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ラグナロクRagnarφk  作者: 遠藤
IMMORPG
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011 ハデス帝国③

「ほう...特定条件下での戦闘において、全く異なる戦闘を此処まで戦えるとは面白い奴じゃ」


 玉座に座りながら僕の動向を覗いている冥府皇プルート。

 目の前の映像投影装置に食い入るように観ていた。


「それに比べて、試練に徹したヴァイアードは面白みに欠けると言うか、いつも通り融通が効かんと言うか...もう少し、観ている者の楽しませ方っていうものがあるじゃろうて。彼奴あやつが面白いのは、理性を失った時だけじゃのう」


 普段は紳士ぶっているヴァイアード。

 だが、一度ひとたび理性の箍が外れてしまえば、隠している醜い本性が顔を見せる。

 その時の剥き出しの感情が、とても人間臭く大好きなのだと。


「オルグにしてもそうじゃ。相変わらず力押ししかせんのう...彼奴あやつは生命を懸けて戦う事に振り切り過ぎじゃて。それでいて自身の強みを活かせない戦い方をされたんじゃ、本人は消化不良じゃろうな...だが、これも相手の方が上手と言うだけ。まあ、それで死ぬ事になったとしても、彼奴あやつは己の信念を曲げんじゃろうがな」


 オルグが信じるものは膂力と一撃。

 それが自身にとって不利な戦いになろうが、結果死ぬ事になろうが、信じるものを疑って後悔する事だけはしない。

 己の信念を曲げない美学。

 それが自身の強さの源だからだ。


「それにしても...ルシフェルと言ったかのう?戦うごとに成長を遂げるとは面白い。今はまだ若輩者。だが、この試練を乗り越えた時には...どう成長をしておるかのう?」


 片方の口角だけ上げて、ニヤリと笑う冥府皇プルート。

 自身が直接試練を行う事は出来無いが、思い付くままに試練を与える事が出来る。

 これは僕の成長を願っての事よりも、自身が愉しむ為の方が強い。

 だが、その癖のある試練を乗り越えた時...


「もしかしたら...妾の望みを叶えてくれるかも知れんな」


 これは予め設定されていた台詞を話しているのか?

 それとも、キャラクターが独自で考えた事を話しているのか?

 映像を観た事に対して、あまりにも流暢に言葉が出て来るのでどちらか見分けが付かない程。

 これは僕自身も知らない事で、試練の裏で行われていた事だった。




『試練の塔・三階』

 やはり、此処でも部屋の中央にはローブで身を隠す人物が立っていた。

 先程までオルグを見ていた僕は、目の前の人物を確認した時(あれ?なんだか...小さい?)と急激に小さく感じた。


「身長は...僕とそこまで変わらないのか?これは...僕の感覚が少し変になっているのか?」


 部屋全体を見渡して、対象を比較し直す事で通常の感覚へとリセットする。

 そうして、自分の違和感を拭い去った時。

 三度目の試練へと挑戦を開始した。

 僕は、目の前の謎の人物に話し掛ける。


「よくぞここまで参った。我はオクタウィアヌス。我の試練は数をこなして貰おう」


 謎の人物がそう伝えると、その身を隠していたローブを脱ぎ捨てた。

 脱ぎ捨てられたローブは、その人物の影へと収納されて行った。


「っ!?ドス黒い赤って...まさか、返り血で染まったんじゃないよね?」


 先ず、初めに目が付いたのは、ドス黒く真っ赤に染まった全身鎧。

 その血塗られたような赤色は、禍々しくとても不気味に映った。


「え!?スケルトン!?」


 全身鎧から見えるは、その人物の顔のみ。

 皮膚や肉が一切ついていない骨だけが浮き彫りになっていた。

 眼の辺りの窪んだ穴に、鎧と同じような赤色が光っており、僕の動きに合わせて動いていた。

 どうやら眼球の代わりをしているみたいだ。

 こう言っては何だが、とても薄気味の悪い風貌。

 何故、骨だけの状態で動けているのか解らなかった。


「我は見ての通り“骨人族”スケルトンである。但し、その種族の頂点。王であるがな」


 骨だけの身体なのに、しっかりとした声が聞こえて来た。

 何処から発声されているのか謎だが、もの静かで心地良い音声だ。

 先程まで聞き取り辛いオルグと戦っていたから、余計にそう感じるのだろう。


「試練の内容はこの部屋に現れる我のしもべを破壊する事。条件はそれのみである。準備は良いか?」


[YES/NO]


「そうなると、今回は五冥将と戦えないのか...どんな行動をして来るのか?どんな攻撃をして来るのか?それがとても楽しみだったのに...残念だな」


 相手の行動パターンや、まだ見た事の無い特殊な攻撃は、今後の戦闘に役立つもの。

 それがBOSSとなれば尚更だ。

 格闘技を習う時に上手な人の戦闘を真似するような、直接目の前で見られるだけでも参考になる部分が多い。

 ただ、今回はそれが出来無いとの事。

 とても残念だが、これから挑むのは試練と名の付くもの。

 気合を入れ直して臨む。


[YES]


 僕が[YES]を選択すると、オクタウィアヌスは右手の親指と中指を重ね、勢い良く弾いて音を鳴らした。

 「パチン!!」と言う音が鳴り響いた瞬間。

 部屋の地面が急に赤黒く発光し始めた。

 どうやら、地面全体には魔法陣が描かれているようだ。

 その中心部に立っているオクタウィアヌスから、赤黒い魔力が魔法陣を辿り、周囲へと行き渡って行く。

 その際、不気味な光を発しながら全体に広がっていた。


「演出がいちいち不気味だな...どうしても血を連想してしまうよ」


 魔法陣全てに魔力が行き渡った時。

 途端にその魔法陣から黒い煙が噴き出し、部屋全体を埋めて行った。

 それは有害な物質が燃えている時に立ち込める煙のようで、モクモクと黒い煙が広がる。

 僕の視界は既に、その黒い煙で遮られていた。

 今ではもう、10cm先の視界が解らない程の霧に変化していた。


「黒い霧...?状態異常は...無いようだ。まさか、この視界で戦わないと行けないのか?」

 

 目の前に広がる黒い霧。

 呼吸と共にその霧を吸い込んでいる訳だが、身体に害は無いようだ。

 視界を奪われた状態で、音だけを頼りに不安な時間を過ごす。

 もし、この状態で襲われでもすれば、僕には為す術が無く無残に死んで行くだけだろう。


「...」


 キョロキョロと周囲に気を配る。

 どうやら、音を意識し過ぎて幻聴が聞こえる程だ。

 すると、部屋を覆っていた霧が徐々に晴れて行き、それまで遮られていた視界が元に戻って行く。

 これは正確に言えば、空気よりも重い黒い霧が、部屋の地表部分にだけ溜まっただけなのだが。

 それまで、ビクビクと待つ事しか出来なかった僕は、目の前の状況が変わった事に「良かった」と安堵した。


「では、試練を頑張って貰おうか!」


 気配を全く感じる事が出来なかったオクタウィアヌス。

 「何だ、まだ居たのか?」と疑問に思う程。

 此処でようやく、バトルフィールドが広がって行った。

 すると、地面から様々な種類のスケルトンが生まれ始めた。

 部屋中に溢れる、見た目も種類も全然違ったスケルトン達。


『スケルトン』

 骨が剥き出しの骨人。


『スケルトンナイト』

 剣、盾、兜、胸、腰、グリーブ部分にだけ装備を纏い、防具で固めた隊長格。


『スケルトンアーチャー』

 弓矢を手に持ち、皮の胸当て、皮の腰当てを装備した骨。


『スケルトンウィザード』

 木で出来た杖を持ち、全身を覆うローブを身に纏う。


 目の前に現れたのは、四種類のスケルトン。

 大体の目算になるが、30~40体程いる感じだ。

 そして、スケルトン達が魔法陣から生まれた瞬間。

 それぞれが独自に動き出した。

 どうやら、その中で決まっている設定ルールは、僕目掛けて攻撃を行う事らしい。


「これは...数が多いな」


 僕に近付いて来るスケルトンを手持ちの弓矢で攻撃して行く。

 基本、スケルトン達は骨が剥き出しの状態なので、かなり脆い。

 矢が当たった場所は直ぐに砕け散る。


「おお!これだったら、なんとかなるかも!」


 数が多くても、この強さでは烏合の衆でしか無い。

 しかも、矢が当たる場所によっては一撃で再起不能に出来る事を知る。

 これが腕や足を壊しただけでは、無理矢理身体を動かして攻撃をして来るのだ。

 勿論、身に纏う鎧や防具に矢が当たれば弾かれてしまう。

 ただ、ある一箇所を狙う事さえ出来れば、たったの一撃で再起不能にする事が出来たのだ。


「狙うは頭か!」


 兜で頭を守っているスケルトンナイトは除外だが、その他のスケルトン達なら頭を狙えば一発だ。

 面倒なのはスケルトンナイト。

 狙える箇所は身に纏う防具以外。

 その剥き出しの部分から破壊しなければならない。

 そうして、相手が身動き出来無くなってから、兜を避けて(脱がせて)頭を攻撃する。


「この中でも、スケルトンナイトは面倒だな...だが、動きが遅いから何とかなるか」


 全スケルトンに共通している事。

 それは、「ノソノソ」と動きが遅い事だ。

 そのおかげか、僕の周りをスケルトンで囲まれたとしても、十分に戦う事が出来た理由だ。

 僕は我武者羅に敵の数を減らして行く。

 ただ、その際。

 スケルトンを倒した数だけ、魔法陣から新たなスケルトンが生成されていた。


「今の感じだと、スケルトン達を倒すのも、新たに生まれて来るのも同じくらいの早さだな...これだったらナイフの方が早く倒せるか?」


 僕の弓矢を扱う技術では、連射性よりも正確性の方に分がある。

 その為、どうしても二射目が遅いのだ。

 弓矢では連続で倒せる早さに限りがあり、時間が掛かる為、装備を切り替える事にした。

 敵の間をすり抜けて攻撃が出来るナイフへと装備を切り替える。

 本来、敵の数がこれだけ多い場所に自分から近付く事は、とてもリスクのある事で、出来ればやりたくない。

 多勢に囲まれてしまえば、僕が一度に相手を出来る人数など決まっている為だ。

 だが、スケルトン達の動きは格別に遅い。

 相手からの遠距離攻撃にさえ気を付ければ、何とか対処が出来そうだ。


「よし!要は試しだ。やってみるか!」


 ナイフに持ちかえると、部屋の中を駆け回ってスケルトン達を攻撃して行った。

 近付いた時に止むを得ず反撃を貰う危険性はある。

 だが、此処までの間に、一の試練、二の試練をクリアする事で、自身の魂位もステータスも上昇していた。

 その為、スケルトン達の硬い骨が豆腐のように簡単に斬る事が出来たのだ。


「おお!断然、手応えが軽い!」


 僕が弓矢や魔法を使っている時では、これまでの魂位上昇の恩恵が余り感じられていなかった。

 それは遠距離攻撃によるもので、実際に体感をし、手応えを感じる事が出来なかったからだ。

 どうしても、実感を得る事が難かしかったのだ。

 だが、最初の頃と比べてかなり成長している事が解る。

 今に至っては、自分のペースさえ保てれば、一日中走り回っても疲れない体力があるだろう。


「これならスケルトン達が生まれて来るよりも早く倒せるぞ!」


 戦場を疾風のように駆け回りながらスケルトン達を破壊して行く。

 相手に動きが遅いから、余計にそう感じるのかも知れない。

 だが、相手も全員が同じ行動をしている訳では無い。

 魔法使いのスケルトンウィザード。

 遠距離攻撃のスケルトンアーチャー。

 僕の不意を突かれてしまえば、どちらもとても厄介な相手だ。


「お前らは、魔法の発動前に倒す!」


 魔法を使用して来るスケルトンウィザード。

 発動魔法はファイア、アクア、ウィンドと言った基本属性の低位のものだけだ。

 その為、注意をするのは、呪文の詠唱前、もしくは詠唱中に近付いて破壊する事。

 ただ、多数のスケルトンウィザードから魔法が発動されてしまうと、この狭い空間では避ける手立てが無くなってしまう。


「お前らは、矢の導線にさえ気をつければ何の問題も無い!」


 弓矢で攻撃して来るスケルトンアーチャー。

 注意をする事は、常に周囲へと気を配り、弓矢の導線上に他のスケルトン達が重なるように動いて矢の攻撃を防ぐ事だ。

 弓矢を放った後、相手の隙が出来た時に一気に距離を詰め寄って破壊すれば問題無い。


「空間を把握しながら、常にスケルトン達の立ち位置を気を付ければ!!」


 スケルトンが地面から生成される前に、それよりも速く動き、部屋の中に居るスケルトンを破壊して行く。

「これで、どうだ!!」


 此処まで既に100体前後のスケルトンを破壊している。

 そして、全部のスケルトンを破壊し終え、部屋の中に僕一人だけとなる。

 先ずは、「ふーっ」と一息。

 そして、周囲を見渡す。


「...これで良いのか?」


 だが、魔法陣はまだ起動していた。

 再度、魔法陣が赤黒く発光されると、新しく40体程のスケルトンが一度に生成された。

 全滅をさせたが、関係無しにスケルトン達が生まれて来た。


「新たなスケルトンが生成される前に、部屋の中のスケルトンを全部破壊したとしても意味が無いのか。じゃあ...必要なのは、討伐数か?」


 試練の最初に、オクタウィアヌスに宣言された条件は数だった。

 と言う事を考えれば、鍵になって来るのはスケルトンの討伐数になりそうだ。


「この感じだと、討伐数が、500体くらいが目処になるのかな?」


 スケルトンをいとも簡単に壊せる事からも、目標数が200体とか300体とかでは収まる事は無さそうだ。

 やはり、数字的にも切りが良い数字となるだろう。

 そう思いながらも、新しく生成されたスケルトン達を駆け回りながら破壊して行く。


「ただ破壊して行くだけじゃあ、試練にはならないよな...僕自身、いろいろと試してみるか?」


 実践が最大の練習となる事からも、新しい事へと挑戦してみる。

 それは、戦闘中に装備の切り替えを行い、近距離と遠距離を瞬時に交代させる事。

 近い敵にはナイフや杖で攻撃をし、遠い敵には弓矢で攻撃をする。

 出来れば魔法も組みあわせたいが、詠唱時間がネックになるので難しそうだ。


「戦闘時の装備の切り替え...これが今後の戦闘の鍵になって来るはず!」


 装備の切り替えでポイントとなるのはナイフと弓矢の切り替え。

 ナイフは常備装備して、弓矢をすぐ放てるようにと弓を肩にかけておく。


「実践でどこまで出来るか解らないけど、その練習も含めて特訓をしてみるか」


 此処からは、装備の切り替えを意識してスケルトン達を破壊して行く。

 ナイフから杖はスムーズに切り替えが出来るが、ナイフから弓の切り替えに苦戦する。


「弓に切り替える。構えて標的を狙う。この2工程が、どうしても上手く出来ないな...もう少しスムーズに出来れば、対人戦でも活躍が出来ると思うんだけど...」


 ナイフの場合は主に近距離主体のスケルトンに、杖の場合は主にスケルトンナイトに絞る。

 その際、装備で身を固めているスケルトンナイトに対しては、蹴りも混ぜながら鎧の中に衝撃を与えて壊して行く。

 動けなくなった所で兜を蹴り上げ頭を破壊する。

 余裕がある場合は無属性魔法のマナスラッシュで装備ごと切り裂く。


「うん!ナイフと杖の切り替えなら問題は無いな。後は、ナイフから弓。杖から弓の切り替えだな」


 弓に切り替えた場合。

 遠距離から僕を狙って来るスケルトンアーチャーやスケルトンウィザードを優先して倒して行く。

 その切り替えがスムーズに出来るようにと、何度も何度も繰り返して。

 スケルトン達の討伐数が増えて行く。


「やはり、課題は弓の切り替えか...」


 ...200体。


「おっ!少しずつだけど、確実に良くなっているかも?」


 ...300体。


「ははっ。これはいい感じだな!切り替えも、だいぶマシになったかも!」


 ...400体。


「凄いな!なんだか、動きが体操選手みたいになって来てるよ!」


 部屋の中のスケルトンが減り始め、ふと周りを見る。

 地面に描かれた魔法陣の光が薄まっている。

 魔力の供給が途切れて来たのだろう。

 新たなスケルトンも生み出されていなかった。

 この場に残っているスケルトン達の数からしても、次が丁度切りの良い500体目。

 これはもしや、終了が見えて来たのかと喜ぶ。


「これで500体目!!どうだ!?」


 500体目のスケルトンを倒した時、周囲を見渡す。

 魔法陣の光が消え、反応が無くなっていた。

 「これで試練が終了なのか?...武器の切り替えのコツを掴み始めていたから、もう少し練習したかったけどな...」と少しばかりの成長を実感していた。

 だが、今までのように試練の終わりを告げるオクタウィアヌスの姿が見えない。

 「これは...どうやら、終わりじゃ無い?」と思った瞬間。

 再び、地面の魔法陣が光輝き、新たな煙が噴き出した。

 部屋の中がその煙で満たされると地面の魔法陣が赤黒く発光し始めた。


「やはり、500体じゃ終わらないか...でも僕にとっては丁度いいぞ!これなら武器の切り替えの精度が上げられる!!」


 此処から先。

 どれ程のスケルトンを倒せば良いのか解らない。

 だが、この与えられた試練が、自身にとって戦闘技術を磨く為の訓練となっている事を実感する。

 その事に、徐々に楽しさを覚え始めていた。


「ははっ!強くなっている!身体も!技術も!」


 再度、魔法陣から生み出されるスケルトンを我武者羅に倒して行く。

 杖や弓矢の切り替えも、だいぶスムーズになって来た頃、連射や複射と言った別の技術を織り交ぜて。


「弓矢の連射。多方向への複射。それも試してみるか」


 ...600。

 ...700

 ...800体目。


「やはり、実戦に勝る練習は無いんだな!指のかかりが良くなって来たぞ!技術も技も洗練されて行く!」


 ...900。

 大台の1,000体目。

 だが、キリが良い数字の1,000体目を破壊しても試練は終わらなかった。


「もう、倒した数を気にしても仕方ない...それよりも技術が向上して行く今の感覚。楽しくなってきたぞ!」


 一人一人違う動きをするスケルトン達。

 僕は囲まれている時の対処、囲まれる前の対処と、臨機応変に対応して行く。

 それはその都度。

 自身に新たな課題を与えるように、様々な状況を想定してだ。

 この、逐一攻防が変化する状況が楽しい。

 それはスケルトンを一撃で破壊出来る事も手助けしているが、目の前の事(敵を倒す事)だけに集中出来る。


「緊張感に程良い重圧。そして楽しさ。何よりも、この感覚が心地良いな!」


 楽しさが精神を支配し、肉体を凌駕して行く。

 それは僕自身の身体の動きにも反映され、頭で描いたイメージと身体の動きがそのままリンクする。

 自身に掛かる程良い重圧と緊張感。

 最大限に力を発揮すれば乗り越えられる試練。

 それらが良い方向へと働き、集中の途切れない高揚感を生み出していた。


「こう動いてきたら...こう返して...」


 スケルトン達の立ち位置を一目で把握する。

 空間を認識した上で敵の位置を結び付けて行動が出来るように。

 そして相手の行動の先を読んで攻撃をして行く。


 ...2,000体目。


「次は...」


 身体が敵の動きに反応しながらその場で処理をして行く。

 無意識に言葉を口ずさみ小声でぶつぶつ喋っている。


「こう動いたら...」


 ...5,000体目。

 時間を忘れてスケルトン達を倒して行く。

 次第に言葉を忘れ、目の前の事に没頭する。


「...」


 試練が始まってからどれ位経っただろうか?

 かれこれ二時間程経つだろうか?

 体内時計では、正確な時間が解らない。

 だが、延々と生まれて来るスケルトン達を破壊して来た。

 そして、脳内カウンターで刻んだ数字もそろそろ10,000体と言う大台も見え始めた頃。

 既に、スケルトンの新たな生成が止まっていた。


 ...9,995体。

 ...9,996体。

 ...9,997体。

 ...9,998体。

 ...9,999体。


「これで10,000!!!」


 大台となる10,000体目を倒した瞬間。

 すると、地面に描かれた魔法陣が部屋一面に一層光を放った後、魔法陣そのものが消滅した。

 魔法陣が消えると、何も無かった空間からオクタウィアヌスが現れる。


「見事であった!!我の試練はこれで終了とする。我が一族はお前に力を貸そうぞ!!」


 試練の終わりを告げるオクタウィアヌス。

 今まで同様、試練を達成したご褒美として、異次元空間からHP、MP、状態異常を完全回復するエリクサーを取り出した。


「これを使うが良い」


 オクタウィアヌスは、最高級のアイテムを惜しげも無く差し出して来た。

 僕はその価値に驚くが、此処から先の試練を考え、それを遠慮なく受け取る。

 そして、その場で直ぐに飲み干す。


(うわっ、苦い...“良薬口に苦し”って言うしな)


 青汁とトマトジュースとゴーヤジュースが混じったような味。

 ただ、ドロドロとした液体では無く、口当たりはサラっとしている。

 何だか変な感覚だ。

 そして、口の中に入れて喉を通って行った瞬間。

 それまでに傷付いていた身体の傷や状態異常、体力に魔力と全てが完全に回復した。

 身体には爽快感が駆け巡り、気分もスッキリとしていた。


「回復したようだな。ではこれを受け取るが良い」


 オクタウィアヌスは黒い宝珠を取り出し、僕に手渡して来た。


 [黒のオーブ]を手に入れた。

 アナウンスが流れる貴重品はこれで三つ目だ。

 ただ、これまでに貰って来たアイテムを含め、説明欄は「????」となっていた。


(三つとも説明が無いアイテム...何に使うのかも解らない)


 僕は、その貴重品達の使用用途が解らない。

 「黒のオーブ」をただ持っている事しか出来無い。

 受け取った[黒のオーブ]をアイテムバックへと収納した。

 すると、それを確認したオクタウィアヌスが「パチン!」と指を鳴らす。

 部屋の奥には、次の試練へと向かう階段が出現した。


「さあ、次の試練へと向かうが良い!」


 試練も半分を超えて、残り二つ。

 終わりも見えて来たが、全ての試練を達成するまで気を緩める事が出来無い。

 後二つをやり遂げるまでは。

 想像の全く出来ない残りの試練に、僕の感情は不安と期待の両方がひしめき合っていた。


「さて、次の試練は、何を求められるんだろうか?」

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