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ラグナロクRagnarφk  作者: 遠藤
IMMORPG
22/85

021 ギルド対抗戦

「...」


 目が覚めると、泣いている事が殆どで、此処最近は毎日だ。

 それは夢の影響なのか?

 精神的な問題なのか?

 そのどちらかは解らない。


「...また...涙」


 夢の中は自分だけの世界だと言われている。

 他人が入り込む事は出来無いし、その世界を具現化する事も出来無い。

 科学的に証明が出来無い不思議な世界なのだと。


「...」


 今では名前を思い出せない、あの子。

 僕の人生において、間違い無く、最も影響を与えてくれた人物だ。

 あの子のおかげで、喜怒哀楽の感情を知った。

 あの子のおかげで、独りでは無い事を知った。

 あの子のおかげで、笑顔を知った。

 あの子のおかげで、幸福を知った。


「...元気に、しているのかな?」


 思い浮かぶあの子のシルエット。

 何故、僕は急に思い出したのか?

 どうやら、それも解らない。

 心の不安定さを拭い去るように、涙として流れたのか?

 それとも、魂を浄化するように、涙として流れたのか?

 夢は僕の心理を、心の奥底に眠る思いを表しているのかも知れない。


「そう言えば、あの歌...もう一度、聴きたいな」


 それが夢の出来事だったのか、それが記憶の断片だったのかは、もう解らなかった。




 IMMORPG『ラグナロクRagnarφk』が正式オープンしてから一年が経った。

 今日は、その一周年記念に合わせて特別なイベントが開催される日。

 ネットで前情報を知ったプレイヤー達は、此処ぞとばかりに盛り上がっていた。


「今度の新イベント、神イベントじゃね?」

「だよな!報酬がぶっ壊れてるもん」

「確かにヤバいよな...て言うか、イベントBOSSも神そのものみたいだし」

しんしんで掛かけてんじゃんねえ?」

「!?...確かに!!」

「だったら洒落てるけどな」

「それな!...ああ、優勝してえ」


 どの場所でも、似たようなやり取りが行われていた。

 ギルド対抗イベント『天空城奪還!神々の黄昏』。

 期間限定のレイドBOSS討伐戦である。 

 期間は前半戦が一週間。

 中間集計が一日。

 後半戦が一週間。

 全部で、イベント期間が一五日間のギルド対抗戦だ。


 イベントの概要は、運営から届く[お知らせ]から確認する。


 [お知らせ]

 イベントの遊び方。

 ①クエストでレイドBOSSと遭遇して撃破。

  イベントクエストをプレイ中にランダムで遭遇。

 ②イベントポイントを獲得。

  レイドBOSSを撃破する事でイベントポイントを獲得。

 ③累積ポイントで報酬。

  一定値毎のイベントポイント獲得の累積達成により一度だけ報酬が寄贈。

 ④累積ポイントでランキング上位を目指そう。

  ランキング上位者には限定アイテム、限定スキル、能力上昇アイテムを獲得。


 レイドBOSSは時間帯(後半戦)限定で超レイドBOSSが出現。

 ①七:〇〇~九:〇〇。

 ②一一:〇〇~一三:〇〇。

 ③一九:〇〇~二一:〇〇。


 注意事項

 ※イベントは期間限定です。

 ※予定されている内容や期間は、予告なく変更になる場合があります。

 ※レイドBOSSのドロップ報酬については、公式攻略ページをご覧下さい。

  なお、公式攻略ページの掲載は遅れる可能性があります。

 ※お知らせの内容以外にも報酬が獲得出来る場合があります。

 ※本イベントで獲得出来る報酬は、今後再登場しない可能性がございます。


 ランキング一位には、移動型ギルド拠点となる“天空城”が贈られる。

『天空城』

 永久常設で完全魔法結界、認識阻害、通信阻害、転移効果遮断、拠点内魔法使用不可(ギルドメンバーを除く)、拠点内効果二倍、拠点内改修必要ポイント半減。


 これはギルド拠点として、かなりの威力を発揮する。

 ギルド対ギルドの拠点戦をする際、無類の強さを誇るだろう。

 先ず、外部からは拠点を破壊する事が出来ず、直接拠点内に乗り込まないといけない。

 そもそもが空を自由に移動出来る上、認識阻害が働いている為に拠点を見つける事自体が難しいのだが。

 そして、拠点内に進入出来たとしても、ギルドメンバー以外は魔法を使用出来無い。

 これは、拠点内で戦闘をする際の攻撃魔法や、拠点内で傷を負った際に回復魔法を使用する事が出来無いのだ。

 更にギルドメンバー以外は、全く通信が出来なくなる。

 通信を通しての拠点外から指示を出したり、内部の情報を共有する事が出来無い。

 対策を立てる事が出来無いのだ。

 魔法具で転移をする事も出来ず、正に難攻不落の要塞と化す。

 一周年記念のお祝いとして、運営から破格外の報酬となる。


 そして、今はイベントの前半戦も終わり、中間集計が完了したところ。

 現在のイベントランキングは、こうなっていた。


 ・順位一覧

 表示:TOP一〇


 ・一位  一三三〇一二pt

 ギルド名 『竜殺し』

 ギルド長 『ジークフリート』


 ・二位  一三二九三六pt

 ギルド名 『明けの明星』

 ギルド長 『ルシフェル』


 ・三位  一〇四二八七pt

 ギルド名 『魔法九帝』

 ギルド長 『魔九羅』


 ・四位...

 ・五位...

 ・六位...


 冒険者ギルドのホールで、イベントランキングの順位表を見た二人組みの男達。


「へえ。一位はジークさんのところなんだな」

「まあ、人数も一番多いし、ギルド対抗戦なら当然の結果だよな」


 順位表を覗きながら羨ましそうに、そして、悔しそうな表情で会話をしている。

 どちらも途中参加組みの中堅プレイヤーだ。


「でも、やっぱり凄いのは、二位の『明けの明星』だよな!」

「ほんとそれなっ!ギルド所属人数が一人しかいない、ぼっちギルドだって言うのに、一位との差が一〇〇ptも無いからね」


 一人は羨望の眼差しで話している。

 もう一人は呆れたような、可笑しいような、そんな皮肉を込めて話していた。


「だよな!お前『明けの明星』のプレイヤー見た事ある?」

「“ルシフェル”だっけ?あの人ヤバイよな...今までのイベント全部一位だぜ」


 ラグナロクRagnarφkが正式オープンしてから今まで。

 開催されて来たイベントは全て僕が一位を掻っ攫って来た。


「それなっ!噂だとゲーム作成者の一人とか、本当は実在しない運営のダミープレイヤーとか、そもそも人間じゃない何処かの国の超高性能AIがプレイしているとか、様々な憶測は飛び交っているもんな!」

「まあ、ずっとぼっちでプレイしているし、不自然に仲間がいないもんな。でも、今回のギルド戦は、流石に一位無理だろうって言われてるよな」


 ギルド『明けの明星』に所属したいプレイヤーは沢山いる。

 だが、今まで誰一人として申請が通らず、ギルド加入が出来ていなかった。

 その理由すら解っていない状況から、ゲーム内で変な噂が出回っているのだ。

 やれ、ゲームマスターの一人だ。

 やれ、改造データの違反プレイヤーだと。

 そして、今回のイベント戦はギルド対抗戦。

 プレイヤー個人では無く、仲間での協力戦だからこそ、ぼっちプレイヤーのルシフェルでは一位になれないのだと囁かれていた。

 だが、蓋を開けてみたら...


「それが、前半戦終わった時点でポイント差がこれだけだもんな...凄過ぎだよ」

「これはジークさん発狂もんだよね。いつも自分のチャンネルで悔しがっているからね」


 ラグナロクRagnarφk攻略サイトを自分で作成していたり、実況プレイをしているジークさんこと、ジークフリート。

 攻略情報を乗せては、様々なプレイヤーを助けている最上位プレイヤーの一人だ。

 彼は人格者であるが、プライドが高く極度の負けず嫌い。

 ラグナロクRagnarφkが正式オープンして以来、一度も僕に勝った事が無いのがコンプレックスになっていた。


「まあ、良いんじゃね?どうせ俺等には関係無いし」

「...だな。ああ一度で良いから入賞してみてぇな」


 二人は最初盛り上がって話していたのだが、途中から悲しくなっってしまったのだろう。

 諦めの表情を浮かべて、何処か上の空だ。

 そして、そのまま二人は何処かに消えて行った。


 別の場所では、二人組みのプレイヤーが違う話をしていた。

 こちらはラグナロクRagnarφk正式オープンから参加している古参プレイヤーだ。


「そう言えば聞いたか?何かニュースでもやっているらしいけど、ラグナロクRagnarφkプレイヤーの“意識未帰還者”が問題になっているって」

「あっ!そのニュース俺も見た!」


 現実世界で社会現象を巻き起こしているIMMORPG“ラグナロクRagnarφk”。

 全世界で初めてプレイヤー数が一億人を越えた、お化けゲーム。

 これは登録者数でも無く、ダウンロード数でも無く、実際にプレイしている人数が一億人いるのだ。

 その為、仮想世界が現実世界と同等のコミュニティとして成立していた。

 物の価値は現実と同じように取引され、衣食住と、その全てが現実のように扱われているのだ。

 これは、仮想世界でも現実と同じように五感がそのまま楽しめるのだから、当然と言えば当然なのだが。

 まあ、その所為なのか、一部では犯罪も起きているようだが。


「でも、あれってさ。神経も脳も直接ゲームに繋げているからって言われているよな?まあ、そのおかげで五感が堪能出来るんだけどさ」

「そうなんだよ!現実では食えない美味い食べ物も食えるし、現実ではあり得ない家に住む事も出来る。しかも、女も抱けると来たもんだ。だったら弊害よりも実を取るよな」


 ある程度の魂位まで辿り着く事が出来れば、この仮想世界は現実世界を超えた居心地となる。

 此処の食事で実際にお腹が膨れる事は無いのだが、味覚や満腹中枢は刺激されるもの。

 もし、点滴などで生体機能を維持が出来るのなら、ゲームをずっとプレイする事も可能だ。

 ただ、その場合、他人の手による排泄物の処理が必要となるのだが。

 住居に関してもそうだ。

 先ず初めに、プレイヤー全員にはホーム拠点が与えられる。

 人によっては初期状態でも十分な広さ。

 それがゲームを進めて行けば、自分好みに設定も内装も変更が出来るのだから満足行くと言う物だ。

 そして、これがプレイヤーの人数を爆発的に増やした要因。

 他人と触れ合う事が出来るのだ。

 勿論、それは性行為を含めて。

 何なら、仮想世界のキャラクターの方が快楽を得る事が出来てしまうだろう。

 自分好みのフェイスメイクにボディメイク。

 見事に再現されている触感と質感。

 そのどれもが現実を超えているのだから。

 まあ、それで問題になった事もあったけど、今ではしっかりと取締りが行われている。


「“意識未帰還者”って言っても、現実世界でも年間五~六千万人くらい死んでいる訳じゃん?データで比較しても誤差の範囲じゃ無かったっけ?」

「ああ~、プレイヤーじゃなくてもって奴ね」


 現在、全世界で物議を醸している事が、仮想世界から現実世界に意識が戻って来ない“意識未帰還者”。 

 ゲームにダイブした後、身体機能は活動していると言うのに意識が戻って来ないプレイヤーが続出した。

 身体が生きている為に生命維持装置によって延命をしているのだが、処置の施しようが無い為に病室だけが埋まって行く。

 その為、現実世界を生きる者にとっての弊害となりつつあるのだ。

 しかも、その理由は未だに解っていなかった。


「現実だろうが、仮想世界だろうが、人間死ぬ時は一緒なのにな...ってか、それよりもバグが増えたよな?」

「バグってあの地震の事か?確かに、徐々にだけど頻度が増えてるよな」


 オープンワールドで突如、起きる揺れ。

 最初の頃は、気付くか気付かないか解らないくらいの揺れだったのに対して、最近では、その震度も上がり、揺れそのものを大きく感じる。

 一応、揺れが起きる度に運営からお知らせが来るが、どうやら把握が出来ていないバグらしく、対処が全く出来ていない。


「今後どうなるんだろうな?まあ、楽しいから良いんだけどさ」

「不安っちゃ不安だけどよ。まあ、俺等なら大丈夫だろ!」


 結局二人とも、事態を深刻には捉えていなかった。

 自分達は平気なのだと、根拠も無く楽観的に考えているのだから。

 そのまま二人で談笑しながら、此処から去って行った。




 場所は変わってホーム拠点。

 全施設を最大まで拡張したホーム拠点は、三階建て地下階層ありの圧巻の館となっていた。

 館には入場門があり、中庭には噴水、裏庭には車庫や飼育小屋が設置してある。

 そして、その館の中のリビングにて。

 そこには、いつも通りアルヴィトルが待機している。

 此処にいるアルヴィトルはメインストーリーのクリア特典として、戦闘に一緒に連れて行く事が出来るようになった。

 仲間のいないぼっちプレイヤーの僕としては、他人とのコミュニケーションに気苦労する事無く楽に冒険が出来るので嬉しい特典だ。

 それに戦闘では細かく行動設定が出来るので、連携から、サポートと、かなり心強い。


 ちなみに、今現在の僕のステータスはこうなっている。


『ルシフェル』

 称号:ワールドチャンピオン

 種族:天使LV10 大天使LV10 主天使LV10 熾天使LV10 神人LV10

 職業:魔法使いLV10 魔導士LV10 賢者LV10 召喚士LV10 解放者LV10


 HP

 9750/9750

 MP

 9999/9999


 STR 991

 VIT 970

 AGI 993

 INT 999

 DEX 990

 LUK 989


 [スキル]

 剣技LV10 剣術LV10 短剣技LV10 短剣術LV10 刀技LV10 刀術LV10 格闘技LV10 格闘術LV10 槍技LV10 槍術LV10 杖技LV10 杖術LV10 槌技LV10 槌術LV10 弓技LV10 弓術LV10 鞭技LV10 鞭術LV10 斧技LV10 斧術LV10 鎌技LV10 鎌術LV10 盾技LV10 盾術LV10 投擲技LV10 投擲術LV10

 [魔法]

 火属性魔法LV10 水属性魔法LV10 土属性魔法LV10 風属性魔法LV10 白属性魔法LV10 黒属性魔法LV10 炎属性魔法LV10 氷属性魔法LV10 大地属性魔法LV10 雷属性魔法LV10 聖属性魔法LV10 闇属性魔法LV10 時属性魔法LV10 空間属性魔法LV10 生命魔法LV10 召喚魔法LV10 精霊魔法LV10 創造魔法LV9

 [固有スキル]

自動体力回復(中) 自動魔力回復(中) 属性耐性無効(基本属性) 属性耐性半減(上位、特殊属性) 状態異常無効 物理攻撃無効(最大HPの30%まで) 魔法攻撃無効(最大HPの30%まで) 不老 浮遊 飛行 空間把握 魔力消費1/4 無詠唱 魔力ブースト


 もう少しで、全能力を最大に出来るところまで来ている。

 カンスト目前ってやつだ。

 ただ、此処まで来ると、能力を上げる方法はイベント報酬で手に入る能力上昇アイテムを使用するしか無いのが辛いところだ。


 そして、アルヴィトルのステータスはこうなっている。


『アルヴィトル』

 称号:追求せし者

 種族:天使LV10 大天使LV10 主天使LV10 戦乙女LV10 神人LV10

 職業:剣士LV10 騎士LV10 戦乙女LV10 処刑人LV10 殲滅者LV10


 HP

 5842/5842

 MP

 6537/6537


 STR 726

 VIT 555

 AGI 648

 INT 612

 DEX 520

 LUK 255


 [スキル]

 剣技LV10 剣術LV10 短剣技LV10 短剣術LV10 刀技LV10 刀術LV7 格闘技LV10 格闘術LV6 槍技LV10 槍術LV8 杖技LV10 杖術LV3 槌技LV10 槌術LV2 弓技LV10 弓術LV10 鞭技LV10 鞭術LV2 斧技LV10 斧術LV3 鎌技LV10 鎌術LV5 盾技LV10 盾術LV8 投擲技LV3

 [魔法]

 火属性魔法LV10 水属性魔法LV10 風属性魔法LV10 白属性魔法LV10 炎属性魔法LV10 氷属性魔法LV10 雷属性魔法LV10 聖属性魔法LV10 時属性魔法LV3 空間属性魔法LV2 生命魔法LV10

 [固有スキル]

自動体力回復(小) 自動魔力回復(小) 属性耐性半減(基本属性) 属性耐性1/4(上位、特) 毒・麻痺・石化無効 物理攻撃無効(最大HPの20%まで) 魔法攻撃無効(最大HPの20%まで) 不老 浮遊 飛行 空間把握 攻撃ブースト 魔力消費3/4


 能力上昇アイテムを使用していない状態だと、LV一〇〇時点でのステータスはこれくらいの強さとなる。

 アルヴィトルの場合。

 完全攻撃特化になっているけど。


「一位とのpt差は七六ptか。後半次第では十分に捲くれると思うけど...このままでは厳しいかな?」


 僕はアルヴィトルにそう尋ねた。

 ギルド対抗戦の場合、個人だけではどうにもならない壁が存在するからだ。

 それは人数(所属ギルドメンバー)の差として如実に表れるのだ。

 それをたった一人で対抗しているのが、『明けの明星』の僕ルシフェルだ。


「そうですね、ルシフェル様。今回のイベントでは人数の多い方が俄然有利となります。パーティーをギルドメンバーで組む事が基本となりますので、一人きりのルシフェル様では厳しい戦いになると思います。対抗戦も私が手伝えれば良いのですが...」


 アルヴィトルが現状を踏まえた上で、嘘偽り無く答えて行く。

 ギルドメンバーの討伐ptは所属ギルドへと加算される為、人数が多いほど有利になるのだ。

 レイド戦での貢献値によって貰えるイベントptが変動する為、通常はギルドメンバーでパーティーを組んでレイドBOSSを倒す。

 そうして無駄なくptを稼ぐのだ。

 そして、アルヴィトルはNPCの為、ギルドメンバーに所属する事が出来無い。

 その為、ギルド対抗戦でパーティーを組む事が出来無いのだ。


「だよね...とうとう僕一人では、どうしようも出来ないイベントが来たかな...」


 今までのイベントは、個人戦がメインだったからこそ結果を出す事が出来ていた。

 僕は現在まで、自身が思い描いた通りにラグナロクRagnarφk、No.一プレイヤーを目指し、それを体現して来た。

 だが、それも今回のイベントで最後になるかも知れない。


「ルシフェル様。そんな悲しそうな表情をしないで下さい。私は...ルシフェル様の努力を誰よりも存知ております」


 アルヴィトルが僕の手を両手で取り、力強く握り締めた。

 僕の顔を下から覗き込むような上目遣いで、眼をしっかりと見つめて励ましてくれた。

 確かに僕は、生活の全てをラグナロクRagnarφk中心で動いて来た。

 プレイ出来る時間を全てラグナロクRagnarφkに捧げて来た。

 誰よりも愚直に。

 誰よりも真剣に。

 誰よりも必死に。


「それに、ルシフェル様は絶対に諦めません。どんな困難も、その身体で、その意思で打ち砕いて来ました」


 力強く宣言するアルヴィトル。

 貴方のこれまでの生き様を信じているのだと。

 両手で握った僕の手を自分の額へと持って行き、まるで、祈りを捧げるように目を閉じた。

 そこで、ようやく僕は自分の気持ちに気付く事が出来た。

 ...弱気になって怯えていたのだと。

 僕自身、ラグナロクRagnarφkに真剣に向き合って来たからこそ思う事であった。


(一生懸命だからこそ、他人ひとに負けたくないんだな...そして、負ける事が怖いんだと。でも...他人ひとからすれば、所詮ゲームだもんな...僕はそのゲームに縋る事しか出来ないのに)


 あくまでも、この世界は仮想世界であり、いちゲーム世界に過ぎないのだと現実を叩き付けられた気分だ。

 現実世界と同じように五感を感じる事も出来るし、キャラクターに意識を没入する事で自分がその世界の住人のように体感をする事が出来る。

 だが、それはラグナロクRagnarφkと言う舞台があってこそだ。

 もし...システムが変われば?

 もし...プレイが出来なくなれば?

 もし...サービスが終了すれば?

 これは、たら、れば、の話。

 だが、この先...

 いつまでこの現状が続くかは解らない。

 僕は、この楽しみを失うのが怖くて、それに対する不安がイベントにまで影響していた。


「そうだよね...僕らしくなかったな」


 アルヴィトルに言われた事で、初心やその志を思い出すように自分の覚悟が決まった。

 見えない先の事を嘆くのでは無く、今を積み重ねて先に繋いで行くのだと。

 その今に全てを懸けて全力を尽くすのだと。


「アルヴィトル。ありがとう」


 その思いに気付かせてくれたアルヴィトルへとお礼を伝える。

 僕達が一緒にいる期間は、せいぜいラグナロクRagnarφkが正式オープンしてからの一年だけとなる。

 だが、その中身は随分と濃密な一年を過ごして来たと思っている。

 お互いに成長をして行きながら、これまでの感覚を全て共有して来たのだ。

 それも毎日一緒に。

 だからこそ、ただのゲームパートナーでは無く、家族のような人生のパートナーなのだと、お互いに想い合っていた。


「いえ。ルシフェル様のお役に立てたなら本望です。私はルシフェル様のパートナーですから」


 アルヴィトルの美しい顔で、とても優しい表情で微笑んだ。

 その振る舞いは女神のようで、有無を言わさぬ安らぎを感じる。


「よし!ここから巻き返すぞ!!」


 後半戦に向けて気持ちを改め、全力を尽くす。

 そして、一位を目指す。

 再度、僕は心に誓った。


 [後半戦初日]

 レイドBOSSには幾つかの種類がいる。

 今回は“神々の黄昏”という事で現れるレイドBOSSは全て神。

 下級神、中級神、上級神、そして、超レイドBOSSの創造神。


『下級神』

 樹の苗をモチーフにしている。

 生まれたての赤児の姿。

 基本属性である六種の魔法は全て使用出来、自動体力回復(小)の能力を持つ。

 一定時間毎に目を開けたり、閉じたりしている。

 目を開けている状態は魔法が効かず、目を閉じている状態は物理攻撃が利かない。


『中級神』

 樹をモチーフにしている。

 活発な少年の姿。

 基本属性六種全てに特殊属性の魔法の一部が使用出来、自動体力回復(中)、自動魔力回復(小)の能力を持つ。

 常時、物理攻撃が無効されている。


『上級神』

 大樹をモチーフにしている。

 勇敢な青年の姿。

 基本属性、上級属性十二種の魔法全てに、特殊属性の魔法の一部が使用出来、自動体力回復(大)、自動魔力回復(中)の能力を持つ。

 常時、魔法攻撃が無効されている。


『創造神』

 ユグドラシルをモチーフにしている。

 聡明な老年の姿。

 全ての属性の魔法が使用出来、自動体力回復(大)、自動魔力回復(大)の能力を持つ。

 ランダムで一定時間毎に物理攻撃、魔法攻撃のどちらかを無効化する。


 イベントの舞台はアースガルズ。

 神族が住まう天界だ。

 この指定フィールドを探索していると不意にレイド(ランダム)BOSS戦へと突入するイベント。

 レイドBOSS戦はオープンワールドで戦闘を行うのでは無く、正方形のイベント限定空間で戦闘を行う。


 僕は、この後半戦で順位の巻き返しを狙う為、休まずにレイドBOSSを求めて指定フィールドを歩き回っていた。

 そうしてイベント舞台の指定フィールドを歩いていると、突然、エンカウントが起こった。

 フィールド全体に眩い光が発生する。

 その光に包まれて限定空間へ飛ばされると、空中に浮かび上がる魔法陣から神が光臨して来る。

 それはまだ、善悪の区別が付いていない、あどけない表情の神。

 今直ぐにでも、本能のままに動き出しそうな子供の姿をした中級神だ。


「中級神か...出来れば上級神が良かったけど...まあ、これなら幸先がまだ良い方か」


 イベント一位を狙う為にも、ptの高いレイドBOSSを出来るだけ多く狩りたい。

 神の階級が高くなる程、その獲得出来るptも高くなるからだ。

 そして、目の前に出現したのは中級神。

 超レイドBOSSは時間限定の為、まだ現れない。

 それを踏まえれば、後半戦としては悪くない始まりだった。


「ならば早めに決着をつける!」


 レイドBOSS戦は、上空から光臨して来る中級神が地上に辿り着くと戦闘が開始されて行く。

 それまで若干のタイムラグがある。

 中級神は、物理攻撃が効かないレイドBOSSだ。

 相手に魔法でしかダメージを与える事が出来無いのだが、今は限定職である[解放者]をマスターした事で、魔法を[無詠唱]で放つ事が出来る。

 ならば、高火力の魔法を繋げて一気に勝負を決める。

 そして、中級神が地上に辿り着いたと同時に、僕は攻撃を仕掛けた。

 地面に片膝を立てながら、左手を右手に添えて、その右手を地面に押し付けて叫ぶ。


「切り刻め!シャドウエッジ!!」


 すると、中級神の足元(影)から無数の闇属性の剣が勢い良く生成されて行く。

 地面から生える魔力で出来た無数の闇の剣。

 それが中級神を何度も、何度も、深く斬り刻みながら相手の動きを止める。

 僕はその間に立ち上がり、追撃を仕掛ける。

 両手を左右に広げたまま叫ぶ。


「捉えろ!イヴィルスフィア!!」


 中級神の左右から対象を挟み込むように、合計一〇個の闇の魔力球が時間差でぶつかって行く。

 その闇の魔力球がぶつかった箇所は、空間ごと中級神の身体を削り取り穴を開ける。

 僕は、その魔法攻撃が続いている間に、その場で何も持っていない状態で弓を射る構えを取った。

 すると、その両手には不吉を感じさせる赤黒い魔力が、弓矢を模って具現化される。

 僕は、その赤黒い弓矢で中級神の心臓に狙いを定めて弦を引く。


「穿て!デモンズアロー!!」


 弦を引いた指の先から、赤黒い闇の魔力で出来上がった矢が放たれる。

 ただ、その放たれた矢は、矢と言うには余りにも巨大で、槍のような大きさをしていた。

 音を鳴らしながら突き進む矢は、螺旋状に回転しながら風を切り裂いて推進して行くのだが、一瞬で中級神の心臓へと到達した。

 刺さった矢の後端は身体に根を張るように広がり、その勢いが止まる事が無く、中級神の身体を上空へと持ち上げながら進んで行った。

 空中に浮かび上がって行く間に、更なる追撃を行う。

 僕はその場から、中級神に向かって十字を切った。


「断罪せよ!ブラッディクロス!!」


 十字を切った手順通りに空間が次元ごと裂かれて行き、空中に浮かび上がった中級神を十字に切り裂いた。

 断面から噴き出す大量の血飛沫。

 その光景はまるで、血の雨が降るようで、中級神の裂かれた身体から大量の血液が溢れ出ていた。

 絵画のような空中にとどまり磔にされた神。

 僕は仕留める為、そのまま地上の離れた場所から右手を中級神へと伸ばし、手を開いて相手を捉える。


「これで決める!グラビティコンプレッション!!」


 僕は叫ぶと同時に、捉えた中級神をその場から握り潰すように力を込めながら手の甲を返した。

 すると、中級神の中心部に黒い塊が生まれた。

 その黒い塊は、既存の何よりも黒い色。

 それは見ているだけで吸い込まれてしまいそうな、深く底の見えない黒。

 深淵の暗黒。


「闇とともに消えて無くなれ!!」


 その暗黒は「コォオオ!!」と音を鳴らしながら急激に周囲の空間を飲み込んで行く。

 一瞬にして空気が吸い込まれ、息苦しく感じる程だ。

 暗黒の正体は、超重力により圧縮された闇の塊。

 周囲を更に圧縮して行き、中級神の全身を引き伸ばしながら飲み込んで行く。

 僕はこの戦闘が始まってから、相手に何もさせずに魔法による攻撃で一方的に駆逐した。

 一瞬たりとも回復させる時間を与えず、周囲の空間を含めて、跡形も無く全てを消し去った。

 こうしてレイドBOSSである中級神との戦いが終わった時。

 それは突然起きた。


???「機は熟した」


 どこからとも無く声が聞こえる。

 頭の中へと直接響く音声。

 「えっ!?」とそう思っていたら突然、イベント専用の限定空間が音を立てて崩れた。

 それはガラスが割れた時と同じように「パリーン!」と言う音を鳴らして。


「空間が...割れた?」

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