013 ハデス帝国⑤
※過激な表現、残酷な描写が含まれていますので閲覧する際は、注意をお願い致します。
『試練の塔・五階』
とうとう最上階まで辿り着く事が出来た。
これが最後の試練となり、これから相対する人物は五冥将最後にして最強の人物だ。
「ようやく...ここまで来る事が出来た。あとは、ここを乗り越えるだけだ」
部屋の中央には、これまで同様にローブで姿を隠す人物が立っていた。
ただ、これまでの人物と違うのは、僕を確認すると同時にローブを勢い良く脱ぎ捨てた事。
「お決まりのやりとりなんてしゃらくせえ!!」とばかりの態度だ。
「!?」
中から姿を現したその人物。
一目見て解る、凶悪な強さを持っていると言う事を。
暗黒の全身鎧を身に纏い、禍々しい魔力を周囲に放出していた。
但し、頭と胴体が切り離れていた。
この人物は、俗に言うデュラハンと言う種族。
身長は、頭が無い状態で、350cm程。
頭有りの状態で、390cm程だ。
「流石は、プルート様が見込まれた御方だ。私が最終試練を勤めさせて貰うデュナメスである」
熟練の騎士のような佇まいに、少しだけ偉そうな雰囲気のデュナメス。
僕が此処まで試練を達成してきた事に驚きながらも、最初から此処まで来る事を予想していた様子。
何故なら、冥府皇プルートが直々に五冥将を指名して、僕と戦わせる程の試練だからだ。
「私の試練では、其方が今までの試練で勝ち得た力を駆使して挑んで貰う。其方の出せる全ての力を私に見せるのだ」
デュナメスの禍々しい魔力が増幅された。
僕を無意識に威嚇しているようだ。
これから戦える事の楽しさが、待ちきれないと言った様子なのかも知れないが。
その気持ち解るよ。
さっきから僕も、ずっとワクワクした状態なのだから。
「これまでの其方の歩みを、魂に刻んで来たその集大成を、全てを解き放つのだ!!くれぐれも、出し惜しみはするなよ?」
僕から距離を取るように離れて行った。
そして、適当な場所に止まる。
その場所で、デュナメスは両手を広げて、何も無い空間を掴むように構えると、周囲から黒い粒子が集まり出した。
黒い粒子は形を変化させて行き、一瞬で剣と楯を生成した。
「準備は宜しいか?」
[YES/NO]
(これで最後なんだ!あとは、やりきれば良いだけ!!)
[YES]
「では。尋常に勝負!!」
デュナメスを中心に部屋全体へとバトルフィールドが広がった。
この時、僕は何が来ても直ぐに対応出来るように身構えていた。
だが、デュナメスは戦闘が始まると同時に、僕との距離を一瞬で詰めて来たのだ。
僕からすれば、突然、目の前に現れたデュナメス。
此処までの距離を駆けて来た訳では無く、文字通り一瞬で距離を詰めたのだ。
「なっ、いきなり瞬間移動だって!?」
気が付けば、僕の目の前に居るデュナメス。
相手が振るう斬撃が僕に襲い掛かって来る。
物理的な移動に備えていた僕としては、その一瞬の出来事に遅れを取ってしまった。
何とか手を出して防がなければ、一瞬で死を迎える攻撃だ。
そんな事は、是が非でも避けなければならない。
僕からすれば、何も出来ていないのだから。
それを防ぐ為。
デュナメスの斬撃を刃渡りの短いナイフで必死に受けるが、その強大な攻撃を受け流す事は出来ず、身体ごと後方に吹き飛ばされてしまった。
「がはっ!!」
攻撃を受けた方の手や腕が、あまりの衝撃で痺れてしまう。
だが、怪我の功名では無いが、これで相手との距離を取る事が出来た。
「くっ!瞬間移動だけでも厄介だというのに、一撃が重すぎる!」
離れていても一瞬にして距離を詰めて来る相手だ。
しかも、オルグの時のような雑な大振りでは無く、剣術を巧みに操った鋭く振るう一撃。
それが途轍もなく重い一撃なのだ。
片方だけでも手に負えないと言うのに、そのどちらも厄介なものだった。
僕は腕が痺れたままだが、無理矢理次の攻撃に警戒して構え直した。
「くっ、次はどう動く!?」
すると、デュナメスはその場で剣を十字に振るい、離れた距離から斬撃を飛ばして来た。
その飛んで来る斬撃は、黒い魔力で出来ていて周囲の空間を揺らしていた。
ふと受ける、不吉な予感。
「空間が歪んでいる!?...この攻撃に触れては危険だ!」
僕は、斬撃の軌道を大きく避けて攻撃そのものから離れる。
黒い魔力で出来た斬撃の禍々しさ。
空間を揺らす歪な攻撃。
僕が今まで見て来た攻撃の中で断トツに凶悪に感じたからだ。
だが、デュナメスの攻撃はそれだけで終わらない。
斬撃を飛ばした後、直ぐに移動を開始していた。
僕に向かって真っ直ぐ駆け寄って来る。
「なっ!?先読みをされていたのか!?でも!瞬間移動で無いのなら!!」
デュナメスが移動しながら右手に持つ剣。
その周囲には黒い粒子が集まり収束を始めていた。
先程と同じように受ける危険。
どんな攻撃になるのか解らないが、右手から放たれる攻撃に危険を感じ、デュナメスの正面から外れるように行動を開始していた。
丁度、腕の痺れも無くなり、自由が戻って来た頃だ。
「これなら反撃だって出来る!」
デュナメスとの距離が1mまで近付いた所で、その黒剣が上段から振り降ろされた。
僕は相手の身体の動きからも、その構えからも、上段から来る攻撃だと予測が出来ていた。
それを、余裕を持って避ける。
だが、もの凄い剣圧が「ブオン!」と横を通って行った。
剣速により巻き起こる突風。
そして、僕が攻撃を避けた場所には、地面もろとも大きく縦に裂かれていた。
「なっ!剣が通った空間が削り取られているだと!?これでは、デュナメスの攻撃全部が致命傷じゃないか?」
ある意味、予想した通りと言うか、僕がその禍々しさから受け取った直感は合っていたようだ。
一撃でも受けてしまえば、致命傷となりえる攻撃だ。
そうして、デュナメスの攻撃が危険な事を念頭に置き、瞬時に装備を弓矢に切り替えて離れる。
「これ以上、近寄るのは危険だ!ダメージは期待出来ないけど、確実に行く!」
その際、相手の隙を伺って離れながら攻撃をした。
相手の様子から結界を張っていないのだろうが、素のままの防御力が高そうな為、黒の指輪の効力で攻撃に貫通効果を付与させた。
すると、相手の防御を貫通し、ダメージを与える事が出来た。
だが、その与えるダメージは微々たるものだったが。
「やはり、持久戦になるよな...だけど、こっちは一撃でも貰えば即死なんだ...だったらやる事は一つしか無い」
今まで以上の集中力を求められる。
それは一つの間違いが命取りとなる為、危険区域で核実験を行っている科学者のようだ。
物事に没頭する事は得意だが、流石に、最後まで集中が持つかは解らない。
だが、しくじり=即死に繋がるのだ。
泣き言なんて言っている場合では無い。
もう、やるしかないのだ。
「余計な事は考えるな!目の前の事だけを考えるんだ!」
デュナメスは、僕の攻撃は痛くも痒くも無いようだ。
攻撃を受けても、すぐさま反撃をして来るのがその証拠。
相手に怯む様子は一切無い。
すると、突然。
攻撃パターンを変えて、独楽のように身体を回転させながら剣を振り回して近付いて来た。
回転しながら僕に向かって来るのだが、その周囲には、黒い魔力がかまいたちのように複数伸びていた。
「くっ!また厄介な攻撃を!」
僕は無様にも、地面を転がりながら攻撃を避ける。
だが、直ぐに立ち上がれるようにと、その終着点だけは気にして。
戦闘中に停止する事が無いように、必ず流動的に動いて、自分の逃げ場を失わない為にだ。
「次は...この時は...」
常に、デュナメスの攻撃の先を取るように思考をめぐらせる。
決して、僕からは近寄らずに一定の距離を保って。
そして、距離が空いて安全圏に入った時だけ、必ず弓矢で攻撃をする。
「身体は常に動かして、狙いを絞らせない!」
ただ、未だに瞬間移動をして来る時が解らない。
もしかしたら、発動するには特定の条件があるのではと考える。
一つ、相手との距離感。
一つ、再度発動するまでのチャージ時間。
一つ、他に特別な条件がある事。
「もしかして、瞬間移動に...条件があるのか?」
最初に戦闘が始まった時。
デュナメスとの距離が20m以上あった事(戦闘が始まる前にデュナメスから距離を取った為)。
その事からも、現時点で相手との距離を保つ場合は20m以上離れない事を意識し、余裕を持てる範囲の10m前後で行動をしている。
但し、浮遊のような安易な行動は取れない。
宙を浮かべると言っても、飛行のように動ける訳では無い。
移動速度が遅いのだ。
一度使用してしまえば、仮定の条件内の距離が保て無くなる事。
宙に浮かぶ事で逃げ場が無くなる事。
動きの遅い的になる事を見越して、使う事が出来なかった。
「まさか、一度使用したら、もう使えないのか?それとも、時間制なのか?」
チャージ時間については憶測となる。
デュナメスが瞬間移動を連続で使用をしなかった事を含め、今も一定の距離がある中で使用して来ないからだ。
最後の特殊条件に関しては、全く思い当たる事が無い。
だが、「何か特別な条件があるのでは無いのか?」と考えて戦闘を続ける。
「瞬間移動がいつ来ても大丈夫なように覚悟はしておこう。その時は頼むよ、タリスマン」
デュナメスは、近、中、遠距離と、全ての距離をそつなく攻撃して来る。
これは、最初にデュナメスが言っていた事だ。
「其方が今までの試練で勝ち得た力を駆使して挑んで貰う」と。
これ迄に得た戦闘経験。
相手への観察。
持久戦。
武器の切り替え。
アイテムの使用。
これら全てを総動員して、ようやく相対する事が出来るのだ。
この内の一つでも無くなれば、たちまちデュナメスに殺されてしまうだろう。
ただ、相手の動きに関しては、素早さが僕の方に分がある。
今のままなら、何とか対応出来るものだ。
「やはり、脳の負担が大きいな...」
身体よりも絶えず思考している脳の方が疲れる。
だが、思考を止める事は、即、死に繋がる為、止める事など出来無い。
僕は瞬間移動に注意しながらも、デュナメスの隙を突いて攻撃を与えて行く。
「いちいち攻撃パターンが多過ぎるんだよ!!」
半ば、八つ当たりのようなものだ。
多彩な攻撃を繰り出して来るデュナメス。
その為、安易に攻撃パターンが絞れないのだ。
その一瞬の攻撃を見て、その瞬間に判断(対応)をしなければならない。
精神の疲弊が酷くなると言うものだ。
「ちっ!また違うパターンの攻撃かよ!?」
デュナメスは、攻撃をした後に一部分を闇に擬態させて来た。
黒のオーブを使用して闇を吸い取らなければならないのだが、その攻撃の切れ目を見つけるタイミングが難しい。
だが、攻撃をする機会を逃したとしても、「生命大事に!」を優先で動く。
「慎重に。時間を掛けてでも...」
この試練を行うに当たって、時間制限が無い事だけが救いだった。
僕の攻撃を当てられる時だけに攻撃をして、基本は避ける事に集中する。
時間は掛かるが、堅実で最も確実な行動を取る。
「生命が守れるなら、時間なんて幾らでも掛けてやる!!」
すると、少しずつだが、デュナメスの動きに目が慣れて余裕が出て来る。
だが、油断には繋がらないものだ。
常に不測の事態を考えているので僕に油断は無い。
もしも失敗をする時は、その事態を超えて対処が出来無いだけだ。
「一に回避行動...二に距離間...三に攻撃...」
無意識に優先行動を口ずさんでいた。
確実にダメージを重ねて行くのだ。
そして、デュナメスのHPが半分切った時。
変化が起きた。
突然、その動きを止めたのだ。
「ふははは!!!流石だ!!流石ここまで来ただけはある!!」
デュナメスがそう言うと、その身体に変化が起き始めた。
黒い粒子が下半身へと集まり、その姿を変えて行く。
すると、下半身が馬のように変化し、四足歩行へと変化をした。
「えっ!?ケンタウロス!?」
「この姿になるのはプルート様以来二度目だぞ!!さあ!続きを楽しもうぞ!!」
ケンタウロス形態に変化をしたデュナメス。
これまで相対して来たどの五冥将よりも大きかった。
デュナメスはその場で駆け上がるように動き、馬部分(下半身)の前足を宙に浮かせた。
そして、その浮かせた前足を、勢い良く地面に叩き付ける。
「ドガーン!!」と轟音が鳴り響く。
すると、叩き付けられた地面は広範囲に地割れを起こし、地面が隆起しながら僕の方へと向かって来た。
それは、叩き付けられた地面から音階を上り下りする譜面のような、それぞれが不規則な高さで隆起し至る所を突き刺すような、そんな刺々しい波が出来上がっていた。
「くっ、何なんだよ、この攻撃は!?魔法か!?」
地割れで隆起する攻撃を、僕は右往左往に跳び回り、その地割れを登りながら攻撃を避けて行く。
だが、デュナメスは地割れで隆起した部分を真っ直ぐ登りながらこちらに駆けて来た。
僕が、右、左と跳び回っているのに対して、デュナメスは文字通りに真っ直ぐと。
「ちっ!そんなのデタラメ過ぎるだろ!!」
気付いた時には、デュナメスの手持ちの武器がいつの間にか変化をしていた。
剣タイプだった物がハルバートタイプに変わっていたのだ。
ハルバートをその頭上で、両手を使って扇風機のように回している。
「えっ!?武器が変化しているだって!?しかも、リーチも伸びているのかよ!?」
ハルバートに変更された事で、剣の時よりも、間合いの取り方を注意しなければならない。
デュナメスはその場から飛んで、上空からハルバートを勢い良く振り下ろした。
僕は回避する為に移動を繰り返していたが、デュナメスの機動力が上がった事で、ついに捉えられてしまった。
頭上から落ちて来る巨体が、圧倒的な質量で迫りながらだ。
「くっ!...タリスマンに魔力を込めるしか無いぞ!!」
紙一重の所でハルバートの振り下ろされる瞬間を狙って、黒のタリスマンに魔力を流して結界を張る。
(使用中は動けなくなるから、出来れば使いたく無かったけど...)
結界でデュナメスの攻撃をギリギリ防ぐが、一撃で結界は壊れてしまう為、その衝撃まで消す事が出来なかった。
強力な振り下ろしの衝撃で、僕は地面まで沈んで行く。
「重!?」
隆起する事で出来上がっていた壁に身体をぶつける事で、幸いにも地中に埋まる事は無かった。
だが、身体は勢い良く地面に叩き付けられた。
「ぐはっ!!」
地面の硬さが衝撃を跳ね返し、僕の身体へと内臓へとそのまま衝撃が伝わる。
身体の中の内臓が、落とした豆腐のようにぐちゃぐちゃになったような、ミキサーにかけられてドロドロになったような、そんな感覚を得る。
口からは血が吹き出す。
肺が潰れて息苦しい。
(結界張ってこれかよ...)
デュナメスはハルバートを振るいながら、障害物(地割れして隆起した部分)を壊してこちらに進んで来る。
その力づくで進む姿は、除雪機で雪を掻き分けているようだ。
それを視界に捉えながらアイテムバックから急いでハイポーションを取り出す。
無理矢理口に入れて行く。
「ごくっ、ごく。ん、はっ、はー!」
ハイポーションを飲むと身体の傷が塞がり、身体に受けたダメージが少しばかり回復した。
なんとか動けるようになった時。
酸素を瞬時に肺に取り入れて、この場から離れた。
(今のは防ぎようが無かったな...それに、ハイポーションのストックは...残り二個か)
身体のダメージは少しばかり回復したが、傷は治った訳では無い。
それは瘡蓋が出来たように、生傷に蓋をされたような状態だ。
「今の内に魔力も回復させておこう」
移動しながらアイテムを取り出し、黒の指輪で使用した魔力をマナポーションを飲んで回復させる。
「これで、“まだ半分”なのか...いや。“もう半分”だ!!」
先は長いが残りは半分。
疲れも回復する事が出来たので、集中をし直す。
残り半分。
此処まで来たのだ。
なので、終わった後の事など考えず、全力を出すだけだ。
「全力で行く!!」
デュナメスはハルバートを振り回しながらフィールドを駆ける。
その動きは速くなっているのだが、短い距離を反復するだけなら、まだこちらの方が速い。
黒の指輪で貫通効果を付与させて、全力で走りながら弓矢で攻撃して行く。
「単純なMAXスピードならデュナメスに分があるだろう!だが、この部屋の中で一対一で戦うならば、小回りの利く僕に分がある!」
僕はそうして動きながら攻撃を与え、距離を保ったまま相手のHPを削って行く。
だが、デュナメスも僕との距離が離れている場合、ハルバートに魔力を込めて横に一閃して攻撃して来るのだ。
その黒閃が、空間を削りながら真っ直ぐ進んで来る。
ただただ、その攻撃は凶悪の一言に尽きる。
「ここで空間を削る攻撃をして来るだなんて面倒だな...それよりも触れちゃダメだ」
その攻撃は空間を削る黒閃。
なので、絶対に触れないように距離を取って避けなければならない。
黒閃は壁に当たると特殊効果でかき消された。
少しでも距離が離れると、デュナメスは魔力を気にせずにハルバートを振るって何度も黒閃を飛ばして来る。
「ちっ!?これは厄介だな!?」
相手の機動力が上がった事もあり、避ける事に必死になって距離の取り方を間違えた。
20m以上距離を開けてしまい、デュナメスが突然消えたのだ。
気が付いたら目の前に現れていて、攻撃をされていた。
僕は、瞬間移動の事を完全に忘れていたのだ。
「しまった!?」
やはり、瞬間移動の条件は二人との距離だったようだ。
上から振り下ろされるハルバート。
それは勢いがあり、風圧を感じるもの。
これをそのまま受ける事は出来無い。
目の前に迫る死の宣告。
僕は一か八かのギリギリの思いで、黒のタリスマンに魔力を流した。
「頼む!間に合ってくれ!?」
ハルバートが当たる直前。
結界の発動が何とか間に合い、タイミング良く攻撃を跳ね返した。
結界に囲まれた時は硬直で動けないのだが、直ぐに破壊された為、硬直が瞬時に解けてくれた。
そして、デュナメスは攻撃を跳ね返された反動で胴体が、がら空きとなっていた。
「!?」
その時、僕の身体は考えるよりも速く行動をしていた。
がら空きとなった胴体にマナブレイドを叩き込んでいたのだ。
「胴体が、がら空きだ!!マナブレイド!!」
攻撃を与えた後。
僕は速やかに離れて、ギリギリの窮地を脱出した。
「危なかった...黒のタリスマン様々だな」
そして、デュナメスから距離を取ると、一度、全体を俯瞰して見渡す。
すると、デュナメスの居た足元には、黒い魔力の渦が残っていた。
あれは魔力の渦と魔力の渦を繋げる、ワープホールだと思われる。
どうやら、デュナメスはこれを使って瞬間移動をしていたようだ。
「そうか、ワープホールを作り出して瞬間移動をしていたのか...だが、これで対処法が解ってきたぞ」
距離を取る事は前提条件なのだが、必ず細かく動き回り、相手の的を絞らせてはいけない。
そして、闇の指輪で貫通効果を付与して遠距離から弓矢で攻撃をして行く。
どうしても逃げ場が無くなり近寄ってしまう時は、回避行動に全力を注ぎ、一気に離れる。
相手の攻撃が大振りの時、反撃が出来る時だけすれ違い様にマナブレイドで攻撃をする。
少しずつだが、このように攻略の手順が見えて来た。
「さっきみたいに動ければ...意識よりも速く...僕の身体が動ければ...」
この繰り返す作業。
それには極限の集中力が必要で、急速に脳力を消費して行く。
どうやら、精神も、肉体も、どちらの限界も近いようだ。
失敗する事の出来無い苦しい時間が続いている。
だが、その限界を超えてでも動き回らなければ、僕は簡単に死んでしまう。
それは、限界を超えて動いたとしても、相手に“勝てる”では無くて、簡単に”死ぬ”なのだ。
(脳が焼けているこの感じ...苦しいな...)
苦しさを誤魔化しながら、攻略行動を繰り返し、ダメージを積み重ねた。
そうして、デュナメスのHPが残り僅かとなると、デュナメスに再度異変が起きる。
デュナメスからは大量の黒い魔力が溢れ出し、その禍々しさが倍増した。
周囲の空気を揺らしながら急激に魔力の収束が始まる。
「ふはははっ!流石は、ここまで来た猛者よ!ならば!我が究極奥義を受けてみよ!」
デュナメスはその場で止まり魔力を開放する。
デュナメスの身体から溢れる黒い魔力は、10cm程の丸い魔力球を作り出し、周囲に複数の魔力球が出来上がる。
「何だ...あのふざけた大量の魔力球の数は!?」
デュナメスの周りには魔力球が20個以上浮いていた。
その魔力球は周囲から黒い魔力を集め、更に圧縮を繰り返して、凝縮して行く。
「暗黒災厄!!」
複数の魔力球から凝縮されたその黒い魔力。
それがレーザーのような閃光となり、僕に向けて一斉に放たれた。
その黒い閃光は様々な軌道を描く。
直線だけでは無く、突然曲がったりと、色々な方向に軌道を変えて向かって来た。
「これは...流石に反則だろうが...」
目の前の状況に困惑し、黒い閃光に埋め尽くされた空間。
絶望。
危険を感じた僕は直ぐにタリスマンへと魔力を流して結界を張った。
だが、結界は一撃しか防げない。
周囲に飛び交う暗黒の閃光は結界をいとも容易く破壊し、僕の身体へと直撃する。
視線をギリギリまで外さなかった僕は、当たる寸前の所で身を捩って回避する。
そして、どうしても避けられ無い攻撃だけを、自身の生命を守る為に左腕を犠牲にして受けた。
「ぐわぁあああああ!!」
身体に伝う激しい痛み。
肉が焼けて行く。
骨が溶けて行く。
血液が蒸発して行く。
熱さも冷たさも感じる矛盾。
暗黒の閃光により、僕の左肩から先が消し飛んでしまった。
その勢いのまま身体ごと吹き飛ばされてしまい地面に平伏す。
僕の力では止める事の出来無い転がる勢い。
その黒い閃光に、どれだけのエネルギーが詰められていたのかが想像つかない。
「ぐ!がっ!...かはっ!」
痛みが感覚を支配して感情を蝕んで行く。
だが、デュナメスの攻撃はそれで終わる訳では無い。
僕はその攻撃を庇いきれず、いつの間にか右足にも被弾していたのだ。
気が付けば、くるぶしから先が無くなっていた。
それでも止まらない無数に飛んで来る暗黒の閃光。
部屋の周囲を破壊し、壁も地面も跡形も無く消し飛ばしていた。
「腕が...足が...」
僕の身体のありとあらゆる器官が警報を鳴らし、生命の危険を知らせている。
左肩から先、右足の先からは血が止まらずドロドロと流れている。
先程まで健常だった自分の身体。
それがぐちゃぐちゃに欠損している。
気持ち悪さ、悲しみ、憎しみ、怒り、様々な感情が入り混じった精神状態。
だが、デュナメスの動きは止まらない。
「これで終わらせる!究極奥義!!」
デュナメスはその場で止まり、第二波の用意をしだす。
それを目撃した僕。
この理不尽な状況を受けて、底知れぬ悔しさが湧き上がった。
...負けない。
負けない!
負けたくない!と。
身体はボロボロで虫の息。
だが、それは相手も同じ。
HPは残り少ない。
ならば、僕のやる事は一つだけだ。
「ぐっ!」
歯を食い縛り、残っている右手を必死に動かす。
アイテムバックから無理矢理ハイポーションを二本取り出した。
一つは、口に持って行き、受けたダメージを回復した。
もう一つは、左肩と右足にかけて無理矢理、止血をする。
ハイポーションでは身体の欠損を直す事が出来無い。
あくまでも、ダメージを回復するか、傷を塞ぐかだけだ。
どうやら、血を流し過ぎて身体が寒い。
だが、この場で留まる事など出来無い。
直ぐ目の前に、複数の魔力球が形成されているのだから。
「こんなところで...」
死ぬ訳にはいかない。
例え、此処が仮想世界でもだ。
僕は死にたくない。
生き残る為に限界を超える。
それこそ我武者羅に。
無くなった左腕。
無くなった右足。
「死ぬ事なんか...」
理不尽な敵に対しての悔しさ。
それに抗う為の心の燃焼。
燃え滾る怒りが込み上げ、その感情が肉体を凌駕し始めた。
ラグナロクで重要になるのは魂位で、勿論ステータスも含まれたもの。
そして、それを活かす為のキャラクターを操作する技術力(イメージ力)の二つが最も重要となる。
「できるかよ!!」
これまでに培って来た集中力。
死に際に何度も体験した感覚。
それらに、生き残ると言う強い気持ちが加わった。
すると、知覚と言う感覚を一つ上の段階へと上昇させた。
見えるもの全てをスローモーションに捉える。
自分だけが、その空間を自由に動ける。
頭の中でアドレナリンや脳内ホルモンが過剰に分泌され、僕の知覚機能が拡大した。
相手が細部まで良く見える。
脳が覚醒した状態。
“ZONE”へと突入した。
「暗黒災厄!!」
デュナメスが声を荒げると、複数の魔力球から暗黒の閃光が放たれる。
だが、この技は先程も経験したもの。
僕は攻撃を避けながら、相手から一度も視線を外さなかった。
デュナメスは究極奥義を出している時。
その場から動いていなかった。
いや、動けなかったのだ。
それに、究極奥義の攻撃を貰い身体を吹き飛ばされた時、デュナメスとの距離が20m以上も離れていたのに瞬間移動を使用しなかったのだ。
これは消費する魔力にもよるのだろうが、究極奥義中は瞬間移動すらも、その身体すらも動けないのだ。
ならばこそ、活路はある。
今の状態では身体を動かして走る事が出来無いので、相手の奥義の間を浮遊で潜り抜けて行く。
(眼に見えるもの全てが遅い!!)
真っ直ぐ僕に向かって来る暗黒の閃光。
大きく曲がって軌道を変えながら飛んでくる暗黒の閃光。
僕には、そのどれもがゆっくりに見えた。
先程とは違って簡単に避ける事が出来るのだ。
そして、技の間を通り抜け、デュナメスの下に辿り着く。
「これで決める!!」
至近距離から最大の無属性魔法マナブレイドを叩き込む。
これが最後の一撃になるように、渾身の魔力を込めて。
「マナブレイド!!」
デュナメスの無防備な状態に目掛け、その身体を斜めに裂くように斬り上げる。
左手の無い不自由な右手を使って、デュナメスの左斜め下から右斜めに斬り裂いて。
その鋭い一撃はデュナメスを両断した。
相手のHPを根こそぎ奪って。
すると、デュナメスの身体は黒い粒子となり、その場から跡形も無く散って行った。
その際、デュナメスの魂が僕に吸収された。
バトルフィールドが途切れて、ようやく戦闘が終わった。
「倒せた...」
身体は傷だらけ。
左肩から先も、右足も欠損している。
だが、僕は生きている。
生き残る事が出来たのだ。
「生き残った...ぞ」
安心した事で疲れがどっと押し寄せ、その場で倒れ込んでしまった。
すると、部屋の中央に黒い魔力球が出現する。
その魔力球はどんどん大きくなり、人の形を模って行く。
徐々に膨らむ人型。
形が成った瞬間。
中からデュナメスが現れた。
「良くぞ試練を達成した。我等、全員を倒すとは見事であった!素直に其方の力に感服致した!これならば、この試練を見ているプルート様も文句を言うまい!」
何故か、デュナメスが誇らしげだ。
僕の事を最大限褒めてくれた。
どうやら、自身も久しぶりに全力を出せた事が嬉しかったみたいだ。
全力で戦える相手が居ないのは寂しいのだと。
「先ずは、其方の傷ついた身体を回復させようぞ!エリクサーを受け取るが良い!」
デュナメスが懐に手を差し伸べると、異空間に繋げてエリクサーを取り出した。
あれっ?
袴のような袖がある訳でも無いのに、装備している鎧の何処にそんな隙間があるのだろうか?
そんな疑問が頭に浮かんだが、僕は考える事を放棄した。
御都合主義だからだ。
「...エリクサーだって?随分と大盤振る舞いなんだな...だけど、ありがたく頂きます」
エリクサーは、体力、魔力、状態異常、身体の傷、欠損、それら全てを回復させる最上級のアイテム。
僕の欠損している身体をいち早く治す為にも、デュナメスからエリクサーを受け取った。
戦闘が終わって痛みが治まった訳でも無い。
僕はエリクサーを躊躇無く使用した。
「っ!?身体の...痛みが消えた!!」
すると、先ず初めに僕の感覚を支配していた痛みが消えた。
回復の効果は、細胞を活性化、分裂させる事で再生をさせて行くのだろうが、それは苦痛を伴うもの。
分裂をした瞬間に痛みが襲ってくる筈なのだが、エリクサーの効果で痛みを感じなかった。
「腕も...足も...元に戻っていく!!」
それは、とても不思議な感覚だった。
失った左肩から先の部分。
くるぶしから先の右足。
それらが元通りの状態へと戻って行く。
その時の光景は自分で見ていても不気味な絵面。
ボコボコと盛り上がって行く肉の塊や、伸びて行く骨に血管や神経。
結構グロテスクだ。
「凄い!痛みも感じずに、僕の“全て”が回復した!!」
一度失った身体が再生して行く感覚を初めて体験した事で、気分が物凄く高揚している。
左手に右足。
どちらも動かす事が再び出来るのだ。
その感覚が戻った事で深く安堵する。
そして、僕が回復した所で、デュナメスが話し掛けて来た。
「これは、全ての試練を乗り越えた者だけに渡している。受け取るが良い」
デュナメスが異空間からアイテムを取り出す。
その取り出したアイテムは、周囲の光を根こそぎ吸収する程に黒い物体。
僕は、デュナメスから手渡されるアイテムをそのまま受け取った。
[黒の結晶]を受け取った。
それを手にして、初めて感じる黒い魔力の結晶体。
重さを感じる事は無いが、魔力を吸われているような変な感覚だった。
いや、周囲の魔力を吸っているのか?
取り敢えず、受け取った[黒の結晶]をアイテムバックにしまった。
それを見届けたデュナメスが、足元に魔力を集め始める。
すると、足元には魔法陣が現れ、デュナメスを光で包んで行く。
「では、また会おうぞ!!」
そう言い残して、デュナメスはその場から消えていった。
独り部屋にとり残された僕。
何だか急に部屋が広く見える。
「終わったんだ...全ての試練を...僕は、やり遂げたんだ!」
試練の塔を登りきった。
五冥将が出す、条件の違った様々な試練を乗り越えた。
此処まで来る間に、肉体的な疲労も、精神的な疲労も、その度に限界を超えて来た。
満身創痍。
だが、それ以上に、得も知れぬ達成感が勝っていた。
これで約束通り、ハデス帝国と同盟を結ぶ事が出来るのだ。
その嬉しさを噛み締めて、冥府皇プルートの下へ戻って行った。
『皇の間・玉座』
冥府皇プルートが玉座に座ったまま、笑いながら語り始めた。
「お見事!よくぞ戻ったのじゃ!其方との約束通り、我がハデス帝国は全面的に協力をさせて貰うのじゃ」
冥府皇プルートは僕の目を真っ直ぐ凝視め、真剣な表情で向き直す。
そして、玉座から勢い良く立ち上がり、両手を広げた。
「死者の魂の回帰を循環させる為にも、ミズガルズ世界のバランスを守る為にも、ハデス帝国協力の下、我等は五冥将を送り出すのじゃ!!この世界を乱している元凶を正す為。ジュピター皇国を支配しているユーピテルを討伐しようぞ!!ルシフェル、其方の力。期待しておるぞ!!」
ハデス帝国の協力を得る事が出来た。
こうして三国の内、亜人共和国ポセイドンとハデス帝国と同盟を結ぶ事が出来たのだ。
残りは最大の難所である、ジュピター皇国のみ。
ミズガルズ世界の救済の為にも、天空皇ユーピテル討伐へ乗り出す。
終了時点でのステータス
『ルシフェル』
称号:努力家
種族:天使LV10
職業:魔法使いLV10 魔導士LV10 召喚士LV1
HP
1226/1226
MP
2104/2104
STR 202
VIT 171
AGI 215
INT 313
DEX 147
LUK 100
[スキル]
短剣技LV6 格闘技LV6 杖技LV5 弓技LV7
[魔法]
火属性魔法LV10 水属性魔法LV10 土属性魔法LV8 風属性魔法LV9 黒属性魔法LV5 炎属性魔法LV1 氷属性魔法LV1 召喚魔法LV1
[固有スキル]
浮遊 魔力消費3/4




