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ラグナロクRagnarφk  作者: 遠藤
IMMORPG
21/85

020 ジュピター皇国⑥

※過激な表現、残酷な描写が含まれていますので閲覧する際は、注意をお願い致します

 「何がどうなっているんだ!?」と慌てふためくポセイダル兵。

 だが、その場から離れる事が出来ず、ただただ身構えるだけだった。

 改めて動き始めた巨人達。

 その行動は進化前よりも格段に動きが向上し、そして、より残虐に変貌を遂げていた。


「グガァアアア!!」

「!?」


 耳をつんざくような叫び声。

 その音は鼓膜を突き破り、脳に直接影響を与えた。

 自動的に聞いた者の精神を不安や恐怖に陥れる。

 その場でしゃがみこむ者。

 その場で震えだす者。

 その場で気を失う者。

 そして、進化を遂げた巨人の近くにいたポセイダル兵達は、蟻のように潰され、何も出来ずに殺され、無残にも犠牲になっていった。


「なっ!?みんなー!!!」


 それは一瞬の出来事だった。

 ポセイドン皇が矢面に立ち動けずにいた間、危険を顧みず仲間を助けに出たと言うのに、その使命を果たす事が出来なかったのだ。

 目の前で仲間が殺されて行く光景。

 仲間だった者が、バラバラな物に成り果てる瞬間。

 自身の力の無さ、そして、助ける事が出来なかった不甲斐無さに憤慨する。


「メティス殿!これはどういう事ですか!?」

「...」


 ポセイドン皇が、事前に聞いていた話と結果が違う事をメティスに言い寄る。

 だが、メティスの表情を見て咄嗟に理解してしまう。

 これは想定外の事態が起きているのだと。


「くっ!!みんな巨人達を止める為に力を貸してくれ!!」


 ポセイドン皇は感情を押し殺し、瞬時に思考を切り替えた。

 時間は待ってくれないのだと。

 一秒でも時間を無駄にしない為にも、自分がやるべき事は巨人を倒す事。

 止めるべき事は目の前の巨人だと言う事を。


「我らがポセイドン皇に続けー!!!」


 すると、まだ戦う事の出来るポセイダル兵全員が即座に動き出し、巨人達の下へと向かった。

 この兵士達全員が、目の前の巨人との圧倒的力量差を感じている筈なのにだ。

 きっと、無事では済まない。

 五体満足で生き残る事も難しい。

 最悪は...

 死。

 そうなる事を解っているのにだ。

 何もしないまま、目の前の巨人を放置する事は出来無いのだと。

 何故なら、亜人達は相手と戦う事で、相手を倒す事で、自分達の生存権を勝ち取って来たのだから。


「ウオオオ!!!」


 奮い立つ闘志。

 その溢れ出る熱気は凄まじいものだった。

 こうなってしまえば巨人達を人として助ける事は不可能なのだと。

 巨人のまま殺すしか無いのだと、皆が覚悟を決めた。

 そうして、各人が散らばり巨人達に対応して行く。

 全員が全員、自分が出せる全力で巨人へと立ち向かって行った。


「三叉槍よ!その力を顕現せよ!!」


 ポセイドン皇は魔纏武闘気を纏い、三叉槍に秘められた魔法を駆使し、全力で攻撃をして行く。

 辛そうな表情が目立つ。

 それは、怒りと悲しみが入り混じった複雑な心境を表していた。

 この感情は、何も犠牲になった仲間だけに向けられたものでは無かった。

 巨人を人に戻す事が出来ず、止むを得ず殺す事も含めての感情。

 だが、自身が皇に就いた時に、既に覚悟をした事だ。

 犠牲無くして、勝利は無いのだと。

 そして、その犠牲は相手も含まれていた。


「ルカ!俺達は向こうから挟み込むぞ!」

「おう!マーク!久しぶりの連携だ!!ついて来いよ!」

「はっ!何を言う!!お前がだろ!」


 幼馴染の気が知れた仲だからこそ取れる連携だ。

 軽口を言いながら鼓舞して行く。

 そうして、マークとルカは二人で協力をし、途切れない連携攻撃を繰り出して行った。

 一人では立ち向かえない相手だとしても、助け合えば倒せるのだと、革命戦で経た経験を存分に活かしていた。


「私達も負けていられません!五線譜が奏でるプロローグ!」


 ポセイドン皇達に続くように、五冥将も独自に動き出した。

 ヴァイアードは、持てる基本属性魔法を最大限に使用し、攻撃をして行く。

 音に乗せた属性魔法。

 聴覚も、視覚も、そのどちらの感覚も堪能する事が出来る芸術のような美しい攻撃。

 戦場を音で支配した。


「ガアッ!!俺ノチカラ!!見セツケル!!」


 オルグは、力任せの全力攻撃。

 ただ、それだけの攻撃だと言うのに、相手との身長差をものともしない膂力。

 巨人だろうが、何だろうが、力では負けないと意気込んだ。

 戦場を力で支配した。


「影に紛れた我が軍団!!光すら届かない暗黒へと導こうぞ!!」


 オクタウィアヌスは、自身の影から闇の軍団を召喚する。

 その現れた骨人族の軍勢の指揮を執り、自らが先頭に立ち攻撃をして行く。

 壊されても、壊されても、立ち上がる影の軍団。

 そして、相手を影の世界へと飲み込んで行った。

 戦場を影で支配した。


「ルシフェル様への愛。届いていますか?」


 エキドナは、自身の周囲に出来る限りの魔念体を作り出した。

 その数、実に一〇〇。

 戦場に居る巨人の数と同等の魔念体をたった一体の巨人にぶつけ、遠隔操作による攻撃、そして、自身が繰り出す魔法を合わせて止まらない攻撃をして行く。

 それは相手を弄るように、相手を愛するように、全てを包み込んで行った。

 戦場を愛で支配した。


「まさかこのように戦う事になるとは...プルート様。還らぬ魂にどうか安らぎを」


 デュナメスは、巨人の魂を覗いては、もう既に壊れている事を悟った。

 魂の選定者であるプルートでも修復の出来無い魂だ。

 あの状態では、二度と回帰する事の出来無い魂なのだと。

 それならば、魂をもうこれ以上磨耗させる訳には行かない。

 デュナメスの手によって安らかに消滅させるしか無いのだと。

 そして、瞬間移動を駆使しながら巨人ごと斬り裂いて行った。

 戦場を時で支配した。


「ムオオオーーー!!!!」


 ヘカトンケイルも自身の身体の特徴(怪力+一〇〇腕)を活かして、オリュンポス平原特有の巨大な岩を持ち上げ投岩をして行く。

 圧倒的物量による攻撃。

 戦場を数で支配した。


 それぞれが行動を開始した中で“僕とニンフは?”どうしたのかと言うと。

 メティスに個別で頼み事をされたので、皆とは別行動をしていた。

 その頼み事と言うのが、ゼウスとヘカトンケイルの二人を、この戦場に連れて来て欲しいとの事だった。

 一分一秒も時間が惜しい為、飛行でゼウスの場所まで向かっているところだ。


「...あの場にゼウスを呼んで、一体どうするのかしら?」


 ニンフが僕の懐に潜り込んだ状態で、胸の部分から顔を出して疑問を浮かべていた。

 だが、僕にもその理由は解らないものだ。


「う~ん、ゼウスはヘッポコなのに何でだろう??」


 ニンフは指でこめかみを押さえながら、口をつむぎ解り易く悩んでいた。

 確かにゼウスは魂位が低く、戦闘能力も低い。

 正直、今の能力では足手纏いでしか無い。

 この状況で役に立つとは思えないのだ。

 だが、これが史実に沿う話ならば、ギリシャ神話をベースにした話ならば、ゼウスが必要な事も解る。


「ニンフ!急ぐから口を閉じてね!」


 僕がそう言うと、ニンフは慌てて口をバッテンに押さえた。

 ビックリした様子で胸元でゴソゴソ動くのがくすぐったい。

 飛行で出せる全速力でゼウスの下へと向かった。




 一方、巨人達と対峙している皆。

 あまりの巨人の多さに、正直、為す術が無い状態だった。

 戦う事は出来る。

 だが、倒す事が出来無い。

 各々の攻撃がどうしても効かない巨人が居るのだ。

 全力の攻撃も、全力の魔法も、その身体に弾かれてしまう。

 皆が「何故、攻撃が効かない?」と疑問を浮かべる。

 そこでようやく、一人の人物が、ある事に気が付いた。


「これは...もしかしたら“悪魔”なのかしら?」


 エキドナが、皆に聞こえるようにそう答えた。

 ミズガルズと違う世界には悪魔と呼ばれる種族がおり、その悪魔だけの世界があるのだと。

 これはラグナロクRagnarφkの設定の根幹にあるもので、ユグドラシル最大の敵勢力だ。

 どうやら、目の前にいる巨人達は、その悪魔の特徴に酷似しているみたいだと。

 エキドナは魔法研究の一環として、魔法のルーツを探る為に、世界誕生、創生についての研究を行っていた。

 その時の研究で、古代文明の遺産から悪魔についての文献(石碑)を目撃していた。

 文献(石碑)には文字と呼ばれる物が書かれていなかったが、代わりに何かを表した絵が描かれていた。

 その絵と言うのが、“悪魔は攻撃が一切効かず、魔法も効かない”と言うような雰囲気で描かれていたのだ。

 情報を検証する為にも、他の文献(石碑)を探してみたのだが、それ以外の文献(石碑)は形すら残っていなかった。

 エキドナは検証する術も無く、その情報しか得る事が出来なかったのだが。


「もしも、文献(石碑)の通りなら、私達には為す術がありませんわ...」


 エキドナがその事を思い出したように巨人と悪魔を重ねる。

 このままでは、ミズガルズ世界そのものが壊れてしまうのだと。

 そうしてエキドナが悲観に浸っている時。

 皆と離れた場所で、独り孤軍奮闘する人物が居た。


「陸の上ならば、大地ごと砕いてやる!!全てを飲み込め!母なる大地よ!!」


 その人物とは、ただ一人戦意を漲らせているポセイドン皇。

 この状況でも諦める事は無いのだと。

 死んでいった仲間の為にも、傷付いた仲間の為にも、戦う事を決して諦めない。

 それが、自らの手で父親を倒し、皇としての意思を継いだ者の役目なのだと。

 三叉槍を天高く掲げ、勢い良く大地に突き刺した。

 すると、突き刺した先から、ポセイドン皇が身体を向けている方向へと大規模な地割れを引き起こした。

 複数の巨人達を地割れに巻き込み、その割れた大地に巨人の身体を挟んで行く。

 今までの攻撃(魔法)では、巨人にダメージを与える事が出来なかった。

 だが、ポセイドン皇の三叉槍を使用した魔法攻撃は、巨人達に十分なダメージを与えたのだ。

 それを見たエキドナが何かに気付く。


「どういう事でしょうか...攻撃も魔法も効かない筈?...いや、どうやら違うみたいですね。これは...基本属性魔法が効かないと言う事でしょうか?」


 エキドナが何かを察し、その答えに辿り着いた。

 今まで皆が繰り出した魔法は、全て基本属性の火、水、土、風、白、黒の六種のみ。

 そして、先程ポセイドン皇が繰り出した魔法は、上級属性の大地魔法。


「成る程。ですが、上級属性となるとハデス帝国で使用出来るのはプルート様のみ。ここはポセイドン皇を援護するしかありませんわね」


 エキドナが知り得た情報を魔念体を利用し、他のメンバーへと伝達して行く。


「さあ!お行きなさい!」




 ようやくゼウスの下に辿り着いた僕とニンフ。

 目の前の光景にとても驚いた。


「町の中は...悲惨ね...」


 ニンフが町中至るところまで破壊された、悲惨な光景を見て嘆く。

 その中でゼウス達は、必死に生存者を町の広場へと集めて救護活動を行なっていた。


「怪我の酷い者から回復させて!怪我の程度が軽い者はポーションを渡すように!」


 どうやら、ジェレミーは今まで一度も休まずに救護活動をしていたみたいだ。

 しかも、的確な指示を周りに出しながら。


「はあっ...はあっ」


 ゼウスは町の至るところから怪我人をその身一つで運んでいた。

 汗を掻きながらも、泥だらけになりながらも、周りにそんな事をやっても無駄だと思われてもだ。

 そうして広場へと運んだ矢先、死に至る住民が何人も居た。

 だが、それでも一人残らず、必死に救い出さそうと力の限り運んでいた。


「くそっ!...まだだ。まだ傷付いて動けない皇国民がいるんだ!」


 何の能力も持たざるゼウス。

 自分に出来る事は、我武者羅に身体を張る事だけなのだと。

 本当に、誰かを助ける為なら他人の目などを気にしてはならないのだと。

 そんな一生懸命なゼウスが、現実の自分と重なった。

 他人が見たら嘲笑うかも知れない。

 「そんな偽善をして何になる?」と。

 他人が見たら当然の事なのかも知れない。

 「困っているんだから助けるのは当たり前だろ!」と。

 各々が自分の感覚で発言し、各々が自分の常識で語るのだ。

 この常識感覚というものが、他人を助ける事があれば、他人を傷付ける事もあるのだと、僕は身を持って知っている。

 何故なら、その常識感覚と言うものは、己の主観によるものなのだから。

 押し付けてはならない。

 強要してはならない。

 そして、侵略をしてはならない。

 出来るなら...

 出来るならばだ。

 ただただ、相手の事を理解して欲しい。

 僕が胸の中に秘めていた思いが溢れていた。


「まだ、救護出来ていない者はいるか!私がその場に行く!」


 ゼウスは目的を知らず、この世に生を受け、ただただ毎日を過ごして来た今。

 皇族としての芽生え、そして、アマルティアから教育を受けての己の矜持。

 初めて自分自身に、使命感や責任感と言ったものを感じ取った瞬間だった。


「...」


 二人とも額から大粒の汗が流れており、その疲労が表情に表れていた。

 その様子からも、此処までの間ずっと過酷な状況だった事が伺える。

 必死に作業をしている二人を見ると、どうしても声が掛け辛い。

 だが、こちらも世界の命運が決まる大事な局面。

 一度、深呼吸をし、覚悟を決めたところでゼウスへと話し掛けた。


「ゼウス!必死なところ申し訳ない!だげど、何も言わずに一緒に来て欲しい!勿論、キュクロプスも一緒に!」


 町の救護活動をしているジェレミー(主要メンバー)を一人にしてしまう事は本当に申し訳無い事だ。

 だが、ジェレミーにはそのまま救護活動を優先して貰う為にも、その場に残って貰うしか無かった。

 此処からは時間が一分一秒でも惜しい。

 ゼウスが「...私が、ですか?」と疑問を浮かべていたが、この場で説明をしている時間が無かった。

 時間短縮の為にも、ゼウスを担いで飛行移動しながら説明をして行く。

 キュクロプスは僕達を追って後ろから走って付いて来ていた。

 そして、ゼウスにはオリュンポス平原の現状と、メティスに連れて来るように頼まれた事を伝えた。


「...まさか、そんな状況になっているとは思いませんでした。だけど、私とキュクロプスを呼んだと言う事は、雷霆による魔法攻撃かも知れません」


 ゼウスは、雷霆について話始めた。

 メティスから頂いた魔法具であり、魔科学を応用した試作武器なのだと。

 どうやら、魔力を溜めれば溜める程、その範囲や効果が上昇する魔法具らしい。

 亜陣共和国ポセイドンを防衛する際に使用したが、その威力は天変地異を起こしたと言う。


「もしも...雷霆に、私、ポセイドンの方々、五冥将の方々、そしてルシフェル様、メティス様と魔力を溜めたならば、その魔法攻撃がどれ位の威力になるか想像が出来ません」


 ゼウスは、「きっと、平原にいる全ての生物は跡形も無く消し飛ぶでしょう...」と。

 その予想からも、相手の生命を奪う事の苦しさを感じ取った。

 もともと“人”だった巨人を、“皇国民”だった人を、跡形も無く殺す事を悟って、そんな悲しそうな表情を見せた。

 そして、僕達がメティスの下に辿り着くと、エキドナの情報を共有していた皆が、ポセイドン皇をサポートする為に一箇所に集まっていた。


「お待ちしておりました。ここからは全員で協力をして最後の攻撃へと移りたいと思います」


 どうやら、巨人達の猛攻は、まだ誰一人として止まっていない様子。

 ポセイドン皇のおかげで、数体の巨人に致命傷を与える事は出来た。

 皆の頑張りで、何体かの巨人を倒す事は出来た。

 だが、その圧倒的な人数の為、僕達の戦況は悪くなる一方。

 しかも、巨人を地割れに飲み込んだとしても、地中から地上へと無理矢理這い登って戻って来たそうだ。

 体力的にも、精神的にも、限界を迎える寸前だった。


「では、ポセイドン皇は三叉槍の力を借りて、この平原全体を飲み込む渦を巻き起こして下さい。そして、残りの私達はゼウスの持つ雷霆に魔力を込めます」


 雷撃は水に伝達するものだ。

 その為、渦を起こして巨人達の身動きを止めてから雷霆で一気に仕留める算段。


「三叉槍よ!!大いなる海の力!!解放せよ!!怒りの奔流!!」


 ポセイドン皇が三叉槍を振るうと、何も無い平原にたちまち巨大な津波が多方向から襲い掛かる。

 水の無い平原を水で埋めて行く。

 そして、巨人達全員を飲み込みながら平原の中心に巨大な渦を造り出した。

 僕達はその間に、巨人達が身動き取れない間に、ゼウスの持つ雷霆へと魔力を集める。

 マーク、ルカ、ヴァイアード、オルグ、オクタウィアヌス、エキドナ、デュナメス、ゼウス、ニンフ、メティス、キュクロプス、ヘカトンケイル、そして僕。

 ミズガルズ世界で考えられる最大の戦力(魔力)が此処に集結をしているのだ。

 全員の魔力が枯渇するギリギリまで雷霆へと注ぎ込む。

 すると、雷霆が悲鳴を上げるように亀裂が入って行く。

 雷霆が壊れるのが先か?

 巨人を倒すのが先か?

 亀裂の大きさからも、どうなるのか誰も解らない。

 それでも、空には積乱雲がオリュンポス平原全域を覆って行き、太陽の光が徐々に遮られて暗くなって行った。

 音を立てるように壊れて行く雷霆。

 だが、その機能はまだ維持されている。

 そして、雷霆に最大の魔力が溜まった事を確認すると。


「皆を助ける事が出来なくてごめん...これで、どうか安らかに眠ってくれ!」


 ゼウスが目の前に広がる巨人達を助ける事が出来ずに涙を流す。

 助ける為には殺すしかないのだと。

 そう覚悟を決めて、魔法具を解き放つ。


「雷霆ケラウノス!!」


 眩い光と共に、雷霆から魔法が放たれた。

 上空に広がった積乱雲が反応し、連鎖するように帯電と放電を繰り返す。

 バチバチと弾ける魔力と電気。

 そして、その二つが合わさった時。

 雷の威力を格段に跳ね上げた。

 平原一帯に何度も、何度も、何度も豪雷が落ちて行く。

 それはオリュンポス平原の地形そのものを、何者もが生き残る事が出来無い荒野へと変える威力を持って、巨人を一体残らず全てを消し飛ばした。


「...魂も...塵も残さない...雷霆...ありがとう」


 雷霆は試作品であった為に、膨大な魔力量に耐えられず極大の魔法を放つと壊れてしまった。

 そして、皆がその場で魔力枯渇寸前で倒れて行く。

 精神的にも、身体的にも、限界だった。

 僕も同じように魔力枯渇状態で身体が重く、とてもだるい。

 思考が重く、脳が正常に働いていない状態だ。


「皆様ありがとうございました。まだ、終わりではありませんのでこれで回復しましょう」


 すると、メティスが異空間からマナポーションを複数取り出し、皆に分け与えた。

 自身が使用出来る回復魔法も駆使して、皆を完全に回復させて行った。




 一方、ジュピター城では。


「まさか、全滅だと!?こんな事があってたまるか...」


 浮遊型の映像記録媒体装置を通して、巨人の進化体“魔人”の行方を追っていたアトラス。

 その魔人が全滅をしている事を確認する。

 アトラスは一〇〇体の魔人が他領の町や国を一つも壊せなかった事に驚く。

 それなのにだ。

 まさか、魔人の方が全滅するとは夢にも思っていなかった。


「このままでは、ユーピテル様に顔向けが出来な。...だが、魔人を倒した奴等を私が倒せるのか?」


 天空皇ユーピテルから、世界を作り直す為の破壊命令を受けたアトラス。

 間違い無く、その作戦は遂行される筈だった。

 だが、いとも簡単に阻まれてしまったのだ。

 それも、巨人が進化した魔人を倒した相手だ。

 ジュピター皇国が保有している、数ある魔導兵器の中でも最強兵器である魔人を。


「...ユーピテル様の為に!」


 頭を振り払い、何かを覚悟したアトラス。

 その眼には迷いが一才消えていた。

 僕達を迎え撃つ為に、その準備を始める。



 メティスが皆を全回復させて、気持ちを落ち着かせた頃。


「では、ユーピテルを討ちにジュピター城を目指しましょう!」


 メティスが宣言して、選抜メンバー(メティス、ポセイドン皇、マーク、ジェレミー、ルカ、ゼウス、ニンフ、ルシフェル)で行動を開始する。

 巨人?を倒した事で、オリュンポス山頂上にあるジュピター城を目指す。

 この時、敵城を目指す為のルートは敵施設を使用せずに、敢えて遠回りをして山道を進んで行く。

 これは、敵施設に罠が仕掛けられている事(防衛システム)を考慮してだ。

 わざわざ罠に掛かる必要は何処にも無い。

 そして、選抜メンバーで行軍をして行く。

 だが、ジュピター皇国軍も手を打っていない訳では無かった。

 山の中間まで登ったところ、その場にはジュピター皇国軍が待ち構えていたのだ。


「どうやら、あちらも必死のようですね。皇城で待ち構える事無く、わざわざ私達に人員を割いているのですから」


 だが、これはメティスが想定していた事だ。

 この場に居るジュピター皇国軍は全部で二〇人程しかしない。

 気を付けるべきは、ジュピター皇国兵が魔導銃を装備していると言う事だけ。

 ジュピター皇国が誇る最新生体兵器の巨人を倒した僕達には、何の苦も無い。

 その中の一人の人物が僕達を見渡し、メティスを見付けては一歩前に出て来る。


「成る程!あなたが関与していた訳ですね...これで合点が行きました」


 そう話すのは、今回の作戦の総指揮を任せれていたアトラス。

 魔科学の最先端技術である巨人化の研究は、ジュピター皇国内でも極秘裏に行われて来た事だ。

 知っている人物は限られており、関与している人物も三人しかいない。

 この研究に携わっていた人物とは、共同で研究を行なっていたユーピテルとメティス。

 そして、メティスが去った後に引き継いたアトラス。

 この三人しかいないのだ。


「まさか“魔人”を倒すとは驚きましたよ」


 アトラスが手を叩きながらメティスに賛辞を送る。

 巨人が“悪魔”の力を取り入れ、更に進化を果たした“魔人”を倒した事をだ。

 アトラス自身、「どうやってそこまでの力(悪魔)を取り込む事が出来たのか?」、「何故、巨人から魔人に進化したのか?」は話を聞いた事があるだけで、本人も良く解っていない事だが。

 知っているのは、アトラスが崇拝する天空皇ユーピテルのみ。

 その事に対して疑問を浮かべる事は無く、「流石はユーピテル様!!」と神に祈りを捧げるかのように、その一言で片付けてしまうのが玉に瑕。

 妄信と言うものだ。


「あなたは、確か...アトラス?だったかしら?」


 メティスとアトラスの面識は、ほぼ無い。

 唯一の関係性として、同じ魔学院を卒業した程度の関係だろう。

 メティスは、歴代の卒業者生を含めて魔学院一番の識者であり魔法使いだ。

 メティス自身も昔から神童として有名であり、男のユーピテル、女のメティスとして崇められて来た。

 そして、アトラスはと言うと、二人に次ぐ実力を持つと称された人物。

 学院卒業の際に発表した論文『人間社会における魔法具の有能性と欠点』が有名であり、メティスでも、その論文を知っている位だ。

 毎年、ユーピテルやメティスが発表した論文と似たようなテーマを掲げる人物は居るのだが、その内容が伴っていない事が殆ど。

 だが、アトラスだけは違った。

 テーマと内容の着眼点。

 それを他人が見て、文字を読める者なら理解出来るようにと解り易く纏めた秀逸さ。

 魔法具の欠点を別の何かで補えればと言う思想は、ユーピテルやメティスの思想に通じており、凡人では考え付く事も出来無い内容だった。

 やはり、優秀な人物と言う事なのだ。


「まさか、こうしてお会い出来るとは“裏切り者のメティス”さん」


 ジュピター皇国から国を捨て逃亡したメティスを見たアトラスは、嫌味を込めて話す。


「あなたがいたからこその結果と言う訳ですね...ならば、ここでジュピター皇国最大の恥を清算致しましょう」


 メティスは、表向きではジュピター皇国の実験中に死亡した事にされている。

 その人物が生きていて国家を転覆させたとなると、拭いきれない歴史の汚点として刻まれてしまうだろう。

 それを表に出させない為にも、更にユーピテルの命令を遂行する為にも、此処でメティスを始末する。


「魔導銃、構え!!」

「はっ!!」


 ジュピター皇国兵が一斉に魔導銃を構えた。


「撃てー!!!」


 こちらに向けて魔力弾の弾幕を作り出した。

 その攻撃に対して、メティスとジェレミーが咄嗟に結界を張る。


「くっ、いきなり攻撃ですか!?」


 結界が魔力弾を弾いて行く。

 だが、その途切れる事の無い攻撃。


「何だ?あの武器は?止まらない魔力撃!?」


 ポセイドン皇が、初めて見るジュピター皇国軍の繰り出す魔導銃の攻撃に驚く。

 魔法では無く、魔力の塊を無尽蔵に発射している攻撃だ。

 結界が無いと思うと、ゾッとする攻撃。

 すると、メティスが個別の結界を張って行く。


「おお!メティス殿、助かる!マーク、ルカ、行くぞ!」

「「おう!!」」


 瞬時に、ポセイドン皇、マーク、ルカが散開し、ジュピター皇国兵へと襲い掛かった。

 その三人の後を追って、僕も行動を開始する。

 魔導銃の連射攻撃は、結界で難無く防ぐ事が出来るので、近いジュピター皇国兵から剣で斬り倒して行く。

 ジュピター皇国兵自体は、とても弱い。

 正直、適当に剣を振るったとしても、その一撃で簡単に倒す事が出来るだろう。

 そうして、その場にいるジュピター皇国兵を蹴散らし、アトラス一人だけになると。


「...やはり相手にはなりませんでしたね」


 アトラスが顔を抑えながら呟く。

 だが、こうなる事など最初から解っていたのだと。

 懐から“何か”を取り出し、それを口に含む。


「ユーピテル様。我が忠誠を...」


 その“何か”を飲んだ後、腕を真上に伸ばし、天を仰ぐ。

 アトラスは、空気中に漂う周囲の魔力を、自身の身体へと急激に取り込み始めた。

 すると、身体がボコボコと膨れ上がり、身体の細胞が魔力を取り込んで変異を起こして行く。


「空気中の魔力が失われている?...これは、何が起きているんだ?」


 ポセイドン皇が目の前で起きている事に疑問を浮かべる。

 何だか、巨人が進化を起こした時と似ていると。

 アトラスは、周囲の黒い魔力を吸収する事で内包している魔力が変異し、その魔力量が一気に膨れ上がった。

 すると、それを見たメティスが慌てて叫ぶ。


「皆さん!どうか、今の内に倒して下さい!!」


 声を聞いた皆が瞬時に反応し、アトラスへと攻撃する。

 だが、攻撃は黒い魔力に弾かれてしまい何一つ通らなかった。 


「なっ!?攻撃が弾かれる!?」

「駄目だわ!魔法も利かないわ!?」


 周囲に漂う黒い魔力が球体化して、アトラスごと包んで行った。


「ああ...巨人化が始まるわ...」


 メティスが巨人化の兆候を掴み取り、目の前の事態に危惧する。

 これは人が巨人化して行く過程と同じ状態らしい。

 通常なら、擬似魔核を移植する大掛かりな手術が必要になるが、何かを口飲摂取しただけでそれが起きた。

 黒い魔力球がどんどんと肥大して行く。


「原因は解りませんが、巨人化だけでは無く、魔人化が始まっています!今の内に倒せるなら始末してしまいましょう!!」


 全員で全力の攻撃を繰り出すが、アトラスには一切届かない。

 メティスの悲痛な叫び声だけがこだまして行く。

 すると、突然。

 アトラスを包んでいた魔力球が周囲に発光した。

 僕達は眩しさで目が眩んでいると、魔力球が弾け飛び、その中から変異したアトラスが出て来た。


「...巨大化していない?」


 メティスが通常の巨人化と違う事態に驚く。

 アトラスが何を取り入れたのかは解らないが、通常、擬似魔核を移植した際、身体に直ぐ異変が起こり、一人残らず巨大化をして行った。

 ユーピテルの研究がメティスの想像よりもだいぶ進んでおり、巨人化では無く、魔人化へと進化していたが、擬似魔核を取り入れた際の成長は同じ筈。

 だが、それが今回起きていないのだ。

 目の前のアトラスは、身体が少し大きくなり二〇〇cm程。

 見た目は、人から掛け離れた姿に変異していた。

 肌の色も赤黒く変異し、頭から角が生え、口からは鋭い牙が伸びていた。

 身体には鱗が、背中には翼が生え、風貌はまるで竜のようだ。

 身体全身がひび割れているようで隙間からは赤い光が発光している。

 アトラスは顔を上げ、天を仰いだ状態で魔人と化した。


「これは、一体、どうなったのですか?」


 ポセイドン皇がメティスに尋ねる。


「さあ...目の前にいるものが何なのか、皆目、検討もつきませんわ...」


 メティスが身体を震わせながらポセイドン皇に答えるが、その質問に答える事は出来なかった。

 アトラスが顔を上げた状態から僕達を見据えて一睨みする。

 血のような赤い眼で見られただけなのに、威圧されてしまい身体が思うように動かなくなった。

 次の瞬間、瞬きをする一瞬の出来事だった。

 アトラスはその場から動いた気配が無いのに、僕以外のメンバー全員がその場で倒されていた。


(えっ!?何が起きた?)


 何が起きたか解らず呆然としていると、アトラスの一部に違和感を受けその部分を注視する。

 アトラスの肘から先が魔力で覆われていたのだ。


(一瞬で全員を!?動きすら見えなかったぞ!?)


 すると、アトラスがこちらを見て急に叫びだした。


「グガガグガグガァグガガグガァ!!!!」


 何が起きたのかと思ったら、どうやら、バトルフィールドが広がっていた。

 これはBOSS戦であり、一対一の勝負だ。


「ここに来ての一対一か。相手の能力が全然解らない...」


 アトラスの強さは未知数。

 だが、此処まで来て負ける訳には行かない。

 僕は出し惜しみをせず、最初から全力を出す。


「だが、やる事は変わらない!相手のパターンを特定させて確実に攻撃を当てるだけだ!」


 前提として、相手の行動、攻撃パターンが解らないので、距離は必ず一定幅を保つ。

 次に、アトラスの行動、攻撃パターンを探って解析をする。


「てやー!!」


 この二つを繰り返しながら、更に時間を掛ける事で解った事。

 それは、アトラスは地上からの物理攻撃(パンチ、蹴り、体当たり、爪、噛み付きと種類があるが)、もしくは飛行して、上空からの物理攻撃の大きく分けて二パターンしか無かった。

 しかも、身体に魔力をあれだけ纏っていると言うのに、攻撃には魔力(属性)が付与されていない。

 それどころか、魔法そのものでの攻撃が一切無いのだ。


「今までのBOSSよりも攻撃パターンが少ない?」


 その理由が解らない。

 今までの相手よりも、格段に楽な相手なのだ。

 だが、僕は油断せずに戦闘を進めて行く。

 すると、アトラスの身体が最初の頃よりも太ったように感じた。


(さっきよりも身体が大きくなっている...?)


 身長が伸びている訳では無く、横に膨らんだ感じだ。

 だが、それは僕の気のせいかも知れないので、まだ確定した事では無い。

 未知なる不安を感じながらも、アトラスの攻撃を貰わないように、離れながら攻撃を当てて行く。


「ギィグァー!」


 戦闘を繰り返していると、やはりアトラスが徐々に巨体化している事が解った。

 相撲取りのような身体へと、段々と変貌して行く。


(やっぱり!体積が横に膨れ上がっている)


 アトラスにダメージを与える攻撃は雀の涙程度しか無い。

 しかし、時間が経つ事に、アトラスの身体は再生と破壊を繰り返していた。

 今でも身体は周囲から魔力を吸収し続け、進化(膨張)を繰り返している。

 だが、徐々に身体の再生が間に合わなくなり、身体の破壊が勝り始めた。


(これは、時間を掛ければ自滅するのか?)


 現状を分析した結果、アトラスの自滅までこちらが耐え切れば勝てる事が解った。

 相手の攻撃は重い。

 だが、身体が横に膨れ上がった為に動きは遅くなっている。

 アトラスの攻撃を避けながら、相手の行動を制限するように攻撃して行く。


(空間把握。飛行。攻撃。浮遊。装備切り替え。誘導)


 最大速度は維持したまま、一つ一つの動作を、丁寧な行動を心掛けて。


(...繰り返して...繰り返して)


 集中力が増している事が自分でも解る。

 思考と動作が同時に行えるように。

 ただそれに伴って、脳の何かが「ブチッ」と切れているのを感じる。

 脳が悲鳴を上げている。

 だが。


(まだだ!これじゃ物足りない。この更に上の段階を!!)


 目や鼻からは、血が流れている。

 だが、自分では気付く事が出来無い。

 いつの間にか脳の痛みも感じていない。


「...」


 集中の極致である“ZONE”にへと突入した。

 相手の視線、姿勢、身体の動き(指の先から足の先まで)全てを俯瞰で捉える。

 得た情報を即、反映し、即、反応するように、思考と行動が一体化して身体が動く。

 頭の中の雑念が無くなり、常にスッキリしているような、とてもクリアな感覚が何とも気持ち良い。

 考えていなくても身体が動き、身体が動いていても、常に先を思考している。

 矛盾している感覚。

 だが、それが交じり合って一体となっている心地良さ。

 相手に何もさせずに攻撃を繰り返す。

 それを何度も繰り返して。

 アトラスが自滅するまで一方的に。


「グッ!!ガッ!!」


 アトラスが突然苦しみ出した。

 すると、バトルフィールドが途切れ、此処から離れるように空中へと逃げて行く。

 どうやら、ジュピター城に戻ろうとしているみたいだ。

 だが、アトラスの身体は急激にボコボコと膨れ上がって行く。

 空を蛇行しながら飛んでいるが、急に空中で身動きが取れなくなってしまった。


「グァ!グァラガグァー!!」


 膨れ上がった魔力が器を破ろうとしている。

 とうとうアトラスは、空中で膨張を続けた結果、限界を超えて身体が弾けた。

 強制進化による急激な魔人化で、身体が持たずに魔力暴走を引き起こしたのだ。

 それは周囲から吸い上げる魔力を、何度も、何度も圧縮させ、極限まで濃縮された魔力が、アトラスと言う器を突き破って解放された。


「ドガーン!!!」


 その解放された高濃度の魔力は、アトラスを中心に、オリュンポス山の一部と、ジュピター城を巻き込んで消滅してしまった。


「えっ?ジュピター城...ごと?」


 その衝撃により目覚めて行く皆。

 どうしてこうなったのか、とても驚いた様子だ。

 僕は、皆に解るように説明をして行く。

 すると、ポセイドン皇達、五冥将の面々に、ニンフが、戦争は終わったのだと喜ぶ。

 日数にしたら二日間。

 その短い日程で終了した出来事だが、中身がとても濃いもの。

 皆が疲弊していた。

 今後は、ゼウスの手によるジュピター皇国の再建が待っている。

 呆気無く終わってしまったユーピテルの討伐は、ジュピター城の消滅によりそのものが消えてしまった。

 死体を確認する事が出来なかったと言う一つの懸念を残してだが。


「...ユーピテルも...亡くなっているんだよね?」


 一抹の不安を残したまま、ジュピター皇国の攻略が終了した。

 最後は駆け足で終了してしまったメインストーリー。

 僕には、何処か物足りないものが残った。

 こうして、歴史に記される事となる“ティタノマキア”と呼ばれる戦いが幕を閉じたのだった。


 そして、一月後。

 ゼノ・ウラヌス・スペクトラルがジュピター皇国の国皇として即位する。

 亜人共和国ポセイドン、ハデス帝国、ジュピター皇国、この三国間で結ばれた三国終身同盟の締結。

 これによって、ミズガルズ世界の平和が守られて行くのだ。




 丁度、ジュピター皇国の攻略が終わった、その時。

 突如、世界に異変が起き始めた。

 オープンワールドであるミズガルズ世界に、大地震が発生したのだ。

 それは、魔法による効果とは掛け離れた、世界そのものが揺れる大地震。


「!?...地震!?」


 魔法の効果を受け付けない、決して揺れる事の無いオープンワールドが揺れている。

 その事に疑問を浮かべるが、プレイヤーにはどうしようも無い事象。

 きっと、ゲームのシステムによる不具合なのだろうから。

 その内、運営が対処してくれるだろうと思い、揺れが治まるのをその場でじっと待つ。

 すると、思惑通りに揺れが段々と治まって来た。


「これで落ち着い...な!?」


 ようやく揺れが治まったと、安心をした時。

 突如、このフィールドの空間にガラスが割れたような亀裂が入って行く。

 しかも、目の前の所々に穴が開き、虫食い状態の世界。

 穴の奥では、「ザザーッ」という雑音が鳴り響いていた。


「なんだろう?...バグ??」


 ???「...界...白い...」


「えっ!?」


 何か、言葉が聞こえたような気がして耳を澄ませるが、どうやら、雑音しか聞こえて来ない。

 それ以降、音も、言葉も聞こえる事は無かった。


「気のせい...だった?」


 音も無くなり、空間が静まり返った時。

 一瞬の無音が支配した。

 そして、再び音が流れ出すと同時に、画面が大きく横に揺れて元通りの世界へと戻って行った。

 先程までのひび割れた光景が嘘だったかのように、今ではいつも通りの光景だ。

 何が起きたのか解らなかったが、どうやらバグは直ったみたいだ。

 一体何だったのだろうと疑問を感じたが、この後はバグが起こる事も無く、問題なく仮想世界を遊ぶ事が出来た。

 その為か、直ぐにこの異変を忘れてしまった。

 いや、忘れさせられたのかも知れない。

 これ以降、僕が気にする事は一度も無くなってしまった。


「...ようやくこれで、ミズガルズ世界が攻略出来たんだ!!ユグドラシル一つ目の世界が!!」

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