第05話『猫の鳴く丘にて【1】』
隣町でみんなと遊んでいる。
そんな中、私たちはさっきから奇妙な光景を見続けていた。
「あ、また猫さんがいます」
ひよりちゃんが目線だけで示した方向には、猫耳を装着した女性が彼氏と思わしき男性と歩いている。
「本当、なんなのかしらね。仮装イベントでもあるのかしら」
葵雪ちゃんも、地元の学生と思わしき猫耳少女の集団を見つめながら言う。
「最初はびっくりしたけど、みんな可愛いんだよ~」
椛ちゃんは、猫耳を装着した女の子を見る度に、本当にかわいい猫を見ている時のように目を輝かせている。
「今の流行ファッションなのかもしれないね」
小夏ちゃんがそう言うのも頷ける。
なぜなら、電車から降りてこの隣町に足を着けてからというもの、猫耳を装着した女の子をチラホラと見かけるから。視界に入る女の子の三〇人に一人くらいの割合で可愛らしい猫耳がついているものだから、なにかしらのイベントがあることは間違いない。
「よーっし。この人類猫耳化計画の根源を突き止めてみようじゃないか。どこの悪の秘密結社がこんな素晴ら…じゃなくて、こんなにも恐ろしい悪事を働いてるんだ」
「……お兄ちゃん、なに変態顔で変なこと言ってるの」
「でも面白そうなんだよ~。わたし達は、悪の秘密結社の計画を暴く正義の探偵団!」
「ちょっと椛? あんたまでおかしくなってない?」
「人類ネコネコ計画とか悪の秘密結社とかはよく分かりませんが、この猫耳について調べてみるのはひよりも賛成です」
「よし、小夏と葵雪と巡も、人類ネコネコ計画の調査に協力してくれるな?」
あ、あれ……? 計画の名前が既に変わってるような……?
でも、私の返事は決まりきってるよ。
「うん。みんなで突き止めよう」
「……いいわ、あたしも付き合ってあげる」
「それじゃあまずは、猫耳の人たちが来る方向に向かってみようよ」
小夏ちゃんが示す方向からは、複数の猫耳の女の子が歩いてきている。なるほど、確かにそっちの方角へ行けば何か分かりそうだね。
こうして、悪の秘密結社が企てているなんとか計画を暴く正義の探偵団は動き始めた。
※
「あのお店みたいだね」
調査の末たどり着き、小夏ちゃんが示したのは、ヒノキ素材の洒落たドアと人形が並ぶ窓が特徴的なシュークリーム屋さん。
「あの箱……間違いないわね。ところで椛、あんたもなかなか目の付け所が的確じゃない」
「まさか、猫耳の皆さんのうち何人かが持っていた箱からお店を特定してしまうとは……。ひよりも、椛さんの名探偵っぷりに驚きです」
「さすがだな、椛。お前は立派な正義の名探偵だ」
「えっへへー。わたしは名探偵、みんなは探偵団の一員なんだよ~」
えっへんと胸を張る椛ちゃん。
そんな間にも、シュークリーム屋さんからは次々と猫耳を着けた女の子たちが出てくる。その様子を見ていると、ついお店の特徴的な外観に気を取られて見落としてしまいそうな看板が目に入った。
「見て、みんな。あの看板に何か書いてあるよ」
私の呼びかけで、みんなも看板に注目する。
「えーっと……ただいまゴールデンウィーク特別企画開催中、って書いてあるぞ。その下に細かい字で説明が書いてあるみたいだけど、この距離では読めないな」
修平くんを先頭にして私たちはお店の前まで行き、看板に細かい字で書いてある詳細説明を読む。
五月一日から五月五日までの期間中、当店でお買い物をされた女性のお客様を対象に猫耳カチューシャを贈呈します。楽しいだけでなく可愛らしいゴールデンウィークを過ごしましょう!
もちろん男性のお客様も大歓迎! ぜひとも愛しのあの子と一緒に来店し、可愛らしい子猫ちゃんとなった彼女と一緒にスウィーツをお楽しみください。
なるほど、そういうことだったんだ。
もしも私が猫耳を着けたら、修平くんはどう反応してくれるかな。可愛いって褒めてもらえるかな、抱きしめて撫でてもらえるかな。私がにゃーにゃーと甘えたら、修平くんはどんな風に私を可愛がってくれるのかな。……ああ、自分が猫耳を着けるところを想像するだけでも恥ずかしいのに、私ったらなんてことを考えてるんだろう。でも、妄想は止められないよ。
「面白そうじゃん。入るぞ」
何の躊躇いもなくそう宣言した修平くん。そんな修平くんを、不審者でも見るかのような冷ややかな目線で見つめる小夏ちゃん。ただ純粋に好奇心に溢れているひよりちゃんと、店内で猫耳を着けた店員さん達を見てうっとりしてる椛ちゃん。
みんな反応はバラバラだけど、なぜか葵雪ちゃんは私のことをじーっと見つめていた。
「ねえ、巡。顔の血管が破裂したんじゃないかってくらい真っ赤だけど、ものすっごーく不気味にニヤニヤしてるわよ。あんた、何か変な妄想してない?
「っ!? べ、べべべ別に何も考えてないよっ!?」
「ふぅ~ん……巡って本当に嘘が下手。でも、巡はそういうところが面白くて好きよ。修平だってきっと、そういう巡だから可愛がってくれるだろうし、きっと今妄想してたようなことだってしてくれるんじゃないかしら?」
「もうっ、葵雪ちゃんったら!」
「ほら、行くわよ」
気がつけば、修平くん達は私と葵雪ちゃんを置いて先に店内へ入っていった。
私と葵雪ちゃんもその後を追い、かなり賑わっている店内に入る。