事は出来無いのだが、何かを喋っているようにも聞こえる。

 合成獣は四体の魔物の中では最小。

 力がある訳でも無く、知性がある訳でも無く、対応力がある訳でも無い。

 では、その魔物の特性は何なのか?

 見た目から考えると、その鋭い爪なのか?

 それとも下半身が生み出す脚力なのか?

 どうやら、その答えはどちらでも無かいようだ。

 爪に関しては、プレイヤーが持つ武器でそれよりも切れ味が良いものがある。

 脚力に関しても、それよりも早く動けるものが居る。

 では、この魔物が持つ最大の特性は何なのか?

 その答えは...

 “増殖”。

 魔九羅の前にいた魔物は、一体から二体へ。

 二体から四体へ。

 四体から八体へ。

 そうして倍々に増えて行った魔物が、その場を埋め尽くした。

 それを目撃(体験)した魔九羅は、先程までの戦闘の余裕が消えていた。


「何なのだ...こいつは!?なっ!?やめろ!!やめてくれ!?」


 囲まれた魔九羅に逃げ道は無い。

 合成獣は、自身がやられた事を思い返すように魔九羅の自由を奪って行く。

 先ずは、機動力を奪う為に足の健を切る。

 足の健を切ったら、次は、両手の指を小指から順に切り落として行く。

 その都度、魔九羅の叫び声がこだました。

 指を切り落としたら聴覚を奪う為に両耳と中の鼓膜を。

 そして、嗅覚を奪う為に鼻を削ぎ落とし、神経を傷付けて行く。

 味覚を奪う為に舌を切り落とし、歯を一本ずつ抜いて行く。

 先程の仕返しとばかりに、合成獣に魔九羅が弄ばれている。

 楽しみ、愉しみ、多乃死味。

 合成獣の嗤いが鳴り響いた。

 そして、間も無く。

 この場を合成獣が支配した。




 空間を支配するように闇が広がった世界。

 至る所に死体の肉が飛び交い、山が出来る。

 血が沸き立ち、川が出来る。

 汚物にまみれ空気に触れ、腐って行く肉の匂いが鼻を刺激する。

 泣き叫ぼうが、救いを求めようが、誰にも届かない。

 太陽の光も、月の光も、此処には届かない。

 時間の流れすらも歪み、大袈裟に聞こえるかも知れないが、一秒が一分に感じる程。

 知覚が過敏になり、目の前の物事を、情報以上に余計に捉える。

 人が死んでいく様を、殺される様を、喰べられる様を、はっきりと、ゆっくりと。

 視界に映る全ての物事を、否応無しに記憶させられる。

 抗う為に噛み締める唇からは、血が流れ鉄の味を通して生きている事を実感する。


 五感があるから絶望するのだ。

 見なくていいのなら、視覚なんて消えればいい。

 聞かなくいいのなら、聴覚なんて消えればいい。

 触れなくていいのなら、触覚なんて消えればいい。

 匂わなくていいのなら、嗅覚なんて消えればいい。

 味わわなくていいのなら、味覚なんて消えればいい。


 どうすれば良いのか解らない。

 何をしたら助かる?

 教えて欲しい。

 何故こうなったのか?

 踠いても逃げ出せない。

 踠いても絡んでしまう。

 出口の無い迷路のように。

 蜘蛛の巣に迷い込んだように。


 止まらない殺戮。

 次に殺されるのは?

 誰か?

 君か?

 自分か?


 願いが、希望が、理不尽に散る。

 死や、苦痛が、平等に訪れる。

 憎しみや怨みに、妬みの感情がドロドロと溢れ暗黒が広がる。


 玩具で遊ぶように身体を弄ばれている。

 自分が壊れて飽きられるその時を待つのか、相手が新しい玩具に興味が移るのを待つのか。

 遅かれ早かれ逃げられずに順番は回ってくるのだ。

 容赦なく。

 不意に。


 口が無ければ、喋る必要も、叫ぶ必要も無い。

 感情が無ければ、怒る事も、哀しむ事も無い。

 身体や神経が無ければ、辛い事も、痛む事も無い。

 脳や心が無ければ、考える事も、悩む事も無い。


 それでも、それでもだ。

 まだ生きていたい。

 まだ死にたくない。


 生への渇望が身体を動かす。

 願望とも呼べる何よりも強い感情が、余計な思考を遮断させて。

 精神が肉体を凌駕し、生き残る事へと深く没入して行く。


 死にたくない。

 生きていたい。

 生きたいのだ。


 周りを見ても、自分以外の生き残りはいない。

 ならば意地汚く足掻いてやろう。

 自分が生き残る為に覚悟を決める。

 どうせ殺されるなら殺してやろう。

 生きる為に魔物に立ち向かう。

 なりふり構わず、持てる力の全てを持って。

 一筋の光を掴みとるように。

 身体を犠牲にしてでも、自らの限界を超えて。

 奇跡を自らの手で手繰り寄せるように。


「生き残る為に...殺す!!」


 アースガルズ世界にいたプレイヤー、NPC達は壊滅状態だ。

 一番大きな人頭象身の魔物に関しては、既にこの世界から別の世界へと移動をしていた。

 残りの二体の魔物も、まだこの世界で活発に殺戮を繰り返している。

 そして、四度目のラッパが鳴った時。


「プァーーーーーーン!!!」


 活動を停止していた牛頭人身の魔物(溶岩の塊)は身体の中心の最奥から再び熱が灯る。

 赤い熱が全身に広がり冷めて固まっていた身体に亀裂が走って行く。

 すると、身体を覆っていた岩が剥がれて熱が剥き出しになった。

 再び身体中に溶岩のような熱を持ち活動を再開させる魔物。


「グォオオオ!!!」


 最初の頃より身体は一回り小さくなったようだが、中心部では止まない熱が凝縮されていた。

 更に、その熱は無尽蔵にエネルギーを生み続け、魔物の能力を軒並みに上げていた。

 核エネルギーのような永久機関。


「生きていたのか!?」


 魔物の叫び声により、魔物が復活した事を知って、その事実に驚く。

 それは一度完全に活動を停止していたものが、再び動き始めたからだ。

 この事から解った事なのだが、どうやら、ラッパが鳴る度に魔物や天使達がパワーアップしている。

 それこそ、ユグドラシルに存在する“人”を全て排除するまで。

 そこでようやく、僕はラッパの意味に気付いた。


「これは...最後の審判!?ラッパが鳴る度に世界の終焉へと向かっているのか!?」


 七つの封印と最後の審判。

 黙示録に記されている内容と異なる部分はあるが、七つの角と七つの目を持つ子羊が封印を解いて行くと最後に人類が滅亡する。

 封印を解く方法がラッパの音に繋がり、封印が解かれる度に様々な災厄が世界に降りかかる。

 そして、今は四度目のラッパが鳴ったところ。

 という事は最後の審判(七つの封印の解除)までの猶予は残り後三回。


「最後の審判まで残る封印は...っ!?先に倒すべきは子羊か!!」


 ラッパの音に封印の解除。

 世界の終焉へのカウントダウンは始まっていたのだ。

 僕は上空に飛んだまま音の出所(子羊)をキョロキョロと探す。


「ラッパが鳴った方向...あれか!」


 見つけた。

 アースガルズの中心部で、ラッパを持ちながら二足歩行で小走りしている子羊。

 その動きはコミカルなもので、身体中がモコモコしている人形みたいだ。

 だが、そのマスコット的な見た目とは裏腹に、七つの目は虹色に輝き鋭い目つきをしていた。

 全部の封印が解かれる前に急いで子羊の方に向かおうと動く。


「くっ!?これは天使達が邪魔だな」


 天使達が進行方向を妨げるように前を塞いで来る。

 時間が無いのだが、邪魔者を払い除けるようにそれらを斬り払いながら、魔法を併用しながら、天使達を殺して進んで行く。

 だが、これ以上進ませまいと、子羊の下には行かせまいと、異様な数の天使達が集まり邪魔をして来る。


「どうしても子羊のところへと向わせたくないようだな!?」


 天使達に進路を防がれてイライラする。

 だと言うのに、人頭像身の魔物以外の三体の魔物が僕を目指して動き出していた。


「まさか、魔物達まで!?」


 周囲に散らばっていた魔物達も、子羊の下へは行かせまいと僕のところに向かって来ている。

 もともと牛頭人身の魔物だったものは、ゴーレムのようなものに変化をし、その身体から熱を放出して周りを焼き払いながら。

 双頭の合成獣の魔物は、獅子の半身と、山羊の半身とに分離をして、僕のところに向かって。

 昆虫と獣の合成獣の魔物は、自身を増殖させながら徐々に僕の方へと移動して。

 それぞれが、向かって来るスピードは全然違うの。

 だが、三体同時と言うのがとても厄介だった。


「流石に、この状況で魔物達にまで囲まれたらどうしようも無いぞ!?」


 僕の周囲は、既に天使達に囲まれている状態だ。

 だと言うのに、三体の魔物までこの場に来てしまった場合、僕は何も出来ずに殺されるだろう。

 それが本当の“死”なのかは解らないが、確実に。


「遠回りになるけど、僕が“生きる”事が最優先!」


 ならば...

 そうなる前に。

 手遅れになる前に。

 僕から魔物を...

 殺す。


「ならば、先にお前らから“殺す”!!」


 僕の邪魔をするならば。

 僕を殺しに来るならば。

 そうなる前にそいつらを殺す。

 魔物は、僕の下に辿り着くまで速さにばらつきがある。

 だとしたら、囲まれる前に一対一で殺すのが最も安全策。


「手始めに、邪魔な天使達から!!」


 それならばと、先ずは邪魔な周囲の天使達を一掃して行く。

 武器を弓矢に切り替えて、天に向けて無数の矢を放つ。


「シューティングスター!!」


 無数に放った矢が、天空から流星雨のように天使達に降り注ぐ。

 その降り注ぐ矢は物理の法則を、落下速度の重力を無視して加速を繰り返す。

 そして、放たれた無数の矢は一つも外れる事が無く天使達を貫き、地面に着くまでに天使達の全てを燃やし尽くした。

 これで最悪の状況の一歩手前から脱する事が出来た。

 ならば、僕の方から魔物の下へと向かえる。

 到着にばらつきのある魔物の中から近い魔物を探す。

 すると。


「ここから近いのは、獅子の魔物と山羊の魔物か...というか、分離してたっけ?」


 僕が見た時は、二体が合成された魔物だった気がする。

 だが、今は別々に動いているようだ。

 しかも、分離した魔物は、別々の方向から僕に近付いて来ていた。

 若干、獅子の動きの方が速いようだ。


「面倒なのは、魔法攻撃に物理攻撃のどちらが効くのか...」


 時間が限られた中での戦闘。

 それも一分一秒が惜しいと言うのに、見た事も無い魔物と戦闘をしなければならない。

 その上、魔物の性質も解らない状態で相対しなければならないのだ。

 魔法攻撃が効くのか?

 物理攻撃が効くのか?


「だったら物理攻撃から!狙い撃つ!」


 すかさず二体の魔物の性質を調べるようにそれぞれを弓矢で攻撃する。

 放たれた矢は閃光を放ち、必中と化す最速の矢。

 すると、結果が二つに分かれた。

 獅子の魔物には矢がそのまま突き抜けて行き、山羊の魔物には矢が弾かれた。


「獅子の魔物には物理が有効で、山羊の魔物には魔法が有効なのか!それが解ったのなら、速攻で片付ける!」


 二体の魔物の性質が解ったところで、装備を剣に持ち替えて獅子の魔物に立ち向かう。

 その前に、山羊の魔物を魔法で牽制しながら動きを止めて。


「フレアスフィア!!」


 山羊の魔物には、炎属性の魔法で身動きを制限する。

 魔物の左右から襲い掛かる10個の炎の球体。

 その一つずつが、太陽フレアの爆発エネルギーと同等の熱エネルギーを持っている球体だ。

 周囲にはプラズマの塊が放出されて電磁嵐が起きている。

 近くに機械があったのなら瞬時に故障している事だろう。

 山羊の魔物は必死でそれを避けようと動くが、その球体が持つ熱エネルギーに身体を燃やされてしまい動きを止めてしまった。

 この身動きを止めている、その数秒の間。

 僕は、その刹那にも似た刻の中で獅子と相対する。


「空間転移!!」


 獅子の背後へと一瞬で移動をする。

 これまでの天使達に囲まれている状況では転移後の隙を突かれた場合、為す術が無くなるので使用しなかったが、今は天使達を一掃した後だ。

 しかも、この場にいるのは分離した二体の魔物だけ。

 安全を確保した上での瞬間移動となる。

 そして、獅子の魔物は、突然消えてしまった僕を探すように動きを止めて周囲を見渡している。

 僕が背後にいる事に気付いていないようだ。

 見失っている今が絶好機。

 先程の牛頭人身の魔物との戦いで解った事がある。

 それは、魔物を殺すなら、その核ごと跡形も無く消滅させなければならないと言う事だ。

 無防備な獅子の魔物の背後から、最大の戦技アーツを放つ。


「その存在を塵すら残さない!!絶覇滅消閃!!」


 大層な名称が付いた攻撃だが、これは単に僕が技名を変えているだけの事。

 その攻撃は、ゲーム時代に覚える事が出来る何の変哲も無い戦技アーツなのだから。

 ただ、その剣撃は、時が刻まれる前に無数の剣撃を魔物に与え、相手の全てを斬り刻むもの。

 それも、魔物に斬られていると言う事実を知覚させる事の無い速さでだ。

 ゼロコンマ何秒の世界の中、無数の剣閃が縦横無尽に駆け巡った。

 そうして獅子の魔物を、跡形も無く消滅させた。

 僕は、すかさず魔法で身動きを止めていた山羊の魔物を追撃して行く。


「全てを燃やし尽くせ!!プロミネンス・ウェーブ!」


 山羊の魔物の周囲に赤黒い粒子が煌めいている。

 すると、紅炎が波のように何度も立ち上がった。

 その紅炎が立ち上がる勢いで、身体を削りながら燃やして行く。

 ゴウゴウと音を鳴らしながら噴出する紅炎は、山羊の魔物をものの数秒で消し炭へと変えてしまった。

 オーディンが油断をする事で苦戦した合成獣を、僕は一瞬の内に獅子の魔物と山羊の魔物を消滅させた。


「先ずは、一体目!!」


 すると、遅れてこの場に走って近寄って来る牛頭人身の魔物。

 その魔物は、今は熱を持ち身体が溶岩のような皮膚に覆われたゴーレムだが。

 丁度その時、五度目のラッパが鳴り響いた。


「プァーーーーーーン!!!」

「ちっ!五度目のラッパ音!時間が無い...次は、あいつか!!」


 このゴーレムはラッパの音(奇数回)に合わせて度々その性質を変化させて来た魔物。

 一度目の時は魔力が膨れ上がり魔法攻撃に耐性を持った。

 三度目の時は魔力に炎属性を纏い攻撃耐性(物理、魔法)が逆転した。

 そして、今は五度目。

 ただ、正直。

 どういう風な変化を遂げたのか全く想像が出来無い。


「奇数ごとに性質を変化して来たのなら、今回は魔法攻撃が効かない番なのか?」


 今までの状況を踏まえれば、五度目の変化で魔法攻撃が効かなくなっているかも知れない。

 だとすれば、それを踏まえて物理攻撃から試して行く。

 相手はゴーレムのような身体に変化した為、動きそのものは遅くなっていた。

 牛頭人身の時のように走れる訳では無いので余裕がある。

 ただ、その全身が燃え上がる質量で迫って来る巨体は、かなりの脅威だ。

 近寄る事が出来無い為、弓を力一杯に引き目標目掛けて矢を放った。

 果たして、燃えている身体に矢が届くのかは解らないが。

 そして、勢い良く真っ直ぐ進んで行く矢は、無事に魔物の身体まで到達する事が出来たが、「カンっ!」と表面の溶岩(皮膚)に当たる前に攻撃が弾かれてしまった。


「攻撃が届いているけど、物理攻撃が弾かれている...だったら、魔法攻撃で仕留める!」


 物理攻撃をものともしない魔物は、僕目掛けてドスドスと真っ直ぐ走って来る。

 僕からすれば、狙い易い的でしか無いけれど。

 ただ、前回魔法攻撃を仕掛けた時。

 氷魔法では、身体を固めるだけで破壊する事が出来なかった。

 また同じ事をしても、再び動き出す事は明白だ。

 それならば、魔物の身体を、魔物の核を、その全てを破壊する為の魔法を使用する。

 その燃え上がる身体(溶岩)に極大の爆発を起こす魔法。


「全てを爆砕せよ!エクスプロージョン!!」


 魔物の中心部に、急激に赤い粒子の塊が収束して行く。

 線状に周囲のマナを吸収しながら塊が圧縮と膨張を繰り返す。

 そして、臨界点を超えた時。

 周囲の空気を巻き込みながら超爆発を起こした。

 その衝撃はこちらまで届く程の威力。

 だと言うのにだ。

 その超爆発も魔物の身体に弾かれていた。


「なっ!?物理も魔法も効かないのか!?」


 ゴーレムの魔物は結果的に物理攻撃も、魔法攻撃も弾いた。

 そのどちらの攻撃も効かない事は初めてだ。

 動揺が激しい。

 どちらの攻撃も効かないのなら、僕に倒す手段は無いのだから。


「...」


 今一度、魔物の性質を冷静に思い返して行く。

 これは時間を掛ける訳では無く、我武者羅に攻撃をする無駄な時間を省く為だ。

 ラッパ(破滅)の音は待ってくれないのだから。

 最も必要な事が、時間を無駄にせず魔物を倒す事なのだから。


「...もしかして、物理攻撃も魔法攻撃も効かないのでは無く、体外と体内で耐性が違うのか?」


 これが答えかは解らない。

 魔物の表面は攻撃も魔法も弾いた訳だが、もしかしたら、体内ならばそのどちらかが効くのではと考えた。

 丁度、魔物の核も体内にある事だ。

 ならばこそ、魔物の内部から破壊する事を試す。


「結界を張って内部へと侵入する!!」


 魔物の身体が大きい事が幸いだ。

 その事を逆手に取り、魔物の口から内部へと進入して行く。

 魔物の身体は溶岩で出来ている。

 表面温度も十分に高いが、その内部はもっと熱い。


「くっ!熱いな...」


 熱耐性と結界で放熱を遮断しながら、核のある心臓部を目指して進んで行く。

 だが、核に近付く程、熱は上がって行き、熱耐性や結界を越えて容赦無く高温が襲い掛かって来る。

 汗が止まらない上、身体中の水分がドンドン失われて行く。

 体内の水分が渇き、焼かれてひりつく喉。

 乾燥をして行く肌。

 高音を帯びた呼気。

 そして、フラつく肉体。

 身体が危険信号を鳴らしている事が解る。

 だが、止まる事は出来無い。

 殺さなければ、殺されるのだから。


「...核が見えた!!」


 これから始めるのは、魔法と科学の応用。

 熱を生み続ける核を利用して、身体の内部で水蒸気爆発が起きるように多量の水を生成して行く。

 何故なら、水が熱せられて水蒸気となった場合、その体積が約1,700倍に膨れ上がるからだ。

 その多量の水と高温を生み出す核が接触を起こし、瞬間的な蒸発による体積の増大で爆発を起こす事が狙いだ。

 ただ、普通に魔法で水を生成しても出した瞬間に蒸発してしまい、狙った事が出来無い。

 その為、魔力を余計に使用する事になるのだが、水が高温に触れないよう結界でコーティングする。

 フラついているところに、魔力消費による気を失いそうなギリギリの作業。


「!?」


 一瞬、気を失いそうに目の前が真っ白になる。

 だが、魔物の内部に多量の結界でコーティングした水が丁度満たされると。

 僕は一目散に魔物の口から外部へと出て行った。

 外の空気に触れた瞬間、身体の熱が放出されて行った。

 ようやく、肺に酸素を取り入れる事が出来る。

 そうして呼吸をしっかりする事で身体中に酸素が行き渡った。

 後は結界を解除するだけだ。

 一度深呼吸をして。


「...解除リリース!」


 すると、魔物の内部に行き渡った水が、全身の熱に反応を起こし身体の至る箇所で爆発が連鎖して行った。

 それは火山が大噴火を起こしたような勢い。

 爆風と衝撃が周囲に広がって行く。

 そうしてあっという間に身体の崩壊が始まり、魔物を核ごと極大の爆発で木っ端微塵にした。


「これで二体目!!あとは、昆虫と獣の合成獣を倒せば子羊の下へ辿り着けるぞ!」


 その合成獣を確認すると、未だに同じ固体が増殖を繰り返していた。

 移動で近寄るのでは無く、増殖で距離を埋めて行く。


「増殖!?...ならばその増殖よりも早く駆逐する!!出し惜しみはしない!!僕の持てる魔法で仕留める!!」


 今の僕は、疲労も少しづつ蓄積された状態。

 だが、泣き言は言ってられない。

 動きを止めれば殺される。

 七度目のラッパが鳴れば死ぬ。

 それだけは絶対に嫌だ。

 生きる事を諦めて、殺されたく無い。

 生きる事を放棄して、死にたく無い。

 だからこそ、限界を超えて動き続けるのだと。

 そうして上級属性の最大級の魔法を連続で放って行った。

 だが、魔法での駆逐と魔物の増殖が同じスピード。

 どうやら、合成獣は全能力を増殖に振り切っているようだ。


「流石に数が多いようだな...ならば“魔力ブースト”で全効力を上げる!!」


 固有スキル“魔力ブースト”。

 イベントでの個別戦。

 そのイベント戦1位の報酬で手に入れた限定固有スキルだ。

 効果は、魔法に使用する魔力の際限を取っ払い、威力、範囲の効果を何倍にも高めるもの。

 ゲーム時代では消費魔力の10倍までが限度だったが、いまの現実となった世界ではどうなるのか?


「!?」


 それを確かめる為に魔力ブーストを使用して魔法にありったけの魔力を込めて行く。

 すると、自分自身の魔力が際限無く、魔法へと込められて行く事が解る。


「魔法に込められる魔力の限度が無くなっているのか!?...こうなっては、とてもじゃ無いけど、その威力がどうなるかなんて想像出来ないぞ!?」


 この戦闘後には、子羊の討伐。

 天使達に黄昏の神々。

 この世界には居ない、人頭象身の魔物。

 更には、最大の難敵である創造神との戦闘が残っている。

 今の時点で連戦になる事は十分に理解している。


「...ならば、一気に勝負を決める!!」


 この戦いを早く終わらせる為にも、まだ残っている魔物を倒す為にも、自身の持てる力を最大限に発揮する。


「プレイヤーも、NPCも、生存者がいない今の状況なら!」


 増殖を続ける魔物を壊滅する為、これから放つ魔法に自身の限界まで魔力を込めて行く。

 これは現実化する前のゲーム時代ならば、これ程の魔力を一つの魔法に込める事は出来なかった。

 だが、その際限が無くなり、幾らでも魔力を込める事が出来る今ならば。


「全てを飲み込め!!ブラックホール!!」


 増殖で広がる合成獣の中心部に黒い塊が生まれる。

 その黒い塊は徐々に大きくなり、周囲を否応無く全てを引き込んで行く。

 引き寄せる超重力により、合成獣の身体をゴムのように、茹で過ぎたパスタのように引き伸ばしながら。

 その黒球は、範囲も桁違いに広がり、持続効果も延びたものだ。

 増殖を続けていた合成獣も、もはや増殖すら何も出来無い状態へと陥った。

 ただただ、その黒い穴に全てが飲み込まれて行ったのだ。


「まさか、現実化した事でここまでの威力が出せるとは思わないよ...これは...人が居たら絶対に使えないな...」


 現実化した事で、際限の無くなった魔力ブーストの効果に驚愕する。

 人が、NPCがいたらと考えると、途端にその威力が恐ろしくなった。

 だが、これでアースガルズ世界にいた魔物は全て倒した。

 ようやく、邪魔者がいなくなった。

 僕は、一目散に子羊の場所へと目指す。

 だが、その時。

 終焉に近付く、六度目のラッパが鳴り響いた。


「プァーーーーーーン!!!」

「くっ!時間が無いぞ!!」


 封印の解除まで後一度。

 間に合わない場合は、即死を意味する。

 焦り、不安、恐怖。

 そのどれもが、僕の心を蝕んで行く。


「♪♪♪ー!!」


 すると、天に広がる天使達は更に激しく歌を唄い始めた。

 猛り狂った怒りのような声を発し、アルト、ソプラノと天使達が分かれて歌っている。

 それもパートを入れ替えながら激しく行き来させて。

 だが、その歌声には音程、リズムと全くズレが無いもの。

 激しくも恐ろしいその合唱は、聴く者の精神を破壊し、脳を支配して行くようだ。


「これは、直接...精神に左右して来るのか?」


 天使達の人相も先程までとは豹変し、今まで目を閉じていた瞼も開かれ、鋭い眼光を放っている。

 天使らしい優しい表情は消え、悪魔のような険しい表情へと変化をしている。


「これが...天使だって?こいつらこそが...悪魔じゃないか!?」


 そして、更に全世界では、大規模な地割れ、津波、雷雨、嵐が起き始めた。

 破滅へ向かう崩壊。

 確かに、これまでも天変地異と呼ばれる地形を変える程の魔法はあった。

 だが、今起きている災害はそれ等の比では無い。

 まさに世界の終焉の始まり。


「くっ!もう猶予が無い!!」


 この壊れ始めている世界を見て、もし、七度目の封印が解かれたらどうなってしまうのか?

 解っている事は、生き残れない事だけだ。

 そんな不安が過ぎる。

 急いで子羊を倒さなくてはならない。

 僕が生き残る為にも。

 すると、それを阻むように突然。

 僕の目の前に巨大な龍が現れた。


「ギャオーーーーー!!!」

「な!?龍なんて一体何処にいたんだ!?」


 驚くのも無理は無い。

 その正体は、もともと龍では無く、双頭の合成獣の尾の部分。

 蛇なのだから。

 オーディンを飲み込む事で種族進化を起こし、龍へと変貌を遂げていたのだ。

 進化をした事で、更にはオーディンの能力を吸収する事で、蛇の大きさだったものが龍と呼ばれるまでに巨大化をしていた。


 そして、更なる危機が僕を襲った。

 目の前に、別の世界に行っていた筈の人頭象身の魔物が現れたのだ。

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