第一話『地獄の始まり』
僕が通っている公立八重高校にはある意味で有名な同級生がいる。
夢原東吾君。僕の隣のクラス、一年二組に在籍している彼を周囲は嫉妬と尊敬の意味を込めて【ハーレム王】と呼んでいる。
その理由はまだ入学して一ヶ月と少しという短期間なのに、彼の側には常に美少女が着いているからだ。
僕が知っているだけで三人。
可愛い系の幼なじみ、宮下すみれ。
天然系の姉、夢原美咲先輩。
クール系の生徒会長、春崎桜先輩。
この三人は僕がいるクラスの前の廊下を朝、昼、夕とよく通るので嫌でも覚える。それで、その後に隣のクラスから禍々しいオーラが溢れ出すのがデフォルトである。
さて、そんなモテモテな彼なのだが、現在どういう事か僕の目の前にいます。
「なぁ、少し助けてくれよ。なぁ?」
うわぁ、目に光が無くなるなんて本当に出来るんだねビックリだよ僕。更に男がやると怖さ三倍増し。プラスアルファで肩を捕まれてるから九倍増しかな? あ、なんか恐怖から綺麗な川がみえてきーー
◆
ーー気づけば僕は屋上のベンチで野郎に膝枕されていました。よし、死ね。
「うわぁあぁ! 死ねぇぇ!」
「うごぉ!!」
僕が繰り出した綺麗な掌底が野郎の顎にクリーンヒット。奴がうごうご言っている間に体を起こして忌々しい膝枕から抜け出す。そして距離を取り戦闘態勢を取る。
「あいにく僕にはそんな趣味はないんでね! もし僕の純血をまだ狙おうとするなら容赦はしない! 全力でぶち殺す!!」
「ま、まてまてまて! 俺はそんなつもりでしたんじゃない! というかお前が勝手に倒れたから介抱してやったんだ!」
ん? その声はどこか聞き覚えがあるような?
サーチアンドデストロイとしか考えれなかった僕の脳が徐々に冷静になっていく。
たしか、昼休みになったから僕はいつもみたいに屋上の給水塔の裏でボッチ飯を堪能していた。
そこに屋上のドアが開く音がして、何気無しに顔を出してみると今にも飛び降りそうな白い顔をした有名人、夢原東吾君が入って来て一言。
『あぁ、今日は死ぬには良い日だな……』
ヤバイ。なんかもう色々とヤバイ。
そう呟いてフェンスへと向かって歩いていこうとしたので、急いで弁当を包んでダッシュで彼を止めに入った。
そこからの記憶が曖昧だが、なんか思いだそうとすると軽い目眩がする。どうやら、僕の脳がこれ以上進んではいけないと警報を鳴らしているらしい。なら無理に思い出さなくてもいいだろう。イノチダイジニ。
「その顔だと思いだしたらしいな」
「あぁ、うん。大まかだけど」
「そうか。じゃあとりあえず……すまん!」
……いや、急に土下座されても意味が分からないのですが? はっ! もしかして曖昧になっている記憶の中にヒントがあるかも! よし、思い出……せないね、うん。やっぱり厳重なロックがかけられて無理にこじ開けたらまた気絶する。
「え、えっと……そんな土下座されても僕にはなにがなんだかさっぱり分からないんだけど?」
「なっ! あれだけ強引に愚痴を言いまくった俺を許してくれるのか!?」
「ぐ、愚痴?」
「? あぁ、そうだが」
あ、少しだけロックが解除されて思い出した。たしか、止めに入ったら夢原君が僕の肩を掴んでなんか呪詛みたいなのを言っていたような気がする。
そうかぁ、あれが愚痴なのかぁ……これはもう心の病院に連れて行ってあげた方が良い気がする。
「とりあえず夢原君。病院に行って、その愚痴?を全部吐き出した方が良いよ」
「いいのか! 全部言っちまって!!」
あれ? なんか僕が聞いてあげるように変に解釈しちゃってる? いやいやいや、僕に言っても意味無いから。むしろ聞いてる僕が疲れちゃうから。僕は只の高校生でカウンセラーじゃないから。いや、これはカウンセラーでも首を横に振るレベルでは?
「いや、それは病院で「実は俺なーー」あっ、もうダメですね。分かりました、諦めて聞いてあげますよ、はい」
それから昼休みが終わる五分前まで僕は夢原君の呪詛を聞いてあげた。段々、夢原君の瞳が黒くなってきて、また気絶しそうになりました(泣)。